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72.猫を捕まえる会

 エイヘッド神殿の奥まった小さな部屋で、リエリーとカーリン、キボネが卓を真ん中に座って話し合いをしていた。


 キボネはリエリー達からパーティーの話を聞いて以来、ずっとにこにこして嬉しそうだ。


「キボネがオルゴンを説得してくれて助かりました」

 そうリエリーが感謝すると、カーリンが吹き出すように笑った。


「オルゴンさんすごかったよね、私たちがパーティーしたいから領主城のお部屋を借りたいとお願いしたとたんに、一番大きな広間で、エイヘッドの有力者や貴族を皆呼んで、婚約お披露目の宴をするって言い出すからびっくりした。あの目は本気だった」


「オルゴン様はモーリヒルドにいる時から、お二人の婚約発表の大きな宴をして欲しいと願ってました。お二人の仲を確固たるものにして早く結婚して欲しいのだと思います。オルゴン様は、リエリー様がアツリュウ様の婚約者になってくださったことを本当に喜んでおいでなので……ちょっと暴走したのかと」


 キボネが優しい顔で話しながら、「それにしても止められてよかった」と笑った。


「そんなすごいパーティーしたら、アツリュウ様はアリタ山の頂上まで逃げますよ」

 3人がうんうんと頷くと部屋の戸口の方からクスクスと笑い声が聞こえた。


「あの、ヨンキントお仕事がおありではないのですか?お忙しい所をお邪魔してしまいすみません、私たちはしばらく話し合いをするので……」

 戸口に立ったままのヨンキントにリエリーが声をかけると、彼はまたクスクス笑った。


「はい、仕事があります。もどらないとたぶん叱られます。でもこの作戦会議がすごく楽しそうで、私も混ぜてもらいたくてうずうずしてます。何とおっしゃってましたか、作戦名は『アツリュウ様を捕まえる会』いや『アツリュウ様を(わな)にはめる会』でしたか?」


 そんな作戦名は始めから付いていなかったのに、カーリンとキボネはえらく気に入ったようで、あっと言う間に『猫を捕まえる会』が良いと二人で決めてしまった。


 カーリンと二人でパーティーの計画を進めるうちに、領主城で開催するためには、協力者が必要であると考え、オルゴンとキボネに相談した。


 キボネは喜んで協力すると二つ返事で応じてくれた。そしてこれはアツリュウに知られずに準備するのが肝心だと彼は言う、3人で考えて、護衛や使用人から離れることができる、神殿の中が良いだろうという結論になった。


「ヨンキント様、私達のためにお部屋をお貸しくださって感謝いたします。ですがこの『猫を捕まえる会』に参加したければ、秘密を守ってもらわないといけません。ヨンキント様は代行様と仲がよろしいでしょう? 私たちの味方になれますか?」

 カーリンがそう彼に聞いた。


「ええ、私はアツリュウ殿が大好きですからね、誰の味方かと聞かれればアツリュウ殿の側に立ちますね。でもこれは彼を喜ばせる計画ですから協力したいです。秘密は守るとお約束します」


 カーリンは「よろしい、会員にしてさしあげます」ととても偉そうにしたが、ヨンキントはむしろ嬉しそうに深々とお辞儀をして席に着いた。


「それでは、どんなパーティーにするか決めましょう。リエリーはどんな会がいい?」

 

 リエリーは3人の視線が自分に集まって気恥ずかしかった。けれどエイヘッドに来てから、何度も経験して知っていた。自分の話を最後まで聞いてもらえること。そして自分の意見を尊重してもらえること。だから話すのはもう怖くなかった。


「あのですね、私はパーティーというよりは、お茶会をしたいです。それで、キボネにアツリュウの好きなお菓子をたくさん作ってもらいたいです。アツリュウの好きな物で卓を一杯にして、彼に食べて欲しいです」


 キボネが「リエリー様なんてお優しい……僕ちょっと泣きそう」とつぶいてから顔を上げると、元気よく宣言した。

「リエリー様、このキボネ全力で腕をふるってアツリュウ様の好物を作りまくります! お任せください」


「それでね、カーリン。お茶会だからドレスは着なくてもいいと思うの……私少し恥ずかしいのです、アツリュウにドレス姿を見てもらうなんて……彼はそんなの興味ないかもしれないから……」


 3人の「着てください」「着ましょう」「着なきゃだめ」が同時に聞こえた。


「いいリエリー! それは絶対に外せない。むしろドレスを着ることが今回の目的だよ。代行様がリエリーのドレス姿に興味が無いですって? はっはっは、この世で一番見たがっているのは間違いなくあの男……失礼、代行様です。めちゃくちゃ喜ぶに決まってる」


 かあっと顔が赤くなってしまう。

 そんなこと……ない……アツリュウが喜ぶ?……本当?

 ヨンキントの顔を見ると、微笑んでゆっくりと頷いてくれた。


「あの、では……一人では恥ずかしいから、カーリンもドレスを着てくれますか?」

 彼女は何でもないことのように「良いよ」と答えてくれた。


「ではでは、好物のお菓子と、もっと好物の最高に可愛いリエリーちゃんが待っているお茶会に、あのニャンコをおびき寄せ捕らえるぞ! えいえい」

「おー!」とカーリンが右手を挙げ掛け声をかけたので、残りの三人も「おー!」と続いた。

 

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