24.復讐の宴
「何度も言わせるな、アツリュウには会わせない。私に確認する必要はない、何度来ても、許可できないと言っておけ! 」
セウヤは、彼の補佐官に、イライラと怒鳴った。
連日、侍女を通して、リエリーがアツリュウの看病をしたいと訴えてくるが、セウヤはそれを1度も許していない。
モーリヒルドの都では、貴族も、平民も、今回の『恩赦の戦』話でもちきりだ。
『若い剣士の命をかけた王女への恋物語」』
巷では、今回のアツリュウとリエリーを種にして、あれや、これやと大げさな味付けをつけた、現実の二人とは大きくかけ離れた大恋物語が、大衆劇で演じられているらしい。あれから10日もたっていないというのにだ。
特に人々の心を惹きつけたのが、アツリュウが王女との結婚を望まなかったこと。王女の真の幸せを願う姿に、尊き剣士の純愛との謳い文句だ。
アツリュウは、戦いの後昏倒し、3日間意識が戻らなかった。
今は回復しつつあるものの、まだ体を動かすことができない。彼の本家ミタツルギから、アツリュウを一刻も早く実家に戻して欲しいとの再三の要求がある。しかしセウヤは、ミタツルギ家の面会も断って、シュロムの邸宅に彼を置いていた。
リエリーを部屋に閉じ込めている。
恩赦の戦いの後、1度だけ彼女を見に行った。
憔悴しきった彼女の細い体。
アツリュウのことだけだ。彼女の心はあの男だけで占められてしまった。
リエリーは間違いなく、アツリュウを身を尽くして看病するだろう。
それを、させてやらない自分。
苛立ちだけが大きくなる、だが、どうしても、それを見たくなかった。
リエリーを大切にしてやりたいと思う。アツリュウと結婚させてやってもいい。
アツリュウとリエリーが、けして会わないという私との約束を守る限りは。
◇◇◇ ◇◇◇
シュロム家第三王子が、生後3カ月を迎えた。
ヒルディルド国の習わしで、赤子のお披露目の宴が催され、広くシュロムに属する貴族が招かれた。
第一王子の死に続く、第二王子の事故、暗い事ばかり続いたシュロム家の、久しぶりの慶事にシュロム王太子ハリーヤはこの上なく上機嫌な顔をしていた。
父の幸せそうな顔をみて、非常に満足だった。その顔をどこまで苦痛でゆがませてやれるかと思うと、悪寒のようなゾクゾクとした喜びが背を登ってくる。
「今宵は、王子トウヤの成長を皆が寿ぎ、これほど嬉しいことはない。皆、聞くがよい。トウヤは真の王子。これは月神が定め錫た真実である。よって、私はこの最も尊く生を受けたトウヤにシュロムの第一王位継承権を与える」
会場が騒めく。
隣で涼しい顔で拍手をしてやった。
どよめきながらも、セウヤに倣い会場は拍手で満たされた。
「セウヤは本日より、王位の継承を末位とする。同時にシュロム家総監督官となり、シュロム家、シュロム属領のとりまとめ役となり働いてもらう」
促されセウヤは車椅子で前にでると、朗々と挨拶の辞を語った。
父との取引を行った。
自分の王位継承権を返上し、弟に第一継承権を譲る代わりに、シュロムの実権を取る名目を父に確約させた。自分はこの足で月の祈りの儀式も行えない体となった。これからは弟を補佐する側にまわり、シュロムの為に働きたいとしおらしく言ってやった。
父は喜んでその取引に応じた。
名目はくれたところで、実権はシュロムの長である自分にあるのだ、なんの不都合もないと考えているのだろう。
加えて、リエリーとミヤビハラ家との婚約を解消し、アツリュウと結婚させることをこの宴で発表するように、進言したが、父には全くその気はないようで、無下に断られた。
「あのミタツルギの5男坊は当主が平民に産ませたゴロツキだそうじゃないか、そんな男にリエリーはやらん。恩赦の戦など面倒ごとを起こしおって。だが、あの男自身が申し立てていたではないか、リエリーが望むように結婚させろと、だからエイヘッドに行かせておけばよい」
エリーの結婚については、あっさり進言を取り下げたが。
いくらでも好き放題に言っているといい。父が思い通りになるのもあとわずかなのだから。
セウヤは挨拶の辞を終えると、恭しく赤子に最上の礼をし、檀上を降りた。
カリノヤ家当主、サイダ・カリノヤが呼ばれ王の隣に立った。
シュロム派の有力貴族である彼は、現在グイド国王の副摂政を務めている。長年の慣例として、王権を持たない王家が、副摂政を選出する。名ばかりの職であり何の権限も持たない。
カリノヤは壇上に立つと、チラリとセウヤに視線を送った。
ハリーヤは国政で副摂政を務めるカリノヤがこのほど、定例の王の御前会議で発言することが許されるようになったと発表した。長らく名前だけの名誉職に成り下がっていた副摂政であったが、これからはシュロム派のカリノヤが国政に大きな影響を与えることができると、彼に賛辞を浴びせた。
促されカリノヤが挨拶を述べる。
ハリーヤを讃え、新王子を讃え、式辞は長々と続いたが、彼は最後にこう締めくくった。
「これからはセウヤ様をシュロムの当主とし、お仕えしていくことを、ここにいる全てのものが誓います。どうぞ、ハリーヤ様はご隠居なされましたあとも、トウヤ様の王学のご教授役として、シュロムの未来の為その御業を、王子様にお注ぎくださいますよう。これからのシュロムは、どうぞ私共にお任せください」
ハリーヤは初めぽかんとしていたが、徐々に憤怒の表情に変わった。座から飛び出すように立って、カリノヤにつかみかかった。
「お前、なんと申した。わしが隠居だと? 」
「恐れながら、ハリーヤ様は本日から隠居なさるのでは?」
カリノヤは慌てた様子もなく、にこやかに答えた。
「セウヤ様を本日、シュロム家総監督官にこの場でご命じになられました」
「それは、そうだが、だからと言ってわしは隠居などせん」
カリノヤはつかみかかるハリーヤをそのままに、皆の方に向き直ると、宣言した。
「私サイダ・カリノヤはセウヤ様に忠誠をお誓いします。皆も知っての通り、今回の副摂政の実権を取り戻したのは、セウヤ様の功績であります。セウヤ様の尽力で、各領地の灌漑事業の費用もめどがたちました。今回の水害で多く被害をうけた各所も、これで救われましょう」
カリノヤが手を打ち鳴らして、セウヤを正面に呼んだ、会場の人びとは事態に付いていけず、息を飲んで静まり返っている。
「カリノヤ馬鹿なことを、こいつをつまみ出せ」
ハリーヤの声が響き渡ったが、衛兵は動かない。
代わりにセウヤが、連れていけ、と指示すると、衛兵達はハリーヤを拘束して、引きずるように座から引き離す。
野太い声の悲鳴と、罵声を喚きながらハリーヤが退場した。
カリノヤがまた高らかに手を鳴らした。
もはや、ここで誰に付いた方が得策なのかを悟った諸侯たちは、一斉に拍手を始めた。
セウヤは侍従に指示して、車椅子からシュロム王が座っていた中央の座に身を移した。
高座から見下ろし、にっこりと笑った。
「では、宴を続けよう」




