ディナー
ひと目で高級とわかるレストラン〜
二階の眺めのいい個室に通していただき、真っ白いクロスをかけた丸テーブルを前に着席。
シェフがやって来て、うやうやしくお辞儀した。
「今宵、ご観覧なされたオペラをイメージしたコース料理を作らせていただきます。お楽しみください」
オペラをイメージした料理!?
あの時の記憶が押し寄せてくる。
慌てるな! 王子様も!
「た、楽しみだね!」
「え、ええ!」
私と王子様の変なテンションを気にせず。
シェフは行ってしまった。
待つしかない。
「どんな料理だろうね」
「そうですねぇ。想像できません……」
「だね……」
景色を眺めたりして気を落ち着けて待っていると――
料理が運ばれてきた!
前のめりに見てしまう。
まずは?
「前菜でございます。こちらは、主人公のアルケミスの牧歌的な故郷をイメージした野菜のムースでございます」
「なるほど」
私と王子様は同時に呟いた。
大きな皿に小さい小屋のようなムースがのってる。
緑白赤の三層が綺麗で口当たりと味は優しくて、
「おいしいですわぁ」
「おいしいねぇ」
これなら、安心して食べられそう。
ボーイさんは出て行った。
お行儀レベルを少し低くして、フォークが進む。
「どのムースも異世界の味ですね。食べたことない、おいしさです!」
「うん。シェフを呼んで褒めないとね」
「いいですねぇ、呼んでください」
「シェフを呼んでくれ!」
本気半分で遊んでいると――
ボーイさんが次の料理を運んできた!
慌てて、かしこまる。気づかれなかったようだ。
「スープでございます。こちらは、アルケミスの困難に満ちた船旅をイメージしたミネストローネでございます」
ミネストローネ!
「フフッ、懐かしいです。ミネストローネ」
「うん?」
「立食パーティーで王子様と初めて会ったとき、味噌汁飲みてぇって呟いてて」
思い出したようで、王子様は笑った。
「そうだったね」
「そばにいた令嬢が首かしげて、ミネストローネですか?って」
スープ皿を持ち上げて再現してみせると、もっと笑った。
「異世界の住人なら間違えても仕方ないね」
「ですねぇ」
「ミネストローネも、おいしいけどさ」
真剣な眼差しになった?
「味噌汁が飲みたくなったな」
「王子様……私もです」
「また、一緒に作ろう」
「はい!」
嬉しいな。
幸せな気分でミネストローネを頂いていると。
次の料理が来た。
「魚料理でございます。こちらは、アルケミスが辿り着きオペラッタと出会った浜辺をイメージし舞台となった浜で捕れたオペラフィッシュのグリル、ホワイトソース添えでございます」
「オペラフィッシュ?」
「そんな魚がいるんだね。面白いな」
「キラキラの熱帯魚をイメージしちゃいますけど」
「はい。オペラ劇場内のような赤と黄金に輝く魚でございます。皮をご覧ください」
パリパリの皮が確かに赤と黄金のシマシマだ。
オペラ劇場を食べる、か。
王子様もそう思ったらしい、表情がこわばった。
「凄いね……食べようか」
「はい」
波のようにかかったホワイトソースをつけて、ぱく。
――――白身から予想外の甘みが!
ホワイトソースの柔らかい優しさもあって。
こわばった心がほぐれていく!
「おいしい、ですわ!」
「うん! おいしいね!」
波の一滴まで綺麗に食べてしまえる――
「どんな料理が出てくるかと思ったけど、凄くいいね!」
「はい!」
どんどんきて!
きた!
今度は肉料理。
「メインでございます。こちらは、アルケミスとオペラッタのオペラへの情熱をイメージした雄牛の赤ワインソース添えでございます」
オペラへの情熱……
大きな皿に小切りの肉がのっていて、赤いソースがハート型にかかってる。
「か、可愛いですわぁ」
「だね。味も……おいしいよ」
「おいしいですね……」
オペラへの情熱が血と肉となり体に吸収されていく。
「こんなに、がっつけない肉料理は初めてだよ」
「王子様ったら。私もです」
なにはともあれ。笑いあって食べてるからいいんだ。
「サラダでございます。こちらは、プリマドンナにプリモ・ウォーモをはじめ歌い手達の歌声をイメージした十種の野菜のフレッシュソースかけでございます」
色とりどりの綺麗な野菜の素材そのままに、フレッシュなソースがさわやかな味ですわ。
「この一番目立つミニトマトみたいなのが、デスピーナの歌声でしょうか?」
「うん、そう見えるね――そういえば」
「なんでしょう?」
「デスピーナさんにも、凄い目で見られてたね」
「気づいてましたか! そうなんですよ……」
「あれは、ルバート君のことが好きなんだろうね。それとも、付き合ってるのかな?」
「どうでしょうね……」
デスピーナの片想いで、ルバート様に翻弄されてるように見えたけど。
ん?
王子様がこっちを、キッて見てる!
「付き合ってたら祝福できるよね? 舞台の二人を祝福したみたいに」
「そんな念を押すような凄い目で見てこなくても! はい! できますよ! もうしてますし!?」
「そう? ならいいけどね」
「王子様も祝福してください!」
「するよ! もうしてるし!」
ワインをかかげてくれた。私も。
「全ての令嬢とイケメンの幸せを祝福しますわ!」
「うん! 祝福しよう!」
笑ってらぁ。
信じてないのかわからないけど、楽しそうだからいっか。
次の料理がきましたわ。
なに!?
凄いのがきた!!
「デザートでごさいます。こちらは、オペラの妖精とオペラーラ城をイメージしたオペラケーキと飴細工でございます。ご希望の大きさにカットして、お取り分けいたします」
オペラケーキ……
テーブルの真ん中に置かれた大きな皿いっぱいの。
チョコレートやベリーが何層もある分厚いケーキに飴細工の妖精の羽がたくさんついてる。
オペラに出てきた妖精より多い!
「凄いね」
「はい」
王子様が視線をそらした!?
「食べなよ」
「王子様! 一緒に食べてくださいよ!」
こっち向いた笑顔がフリーズしてる。
「〜〜っそうだね!」
そうこなくちゃ!
それでこそ、私の王子様!!
「よし! 半分こして食べようか!」
えぇ……大胆なこと言うなぁ。
「えぇ……みたいな顔してるね?」
「いえっ、全部食べるなんて勇気あるなって」
「食べ尽くそう!」
「はい!」
ケーキ皿に、たくさん取り分けてもらって。
妖精の羽から頂きますわ。
パキパキ、薄くてよかった。
ボーイさんもいなくなったし。王子様を見習って両手に妖精の羽を持ってパキパキ。
オペラの妖精を襲い食らうモンスターの気分ですわ――
「妖精がかなり減ってきたね」
「はい。ケーキも。おいしいです」
「そうだね、でも――」
王子様苦しそう、まさか!?
「ケーキは残していいかな?」
残してほしくない!! 負けた気分になる――
「そんな恐い顔しないで」
「ごめんなさいっ、食べ尽くしてほしくて」
怯えさせてしまった。
王子様に対してまで、モンスターになるわけにはいかない。ここは――
「一皿、私が頂きますわ」
「大丈夫?」
「デザートは別腹ですから!」
「頼もしいよ!」
ケーキのお皿をもらってと。
「代わりに、妖精を食べてください」
「え!?」
差し出した妖精だらけの皿見て、そんな怯えなくても。
「飴細工なら、食べられるかなって」
「そ、そうだね!」
「無理はしないでください」
またトラウマになったら、かわいそうだし。
私も、妖精とか蝶の羽が苦手になりそう……
「大丈夫だよ。食い尽くすさ……!」
「王子様……」
妖精の羽を口にくわえて、なんて余裕の笑顔。
「頼もしいです!」
私たちは妖精とケーキを食い尽くした――
「やったね……ごちそうさま!」
「やりましたね……ごちそうさまです!」
おいしい料理となって。
オペラの記憶が消化されていく――
満腹ですわ!




