6話 住む世界が違う
次の日、いつもより早く起きた僕はスマホをいじりつつ朝食を食べていた。
当然、僕に朝からメッセージを送り合う友達などいないため、見ているのはただのニュースアプリである。
「不審者に注意、か」
まとめられたニュースの見出しを見ながら、昨日の出来事を思い出す。
最近はどこも物騒だ。僕も一人で夜出歩くときは気を付けよう。
そう心に刻んだ。
そしてそのままニュース記事を流し見していると、一つ気になるものが目に入った。
朝の定番、星座占いだ。
普段は占いなどあまり興味はないが、なんとなく今日は見てみることにした。
僕の誕生日は12月4日、つまり射手座だ。
その占いはランキング形式だったが、僕の星座は探すまでもなく一番上に載っていた。なんと一位らしい。
たまたま見た日に一位なんて運が良いな、と気分が良くなって詳しい説明を見る。
『射手座のあなたは...、おめでとうございます、一位です!』
ありがとうございます。
名前も知らないライターに感謝しながら続きを読む。
『だからといって調子に乗らないようにしましょう。平凡な日常を壊すのはいつだって過信や慢心です。あなたの身の丈にあった生活を心がけましょう』
これ本当に一位の説明?急にライター変わった?
なんで一位になってまで説教されなくちゃいけないんだ。
既にテンションが下がり切っていた僕は、本日のラッキーアイテムという華々しいフォントでデザインされた文字に気づく。
あまり期待せずにそれをタップすると画面が切り替わり、文字が浮かび上がる。
『ラッキーアイテム:すべてを受け入れる暖かな心』
やかましいわ。
苛立ちを覚えた僕は、大きなため息をついてアプリを閉じた。
気づけばもう登校時間だった。
なにが占いだ。少しでもテンションが上がった僕がバカだった。
急いで家を出た僕は、朝の混雑した電車に揺られていた。
電車の中の人間は大体同じ格好で、全員同じ学校であることが見て取れた。
かくいう僕も同じ服を着ている。
霧沢高等学校─僕や汐咲さんが通っている学校で、地元の中でも少しだけレベルの高い人間が通う、一応進学校というやつである。
学校から僕の家は比較的近い方なのだが、自転車だと遠すぎる微妙な距離なのでこうして毎日電車で通っているのだ。
定期代も馬鹿にならないが、毎日片道数十キロ自転車を漕ぐのは流石に嫌だった。
そんなこんなで電車が目的地、学校の最寄りに到着する。
駅のホームに降りて改札口に向かおうとした時、一つ先の車両の前に大きな人だかりができているのが見えた。
気になってそちらをよく見てみると、その人だかりの中心には圧倒的な美貌を誇る美少女─汐咲 心美が立っていた。
彼女は周りの生徒に何度も声をかけられては、笑顔で受け答えしていた。
表情は笑顔だがあれは明らかに困っている。
すると、彼女の周りにいた友達と思われる女子数名がボディーガードのように道を作った。
きっと毎日こんな感じなのだろう。僕が見るのは初めてだが、明らかに彼女らの動きは手慣れていた。
やっぱり有名人なんだな、そうぼんやり考えているとふと彼女と僕の目が合った。
すると彼女はいきなりこちらに手を振りながら
「あっ!小清水くん、おはよ~!」
そういってこっちに歩き出した。
周囲の人間は突然の彼女の行動に驚き、そして一斉に僕の方を見る。
驚くのもつかの間、いつの間にか僕の目の前に来ていた彼女は、先ほどまでとは違った笑顔で僕に話しかける。
「昨日ぶりだね~!あの後無事に帰れた? あ、私?私は無事に帰れたよ~」
「でも昨日は怖かった~、家に帰ってまた思い出してさ、だから私昨日なかなか寝付けなくて」
「あ、そうだ!昨日のお礼を持ってきたんだけど...」
彼女は矢継ぎ早に言葉を続ける。
僕はというと、突き刺さる数多くの目線と、改めて感じる彼女の圧倒的なオーラに完全に委縮してしまっていた。
「お礼はまだ秘密!学校でね! それじゃ、一緒に教室行こっか!」
そんな彼女から、僕は。
僕はその場から逃げ出してしまった。
完読ありがとうございました!
少しでも面白いと思って下さったら下の☆を★にしてくれると嬉しいです!
次回にもどうぞご期待ください!