味噌汁が欲しくなる
王子様も聖域も心配だけど、私にできることはない。
家に帰ろう。お城に長居すると、婚約者令嬢のごちゃごちゃに巻き込まれそうだし。
私は、か弱い守られヒロインだ。
守ってくれる王子様が不在の時は逃げあるのみ。
家に無事帰宅〜
お城の馬車が送ってくれたから、お姫様気分を味わえましたわぁ。
けれど、ついた屋敷は古びていて気分がさがりますわぁ……
ここは屋敷町というものだけど、他のお屋敷より小さい屋敷だし庭あるの? ま、お茶会できないのは雰囲気でわかる。
お父様って、なんの仕事してるんだろ?
男爵ってことだけど。男爵って貧乏モブ令嬢の親ってことしか知らないわぁ。
二階の私の部屋。ベッドの中で目が覚めた時は感覚で令嬢に生まれ変わった! やった!! ってなったのに。名もなきモブとは。誰も名前呼んでくれないモブ。いつ誰が呼んでくれるか待ってみよう!
それにしても転生したのがつい数日前でよかった。赤ちゃんの時から転生してたら、もっと貧乏下級モブ令嬢に磨きがかかってて悲惨だったろうな。
お城から帰ったというのに、気分がモブ令嬢に戻ってしまった……
「ただいま……」
誰か奥のリビングから来た。
「お帰りなさい」
お母様。
下級モブ令嬢でも、さすがに綺麗なお母様はいる。
見た目だけじゃなく、身綺麗にしている。
お金がないので、流行りのマーメイドドレスは着れないけど似合うだろうな。痩せてるし。
私と王子様の料理で太らせてあげたい。
「お城はどうでした?」
「うん……」
王子様が痺れ薬を盛られたこと、話したいけど心配かけるし黙ってよう。
王子様とお近づきになってることも黙ってるし、下手に期待させて駄目だった時に落胆させたくないし。
「まぁまぁ、でしたわ」
「お城に行って、まぁまぁって……」
呆れ顔されてしまった。
「出かける時は、歌いだしそうなくらい嬉しそうだったのに」
「そんなに嬉しそうだった?」
確かに、お城から帰り着くまでは、お姫様気分だったんですけどね。
顔色がまた暗くなってしまう。
お母様も、悲しそうに顔を歪めてしまった。
「まぁ、仕方ないわね。今さら、お城に行って王子様とお近づきになっても……」
「ん?」
「もう、婚約者様がいるものね。意味がないわ」
「あっ!!」
そうだ、婚約者令嬢がいるじゃない!
今さら、お近づきになって料理一緒にしたところで……
「遅い! 遅すぎる!」
「そうね」
でも、今さら料理をやめるわけにはいかない。
王子様の笑顔が心に焼きついてしまっているわ。
料理作りのパートナーとして、一緒にいよう。
王子様もそう言ってたし……
「王子様とは、少しでも仲良くできたら良いと思ってますわ」
「……ええ、そうね。光栄なことだわ」
お母様にも、少し笑顔が戻ってくれた。
「それじゃ、私、部屋にいきますわね」
「お待ちなさい。歌の講師を雇おうかと、お父様と話しているのだけど」
「歌?」
「お城に通えるようになるなら、と。どうします?」
家の中で歌いだしそうになっても、お城では歌えんよ。恥ずかしくて。
「歌の講師なんていいですわ」
それより、そうだ。
「それより、歌の講師を雇うお金があるなら、テーブルマナー講師を雇ってくださいませ」
「テーブルマナー? 基本は教えているはずだけど」
「基本だけでは心もとないですわ。お城で、ほら、王子様の近くでお料理を食べたりするんですから。もうすぐ、隣国の王子様を招いたパーティーもあるし」
あ、私は欠席するべきか。
「そうね。王子様は食べることがお好きと聞くし。お料理を一緒に食べることが多くあるかもしれませんわね。わかりました」
「ありがとうございます」
お母様はどこかへ行った。
着替えたら、ベッドで休もう。
私の部屋〜
「今日も色々ありましたわ」
ベッドで大の字に寝れば、心が安らぐかと思ったけど。落ち着かない。
明日からも、色々ありますわ。
まずは、王子様の体調を確認しにお城に行くでしょ。
婚約者令嬢とエンカウントしないようにしなきゃ。
王子様に会えなくても、お城の人に話だけでも聞いて。
王子様が隣国の王子様歓迎パーティーに出席できるようなら、私はどうしようかな。
王子様とは真面目に料理してるんだけど。
婚約者のいる王子様とイチャついてるモブ令嬢。
周りから見ればそう。ざまぁ対象だよね。
どうなるのか気になるなぁ。
ざまぁ体験したいなんて、駄目よ……恐ろしい。きっと想像の千倍は恐ろしいわよ!
パーティーに出席するとして、着ていくドレスあるのかな?
あ、王子様がプレゼントしてくれるのか。
これは間違いなく勘違いさせ令嬢。
で、 "勘違いじゃありません、王子様が好きです" ってなって断罪されるんだ。
ヒロインの座は諦め――保留にしよう。
頭の中で考えてるだけじゃ決めきれない。
パーティーに出てみないと。
私と王子様が、ざまぁ対象なら、婚約者令嬢は隣国の王子とくっつくよね?
だったら、私は王子様とくっついて。
ざまぁバトル開始という道もある……
私に、ざまぁなんてできるかな?
か弱い守られモブ令嬢だし。前世も腰低い会社員だったし。争いは避けてできるだけ平穏に過ごそうとしてきたし。それが影響してるのか気が進まない。
今世も平穏に料理して過ごせればそれでいい。
王子様と一緒にってのが、問題なんだよね。
どうなるやら――
令嬢人生を生きてみないとわからない。
明日に期待して、寝よう。
王子様、体調よくなりますように。
「ん……」
かなり寝ちゃった。もう、薄暗くなってる。
お腹すいた。
一階に降りてキッチンに行ってみよう。
キッチン〜
メイドが一人と、ばあや?が料理をしてる。
ばあやが私に気づいた。
「お嬢様、丁度よいところにまいりましたわね。お食事の支度はもうほとんどできました。テーブルにおつきになってくださいまし」
「わかりました。ありがとう」
テーブルにつくと、お母様も来た。
「お父様は?」
「まだ、お帰りになりませんわ。先にいただきましょう」
「はい」
お先にいただきます。
食事が運ばれてきた。
ばあやが置いてくれたメインの皿は魚料理。
これ、サバっぽい。
「これは?」
「名もなき魚ですよ」
名もなき、私みたい……
「最近流通するようになった魚で、脂がのっていておいしいんですのよ。焼いてシンプルな塩味にいたしましたわ」
「いただきます」
パリパリの皮をフォークで切ると、白身からじゅわっと脂がでてきた。
塩が合わさっておいしい!
これは、サバの塩焼きだ。
「最高においしいですわ!」
「よかったですわ」
「おいしいわねぇ」
お母様も気に入った様子。
よかった。
ああ、おいしい。ライスに合う。
さばの味噌煮も食べたい。それに、たまごスープもいいけど味噌汁もほしいな。
味噌汁飲んで、ほっとしたい――