宰相の屋敷
朝〜
宰相様の家に行く準備開始。
どんな服で行こう?
悪役妹に会うとしたら――地味な格好だと、いびってくださいと言ってるようなもんかな。逆に昨日みたいに男性たちに綺麗と大絶賛される格好だと、対抗心に火をつけそうだし。わかりませんわ。
間を取って普通の無難なワンピースで行くか。そうそう、風邪の人に料理作るんだから清潔な白系で。エプロンもシンプルなのを持って行こう。
玄関前〜
お母様がもう待ってる。
そういえば、
「お母様はミルク粥は好きですか? やっぱり、まずい?」
目をそらせて、ちょっと考えてる。
冷静な顔のまま、こっち見た。
「まずいとは思いませんけど」
「おいしくもない?」
「そうね。まぁ、病人食ですから。おいしいとかまずいとか、好き嫌いとか思うことではないのではないかしら?」
「それもそうですわね……」
お母様の言う通りかもしれないけど。
悪役妹には……
そんな言い訳通じませんわ!!
よくもわざわざこんなまずいものを食べさせに来たわね。嫌がらせして私をプリマドンナの座に帰らせないつもりね?
許さない。お兄様――!!
よくも、私の妹を。
殿下に一生お仕えすると誓いましたが気が変わりました、私は隣国の宰相になります――
悪役令嬢&悪役王子&悪役宰相&悪役妹まとめて私と王子様に、ざまぁしにくるとか!?
昨日の夜想像したバッドエンドよりさらに怖いバッドエンドがあるなんて。生きた心地もしない……
「王子様の馬車が来たようよ」
「ヒッ!?」
私をバッドエンドへ運ぶ馬車。
ざまぁへのカウントダウンが始まる!?
「どうしたの? 今にも死にそうなお顔して。嬉しそうなお顔なさい」
「で、できませんわ。まずいミルク粥を作りに行くんですもの」
悲しくなってきた。お母様にお別れをしておこう。
「お母様、私はもう生きて帰ってこれないかも」
扉の開く音にかき消された!
お母様の意識もそっちにいってしまった。
御者が開けた扉の先にいたのは、
「王子様……!」
「おはようございます!!」
バーンっ! て両手広げて。
昨日のお父様に負けないくらいのご登場。
元気いっぱいだわ。これから、ざまぁされるとも知らずに。
「まぁっ! 王子様!」
お母様が驚きで震えだした。
「お母様ですね、初めまして」
王子様は片手を胸に当てて、微笑んだ。
「オペラーラ王国の王子セレナードです」
「う、ウタカタリーナの母のレチタですわ。王子様、本当に娘と」
「仲良くさせていただいております!」
「こ、光栄ですわ! 今日もこれから」
「はい! ミルク粥を作りに宰相の屋敷に、ご一緒させていただきます」
王子様がこっち見た。
「どうしたの? 顔色悪くない?」
「王子様……ちょっと、私不安で」
「ミルク粥が、まずくできるかもしれないから?」
「はい」
そのせいで私たち……
「大丈夫!!」
「王子様……」
「私達は今まで上手く作ってこれたんだから、今回も大丈夫」
――王子様の言うことと笑顔なら信じられる!
「そうですよね!」
「そうそう!」
作りに行こう!
「お母様っ、行って参ります!」
涙をこらえて、笑顔でうなずくしかできないみたい。
必ずまた、帰って参りますわ!
馬車の中〜
「宰相の屋敷は、ここから結構近いよ」
「そうなんですか」
お屋敷町だもんね。
どのお屋敷だろう? 小窓から見てよう。
あ、お城に行くときいつも通ってる道だ。
大きなお屋敷だ〜住みた〜いと思ってた屋敷に馬車が入っていく。
宰相様のお屋敷だったんだ。
こういう衝撃って強すぎて――
気持ちが傾いちゃいそうになる。
イケメンで優秀な宰相で、理想の大きなお屋敷に住んでて、妹はプリマドンナで。完璧な上流貴族だよね。
加わりたい。
いやいや、私の隣には王子様が!
イケメンだし優秀かはわからないけど未来の王様だし、お城に住んでて、悪役かもしれない妹もいなくて安心だし。
王族に加われるかもしれない。
こっちのほうが衝撃的!!
「どうしたの? ビックリした顔して」
「フフッ、いえ、なんでもないです」
「そう?」
王子様も小窓を見た。
「大きい屋敷だよね。城には負けるけどね」
「ですよねぇ」
そうそう。王子様のほうが勝ってる!
強気でいかなきゃ。
いや、冷静に。風邪の人にミルク粥を作りに来たんだから。優しい気持ちでいかなきゃ。料理は気持ちが大事と言うからね。気持ちが伝わるといいな。ざまぁされたくないです。王族になりたいですという気持ちが。
……いやいや、元気になってプリマドンナになってくださいという気持ちが!
馬車から降りてと。
玄関前で宰相様が待ってた。
「殿下、ウタカタリーナ様。お待ちしておりました。どうぞ、中へ」
お邪魔します。
玄関ホールも広い!
めちゃくちゃ綺麗な女の人がいる。
「ようこそ、お待ちしておりました。アクートの母のベルですわ」
お母様とは真逆。めっちゃ余裕で自己紹介してきた。
「オペラーラ王国の王子セレナードです。突然のことにもかかわらず、お出迎えいただきありがとうございます」
「王子様にお越しいただけるとは、思いもしない喜びですわ」
王子様とも落ち着いて笑顔を交わしてる。
こっち見た!
「初めまして。ジュディチェルリ男爵家ご令嬢ウタカタリーナ様。私はテラー公爵家のベルですわ」
公爵家を前に男爵家はただただ威圧されるのみ。
「は、初めまして。お会いできて光栄ですわ」
「ウタカタリーナ様、これをご縁に末永く仲良くさせていただきたいですわ」
「こちらこそ、でございますわ」
私と仲良く?
公爵夫人、王子様に向けたのと同じ笑顔みせてる。
そういうこと――
私が王子様と仲良く料理しに来たから、王子様と結婚して未来の王族になる令嬢かも? 今から仲良くしておかなくちゃと考えたのね。
フフッ――いや、待て。
この人は悪役妹のお母様なんだった……
あなたが未来の王族?
残念だったわね、王子様と結婚するのは我が娘。
そうなれば、あなたなど男爵どころか虫けら扱いよ。
今だけ、仲良くしてあげるわね――
そういうこと笑顔の裏で考えてるのかも。怖い。
この人も、ざまぁに加わるの? 一体どんな、ざまぁが待っているというの? ダメよ、考えちゃ。興味ない興味ない。
何事もなく笑顔を交わす輪に入ろう。
にこにこ。なんとかこの場はやりこなせそうだけど。
ふぅ。もう、疲れた。
王子様はまだまだ余裕の笑顔をみせてる。
公爵家なんていっても、家来だもんね。
いいな、王族になりたぁい……
ま、とにかく挨拶は済んだし。
次は……公爵夫人が王子様と私を見回した。
何か言うみたい。
「改めまして、王子様、ウタカタリーナ様。私の娘デスピーナのためにお越しくださいまして真にありがとうございます」
デスピーナ!!?
なんて、怖い名前。
さすが、悪人の妹ね……
また不安がぶり返してくる。嫌な汗が出てきた。
「それも、風邪を治すためにミルク粥を作っていただけるとは光栄ですわ。お二人に作っていただいたものを食べたら、たちどころに元気になることでしょう」
ただただプレッシャー。
「ミルク粥作りの準備はできています。どうぞ、キッチンへ」
とにかく、行こう。
王子様は笑顔で自信ありげに、こっちチラッと見た。
気持ちが回復して笑顔を返せた、ついて行こう!
キッチン〜
めちゃくちゃ広いわぁ。
コックさんとメイドさんがいる。
「コックにもメイドにも、お手伝いさせますわ。なんでもお申し付けください」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「では、私はお邪魔にならぬよう失礼いたします」
公爵夫人は去っていった。
「殿下、ウタカタリーナ様。私も外でお待ちいたします。何かありましたらすぐ、お呼びください」
「うん。座って待っていていいから」
宰相様も去っていった。
「さて、じゃあ、いつも通り始めようか」
「はい!」
確かにこうなれば、いつも通りだ。
エプロンつけて、手を洗って。
ミルク粥作り開始――!




