7話 避けるチーズ
逃げ出した僕は、そのままダッシュで学校へ向かう。
まだ遅刻するような時間でもないのに全力疾走をする僕を見て、他の生徒は変な目を向けてくるが関係ない。
とにかくあの場所にいることは僕には耐えられなかった。
あの時の周囲の目線、彼女に向けられる羨望のまなざしとは違う、敵意を持った目線。
それに、二人でいる時はマヒしていたが、彼女の持つオーラは一般人のものとは明らかに違った。
文字通り住む世界が違うのだ。
朝、彼女を目の前にした時、それを今さら痛感した。
学校の正門を越えて慣れない全力疾走に疲れ切った僕は、膝に手をついて荒い呼吸をする。
どうしよう。勢いで何も言わずに逃げてしまったが、あの対応はどう考えても失礼だ。
酸欠状態のうまく働かない頭で、ぼんやりとそんなことを考える。
しかしそんな考えは隣を通り過ぎた二人組の会話で霧散してしまう。
「おい、あいつだよ、汐咲さんに話しかけられて逃げたやつ」
「は?汐咲さんに話しかけられて、逃げるのはねーだろ。てか誰?」
それは僕を非難する言葉だった。
よく耳を澄ませると僕について噂をする人が他にも数人いた。
僕は改めて汐咲さんという人は特別な人間だということを思い知った。
彼女はやっぱり僕なんかが気軽に関わっていい存在じゃないんだ。
僕は周囲の視線を振り払うようにその場を後にした。
教室についた後も、僕は居心地の悪い空気を味わっていた。
噂は早いもので、既に教室にいる人は大体朝何があったかを知っているみたいだった。
いつもならこの時間は本を読んだり、スマホをいじったり、いずれにせよ誰にも気にされずに静かに過ごしていたのだが、今日に限って僕はクラスで一番注目を集める存在になっていた。
そんな空気に耐えられず、僕はお腹が痛いフリをしてトイレにでも行こうと席を立つ。
そしてトイレに向かう道すがら、精一杯の苦しい表情をして歩いていると、汐咲さんご一行とばったりと出くわした。
最悪だ、このタイミングで出くわすなんて。
僕がフリじゃない本気の苦しい顔をしていると、汐咲さんが話しかけてくる。
「小清水君さっきは...ってどうしたの!?顔色ひどいよ!?」
彼女は本気で心配してくれているようだった。
しかし今はその優しさが苦しい。
なぜなら汐咲さんが僕に話しかけたことで、周囲の視線がより一層強くなったからだ。
「ごめん...」
僕は覇気のない声でそう言うと、またも逃げるようにその場を離れた。
そして僕はそれからトイレに閉じ籠り、HRが始まる直前に教室に戻った。
その後、授業の間の休み時間になる度に僕は汐咲さんから逃げるようにトイレに閉じ籠った。
いつもは退屈だった授業の時間だけが僕が落ち着ける唯一の時間になっていた。
平凡でつまらない、しかし平和であった僕の日常が、たった一日で変わってしまっていた。
そして迎えた昼休み、例のごとくトイレに向おうとした僕はチャイムと同時に教室を出た。
しかし、いつの間に教室を出たのか汐咲さんが腕を組んで待ち構えていた。
「ちょっと来て!」
そういって彼女は僕の腕を掴んだ。
「ちょ、ちょっと汐咲さん!何するの!」
「いいから来て!」
彼女に強引に連れられた先は、誰もいない空き教室であった。
主人公ウジウジ編は次で終わります。
完読ありがとうございました!
少しでも面白いと思って下さったら下の☆を★にしてくれると嬉しいです!
次回にもどうぞご期待ください!