4話 無言の食卓
未だに落ち込んでいる汐咲さんを椅子に座るよう促した後。
僕はカレーライスとサラダ、それと水の入ったコップをそれぞれ二組ずつテーブルに置いた。
「あの...、さっきのは事故だからあんまり気にしないでよ。」
僕がそうフォローするが彼女はあまり納得していないようで、ただ暗い顔で首を縦に振るのみだった。
(やばい、すっっごく気まずい。)
このままじゃ埒が明かない。そう思った僕は、
「いただきます!」
と強引に宣言した。
そのままスプーンでカレーライスをすくい、口いっぱいに頬張る。
よし、味は問題ないな。
僕の強引な行動に驚いていた汐咲さんは、美味しそうにカレーを食べる僕を見て一足遅れてスプーンを持った。
「いただきます。」
そう控えめに呟いて、汐咲さんはカレーライスを小さな口で食べる。
そしてなぜか数秒間スプーンを口に含んだまま固まってしまった。
どうしたのだろうか。まさか口に合わなかったとか。
僕の心配をよそに再び動き出した彼女は、今度は大きく口の中にカレーを頬張った。
そして無言のまま食べ続けて器に盛ったカレーライスの半分が無くなると、額に浮かんだ汗を手の甲で拭った。
彼女はコップに入っていた水を一気に飲み干すと、
「小清水くん!このカレー世界で一番美味しい!」
僕の知っている笑顔でそう言った。
そこからは今までの沈黙が嘘のように会話が弾んだ。
「小清水くん家は甘口なんだね~。」
「僕、実は辛いものが苦手なんだ。」
「へぇ~、じゃあ今度激辛ラーメン食べに行こうよ。」
「話聞いてた?」
いつの間にか彼女のお皿が空になっていることに気づいた。
「おかわりどうする?」
「う~ん、もう結構お腹いっぱいだから大丈夫!」
ぐぅ~
彼女の体は正直だった。
「...よそってくるから、お皿借りるね。」
プルプルと震えながら下を向いて自らの腹を殴る彼女に断りを入れて、僕はキッチンへと向かった。
まだまだ食事は続く。
「ていうか汐咲さん、ちゃんとサラダも食べなよ。」
「た、食べてるし!丁寧に一つずつ味わってるだけだから!」
「さっきからトマトをつついてるだけじゃないか、ダメだよ好き嫌いは。」
「苦手なものは苦手なの!小清水君だって嫌いなものは無理でしょ?」
「僕に嫌いなものは無いよ。」
「さっきと言ってること違くない!?」
久しぶりに賑やかな食卓だった。
たまにはこういうのも悪くないかな。
「ごちそうさまでした。」
「ごちそーさまでした!」
色々なハプニングはあったが、こうして彼女との初めての夕食が幕を閉じた。
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