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味噌汁飲みてぇと王子様が言ったから!〜料理令嬢になりますわ。オペラルートには進めません〜  作者: 城壁ミラノ


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進行状況報告

 リビング〜

 先生がお帰りになるのを見送って、お父様とお母様とソファーに座った。

 ふぅ、ナイフとフォークとスプーンを持ち続けた手が痛いわ。ぷらぷらしてしまう。


「ウタカタリーナ、今日はとても大変だったようだね」

「はい、お父様」


 手を撫でるのを、お父様は労りに満ちた目で見てる。


 優しい笑顔。私を想ってくれてるのね。

 良いお父様だ。


「ウタカタリーナのおかげで、私の仕事にも張り合いが出てきたよ」

「そうですか」


 どんな仕事なんだろ?

 若い頃はイケメンだったみたいだし、痩せてるし、そこそこ仕立てのいい黒いスリーピース着てるけど。


「お父様、どんなお仕事を?」

「今は劇場関係の仕事をしているよ。先祖代々、オペラ歌手か劇場関係者。私も若い頃は歌手だったがね」


 へぇ。


「お母様も?」

「私は、若い頃に練習したくらいで。もっぱら観客ですよ」

「観客で劇場に行って、お父様と出会ったんですか?」


 ロマンスが……


「いいえ、家の決めた結婚ですけど」


 なかった。


「そうですか」

「お父様の歌声は素晴らしいと思いますけどね」


 お母様はお父様とほほえみを交わした。


 仲はいいのね。

 でも、お母様はすぐに正面を向いて暗い顔になった。


「それでも、歌手として成功できずに引退を……」


 夢破れてってやつかしら?

 それにしては、お父様はあんまり気にしてないみたい。吹っ切れてるのか。ゆったりとソファーに背をもたれ足を組んだ。


「それからは言ったように王都の劇場関係の仕事をしていてね、将来はよくて劇場副支配人か、田舎の劇場の支配人がいいとこだったが」


 こっちを見て、ニッと笑った。

 嬉しそう!


「王都の劇場支配人どころか、城の劇場の管理も任されそうだよ。名誉なことだ」

「おめでとうございます」

「まだ、噂の段階だがね。王子様と仲の良い娘の父親が名も無い劇場関係者では王様も格好がつかないのはよくわかっているだろう。まず、昇進は確実だ!」


 ワハハッとお父様は笑った。

 こんな笑うんだって感じだ。人生の絶頂期というか、増長期って感じでヤバい気がする。

 娘のおかげで高い地位をいきなり手に入れて――

 周りの劇場関係者や貴族に妬まれない?

 最終的に、ざまぁされる伏線なんじゃ……私もその時には悪役令嬢に、ざまぁされて。


 一家全滅エンドになるんじゃない?


 怖いわぁ。

 お母様も、それを危惧してるわけじゃないだろうけど――転生者じゃないよね? 体も表情もこわばってる。


「まだ、笑っていられませんわ。あなた。綱渡りしているピエロかもしれない。落ちたら、おしまいですわよ。それこそ笑いものですわ……!」


 落ちたら、おしまいか。

 地獄に落ちていく私を見下ろして、高笑いしている悪役令嬢が見える――!

 私もまだ、笑えない。冷静にならなきゃ。

 お父様も、笑いを引っ込めた。


「私はピエロにはならんがね……綱渡りしているというのは言えてるね。どうだね、ウタカタリーナ。王子様との仲は?」


 お父様が私をまっすぐ見つめてきた。


 不安と期待に揺れてる瞳。

 全ては私にかかってる。逃げずに見返すことはできるけど、断言はできない。


「仲良くできていますわ。多分、誰よりも」

「多分、か。王子様の婚約者だったソプラノーラ嬢がいなくなって安心だとは思っているが。他にも、婚約者候補のご令嬢はいるだろう。王子様の近くにそんな風な令嬢はいるかね?」

「いいえ。私の見る限りはいませんけど」


 ダークホースが現れないとも限らない……

 王子様をあっさり、かっさらわれるとか?

 ギリリッ

 絶対、譲らないわよ! ヒロインの座は!!


 はっ!? 

 お父様の驚いた顔。


「ウタカタリーナの意気込みは伝わってきたよ。どんな令嬢がライバルになろうと王子様は奪われないだろうね」


 歯ぎしりする顔を見られてしまいましたわね。

 ほほほ、はしたない。


「信じているよ。ウタカタリーナ」

「……ありがとうございます、お父様」


 信じてくれて、嬉しい。

 お母様は? 

 こっち見たけど、暗い顔のまま視線をさげてしまった。

 まだ、落ちる前のピエロだと言いたげに――


「お母様、私に言いたいことがあるなら、おっしゃってください。後で、二人きりになってもいいですわ」


 お母様実は原作のストーリー知ってる転生者で "このままだと、ざまぁエンドよ。巻き添えはゴメンだわ" とか言ってくるの? 怖い。


「いいえ、言いたいことなんてありませんけど……!」


 お母様が泣き出した!


「ウタカタリーナを信じたいですけど、王子様と結婚なんて夢の出来事に思えてまだ! 心配で夜も眠れませんわ!!」

「……よしよし、落ち着いて。夢なんかじゃないさ」


 お父様が肩を撫でてなだめてるけど、泣き止みそうにない。

 お母様、転生者というより情緒不安定な人なんだわ。きっと、苦労しすぎて成功ルートを信じられなくなってるのね。わかるわぁ。私も眠れない夜があるもん。


 でも、だからって一緒に泣いてられない!!


「信じて、安心して眠ってください。お母様」

「ウタカタリーナ……!」


 お母様はまた泣き出した。


 今度は、感動で。

 それが伝わってくる。

 お父様が増長してざまぁされないためにも、お母様の情緒を安定させるためにも王子様と結婚エンドを勝ち取らなきゃ。

 二人の未来は私にかかってる――


「ありがとう、ウタカタリーナ。おかげで安眠できそうですわ。もう、今日は休みましょう……」

「はい、お母様」


 笑顔になってくれたお母様とお父様を見送り。




 深夜ベッドの中〜

 眠れない。

 お母様も訪ねてこないし。やっぱり、転生者じゃなくて異世界人なのね。


「灯り消そ」


 異世界はやっぱり、マッチで火を点けるランプのほうが雰囲気あるわね。


 真っ暗になったけど眠れない、心配は尽きない。

 もし、ダークホース令嬢が現れて王子様を奪われたら? 悪役令嬢がまた、ざまぁしてきたら?

 もし、ただ単に王子様に振られたら? 君とは料理のパートナーだよ〜とか笑顔で言われて結婚できなかったら?


 今更、そんなこと許せませんわ!!


 どんな結末でも、ヒロインになれずに終わったら。

 マッチ箱一つ持って城に火をつけに行こうかしら?

 毒薬の瓶一つ持って突撃してきた、悪役令嬢の気持ちがわかるわぁ。ああはなりたくない。

 それとも、私の歌声で国を崩壊させたりできる? それこそ本来オペラ令嬢だった私に相応しい、映画並みの迫力満点悲劇バッドエンドになるけど。

 そんなことまで考えちゃいけない。寝よう。


 王子様と結婚できますように――

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