表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/34

元家があった場所で

翌日、午前中でトレーニングを切り上げさせてもらい、僕は一人である場所に向かっていた。


神様はまだ2日目なのにとぶうぶう言っていたが、どうしても一人でなければならなかった。

街を出て、およそ20分ほど歩くとそこに着いた。


改めて見渡してみると、広い荒野が広がっていた。

木材や様々なガラクタなどが散らかっている。

ここはどうやらゴミ捨て場のようだ。

そして、こここそが最初に僕がこの世界に降り立った場所でもあった。

つまり、僕の家があった場所だ。


未来の僕の家が、ゴミ捨て場の中にあるというのはあまり嬉しくなかった。

どうせならもっと発展でもしていたら、家の土地を高く売れたかもしれないのに。

と言っても、1000年後であれば僕は本来存在していないので、僕のかなり遠くの子孫が儲かるだけなのだが。

というか、1000年後まで僕の子孫は続いているのだろうか?

とそんな不毛なことを考えていたが、どうしても理解できないのは、どうして1000年後の世界が発展するどころか、文明が後退してしまったのかということだ。

この点は、全く不毛どころか、解き明かさなければならない疑問に思えた。

そして、神様たちのラグナロク。

現実世界にそんなことが存在するということも受け入れ難い。

だが、文明が後退したこととラグナロクは何か関係があるのだろうか?


そんなことを考えながら、僕は自分が最初にいた場所を探した。

ガラクタを踏みながら、ゴミ捨て場の中へ進んでいく。

途中で、前回のように大きな恐竜みたいな怪物が現れないか、時々空を見上げて確認した。


「この辺だったかな。」


ガラクタだらけの中で、神様がボロボロになったカーテンの切れ端を拾ってきてくれた場所だ。

ここが、最初の地。

僕がこれまで平穏な人生を過ごしていた場所の1000年後に、僕は今立っている。

幾分平穏ではない環境に身を置いて。


ここに来た目的はひとつ。


僕の過去の遺物を発掘することだ。

神様がカーテンを拾ってきたということは、きっと他の物もまだあるということだ。

あたりを見渡しても見つからないので、ひょっとしたら地面に埋まっているのでは?と考えたのだ。

僕は適当に足元をスコップで掘り始めた。

それほど深くには埋まっていないはずだ。

案の定、掘り始めてから数分で、カーテンの切れ端を見つけた。

この調子でいけば、きっと他の物も見つかるはずだ。


今回のターゲットはただひとつ、AVだ。


もちろん、この世界には電気がないから、発掘したって見れないことは百も承知である。

そのパッケージだけでいい。

パッケージを眺めるだけで、僕は自分を慰めることができる。

そしてこの辺りには人影もない。

今の僕はそれくらい飢えている。

昨晩、神様とトレーニングしている時、なんだかいい雰囲気になってたが、正直やばかった。

あの柔らかそうな身体に触れたくてたまらなかった。

もう相手が神様だとか、そういうのは関係なく、好きなように触りたい衝動を抑えるのに必死だった。

実際、神様の力は封印されていて、人間と同じ状態と自分でも言っていたし、僕も健全な青少年なのだから、夜二人きりで同じ部屋にいたら、そういう気持ちになるのは極めて自然なことだ。

こっちの世界に来てから、ずっと自慰も我慢している。

しかしもう我慢も限界だ。

ということで、僕は何としても僕のAVを発掘しなくてはならないのである。

神様のためにも、自分のためにも。

僕は自分の部屋の広さほどの範囲で、せっせと地面を掘り続けた。

これはこれでトレーニングになりそうだ。


「何をしとるんじゃ?」


後ろから突然声がした。

驚いて振り向くと、老人が立っていた。

僕は穴を掘る手を止めて、なんと答えればいいのか迷った。


「えっと、……探し物です。」

「こんな所で探し物とは難儀じゃな。間違えて捨ててしまったのか?」

「そういうわけではないんですが、無くしちゃったんです。」

「わしも手伝ってやろう。わしもここでよく物を探すんじゃ。」

「でも悪いです。見つかるかも分からないし……。」

「いいんじゃよ。わしの探し物もついでじゃ。それで、一体何を探しとるんじゃ?」

「えーーーっとーーー、絵です。」

「どんな絵なんじゃ?」

「一言で言うと、女性の裸の絵ですね。」

「ほうほう、ようは春画じゃな?」

「そうですね。」


と言うことで、僕はこの見知らぬ老人と一緒に春画を探すこととなった。

まるで河原で捨てられたエロ本を探すみたいだな、と思った。

時代が変わっても、男が求めるものは変わらない。

そしてロマンの前では、年齢もまた関係ないのだ。

老人は一生懸命に穴を掘った。

年齢は70歳以上に見えるのだが、身体はたくましかった。

僕よりも筋肉も付いているし、細身なのだが、芯はがっしりとした身体だった。

老人は黙々と穴を掘った。

僕よりもその動きは早く、ドンドンと穴は深く広くなっていった。


「疲れたのぉ。少し休憩しようか?」

「そうですね。」


僕らは穴から這い出て、しばらく黙って座っていた。

僕は持ってきたポーションを一つ老人に渡して、二人でポーションを飲んで休憩した。


「一体どんな春画なんじゃ?」

「僕の宝物です。」

「ほうほう、描かれているのはかなりの美人なんじゃろうなぁ。」

「僕の中では一番の美人です。」

「ほぉ。」老人は顎髭を触りながら、深く息を吐いた。

「大きくてクリっとした瞳、薄い唇に小さく尖った鼻。長いロングの髪の毛。非の打ち所がない顔です。そしてもちろん、身体のいやらしさは芸術のレベルです。」

「その春画を見つけてしまったら、もう興奮して抑えられそうにないのぉ。」

「そうなんです。正直、もう抑えるのが精一杯なんです。」


僕は昨晩のことを思い出していた。

もう抑えるのが精一杯なのだ。


「目の前にしたら、思わず触れたいと思ってしまう。でも、もしも拒否されたり、嫌な顔をされたらどうしようと思うと、怖くなるんです。それで一歩引いてしまう。」

「一歩引いて見るのもまた一興じゃよ。」

「そうなんです。もっと近づきたい、触れたいと思いながらも、一歩引いても、それはそれで綺麗なんです。今はまだその距離感かもしれない。でも、もっと近づいてみせる。そしていつか、この手で抱きしめることができたなら……、いや、そうなれるように頑張らないといけないんです。今はまだ弱いけれども、もっともっと強くなって、きっと彼女に見合う男になりたい。」

「お主、恋をしておるのぉ。」

「これが恋というものなんでしょうか?」

「それを恋と呼ばず、何と呼ぼうか。正真正銘の恋じゃよ。こりゃお目にかかるのが楽しみじゃ。」


老人はよっこらせっと言いながら立ち上がると、ストレッチをしてから再びスコップを手にして穴へ降りていった。


「もしかして、この前ギルドにいらっしゃいませんでした?」


二人で穴を掘りながら、僕はぼんやりと思っていたことを口にした。


「あぁ、もしかして君はあのときギルドにいた少年か?」

「そうです。確か、プレートを返していましたよね?」

「あぁ。」

「実は、僕はこの前登録に行ったんです。」

「ほぉ、それじゃわしと正反対じゃな。わしはもういらなくなったんでな。」


僕はこの老人のステータスが気になったが、聞くのは邪推かと思い質問するのをやめた。


「ところで、ここで何をしていたんですか?」

「んーそうじゃな、難しい質問じゃが……。」


その時、地面に突き刺したスコップが何か固いものに当たった。

とうとう掘り当てたのか?

そう思い、歓喜の声をあげそうになったのだが、スコップに何かが蠢くような感触があった。

そして、周囲の地面がモゾモゾと動き出した。

僕は直感で、地面の下の何かがいるのだと感じた。

だが、そう感じたときのはもう遅かった。

土が弾け飛び、土が顔に当たり視界がぼやけた。

ものすごい音と共に、下から何かが飛び出してきた。


「離れるんじゃ!」


そう声が聞こえたが、視界がぼやけて状況が掴めない。

目の前には、熊みたいな黒い物が蠢いている。

汚れた手で、なんとか目についた土を払い除けると、僕の目の前にモンスターがいた。

どろどろの肉体に、ところどころ骨が見える。

まるでゾンビだ。というか、いわゆるゾンビそのものだった。

成人男性と同じくらいの背丈だが、どろどろに溶けた身体にはみ出た骨。

ゾンビは僕の目の前でふらふら立っているが、その溶けかけた目は、確かに僕を捉えていた。


襲われる。


僕とゾンビの間、僅かな隙間しかない。

ゾンビは両手を前に突き出し、僕の上にのしかかろうとしている。


逃げなければ。

でも動けない。


僕の足と手は恐怖で震えながら、地面をかくばかりだった。

だが、僕の目の前で突然ゾンビの頭が吹き飛んだ。

いや、老人が蹴り飛ばした。

僕とゾンビの僅かな隙間に体躯を忍ばせ、下からゾンビの頭を蹴り上げた。

頭を失ったゾンビの体は、小刻みに震えていた。

老人はその身を回転させるとともに、踵から足を回転させて、ゾンビの体に後ろ回し蹴りを放った。

ゾンビの体はバラバラになりながら、地面に崩れ落ちた。


「ふぅ、やれやれ、たまに出るんじゃよ。こういう輩が。」


僕は返す言葉を失い、ただ老人を見つめていた。


「大丈夫かえ?そうそう、さっきの質問の答えがまだだったな。わしはここを守っておるんじゃよ。こういう輩からの。」


もしも面白いと感じていただけたら、ブックマークと評価もらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ