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味噌汁飲みてぇと王子様が言ったから!〜料理令嬢になりますわ。オペラルートには進めません〜  作者: 城壁ミラノ


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オペラ

 舞台に登場したのは、主人公のアルケミス。

 パンフレットによると。

 演じているのは、ルバート•ラロ。男性版プリマドンナという意味のプリモ•ウォーモとして名高い青年!

 客席から、女性達の歓声が! 

 これは、期待。

 オペラグラスを覗いてみましょう――


 イケメン!!

 宰相様に似てるけど、表情が柔らかいというか。

 甘いマスクというやつね。

 スタイルはガッシリしてて声量ありそうだけど、それでいてスラッとしてて、ホワイトシャツと黒ズボンにブーツで機敏に動いてる姿もカッコいい!


 ――私がプリマドンナを引き受けてたら、相手役だったのか……


 ここからは遠いな。飛び降りて舞台にあがる――

 やっぱり、できないや。こんな高いとこに隔離みたいな状況にしなくてもいいのにね……

 いやいや、隔離されててよかったんだ。

 王子様と一緒に――横目で、こっち見てる!


「ニヤついてるね?」


 引っ込めたのに、間に合わなかったか。


「ち、ちがっ、ちょっ、超イケメンだな! って思っただけですよ!?」

「そうだね……」

「大丈夫ですよぉ! いやですわ〜」


 納得して前向いてくれた。やれやれって感じだけど。


 そう、大丈夫よ。もう惑わされない!

 宰相様にも惑わされなかったし。そのおかげで、妹を重ねて見られる偏愛に悩まされずにすんだんだし!

 絶対、惑わされないのが正解ルートなのよ。

 オペラグラスを通して、見てるだけにしよう――


「私は旅に出る〜〜! 新天地を目指して〜〜!」


 歌声もイケメン!!


 甘くて力強くて胸に響きますわぁ。

 パンフレットの歌声の説明にあるこれが、素晴らしさと美しさの極みテノールなのね。オーケストラの奏でる力強くて美しい演奏とも溶け合っていて凄い。

 魅了されそう……これは、仕方ないよね。

 純粋なルバート様の実力を前に他の観客と同じく、ただただ魅了されるのみ。

 王子様の反応は?


「凄いね……」


 私の視線に気づいたのか、感想を言ってくれた。


 けど、その口調と表情は……読めない。

 冷静な声音と笑顔というか。素直に感動してるようでもあるし、王子のプライドから感情をおさえて下に見てるようでもある。


 ――王子様の実力ってどんななんだろ?


 ルバート様より凄いのかしら。知りたい。

 でも、オペラしてくださいって頼んだら即さようならルートなんだよね。その可能性が今は高いよ。

 私から頼むのは止めておこう。オペラ観た後に気が変わった王子様から、やろう!って言ってくるかもしれないし!


 今は舞台を楽しもう――


 主人公アルケミスは仲間たちと船旅に出た。

 陽気に歌う順調な航海が一転、嵐が襲ってきた!

 低いバスの歌声と鬼気迫る演奏が不安を煽る……

 私は負けない! とルバート様は力強く歌ってる。


 負けないで!!


 暗くなっていた舞台に光が!!

 嵐を乗り越えた! 


「勝った〜! 私は嵐に〜困難の旅に〜!」


 よかった、よかった!


 勇気をもらえる。

 私も負けない! 

 困難の料理ルートに〜攻略してみせる〜〜


「ここが新天地〜〜! 誰かいないか〜〜!?」


 誰か? ついに、出るのね!?


「どなたですの〜〜? そこにいるのは〜」


 透き通るような美しい歌声!


 一声聴いただけでプリマドンナとわかる。

 デスピーナの歌声。姿は見えない。

 ルバート様もキョロキョロして、舞台をウロウロして探してる。


「なんと美しい声〜、あなたのほうこそ誰だ〜?」

「私はオペラッタ〜。歌うたいの娘〜」


 デスピーナ、舞台のそでから登場!


 長い茶髪の巻きは控えめで後ろに垂らして、純白の質素なワンピースを着てる。初めて会ったときと似てる格好だけど。

 スポットライトに照らされていて、特別美しく見える――


 舞台の真ん中で主人公と見つめあった……


 凄くロマンチックで感動的で神秘的で――


 私だったかもしれないんだ。

 デスピーナじゃなく。

 覚醒()()()()心臓がドクンと鳴った――


 私が! ほんとのプリマドンナ〜〜!!


 ってここから飛び降りて乱入――


 いやいや、絶っ対ダメですわ!!

 したら人生終わりよ。みんなルバート様とデスピーナに魅了されてる。この舞台をブチ壊したら牢屋にブチ込まれて即処刑だわ。

 ざまぁ! 狂乱令嬢! END! だわ。


 ざまぁの怖さを知っててよかった。知らなかったら乱入してた……

 ふぅ。落ち着いて、舞台を観続けよう。


 デスピーナとルバート様は笑顔で歌ってる。

 照明が落とされて、もう夜ってことね。

 時間も忘れて魅かれあっているのね。二人の楽しそうな歌声を聴いてると祝福したくなる。


「ここは〜私たちの新天地〜〜!」


 ハモった。二人で王国を作るのかしら?


「オペラをしろ〜〜」


 なに!? 


 誰!? スモークがたかれた舞台のはしから……

 美しい娘が現れた!

 パンフレットによると。

 デスピーナとルバートの歌声に惹かれて現れたオペラの妖精。確かに、透明な蝶の羽根をつけてる。


「オペラをしろ〜〜」


 また出た!


 デスピーナとルバート様も驚いてる。


「オペラをしろ〜〜」

「オペラをしろ〜〜」


 増え続けるオペラの妖精!!


 怖い……怖い怖い怖い!


「オペラをしましょう〜〜!」


 あぁ!! デスピーナが引き込まれた!


 オペラに(とら)われた目してる……

 そんな瞳で見つめられたルバート様も?


「オペラをしよう〜〜!」


 やっぱり! 即囚われた瞳になり力強く宣言した!!


 二人して繋いだ両手を高々あげて。


「オペラをしよう〜〜!」


 ハモった!!


 黄金に輝きだした舞台から響く。

 美しいハーモニーを聴いていると……


 オペラしたくなる。

 オペラしたい!!

 これがオペラ。囚われた瞳になっていくのがわかる。止められない。ただただ……

 オペラルート行きたい〜〜!

 王子様もオペラしたくなりましたか?


「しっかりしろ! ウタカタリーナ!」


 目の前に浮かぶ、王子様の泣きそうな顔……?


「私達は料理するんだ! そうだろ!?」


 料理?


 料理……何か見えてきた……味噌汁、カツ丼、牛丼、サバの味噌煮? 


 そうだ……


 まだ、おもてなし料理成功させてない!!


「はっ!?」


 は、はぁ。戻ってこれた……


「はっ!? いつの間に?」


 手すりから身を乗り出してる!


 あと一歩戻るのが遅かったら、飛び降りてた……


 王子様は?

 呆然と立ったまま、あ、手がドレス掴んでる。

 座ろう。王子様も一緒に座って舞台に視線を戻した。観ちゃ危ないのに、私も勝手に視線が戻ってた。


「オペラをしよう〜〜!!」


 舞台では説得が続いてる。


 オペラーラ王国初代アルケミスと運命の相手オペラッタとオペラの妖精たち。一丸となって歌ってる。

 美しく力強い歌声が襲ってくる!

 これぞ、オペラ!!

 正気に戻った、ただのモブ令嬢の身だと。

 制圧、そう。 声圧(せいあつ)されそう――

 怖い!!


 助けて! 王子様!!


 王子様が、ギュッって手を握ってきた――

 舞台を見つめたままの横顔。瞳は泣きそうに濡れてる。

 王子様も怖がってるんだ――

 大丈夫、ですわ。ギュッと握り返す。


 私たちは料理をするんです!!


 瞳があった。笑顔を交わせた。

 その時、わかった。

 オペラルートへの変更はない!

 私たちは最大の試練を乗り越えたんだ!!


 盛大な拍手が聞こえてきた。

 そのなかで舞台の幕がおりた――


 息を止めたままでいるなか、拍手がやんで観客のざわめきが聞こえてきた。

 幕間――やっと、息をすることができた。


「ハァハァ……」


 何も言えねぇですわ……


「ハァハァ、凄かったね」


 王子様が頬を伝う汗を拭ってる。

 歓迎パーティーで私の食レポ攻撃を受けたテノールード王子と重なって見える焦りに満ちた笑み。危なかったんだ――


「はい」


 私も。それ以上何も言えず。


 お茶を飲んで喉を潤すばかり。

 そのまま――二人で長椅子にぐったりと座っていると、また幕が開いた。

 黄金に輝くドレスを着たデスピーナとスーツを着たルバート様が現れた。舞台も黄金に輝いている。


「ここは〜〜オペラーラ王国と名づけよう〜〜」

「オペラーラ王国〜私たちの王国〜〜」


 建国したんだ……


「オペラーラ王国〜〜!」


 妖精たちも羽根をパタつかせて喜んでる。


「無事、建国したね」


 王子様の呟き。


「はい」

「さっきは、本当に凄かったね」


 聞くまでもなく、オペラをしろ〜の大合唱のことね。


「はい……」

「だけど、おれ達は勧誘から逃げきれたんだ!」

「はい!」


 やっと、緊張がとけて笑いあえた。


「さっきは、ヤバかったね! 飛び降りそうになってたよ?」

「ですよねぇ。危なかったです!」


 王子様は笑ったまま。


 だけどまた、私の手を握ってきて――手に力がこもった。自然と指を絡ませてる。恋人繋ぎだ!


「もう、大丈夫?」

「はい!」


 手に力をこめ返す。


「安心したよ――」


 本当にホッとした様子。よかった。


 王子様は座席にもたれて目を閉じた。私も体の力を抜いて座って、ゆっくりと観覧しよう。


「ここに〜城を建てよう〜」


 城の建設がはじまってる。


「庭には〜噴水を作りましょう〜」


 王子様と語り合った噴水かしら?


 私と王子様の聖域、キッチンは?

 デスピーナもルバート様も妖精たちも。

 さっきと違って優しい歌声。

 これは安心して聴ける。

 王子様も?


 寝てる!!


 いやいや、寝れる? いやいや、試練を乗り越えたんだもんね! ここ数日緊張の連続だったし!? 

 この優しい歌声を聴いてたら、安心して眠るのも無理ないわ。

 私と手も繋いでるし……安心だよね?

 私も……いや、私は起きて見届けよう!

 デスピーナとルバート様の舞台を――


「オペラーラ王国よ〜永遠に〜」


 フィナーレだわ!


「私たちの〜オペラを引き継ぐ者達よ聞け〜!」


 私と王子様ではないね……


「オペラーラ王国の歌声を響かせよ〜!」

「響かせるのです〜!」

「響かせろ〜!」


 王子様起きて〜! 助けて〜!


「うわっ、何!? また凄いの何か歌ってるね!?」

「そうなんですよ!」

「なになに?」

「オペラーラ王国の繁栄は続く〜永遠に〜!!」


 大合唱が答えた。


「繁栄か。させないとね!」


 寝起きか。混乱してらぁ。


 それにしても、なんて素敵な笑顔。


 すみません。初代国王様。オペラッタ様。


 しばらく、料理王国として繁栄が続くかもしれませんわ……


 幕がおりていく――ハッピーエンド、か。


 私と王子様のいないハッピーエンド、オペラルート。

 私の虚無の心を反映したかのように会場はしんとなった――と思ったら、盛大な拍手と喝采が起こった!!

 私と王子様も!!

 心からの拍手喝采を、デスピーナ、ルバート様、妖精たち、全ての役者、オペラルートが送り込んだ強敵たちに送りますわ!!

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