王子様が決めて?
お城の玄関前〜
門番さんに王子様に会えないか聞いてみる。
もう顔なじみになっているので、すぐに城の中に話を通しに行ってくれた。
門番さんの代わりに立っていよう。
こういうとき、中世の異世界は不便よね。
魔法の通信機とかあればいいのに。
あ、門番さんと執事さんが来た。
「どうぞ、ウタカタリーナ様。殿下の御自室のほうへ。ご案内いたします」
ご、御自室!?
来てよかったわ。
明るい王子様のお部屋に入るのは初めて……
階段をどこまでも上がって廊下を進み、
「こちらでございます」
部屋の前についた。
前は暗いしよく見えてなかった両開きの扉。
これを見るだけで想像以上に広い部屋だとわかるわ。
「殿下、ウタカタリーナ様でございます」
「どうぞ!」
「失礼いたします」
扉が開いた!
広! 天井高!
両手を広げて迎えてくれてる王子様が小さく見えるくらい。私の部屋が物置か屋根裏部屋に見える。お父様とお母様には悪いけど。家のリビングより広いわ。
そんなことより、
「王子様、あの突然すみません」
「いいよ全然。どう? この部屋」
「凄いですねぇ」
「これぞ、王子様の特権だよね」
二人で部屋を見回し笑いあう。
「ああ、ごめん。何かあった?」
「はい。実は」
二人で真剣な顔に戻る。
「あの、宰相様が私の屋敷に来まして」
「ええ!? 宰相が――!」
嫌そうな顔。嬉しいな。
「どうして?」
「私に歌ってほしいって」
「歌わないって言っておいたのに」
王子様の顔が険しくなった。怖い。
「"わかりました、待つのはやめます" と言ってたんだよ。それを聞いて、こっちが安心してたら、待たずに会いに行くとは狡猾な奴だな。頭いいからって王子を欺くとは……牢屋にブチ込もうか?」
「まぁ、落ち着いてください」
王子様まで狂気じみたら困るわよ。
「切実な事情があるんですって。妹さんがオペラのプリマドンナなんですけど、風邪で舞台に立てるかわからないから代役になってほしいという」
「妹さんが」
いつもの王子様の顔に戻った。
「それは切実だね。妹さんは大丈夫なのかな?」
「もう治りかけだそうです」
「それはよかった」
なんでもない風に笑顔になってるけど……
妹さんが気になるんじゃ?
お見舞い行こうとか言って、いや、知らないうちに行って仲良くなって――
ダークホース令嬢!!
ここで出てきたのね……
王子様は渡さない!!
「そんな怖い顔で見つめてきて、どうしたの?」
「えっ、あ」
顔に出てしまったわね――
「妹さんと俺のこと疑ってる?」
鋭いですね。
「心配というか」
「心配ないよ。ほら、婚約者に毒盛られそうになったじゃん? あれがトラウマみたいになっててさ。令嬢には近寄らないようにしてるんだよね」
「そうなんですか」
なるよね、なりますわ。あれは。
おいたわしい。けど、安心した!
「笑ってくれたね。これは信じずにはいられないよね?」
「はい」
「それならいいとして。君と宰相のほうが心配だな」
「そんなことは、全然」
「近くであの超イケメン見て、なんともなかった?」
「それは、その」
「ニヤついてるね」
「そ、それは。超イケメンだなと思っただけですわ」
疑いの目で見つめてこないで。
そりゃあ、私は王子様を婚約者から奪うような性悪で隙あらば他のイケメンも……とニヤつくような令嬢かもしれない。でもそれは、そういう令嬢に転生してしまっただけで。ある意味、私も被害者なのよ。
「なに、考えてるの?」
「私は、慎み深い令嬢だと考えていましたわ」
笑われた! 何面白いこと言ってんの? みたいに!
「慎み深いなら安心だけど――君がなってる令嬢って、おれの他にも男がいるような感じなんじゃない?」
「王子様! なにを」
王子様も、その辺が気になってるんだ。
「君がそうするとは思いたくないけどさ! 勝手にそうなったりするんじゃないかと思って」
「それは――宰相のように、こちらが離れても向こうから来て、そうなりそうになって冷や冷やしますけど。今言ったように、私は慎み深い令嬢なので心配いりません」
「そう」
「はい」
真剣な目で見つめあう。負けない。
負けそう。
信じさせなきゃ、
「私は、私はえっと、そうです。こうして、宰相の件を隠さず相談に来たんですから! 信じてくださいぃ!!」
「――そうだね! わかった。信じるよ!!」
勝った!
慎み深く生きよう……
笑いあえるこの幸せ、失いたくない。
「お互いの心配もなくなったし。オペラの代役の話に戻ろう」
「はい」
「どうするの?」
「どうすればいいかと思いまして。それも、ご相談に来たんです」
「オペラか……」
飛びついてこない。困惑してる。
「前も言ったけど、ウタカタリーナの歌声は綺麗だと思うよ。でもさ、オペラって簡単にできるの? 練習が必要なんじゃない?」
「それなんですよ。お母様は基本は教えてあるからと言ってるし、スペックも、チートも持ってそうな気がするんですよね」
「チートか」
はっ!?
王子様がニヤついた!
チートって言葉に弱いんだ。言わなきゃよかった。
「オペラのチートってどんななんだろうね?」
「そ、そうですねぇ、いきなり、観客全員を魅了するとかですかねぇ」
「ありそうだね。代役のプリマドンナだっけ、それはなんだろう。聞いたことあるような、凄い役だっけ」
「はい。プリマドンナはオペラのヒロインなんです」
「やりたい?」
くっ……!
やりたいって言ったらもうダメだ。
止めてほしくて来たのに。
王子様に聞こう。
味噌汁飲みてぇと王子様が言ったから、狂わされたルート。
戻すか否か、王子様に決めてもらおう。
「やったほうがいいと思いますか?」
「…………それは………」
早く!
「個人的な意見だし、おれの話になるけどいい?」
「はい!」
「おれはさ、オペラはよく知らないし興味ないんだよね。だから、君がいつオペラしませんか? とか言ってこないか内心冷や冷やしてたんだよね」
そうだったんだ。
王子様のほうから誘ってこないわけだわ。
「それで、君が歌った後とか、一緒に歌いませんか? とか言われないように急いで逃げたり」
うん、よそよそしく逃げてた。
「宰相にも君は歌わないって勝手に言ったりしてさ」
それでだったの。
私のことわかってくれてる訳じゃなかったんだ。
身の保身のためだったんだ。
いや、私も王子様が毒飲まされそうなとき身の保身に走ったから責められないけど。
お互い様。似た者同士だった。
お似合い?
あ、王子様が見つめてる。
「ゴメンね、勝手なこと言って」
「いいですよ。それで」
料理ルートを進めそうだし……
「宰相にも父上にも母上にもオペラしないのかって、よく聞かれててさ。今は料理しか興味ないと言ってあるけど、もてなし料理を成功させて本格的に料理を認めさせて黙らせたいなと思ってるんだよね」
「おもてなし料理に、そんな切実な裏事情があったんですね」
私のほうこそ、王子様のことわかってなかった。
「個人的な、わがままみたいなものだよね」
「いいえ、私にとっても切実な事情ですよ。王子様は料理ルートを進みたいんですね?」
はっきりさせよう。
「オペラルートが本来進むべきルートな気がするんですけども」
「どうもそうみたいだね。この国、オペラーラ王国とかいうし」
「はい」
「この国で、どこまで行けるかわからないけど――」
王子様の決意の瞳。私も見つめ返す。
「料理ルートを進もう?」
「はい!!」
決まった!
私たちのルート!!




