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街の外へ

僕は街の外を歩いていた。


街の門を出るのは、今日が初めてだった。

正直、街の外にはいい思い出がない。

というか、上空から巨大な怪物に襲われた思い出しかない。

街の門を出てまだ少ししか離れていないが、正直もうびびっている自分がいる。

だって、僕はこんな怪物がいる世界にまだ全然慣れていないのだ。

今までの数日、いかに自分がこの街に溶け込んで、守られていたのかを思い知った。


「一体どうしてこんな展開になったんだろう。」


答えは、神様が唐突に言い出したからなのだが。

しかし、神様なりの思惑もあったようだ。

僕は昨晩の神様との会話を反芻した。


「一体どうしてあんなこと言い出したんですか?」

「さっきから何度も言ってるじゃない?高位アクセサリーを手に入れるためよ。」

「そんなにお金が欲しいんですか?最初は泊めてくれたら、給料もいらないって言ってたくせに。」

「カケル、あなたはいつまでも借り暮らしでいいの?まぁ確かにこの工房は結構住みごごちもいいし、ロピも口うるさくあれこれ言わないタイプだから、正直楽だけど、結局私達はロピにおんぶに抱っこなのよ?」

「でも、神様はちゃんとアクセサリーを売ってくるし、僕だって買い物だけだけどちゃんとできるようになったし……。」

「アクセサリーの質がいいからよ。正直、ロピのアクセサリーは黙っていても売れるわ。買い物は言わずもがな。子供だってできるわ。つまり、今の私達はロピに依存しすぎている。そろそろ自立した生活を手に入れたいわ。そのためにも、やっぱりある程度のお金が必要なのよ。」

「それで僕に危険な目に会えと?」

「ちょっと街の外に出るだけじゃない。」

「でも、街の外には怪物がいるし、そういうのは冒険者の役割だって、ロピさんも言ってましたよ。」

「もう、さっきからつべこべうるさいわね。いいわ、私の真の目的を教えてあげる。」

「真の目的?」

「高位アクセサリーは神界の物と同様の効果を発揮するって言ったわよね?」

「はい。」

「それってつまり高位アクセサリーイコール神界の物なのよ。ではなぜ神界の物が普通にこの世界に存在しているか?それは、今がラグナロクだから。ラグナロクに関しては、以前説明したわよね?」

「神様が人間の世界に介在するんですよね?」

「そう。だから、この世界にはいわゆる魔法とか、特別な力とかが存在する。高位アクセサリーもその一つに過ぎないのよ。そして、神界の物が作れるということは、それを破壊したり、その効果を薄める物も作れるということよ。」


神様はそう言うと、自分の両手を目の高さに掲げた。

両手にかけられた鎖が鳴った。


「目には目を。神界の物には神界の物を、よ。」

「この鎖を壊せるかもってことですか?」

「この鎖を壊す、或いは効果を軽減させる物を作ってもらうのよ。ロピにね。」

「おぉ……。」

「この鎖を壊して、私の力を取り戻す。そして元の世界に戻ることが目的なんでしょう?」


という神様の思惑もあり、僕は街の外を歩いている。

目指すはノアサ川と呼ばれる、ここ一帯に流れる川だ。

その川には、硬い甲羅を持ったカニがいて、その甲羅が高位アクセサリーの材料となるとロピが言っていた。


「ノアサ川一帯は、比較的モンスターも少ないし、それほど凶暴なモンスターもいないと思うってロピも言ってたじゃない。」

「それでも怖いなぁ。本当に僕一人で行くんですか?」

「当然でしょ?私は今は普通のかわいい女の子なのよ?」

「まぁそれは確かにそうですけど……。」

「もしもこの鎖で力を封印されていなかったら、そりゃ当然私が行くわよ。どんなモンスターが出ようとイチコロだし。」

「というか、力が封印されていなかったら、そもそも行く必要もないですしね。」

「もっと言えば、この世界にはもういないわね。」

「おっしゃる通りです。」

「ほら、明日は早いんだから、早く寝るわよ。かわいい女の子が添い寝してあげようか?」

「何言ってるんですか?」

「だって、さっき確かにそうですって言ったじゃない?」

「普通のって点に対しての肯定です。」

「じゃあ、かわいいっていうには肯定してくれないの?私はあなたの一番好みの……。」

「それ以上は言わないでください!」


こっちの世界に来てからというもの、ずっと誰かと一緒で、プライベート空間がない。

それも一つの大きな問題である。

僕には僕一人だけになれる空間が必要だった。

それを解決するためにも、やはりいつまでもロピの工房で寝泊まりするわけにはいかない。

というのも理由の一つだったが、一番大きな理由は、またあの鬼が現れないか心配だった。

幸い、あの日以来現れなくなったが、もう現れないという保証はどこにもないし、次も刃物をただ研ぐだけという保証はない。

仮に襲われたら、今の僕には争う力は全くないのだ。

あの姿、あの刃物を研ぐ仕草は、山奥に住む山姥の昔話を彷彿とさせるものだった。

小さい頃、近所のおばあちゃんから聞かされて、夜怖くて眠れなくなったのは僕だけの秘密である。


という幾つかの事情が重なり、僕は何としてもまずは蟹の甲羅を手に入れなくてはならない。

川に向かう足取りは自然と早く、力強くなった。


ノアサ川までは、結局一匹のモンスターとも遭遇せずにたどり着いた。

めでたしめでたし、あとはカニを適当に捕まえて、持って帰るだけだ。

僕は早速鞄から、ノアサガニが好むという餌と紐を取り出した。

そしてちょうどいい長さの枝を拾い、即席で釣竿を作った。

ザリガニ釣りは結構得意だったから、正直自信ありだ。


釣竿を垂らしている間、ふとザリガニ釣りをしていた時のことを思い出した。

幼馴染と、近所の川へ行ってよくザリガニ釣りをしたものだ。


あいつ、元気だろうか?


そんなことを考えている間に、簡単にノアサガニは釣れた。

もう10匹は釣れただろう。

何匹必要かは聞いてなかったが、とりあえず今日はこのくらいにしてもよさそうだった。

もしも足りなかったら、また明日来て釣ったらいい。

荷物をまとめて帰ろうとすると、


「おいおい、にいちゃん。何してんの?」


と不意に声をかけられた。


周りに人がいるのに全く気が付かなかった。


「えっと……、釣りをしていたんです。」

「見りゃ分かるよ。」


なら聞くなよ。僕は心の中で呟いた。


「そうじゃなくて。にいちゃん、許可証は持ってるの?」

「許可証?」

「そうそう、それかギルドの免許証でもいいけど。」

「免許証?」

「持ってないだろ?だって知らない顔だもん。ダメダメ、許可証がないと。ここはギルドの指定狩猟地区なんだから。アテネ様の加護の下、狩りをすることが許されているんだよ。」

「あっ……、そうなんですか?すみません、全然知らなくて。」

「まぁ知らないのはしょうがないけど。」

「すみませんでした。もうやめますので。」

「そんな謝らなくてもいいのよ。でも、そのカニは持って帰っちゃダメだよ。ギルドの指定狩猟地区内のものは、ギルドに所有権がある決まりだからね。」

「えっ、そうなんですか?でも、せっかくとったのに。」

「まぁ決まりだからねぇ。」


男はニヤニヤ笑いながら、もう一方の男の方を見た。

もう一方の男はかなり体格が良くて、武器と防具を装備していた。


「そういうことだ。悪いがルールだからな。無断で釣りをしていたことは見逃してやるから、そのカニは置いていくんだな。」


そういうことか。

僕は内心悔しかったが、この場は大人しく引き下がるしかなかった。


「……ということがあったんです。」


僕は工房に戻ると、事の経緯を神様とロピに説明した。


「そうだったんですか。まさかギルドの指定狩猟地区だったなんて知らなくて。すみませんでした。」

「いえいえ、ロピさんが謝ることではないですよ。」

「そうよ。まぁ今日のことはしょうがないけれど、強いて言えば、見知らぬ奴の言うことを素直に従って手ぶらで帰ってきたカケルさんには少々失望したわ。」


流石に僕のカチンときた。


「そんな言い方ってないんじゃないですか?だって狩猟禁止地区なんだったら、勝手に取っちゃダメじゃないですか。」

「それを素直に信じてしまう点にがっかりしたって言ってるの。」

「それに、向こうは2人だったし、一人は武器と防具を着けていたし……。」

「まぁね、だからある程度はしょうがないって言ったじゃない。ねぇロピ、ところでギルドって一体何なの?」


神様はロピに向かって尋ねた。


「労働組合です。街には様々なギルドが存在しているんです。」

「それに入らないとダメってことなのかしら?」

「ダメではないんですが、ギルドに入っていると、便利な点もありますね。それもどんなギルドに入るかで全然違ってくるんですけど。」

「例えば、狩猟禁止地区でも狩りができるとか、そういうこと?」

「そうですね。」

「ふーん、なるほどね。じゃあ早速ギルドに入りましょう。」




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