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ギルドでのひと悶着

神様の突然の提案で、僕らはギルドに行くこととなった。


ロピ曰く、全ギルドの取りまとめをしているギルド本部があり、登録は本部に行かないとできないそうだ。

ロピが付き添いで一緒に行くと言ってくれたので、僕と神様とロピの3人でギルド本部まで歩いていくこととなった。

さっきから神様が変によそよそしいので、声をかけてみた。


「ねぇ神様。」

「なぁに?カケルさん。」

「怒ってます?」

「何に対して?」

「いや、えっと……、僕が手ぶらで帰ってきたから?」

「別に怒ってないわよ。」

「そうですか?でも、なんだか怒っているように見えたので。」

「さっきも言ったでしょ、少し失望しただけだって。」

「だって、狩猟禁止地区だって……。」

「あのねぇカケル、少しだけ忠告だけど、この世界はあなたがいた世界とは違うのよ。厳密には時間が1000年離れているいるだけだけど、別の世界と思った方がいいわ。あなたがいた世界は、ルールがあって、それを守ることでルールが自分も守ってくれるわ。でもこの世界は、そんな生ぬるい環境じゃないわよ。モンスターもいれば、悪い人間もいる。」

「元の世界にも悪い人間はいましたよ。」

「でも、ルールがあなたを守ってくれた。ルールと他の誰かがあなたを守ってくれて、そういう奴を遠ざけてくれた。でも、この世界には悪い人間がそこらじゅうに、且つ身近にいるわよ。そしてそういう奴らから、あなた自身が自分を守らなくちゃ。もう少し、人を疑う姿勢が必要よ。」

「……そうですね、僕は分かったつもりでいたけど、まだまだ足りなかったかもしれない。分かっていたんです。あいつらは、僕がカニをたくさんとり終わってから声をかけたってことも。」

「あら、そこまで鈍感ではなかったようね。じゃあ、どうして使わなかったのよ。」

「何をですか?」

「私の力よ。カケルに譲渡したんだから、それはもうカケルのものなのよ。あなたが好きな時に、好きなように使えばいいの。」

「使おうとも思いました。でも、使えなかったんです。」

「使えなかった?」

「今日だけじゃなくて、何回か試してみたんですけど、使えなかったんです。神様をキャッチした時はうまくできたけど、それ以来一回もできていないんです。」

「ふーん、なるほどね。分かったわ。その点も、ギルドに行けばはっきりするかもね。」

「何か心当たりがあるんですか?」

「それは着いてからのお楽しみ。とりあえず、ツンツンした態度を取ったことは取り下げてあげる。」

「やっぱりわざと冷たい態度を取っていたんじゃないですか。」

「でも、失望したってことは、それだけ期待してるってことなのよ。それは覚えておいてね。」

「着きましたよ。」


ロピが大きな建物の前で立ち止まり、後ろを歩いていたら僕らの方を振り向いた。

ロピの後ろには、宮殿のような立派な建物がそびえ立っていた。

街の中でも、かなり立派な建物だろう。

入り口の扉の上には、何やら紋章のようなマークが彫られている。


「ここがギルド本部です。」

「立派な建物ですね。」

「ギルドの本部ですからね。どんなすごい冒険者も、みんなここからスタートするんです。」

「……ふーん、なるほどね。」


神様がニヤニヤ笑いを浮かべながら言った。


「早速入りましょう。」


中に入ると、まるでホテルのロビーのような空間が広がっていた。

扉をくぐり抜けて少し曲がったところに、受付のようなカウンターがあった。

カウンターの向こう側には、女性が二人立っていた。


「あそこで登録してもらうんですよ。」ロピが指をさしながら教えてくれた。


「どんなご要件ですか?」

「えっと、新規で登録をしていただきたく……」

「アテネはいるの?」


ロピが答えている最中に、神様が唐突に尋ねた。

女性は神様をとても怪訝そうな目で見た。


「なんですって?」


女性は眉毛を吊り上げながら尋ねた。


「だから、アテネはいるの?」


神様も負けじと眉毛を吊り上げて尋ねた。


「あなた、ここがどこか分かっているんですか?」

「分かってるわよ。その上で聞いてるの。アテネはいるの?呼んでくれる?」

「…………。」


神様と女性の、お互いが相手の質問に一切答えず、質問に質問をぶつけるやりとりは、女性の沈黙により一旦収束した。

その間、ロピはずっとうろたえて、僕はただ静観することしかできなかった。


「アテネ様は多忙な方なんです。見ず知らずの者が容易く会えるお方ではない。」

「あいつも偉くなったものね。」

「あいつ?さっきから失礼ね。」

「まぁいいわ。私はあいつにとって見ず知らずの者じゃないの。だから早く会わせなさいって言ってるの。」

「まぁまぁ。」


間に入ろうと意を決して口を挟んだ僕の言葉と、静観していたもう一方の女性の声がかぶった。


「お姉さん、少し落ち着いて下さい。先程、ここがどこか知っているとおっしゃいましたが、本当に知っているのであれば、アテネ様が簡単にお会いできない方というのもご存知ではないのですか?ここギルド本部は、この街のあらゆるギルドを統括しており、アテネ様はギルドマスター、つまり全ギルドで一番偉い方なんですよ。呼べと言われても、そう簡単に呼べないんですよ。私達はしがない受付なんですから。ねぇ、先輩。」


女性(女性Aと名づける)はそう言うと、興奮冷めやらぬ先輩(女性Bと名付ける)を見た。

女性Bは鼻息を整えると、もう面倒になったのか、「えぇ、そうですわ。」と言った。


「そう言うわけで、もしもアテネ様にお会いしたいのであれば、きちんとした手続きを経ていただけますか?通常、こちらの用紙にご用件等々をご記載いただき……。」

「もういいわ!」


神様の怒りのボルテージがほぼ頂点に達していた。


「クロノスが来たとだけ伝えて!それで通じるから。もしもそれもダメだっていうのなら、あんたたち、後でアテネにめちゃくちゃ怒られるわよ。このクロノス様を門前払いにして不快にさせた罪でね!アテネに怒られるのが嫌だっていうのなら、私の名前だけ伝えてくれればいいわ。今なら、まだアテネに許してあげるよう、私からアテネに言ってあげられるわよ。」


女性Aと女性Bは、二人でヒソヒソ話をしたのち、女性Aの方が奥へ入っていった。


「ちょっと神様、大丈夫なんですか?」


僕は神様を端に引っ張って尋ねた。

ロピの前では話しづらいからだ。


「何が?」

「何がって、あんなに威張り散らして。アテネって人、ここのトップなんですよね?本当に知り合いなんですか?」

「アテネは人じゃないわよ。神よ。」

「えぇ!?」

「神界にいた頃は、だいぶ世話をしてあげたのよ。私の舎弟みたいなもんね。」

「アテネ様も神様だったんですね。それで名前も知っていたんですか。」

「あいつは、学芸や工芸を司る神よ。だからこうして、人間界でギルドなんて作ってるのよ。戦争にも関わっているから、冒険者とか傭兵のギルドもあるはずよ、きっと。」

「じゃあ僕が今朝会ったのは、おそらくそっちの方の……。」

「低能な冒険者ってところでしょ。アテネは、人を集めるのは得意だけど、管理するのは下手くそなのよね。そして素質を見る力がないのよ。きっと、ギルドマスターなんてやっているけど、おそらくアテネ自身はほとんど管理していないわよ。ほんと、昔っから人任せなのよね。」

「そうなんですか。」

「まぁとにかく、アテネが出てきたら、もうあとはただただ私の言いなりだから安心して。私の言うことならなんでも聞くんだから。とにかく私のことをめちゃくちゃ尊敬しているし、敬っているし、敬意を払いまくるんだからね!」

「そういうことはあんまり自分で言わない方が……。でも安心しました。そして、やっぱり神様はすごいんですね。ギルドのトップの神様よりも偉いだなんて。」

「ふふん。私、実は神の中でもかなり上位なんだからね。地位も高い上に美貌も知性も能力も備えているすごい神様なのよ。」

「久しぶりに、神様が神様と言うことを実感しました。」

「今までどう思っていたのよ。」

「物を売るのが得意な女性?」

「それだけじゃないでしょ?カケルが私のことをたまにいやらしい目つきで見ること、私気づいているんだからね。」

「それは……、ある程度致し方ないです。神様も知っているじゃないですか?その姿の経緯を。というかわざとそうしたんじゃないですか。」

「あっ、あいつが出てきたわよ。ようやく私の正体を知ったようね。さぁ、ここからはクロノス様無双タイムよ!」


女性Aは神妙な趣きで奥の扉から出てきた。

僕も女性Bも、彼女が発する言葉を神妙な趣きで待った。

神様だけが、自信満々な笑みを浮かべている。


「どう?どう?ねぇねぇ?今どんな気分?もしかしてもう怒られた?それともこの後怒られるの?心配しなくていいわよ。後でクロノス様がアテネに言ってあげるから。ほらほら、勿体ぶらずに早く言いなさいよ。ごめんなさいって。土下座じゃなくて、跪くまでで許してあげるんだから。」

「そんな人知らないと。」

「……えっ?」

「そんな人知らないと仰っていました。」

「うそでしょ?あなた、ちゃんとアテネのところに行ってきたの?」

「行ってきました。」


女性Aは半分涙目になっている。


「本当にちゃんと行ってきました。特別なお客様が来ているからって無理言って。それなのに……。ふえぇ。」

「うそでしょ?」


女性Bは泣き出す後輩を優しく介抱した。

神様は未だ信じられない様子で、呆然としている。

ロピはさっきからずっと、どうすればいいのか分からず狼狽えている。

僕もどうすればいいのか分からない。


「あなた、今どんな気分ですか?ぷぷっ。」


女性Bは、吹き出しそうになるのを必死に堪えた顔つきで、神様に尋ねた。

神様は怒りと羞恥心で体が震えている。

だめだ。不憫すぎて神様を直視できない。

もうこれ以上この空間にいない方が、神様のためだろう。

ここは一旦引いた方がいいのでは?そんな考えが頭をよぎる。


「あなたたちは本当になんなんですか?一体何がしたいの?とにかく、アテネ様が知らないと言うのだから、もう早く出てって下さい!」

「ちょっと待ってください!」


ロピが初めて口を挟んだ。


「違うんです。私達、新規登録をしたいだけなんです。」

「新規登録を?」

「そうです。それなのに、クロさんが突然訳の分からないことを言い出して……。本当にすみませんでした。」

「新規登録なら、アテネ様に会わずとも、ここで今すぐにできるのですが……。」

「知っています。私もそれは重々承知しているんです。それなのに、それなのに……。クロさんが突然訳の分からないことを言い出したせいで、ややこしいことになってしまい……。私にも意味がわからないです。新規登録をしに来ただけなのに、何故か突然威張り散らかして……。挙げ句の果てに、アテネ様を知っているだのおおホラ吹きをのたまい出す。アテネ様の顔にも泥を塗ってしまい、善良な職員さんを泣かせてしまい、弁解のしようがございません。本当にすみませんでした。失礼をお許し下さい。」

「まぁ、そこまでおっしゃるのでしたら、もうこれ以上は触れないことにしましょうか。なんだかこれ以上はこちらも恥ずかしくなりそうですし。」


僕は、ロピがいてくれて良かったと内心とても嬉しかった。

もしもロピがいなかったら、この役割は間違いなく僕になっていただろう。

今ここに、神様の謝罪代行人が誕生した。

そしてそれが僕ではないことを、内心でこの上なく喜んだ。


「ちょっとすみませんが、長くなるそうであれば、先にわしの用事を済ませてもいいかね?」


後ろから声がしたので振り返ると、老人が立っていた。


「わしの当時はすぐに済むから。ほれ、これを返しにきただけじゃ。」


老人はそういうとカウンターの上に平な板を置いた。そして、そのまま後ろを振り返り、颯爽と立ち去った。


「退会ってことかしら。後で処理しておくわ。」


女性Bは女性Aに言った。


「それでは、新規登録を進めましょうか。」


何だかとても長かったが、ようやく前に進んだ。



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