表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/129

59.賭けが当たっていることを願う

 机に(ひじ)を付き、指を組んで(ひたい)を載せ、顔を()せたまま、アツリュウは動かない。

 執務室には、スオウ隊長とオルゴン、そしてすぐに指示に対応できるよう、兵士が戸口近くの壁に5人整列していた。


 昼を過ぎたが、大した情報は集まっていない。エイドドアドの海と陸の封鎖(ふうさ)が完了したとの報告とともに、エイドドアドの市長が激怒して、こちらに向かっているとの知らせがあった程度、姫の(ゆく)へは一向に分からない。


 少しでも身を動かせば、走って執務室を飛び出してしまいそうだった。


 半刻ほど前に、キボネが軽食を食べろと持ってきたので拒否すると「これから何日もの耐久戦になるかもしれないときに、食べないなんてゆ・る・し・ま、せん!」と何かを口の中にねじ込まれた。仕方なく租借(そしゃく)して飲み込んだ。


 最悪の想定が、映像とともにアツリュウの頭の中を埋め尽くす。

 手を強く組んで、額を押し付ける。これでもかと痛む程に押し付け続ける。「姫様」ともう何度心のなかで呼んだか分からない。


「スオウ隊長はどのようにみているか?」


 オルゴンの問いに、スオウが組んでいた手を解いて、足を組み替えた。

「私は、誘拐ではないように感じています」


「それはどうして?」


「今姫君が身を寄せているムネゴトウ家のご令嬢、彼女はなかなかの怪傑(かいけつ)だそうですね。面白い話をいくつか聞きました」


「あのご令嬢が姫様を(さら)ったと?」


(さら)ったとは思いませんが……王都に姫を返したくなくて、二人で隠れている可能性はある。姫君がモーリヒルドにお帰りになるのは明日です。今日という日に姫君がいなくなったことが、私は引っかかるのです。このまま姿を見せなければ、明日の予定は無くなりますから」


「姫君は離宮を抜け出しエイヘッドまで一人で来られた。それだけの度胸(どきょう)がある方だ。しかし、ここでの姫君のご様子から、自ら隠れるとは思えない、やはりあの、ムネゴトウのご令嬢が私は気になります。」


「そうであればいずれ見つかる……か」

 オルゴンはなるほどと指で髭を(こす)った。


「最悪の仮定となると、私たちが追う『黒ずくめの集団』に拉致(らち)された場合です」

 その言葉にアツリュウは全身に力が入る。


「我々がここに来て、城の防衛力(ぼうえいりょく)は一気に上がった。彼らが同じように城を襲撃(しゅうげき)し、食料を奪うことはもうできない。そこで、姫君を人質にとって交渉することは非常に有効だ。ここの領主代行は姫君の為ならなんでもする、彼らの欲しいものを全て差し出す、間違いなく」


 スオウ隊長は、アツリュウ本人を目の前にして、当たり前のことのようにさらりと言った。


「確かに、アツリュウは城ごと差し出すな、間違いない。自分の首も付けかねない」

 オルゴンもさらりと答えて、一つため息をつき、言葉を続けた。


「だが、奴らが姫様を拉致(らち)したとなれば、アツリュウにとって、姫の存在がどれほど大きいかを知っているということだ。姫様の居場所を知り、彼女の有用性を正しく理解している、姫様がここに来て数日だ、それで、そこまでの情報を得るには……」


「内通者……ですね」

 スオウ隊長の低い声が、嫌な言葉を告げた。


「だが、それはまだ一つの可能性に過ぎない。今のところ私が()けるなら、カーリン嬢を選びます」


 オルゴンは真顔のまま、ふふっと笑った。

「そうだな、是非あなたの賭けが当たっていることを願う」


 開けられたままの執務室に、兵士が入ってきた。

「報告します。王女殿下の居場所が特定されました」


 アツリュウは弾かれるように立ち上がった。

「場所はアリタ山麓(さんろく)の、第一作業小屋」

 山の中と聞いて、血の気が引く。そんな人気のないところに連れ込まれて……


「ムネゴトウ家の子息タクマー殿とご一緒であると推測されます。現地にすでに兵が向かっております」


「タクマー殿と……一緒」

 つぶやいて、アツリュウは全身の力が抜けた「黒ずくめの集団でないことが分かり、安堵(あんど)のあまりその場にへたり込んでしまいそうな虚脱感(きょだつ)に襲われた。


「ムネゴトウ家のご息女の部屋から、王女殿下の手紙が見つかりました。そこにタクマー殿の仕事場に付いていく旨が書かれております。護衛を連れず出かけるのは、明日帰される抗議である事、代行と話をする機会をつくって欲しい事、自分たちで帰るので心配しないで欲しい事、書かれています」


 兵士の報告にスオウ隊長が、鼻でふっと笑う音がした。


「手紙の発見が遅れましたのは、お二人の姿がないと気づいた際、ムネゴトウ家奥様が窓を開けたことにより、机の上から落ちて、床と机の隙間に入り込んだようです。ご息女が窓から出入りすることがあるとのことで、奥様は窓の外を気にされて、その後も窓が開いたままだったため、風などの影響があったと推測されます」


「その作業小屋はどこだ」

 アツリュウの問いに、兵士が即答する。


「ムネゴトウ材木が管轄(かんかつ)する場所です。ここから馬車で半刻の距離。アリタ山への道を北上し、林道に入って最初の作業小屋です。手紙の発見と共に、軍馬で向かっておりますので、間もなく現地に兵が到着するかと」


 アツリュウは一瞬で机を飛び越えると、出口に向かった。スオウ隊長が「止めろ」と鋭く言うと、戸口に控えていた兵士達が、アツリュウの行手を塞いだ。


「迎えに行く」

「大人しく待っていろと言ったはずです代行」

 スオウ隊長が立ち上がって、眼光鋭く言った。


「まあ、許してやってくれスオウ隊長、こいつはもう待てない」

 オルゴンの言葉が終わらぬうちに、アツリュウは身をひるがえして、執務室の窓を開けた。

「おい、ここ3階」


 スオウ隊長の言葉を背に、アツリュウは窓から飛び降りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ