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特訓の始まり

「1、2、3、4、5……。」


僕は腕立て伏せをしている。


特訓のためだ。腕立て伏せの他に、腹筋、背筋、スクワット、ジョギング。

これらを出来るだけ繰り返す。


特訓特訓と意気込んでいた神様が考案したスペシャルメニューだそうだ。

どこからどう見ても、これと言ってスペシャルなトレーニングではないのだが。

しかし、僕にはとてもつらい。


「カケル、あなた運動経験は?」

「特にありません。」

「部活とかには入っていなかったの?」

「入っていないです。」

「あっそう。まぁそんなところでしょうね。でもいいわ。私がこれからビシバシ鍛えてあげるわよ!」


ということで、お使い以外の時間は、筋トレが僕の日課となった。

神様は販売に行く時間を減らして、僕のトレーニングを手伝った。

と言っても、普通の筋トレだから特にアドバイスは不要なので、いてもいなくても関係ないのだが。


「でも神様、こんな普通のメニューでレベルが上がるんですか?」

「クロノス様スペシャル筋トレよ!間違いなく上がるわ。でもすぐには上がらないわよ。ギルドで言われた通り、早くても1年ね。カケルは特に成長速度が早いわけではなさそうだから、おそらく1年以上はかかるわね。もしも私の力が使えたら、明日にはレベル4にさせる方法もあるんだけど。」

「一体どんな方法ですか?」

「時間の経過がとてもゆっくりな部屋を用意してあげるわ。その部屋では、外の世界の1時間が数百日分になるの。だから、カケルがレベル4になるまで、その部屋でひたすらトレーニングに励めるわよ。」

「僕が過ごす時間は1日どころじゃないですよね?」

「あなたを主観としたらね。」


僕は神様の力が封じられていることを喜んだ。

昨日の怒り様であれば、本気でやりかねない。


「とにかく、まずはある程度の筋力をつけること。その上で、私の力を使えるように、別トレーニングよ。」


僕は改めて自分のプレートを見た。名前やレベルの他に、7つのパラメーターが書いてある。


HP

MP

ちから

かたさ

すばやさ

きようさ

うん


「各パラメーターに関しては、また説明する必要ないわよね?」

「はい。」


まるでテレビゲームみたいに分かりやすい。

というか、HPとMPなんてまさにそのままじゃないか。

おかげで筋トレをしながら、横で神様が説明するだけですんなり理解できた。


「この内、私の力を使うために必要なのがMP、マジックポイントよ。他の魔法なんかもここに関係するわね。MPは筋トレじゃ上がらないから、別メニューを考えているわ。」

「別メニューって何ですか?」

「それは後のお楽しみよ。」

「もしも力が使えるようになったら、それ以外のパラメーターは別になくてもいいんじゃないですか?」

「時間を止めても、倒せる力がないと時間を止めても意味ないじゃない。ひょっとして、モンスターと遭遇したら逃げることしか考えてなかった?レベル上げに必要なのは、各パラメーターの向上と、そして経験値よ。経験値はモンスターや人と戦わないと得られないんだから。」

「経験値ですか。」


どこまでも、よくあるロールプレイングゲームそっくりだ。


「でも、レベル4にはいつなるんですか?レベル4にならないと、狩猟ができないんですよね?それだったら、高位アクセサリーも材料も手に入らないんじゃ……。」

「それは後から考えるわ。まずは色々な妨害やモンスターに耐えうる力よ。ということで、ガンガンいくわよ!昼間は筋トレ、夜はMP向上のスペシャルトレーニングよ。」

「夜もトレーニングするんですか?」

「夜のトレーニングだなんて、ひょっとしていやらしいこと考えている?」

「考えていませんよ。」


いやらしいことは、ほんの少ししか考えていなかったが、それ以上に、先日見た鬼を思い出した。

あの後で神様にいくら尋ねても、神様は覚えていないの一点張りだし、あまり僕の話を信用していないようだった。

あの日以来、現れていないが、いつまた現れるかと考えると、正直怖くて寝付けない日もあった。


「神様、僕らもお金が貯まってきているんじゃないですか?そろそろ自分達で部屋を借りるか、宿屋泊まりもできるんじゃ……?」

「お金は確かに貯まっていたけれど、今はもうほとんどすっからかんよ。」

「どうしてですか?」

「これを買ったから。カケルさんのためにね。」


神様はそう言うと、瓶に入った紫色の液体を取り出した。


「なんですか?これ。」

「ポーションよ。これを飲んだら体力が回復するの。」

「へぇ、この世界にはそんな物もあるんですね。」

「結構な値段したのよ。だからありがたく飲みなさい。」


味の方が心配だったが、案外あっさりと飲めた。

飲んだ瞬間、体の芯から温まるような感覚があり、その後、熱が冷めるのと同時に、スーッと疲労が抜けていく感覚があった。


「どう?回復した?」

「なんか元気になったみたいです。」

「よーし、じゃあトレーニング続けるわよ!」

「まだやるんですか?もう結構長い時間続けていますよ。」

「大丈夫。ポーションを飲んだから、疲れも取れているわ。今が昼過ぎだから、今日は夜まで続けるわよ。」


僕らは筋トレ、ポーション、筋トレ、ポーションを繰り返した。

確かにポーションを飲んだら疲労はなくなるから、体は再び動かせる。

これなら、普通よりも効率がいい。

筋トレとポーションを何度繰り返したかわからなくなってきた時、ふと夕刻の鐘が鳴った。


「もうこんな時間ですか。」

「そうみたいね、今日はここまでにしましょうか。」

「ふぅ、ポーション飲んでたから大丈夫ですけど、結構ハードでした。」

「何時間くらい筋トレしていたか分かる?」

神様がふと質問した。


「えっと、……何時間くらい筋トレしてたんでしょうか?いまさらながら、この世界には時計がないから、よく分からないですよね。」

「そんなもん、大体でいいのよ。」

「時間の神様がそんなこと言っていいんですか?」

「逆よ。私は時間の神だからこそ、時間に縛られない。時間は主観よ。あなたの感覚次第で早くなったり遅くなったりするのよ。」

「そうでしょうか?」

「そんなもんよ。それじゃあ晩御飯にしようかしら。今日はもう外で買ってきているから、すぐ食べられるわよ。まずは汗を流してきなさい。」


僕は裏口から出て、水で汗を流した。その後で、神様が買ってきたご飯を食べた。


「美味しかったです。」

「よかったわ。……そろそろかしら?」


神様がそう言った時だった。夕刻の鐘が鳴り響いた。

しかし、夕刻の鐘は先ほどとっくに鳴ったはずだ。


「ふふん、説明してあげる。1回目に鳴った鐘はフェイクなのよ。ロピ、出てきていいわよ。」


神様はそう言うと、ドアからロピが出てきた。

手には鐘を持っている。


「周りの家から苦情が出ちゃって大変でした。」

「どういうことですか?」

「簡単よ。夕刻の鐘と同じ音が出る鐘を鳴らしたのよ。夕刻の鐘の時間になる前にね。」

「一体なぜそんなことを?」

「言ったでしょ?時間は主観だって。カケルにその考えを持ってもらうことが第一歩なの。」


確かに、僕は鐘の音を聞いて、もう時間がだいぶ経ったと感じた。

実際にはほんの数時間だったのに、鐘の音を聞いて時間を錯覚したのだ。

時間が早く経ったように。


その夜は、昼間とは逆に、時間がゆっくりと感じた。

神様と部屋に二人で座ってじっとしていた。

外はまるで時間が止まったかのように静かだった。

あらゆる音が黙り込み、僕らを包み込んでいるようだった。

神様は、楽な姿勢で瞑想するようにと言った。

神様は目を瞑り、身動きひとつせず、ただじっとしていた。

この時、僕はこの人が神様なのだということを改めて再認識した。

今は神様の力を封じられているが、その佇まいは神様そのものだった。


「眠くなったら寝ましょう。」


神様はそう言うと、再び目を瞑り、動かなくなった。

僕は思わずその姿に見惚れてしまった。

そして、目が冴えてしまった。

昼間あれだけトレーニングをしたのだから、いくらポーションをたくさん飲んだと言っても、すぐに眠くなるはずだった。

身体は疲れているのに、神様から視線を逸らすことができなかった。

いや、したくなかった。


どのくらい時間が過ぎただろうか?

もう真夜中になっただろうか?

いや、この世界では、時刻を告げる時計はいないのだ。


僕が時間を決める。


いつまでもこの時間が続けばいいなと感じたが、ふと神様の静かな呼吸が聞こえた。

ベッドの上で座ったまま寝てしまったみたいだ。

神様の身体をそっと横にして、布団をかけた。


そして僕も床に寝転がった。

明日するべきことは決まった。


僕も目を瞑ると、自然と深い眠りに落ちた。





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