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12話 二回目

 衝撃的な事実をなんとか飲み込んだ後、僕は喫茶店を出て、今は既に家に帰ってきていた。


 あの人ネットだと性格変わるタイプなんだ。ていうかなんで僕のアカウント知ってるんだ。


 僕は家に帰る途中、雫さんが話したことについて考えていた。


 汐咲さんを頼む、か。


 正直言って僕には手の余る案件だと思った。


 汐咲さんとはもっと仲良くなりたいし、学校でも対等に話す理由だって既にできた。


 だが何度も家で過ごすことを受け入れる心の強さはまだ僕には無い。


 僕が自分の心の弱さと葛藤していると、またスマホが通知で震えた。


『あんまり気を張らないでいいよ~☆心美も翠君の料理気に入ってたしネ(ง •̀ω•́)ง ちなみに心美の今日のシフトは20時までだよ♡』


 僕は驚いて後ろを見る。特に何も無い。


 あの人はエスパーか何かなんだろうか。


 僕は昨日の彼女との時間を思い出す。


「よし!」


 僕は頬を思い切り両手で叩くと、買い物袋を手に取った。


 そして家の外へ出て歩き出した。


 彼女の働いているあのスーパーへと。



 もう既に時刻は7時半、最近はだいぶ日が短くなっていて外は真っ暗だった。


 日はもう既に沈んでいるとはいえ外はまだ暑く、僕は歩いているだけで汗をかいてしまう。


「これはまだまだエアコンは必須だな......」


 僕はぼやきつつも歩き、そして例のスーパーにたどり着いた。


 僕は外においてある買い物かごを手に取り、自動ドアをくぐる。


 おお、涼しい。


 中はエアコンがガンガンに効いていて少し寒いぐらいだったが、さっきまで外にいた僕にはちょうど良かった。


 僕は来る途中で買おうと予め考えていたものを次々にかごに入れていく。


 そしてあらかた欲しかったものをかごに入れた後、レジへ向かった。


 

 僕は会計に入る前に汐咲さんの姿を探す。


 雫さんのお願いを聞くにもまず彼女を探さないと話は始まらない。


 僕はきょろきょろとレジの前で首を振る。


 しかし一向に彼女の姿が見つからない。


 おかしい、汐咲さんほどの外見ならわざわざこんなに探さなくても目に入るのに。


「なにかお探しでしょうか?」


 あまりにもきょろきょろしすぎたか、店員さんに話しかけられる。


 気づけば僕は周りから不審な目で見られていた。


「いっ、いえ!何でもないです!」


 慌てた僕は一番近くのレジに入った。


 結局、汐咲さんを見つけることはできなかった。


 もしかしたら今日はもう早めに上がってしまったのかもしれない。


 雫さんには悪いけど今日は諦めるしかないか。


「あ、もしかして今日は生姜焼き?」


 僕がガックリと肩を落として落ち込んでいると、ふと前から声がかかる。


 前にもこんなことがあったような......


 僕が驚いて前をみると、白い三角巾をかぶりながら、大きなフレームのメガネをかけて顔半分を覆い隠すようなマスクを着けた地味な女性が立っていた。


「あの、どこかでお会いしましたか?」


 声をかけられたものの、この女性に全く心当たりがない僕は素直にそう聞いた。


「やだな~翠くん。私だよ、私」


 僕がそう聞いても相変わらずにこやかに話しかけてくる声に、やっと心当たりが一つ増えた。


「......もしかして汐咲さん?」


「あったり~、よくわかったね!」


 僕はそう答えられたが、今だに目の前にいる人物と僕の頭の中の汐咲さんは一致しなかった。


「いつもはこうやって地味目に擬態してるんだよ~」


 マスクの中で彼女が笑ったのが分かった。


 僕は呆気にとられながらも雫さんのお願いを思い出し、彼女に声をかけようとした。


 しかし、それは彼女が先に言葉を発したことで果たされなかった。


「ねぇ、今日も翠くんのお家にお邪魔しちゃってもいいかな?」


 彼女の言葉を断る理由はなかった。


 僕が首を縦に振ると、彼女は「じゃあ15分だけ待っててね」と買い物袋と共に僕に言い渡し、店員さんらしく深くお辞儀をした。




 僕は買い物袋を片手にまた駐車場の隅っこで待っていた。

 

 暑さによる汗を空いている方の手で拭いながら、僕は中で待たなかったことを後悔していた。


 あっついなー、アイスとか買ってなくて良かったよ......


 僕がもう一度店内に戻ろうか考え始めた時、誰かに後ろから声をかけられた。


「やあ、また会ったね」


 僕は暗い中声をかけられたことにビックリして、声の主の姿を見て再びビックリした。


 声の主─その男は上下真っ黒のジャージを着て、大きなマスクにサングラスの格好だった。


 先ほど汐咲さんがマスクとメガネだった時は誰だか分からなかったが、今回はハッキリと思い出せた。


「昨日の不審者!」


 僕は大声でそう叫んだ。


「あまり大きな声を出さないでくれ、別にとって食おうってわけじゃないんだ」


 男は和やかにそう言うが、僕の方は完全に警戒心をむき出しにしていた。


「昨日汐咲さんにちょっかいかけといて、よくそんなこと言えますね」


 そう、昨日こいつは汐咲さんに声をかけて怯えさせていたのだ。警戒するなという方がおかしい。


 こいつは何者なんだ。汐咲さんのバイト先にも現れたということはもしや彼女のストーカーか?


「そんな怖い顔されるとおじさんも傷つくよ」


 男が肩を竦める。


 妙に和やかなのが逆に不気味だ。


「あなたは何なんですか。何の用で僕に話しかけてきたんですか」


「昨日の彼女はいないのかな?」


 僕の質問を無視して男はそう聞いてくる。


 やっぱり汐咲さん目当てか!


 僕はさらに警戒心を高めた。


「ところで君は彼女とどういう関係なんだい?もしかして恋人?」

 

「違います、それにそんなことあなたには関係ないでしょ」


 僕がそう言うと男は安心したように「そうか」とだけ呟くと、


「今日は挨拶だけ。また機会があったら会おうね」


 そう言って去っていった。


 何がまた会おうね、だ。二度と来るな。



 僕が男のいた場所に今日スーパーで買っていた家庭用食塩を振りまいていると、元の姿に戻った汐咲さんがやってきた。


「翠くんお待たせ~......ってなにやってるの!?」


「ちょっと良くないものがいてね、清めてたんだよ」


 僕はいたって真面目にそう呟いた。


 きっとあの男は汐咲さんのストーカーだ。二度も彼女の近くに現れるんだ、間違いない。


「汐咲さんのことは僕が守るよ」


 昨日の彼女の怯えた姿を思い出して、僕は晩夏の暗い空に誓った。

 

 

 彼女が後ろで顔を真っ赤に染めていたのを見ていた者は誰もいなかった。

完読ありがとうございました!

少しでも面白いと思って下さったら下の☆を★にしてくれると嬉しいです!

次回にもどうぞご期待ください!

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