アレンジ料理
キッチン〜
王子様はすぐに難しい顔になり腕を組んだ。
「アレンジ料理ってよくわからないな。チーズinとか、ソースを足すくらいしか浮かばないよ」
「私も、それくらいしか浮かびません。さばの味噌煮にチーズinしたら絶対まずいですよね」
「まずいね」
難しい。本格的なアレンジ料理なんて、プロかプロ級の料理好きのすることだろう。
そうだ、プロがそばにいる!
「コックさんに聞いてみましょうか?」
「そうだね、そうしよう! コックに食べてもらって意見を聞こう」
もう一度、同じ味付けで作って同じに盛りつける。
テーブルに並べて、コックさんたちを呼んだ。
「この料理は」
王子様が説明するのを、隣で見守る。
「テノールード王子達を、もてなす料理の試作品なんだ」
「おもてなし料理を王子様がお作りに……」
何、この沈黙。
そうか、コックさんたちの仕事を奪ってしまった!
王子様も気づいて焦ったようで、私と一瞬顔を見せあわせた。
「私達が勝手に作ったらまずいかな? この一食、さばの味噌煮だけ。いいかな?」
「もちろんでございます。王子様自ら料理なさるとは、これ以上のおもてなし料理はありませんな」
コック長さんが代表で答え、みんなうなずいた。
みんな笑顔だ。一安心。
私と王子様も笑顔を交わした。
「では、試食してみてくれ。王子が作ったからって、お世辞や遠慮はいらない。率直な意見とアドバイスを頼む」
「かしこまりました。では、魚料理から」
「これは、サバノミソニと言うんだ。これはオヒタシ、これはミソシル」
コックさんたちが試食を開始した。
試食の仕方がプロだ。舌に神経を集中させている。
ど、どうなんだろう?
王子様と震える瞳を交わした。
「はじめて食べる味つけですな」
コック長が言った。
「どうかな?」
「サバノミソニはソースにコクがあって、おいしいですな」
よかったと王子様と笑顔を交わす。
他のコックさんもおいしいとうなずいてる。
うんうん、そうでしょう。おいしいでしょう。
「なんというソースでしょうか?」
「ミソソースと言うんだ」
「ジパングという国から届いたミソを使ったソースですね」
日本モチーフの和風の国、ジパングっていうんだ。
「ショウガがいいアクセントになっていますな」
「オヒタシは薄めの味つけですが、サバノミソニの合間に食べると丁度よいです」
「そうだろう、さすがよくわかるな」
「お褒めにあずかり光栄です」
褒められたコックさんは、うやうやしくお辞儀した。
「ミソシルはサバノミソニと同じミソが使われているようですが、魚やキノコのブイヨンと合わさってまた違った味になっておりますね」
「それもわかるのか」
王子様を感心させたコックさんもお辞儀した。
「恐れながら」
コック長が申し出てきた。
笑顔のない顔。何か悪いことを言われる!
緊張感。私と王子様は一瞬、恐れに満ちた瞳を交わした。
「なんでしょうか。改善点があればおっしゃってください」
王子様、会社員に戻ってる。
私も、かしこまって聞こう。
「王子様、私めの意見などにそう身構えず、気休めにお聞きください」
「あ、ああ」
会社員から王子様に戻っていく――
「いや、ここは君たちコックの領域だからね。真剣に聞くよ」
「では」
コック長はうやうやしくお辞儀してから、味噌汁を見た。私たちも味噌汁を見る。
「ミソシルは味はよいですが、調味料の分量が多く濃いめになっており海藻の塩気も加わって、塩っ辛すぎですな」
「そうか、ちょっと味噌が濃すぎたな」
呟いた王子様と視線を交わす。
失敗の原因は共有できてる。
最初の味噌汁だから、気持ち濃いめにしてしまったんだ。
「味噌は少なくして、海藻はやめておこうか?」
「そうしましょう」
コックさんに聞いてよかった。
悪役令嬢に、このまま出していたら "塩っ辛!! 私を高血圧にして暗殺するつもりですの!?" とか言われるところだった。
「よし、わかった。では、豆腐はどうかな?」
「トーフは塩気もなく合っております。プルプルした食感も面白いですな」
「じゃあ、ミソシルの具はトーフだけにしようか?」
「そうしましょう」
悪役令嬢、トーフのプルプルした食感を面白がるかな? プリンのプルプルも面白がってほしいんだけど。
「決まったね」
「はい」
「では、盛りつけは、どうかな?」
「サバノミソニに、白い皿はよく合っていますな。あとは、魚とソースを一緒に盛らず、魚を盛ってからソースをかければ見栄えがよくなります」
「オシャレにソースをかけてもらいましょう」
私のささやきに、王子様は即うなずいた。
「盛りつけは頼むよ」
「かしこまりました」
「オヒタシのガラスの器は、ウタカタリーナが提案してくれたんだ。もし、器を変えるなら似たようなガラスの器で頼むよ」
王子様……
私のことを気づかってくれて……想ってくれてるのが、ギュッと伝わってくる。優しい王子様。
――――結婚したい!!
「では、こちらはこのまま、お出ししましょう」
王子様、コック長さん。
「ありがとうございます」
溢れる感謝の気持ちが、お辞儀させていた。
「みんな、ありがとう。助かったよ」
王子様の礼にお辞儀して、コックさんたちは戻っていった。
「聞いてよかったね」
「はい」
「それじゃあ、プリン・ア・ラ・モードを作ろうか」
「はい!」
窯出しプリンに湯煎プリン、色々作ってみて試食兼デザートを楽しみましょう。
「おいしいよ!」
「よかった!」
ホイップクリームをつけたり、フルーツと合わせて味見していく。
「やっぱり、プリンにはチェリーとホイップクリームですねぇ」
「メロンも乗せよう。豪華になるよ」
「彩りにオレンジとリンゴかモモも乗せてと」
丁度よい感じのガラスの器に盛っていく。
原型はできたので、
「これもコックさんに試食してもらって、盛りつけを頼みますね!」
「そうだね!」
王子様を引き連れて、私が率先して持っていく。
「こちらも試食お願いします。プリン・ア・ラ・モードというものです。そちらのメイドさんもお願いします」
コック長さんと食器を片付けていたメイドさんにも食べてもらう。
「この真ん中のがプリンです」
私が指さしたプリンを、二人ともスプーンでひとすくい食べた。
「おいしいです!」
メイドさんの輝く笑顔が嬉しい。
コックさんも笑顔になってくれた。
「おいしいですな。プリンがプルプルしていますが食感はなめらかで、甘さがカラメルの苦みとも合います」
「このクリームともフルーツとも合います!」
プリン・ア・ラ・モードを食べ続ける二人。
王子様に確認しよう。
「味は合格ですね!?」
「間違いないよ!」
「では、コックさん。このプリン・ア・ラ・モードの盛りつけもお願いします」
「かしこまりました」
「フルーツを宝石みたいに散らしてキラキラでゴージャスな見た目にしてください。それから、真ん中はあけておいてください。プリンは食べてもらうときに盛りつけます。プリンを容器からだしたときのプルプルを見せたいんです」
悪役令嬢に。
「かしこまりました」
「ずいぶん、こだわってるね」
「はい。悪役じゃなくて、えっと、ソプラノーラ様に食べていただくので。おいしいと言ってもらって……」
ざまぁ、じゃなくて。
「笑顔になってもらいたいんです!」
想像できないけど、必ず!!
「――なってもらえるさ。絶対」
王子様の言うことなら信じられる。
力強い瞳と笑顔を。
「これで、料理は全て完成だね。間に合ってよかった」
「ええ」
これで、後は……
そうだ、テーブルマナー講師が午後二時から来るんだった!
「王子様、今日から家にテーブルマナー講師が来るんです。帰らなければなりません!」
「そう、それなら今日はこれで」
「はい! コックさん、メイドさん、ありがとうございました。メイドさん、これは全部食べてください」
「ありがとうございます!」
スプーンが止まらない輝く笑顔のメイドさんに、プリン・ア・ラ・モードをたいらげてもらって。片付けも任せて。
家に帰らないと!




