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見知らぬ街へ

「ところで、さっきからなんでずっと敬語なの?」


二人で一緒に街の方へ歩いて行く道中、女神は僕に尋ねた。


「へっ?いや、だって、なんか緊張しちゃって。」

「何よそれ。女神だって言った時はすんなり受け入れてたじゃない。別に敬ってくれさえすれば、フランクに接してもいいのよ。私、そこら辺はお堅い女神と違うから。」


ボディーもすごく柔らかそうですもんね。


僕は心の中でそう答えた。

もちろん実際に口にはしない。いや、できない。


ただ、横目でチラリと見ると、たわわな乳房が歩くリズムに合わせて揺れている。

これこそが、僕が敬語を使ってしまう理由なのだ。

女神だか何だかは置いておいて、その外見だけで、敬語を使ってしまうには十分だった。

何だか勝手に勘違いをしているが、そこはあえて否定はしなかった。


「ねぇねぇ、ところでさ、名前はなんて言うの?」

「カケルです。」

「あれっ、でもゲームでは鳳凰院フレイム太郎って名前だったじゃない?」

「それ、人に言われるとすごく恥ずかしいから忘れて下さい。てか、なんでちゃっかり覚えているんですか?」

「私のことはクロノス様って呼んでくれていいわよ。」

「なんか照れます。神様に対してそんな……。」

「そう?まぁ普通に神様だけでもいいけど。」


僕らは街へと向かうため、森の中を歩いていた。

森といっても、さほど深くなく、両脇に木が生えた道があった。

まだ街までは距離がありそうだ。

僕は、ふと疑問に抱いていたことを質問することにした。


「ところで、神様はどうして僕なんかについてきたんですか?」

「別に意味なんてないわよ。ただ、なんとなく。」

「じゃあなんで猫の姿をして、あんなところにいたんですか?」

「うーん、猫の姿をしていると楽なのよ。私はどんな姿にもなれるけど、人の姿をしていたら、身元とか聞かれるし、虫の姿をしていたら手のひらで潰されそうになったりするし、かと言って動かない木とか石になったらつまらないじゃない。猫だったら、どこにいても誰も気にかけないから、どこにいたって平気なの。」

「確かに。」

「それに、どちらかと言うと優しくされることの方が多いの。カケルが私にしてくれたみたいにね。」


神様はそう言うと、僕の顔を覗き込んだ。

正面からそう言われると、普通に照れる。


「……ははっ。」

「でもね、一つ覚えておいて欲しいのは、私は時間の神だから、言わばどこにでもいるの。だって、時間はどこにだって存在していて、どこにでも流れているものだから。そういう意味では、あの場所でカケルと出会ったのだって、全然不思議なことでもないし、偶然でもないのよ。ここにいる私は、言わば神の象徴を形作った像みたいな存在なの。」

「ふーん、なんだかよく分からないような、分かったような。」

「カケルがもっと時間のことを感じ取れるようになったら、今言ったことの意味もわかると思う。でもまぁ今は、そんな難しいこと考える必要はないわ。だって、ここにいる私は確かに実体として存在しているんだから。ほら。」


神様はそういう時、僕の手を握った。

柔らかくて、暖かい。


「何顔を赤くしてるのよ。」

「べっ、別に何でもないです。」

「カケルって変わってるわね。すごく鬼畜で大胆になるかと思えば、純朴なところもあるし。」


街に着いた。


「ここは一体どこなんだろう?」

「結構大きな街みたいね。」

「ねぇクロノス様、質問があるんですけど。」

「どうぞ。」

「今って、どこかの時代にワープしてきたって話だったけど……。」

「うんうん。」

「場所も違う場所にワープするんですか?」

「いい質問ね。ズバリ答えると、場所は変わらないわ。私の力は、あくまで時間のワープのみ。」

「と言うことは、さっきの場所はあくまで僕の家。」

「イエス。」

「そして、歩いてきたこの街は、僕の家の近所。」

「イエス。」

「そうすると、全く理解できない点があるんだけど、というか理解できない点がありすぎるんだけど……」


そこはまるで中世みたいな街並みで、人々は中世みたいな服装をしていた。

映画とかゲームでよく見る光景が目の前に広がっていた。

レンガと木でできた建物が建ち並び、道の両脇には市場みたいに物を売っている小さなお店が並んでいる。

往来を歩く人々は、皆簡素な服を着ている。

果物や野菜を売っているお店もあれば、何やら食べ物を売っているお店もある。

また、小さな雑貨やアクセサリーを売っているお店もあり、神様はそのお店に気を取られていた。


「あいた!」


神様に気を取られて、横を見て歩いていたため、向こうから来る人にぶつかった。


「おうにぃちゃん、ごめんよ。」

「あわわわ、ごめんなさい。」

「おう、ちゃんと前見て歩くんだぞ。」


恰幅のいいおじさんはそういうと、僕の姿をじろじろと見た。

そういえば、僕は布一枚を腰に巻いているだけなのだ。

いくら中世と言っても、布一枚を腰に巻いていたら、ちょっと変態扱いされるのかな?

あるいはとても貧しい平民、という感じだろうか?


しかし、そんなことより、ずっと疑問に思っていたことを訊くチャンスだ。

このおじさんにぶつかったついでに質問するのだ。

だが、僕は人見知りで口下手で緊張しいなのだ。

だがそんなこと言っていられない状況に置かれて、僕は思い切って質問することにした。


「ちょっと訊いてもいいですか?」

「なんだい?」

「今は何年何月何日ですか?」

「はぁ?」


まさか、自分がこんな質問をするだなんて。

まさに別の時代から来た人のべたな質問って感じだな。


「すみません、教えて下さい。ちょっと忘れちゃって……。」

「3000年1月20日だよ。」

「3000年?」

「あぁ、西暦だとピンとこないかい。君らはカイロス教信者かな?カイロス歴で言うと、1000年だよ。」

「カイロス歴?」

「ついこの前まで、1000年の生誕祭があったじゃないか?お前、他所から来たのかい?まさか街の外で盗賊に襲われたとかか?」

「……えぇ、まぁ、そうなんです。」

「そうだったのかい。そりゃ気の毒に。しかし、もう少し早く来てたらよかったのになぁ。今年はちょうど1000年目の生誕祭だったからって盛大にやってたぜ。にぃちゃんみたいに、外からもえらくたくさん人が来て、毎晩お祭り騒ぎでよ。おかげで酒場はかなり儲けたって話だけど、俺みたいなカイロス教信者じゃないもんからしてみたら、夜うるさくて眠れねぇし、おまけに……」


男はクドクドと話し続けていたが、僕の頭にはもう一字一句入ってこなかった。


西暦3000年?

それって未来ってこと?

1000年後の未来?それがここ?

僕がいた時代から、文明がかなり退化しているように見えるけど?

ビルや車は?

いや、1000年後の未来だったら、もっと想像もつかない文明まで発展しているものじゃないのか?

今僕がいるここは、どう見たって、僕がいた時代から数百年前、数千年前の世界じゃないか?


だけれど、それだけでは説明がつかないことがある。

このファンタジーっぽい街並み、さっきの怪物。

ここは一体どうなっているんだ?

1000年後の未来には、あんな怪物が存在しているってこと?

1000年の間に、世界はどうなってしまったんだ?


「ねぇ、クロノス様……。」


神様に助けを求めようと横を向いたが、そこには誰もいなかった。あれ?さっきまでここにいたのに。


「あの、すみません。」


僕は喋り続ける男の話を遮った。


「さっき僕と一緒にいた女性なんですけど……」

「あぁん、誰のことだい?」

「僕と一緒に歩いていた女性ですよ。」

「にぃちゃん、何言ってんだよ。」

「えっ?」


僕はその瞬間、ふっと足元が消えてなくなる感覚に襲われた。

もしかして、神様は僕にしか見えていなかった?

そして今、僕にもその姿は見えなくなった。

これってもしかして、失踪した?

ふらっとどこかのお店を見に行って迷子になったのだろうか?

そんな楽観的な考えにすがりつきたくなった。


今迷子になってるのは僕の方じゃないか。


僕は後悔した。神様に連れられて知らない街に来てしまったことを。



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