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材料調達係任命

神様は宣言通り、ロピの作ったアクセサリーを、言葉巧みに売り捌いた。


よくもまぁホイホイ売り文句が出るもんだと、僕は次々と売り捌く神様の横で感心していた。

ロピは工房にこもってアクセサリーを作り、それを神様が街で売った。

ロピは今まで販売に当てていた時間を、作成の時間に当てられると喜んだ。

そして、1日で作成できるアクセサリーの数も増え、且つそれらは在庫とならずに、ほんの数日、或いは数時間のうちに売れていった。

ロピが作り、神様が売る。

これぞまさに分業化による効率化及び発展だった。

しかし、そんな日が数日も続くと、僕は薄々、嫌でも気付かされる。


「っていうか、カケルさん何もしてなくない?」

「…………。」


僕はと言えば、工房でロピがアクセサリーを作るところを眺めたり、神様が街で売るのについていったりしたが、そこでの僕の仕事は何もなかった。

いてもいなくてもよかった。

いやむしろ、いない方がいいのかもしれない。

自分でも何となく感じていたが、神様にストレートに言われると結構傷つく。


「ロピさん、僕に何かお手伝い出来ることはありますか?」

「えっと、………………。」

「…………。」

「えっと、………………。」

「カケル!ロピの手が止まってるじゃないの!ロピも早く手を動かしなさい!私が売るものがなくなっちゃうじゃないの。」

「すみません。そして、同じ質問を何度もしてすみません。」

「同じ質問を何度もして、答えが返ってこないってことは、つまりそれはノー!ということよ!」

「……ですよね。」

「すみません。」


ロピが頭を下げた。


「何でロピが謝るのよ。謝るのはカケルの方でしょ。ほら、役立たずですみませんって言いなさいよ。」

「役立たずですみません。」

「私は食べて寝るだけの無価値な生き物です。」

「私は食べて寝るだけの無価値な生き物です。」

「私は神様がいないと生きていけない哀れな寄生虫です。」

「私は神様がいないと生きていけない哀れな寄生虫です。」

「あら、今日はやけに素直なのね。」

「ある程度は自分でも認めているってことです。」

「へえー、まぁおもちゃとしてほんの少しの価値はあるみたいね。でも、自分の価値は自分で見つけるものよ。誰かに与えてもらうものじゃなくてね。だから、ロピに何かできることがないか聞くんじゃなくて、あなた自身で見つけないと。これは神様のプチアドバイスよ。」

「僕自身で……。」


「あっ……。」


ロピが材料を保管している棚を覗き込みながら呟いた。


「どうしたんですか?」

「えっと、材料のウロコが少なくなってて……。普段は毎月1回でまとめて買うのですが、ここ数日は作成ばかりしていたから……。」

「それじゃあ、僕が買って来ますよ。」

「えっと、いいんですか?」

「というか、こちらからお願いしたいくらいです。」

「それでは、お言葉に甘えてお願いしちゃいます。お金とお店までの地図、用意しますね。」


ここで僕の存在意義を見出さなくては。

簡単なお使いでも、見事にこなしてみせる。

やる気に燃える僕のそばで、神様がにやにやしていた。


「はい、それじゃあ、これでウロコの束を10個、買って来てください。」

「任せて下さい!」


僕はロピからお金と地図を受け取った。


「もしも余ったら、好きなお菓子買ってもいいですからね。」


そう言って微笑むロピは、まるで小さなお母さんみたいだった。

僕は自分が子供扱いされているみたいで恥ずかしかったので、工房を急いで後にした。


「えーっと……、ロピさんの地図によるとこの辺りなんだけど……。」


僕は地図を頼りに、お店を探していた。

周りにはさまざまなお店が建ち並んでいる。

この辺り一体は道具屋や材料屋などが並ぶ地区のようだ。

その中で、僕は目的のお店の看板を見つけた。


「失礼しまーす。」

ドアについたベルの音と僕の声が重なった。


「イラッシャイ!」


店はこじんまりとしていて、目の前のカウンターに店主らしき男性が座っていた。

先程のいらっしゃいはこの店主の声だったのか?

とても甲高い声だったけど、と思っていると、その横に鳥を見つけた。


「うちの看板鳥です。」


店主は僕が不思議そうに鳥を見つめているのに答えるように言った。


「……はい。」

「オイ、オイ、ネムイノカ?」


鳥が言った。


「……。」


鳥に話しかけられた場合、きちんと返すのが礼儀なのか?

それとも無視していいのか?

結構失礼な口調だし、この鳥。


「すみません、無視して下さい。こら、キューちゃん、お客さんにそんなこと言ってはだめだ。」

「オーイ、オーイ、ママー、ママー。」

「すみませんね。ところで、何をお求めですか?」

「あの、カタトカゲの鱗を5キロ買いに来たんですけど。」

「かしこまりました。今用意するから少し待っててくださいね。」


店主はそういうと、棚から鱗を出して測りに載せた。

店内には、様々な材料らしきものがずらりと並んでいた。

中には、見たことのない得体の知れない、まるでファンタジーの世界にありそうな物もたくさんあった。

それらを見ると、僕は改めてこの世界が1000年後の世界ということが信じられなかった。

もっとも、異世界にワープしたというのも疑わしいが、それ以上に、僕がいた世界の1000年後の未来がここというのは、もっと信じられなかった。


「用意できましたよ。」


店主はそういうと、天秤に鱗の束を載せた。

天秤のもう一方も皿には、錘5個が載っている。

この世界には電子ばかりもないのだ。


「そういえば、この辺りで怪物が出るという噂話を聞いたのですが、ご存知ですか?」


僕は先日ロピから聞いた怪物のことを店主に聞いてみた。


「……どこでそんな話を聞いたのですか?」

「ちょっと知人から。」

「……そうですねぇ、そんな噂話もあるみたいですが……。」

「この街にはよく出るんですか?」

「さぁ、私はまだ見たことはないですが……。」


僕はロピから預かったお金で勘定をすると、お店を後にした。

若干お金が余ったが、僕はとりあえずポケットに入れた。


「買って来ましたよー。」

「お帰りなさい。」

「お釣りも、はい。」


僕はそう言って、ポケットから残ったお金を出してロピに渡した。

帰り道で何か買って帰ろうかと迷ったが、結局何も買わなかったのだ。


「何か買ってもよかったのに。」

「いいんですよ、お金は大事に取っておかないと。」

「そうですか、あれ?」

「どうかしましたか?」

「いつもより、1束の鱗の数が少ないような……。」

「そうですか?店主さん、ちゃんと測りで重さを確認していましたけど。」

「いつもは、もう数枚多くウロコが入っているんですけど……。まぁ私の気のせいですかね。」

「ちなみに、このウロコは一体何に使うんですか?」

「これは、磨くと綺麗な光沢が出るんです。また、このウロコをヤスリみたいに使って、金属を磨いたりもできるんですよ。私は、主に小さく砕いてアクセサリーの表面に貼り付けたり、仕上げの工程でこのウロコを使って磨いたりします。紙ヤスリとはまた違う、艶やかさと光沢が生まれるんです。」


そう言って説明するロピの目はキラキラ輝いていた。


「ロピさんは、本当にアクセサリー作りが好きなんですね。」

「えぇ、大好きです。」

「手先も器用だし。アクセサリーだけじゃなくて、武器や防具も作れるんじゃないですか?」

「……。」

「さっきお使いに行った時、武器屋や防具屋があるのを見たんです。この世界には、そういうお店もあるんだなーと思って。」

「……この世界?」

「あっ……、いえ、その……、僕の村には、そんなお店とかなかったので。この街はすごく栄えているから、まるで別世界みたいだなーって。」

「……そうですか。そうですね、この街はこの国の首都ですからね。」

「あはは。」


神様に、別の世界から来たことは絶対に内緒にしておくことときつく言われていたのだ。

幸い、神様はお店の方に行っているからバレずに済んだ。

もしもこの場に神様がいたら、後でまた怒られるところだった。


それから、材料の調達は僕の役割となった。

と言っても、お金をもらって買いに行くだけ。

しかもお店はロピさん御用達のお店が一軒あり、そこで全ての材料が揃うので、誰にでもできる簡単なお仕事だった。

数日が経ち、安定した生活をひとまず享受していたある日のこと、神様が唐突に言い出した。


「ねぇ、ロピ?あなた高位アクセサリーは作れないの?」

「高度なアクセサリー?」

「私なりに街で色々聞いたんだけど、魔力や材料の持つ特性を混ぜ込んで、着用者の能力を向上させたり、特殊な力を備えた物を高位装備、或いは高位アクセサリーと呼ぶんでしょ?あなたがいつも作っているのは普通の、いわゆる飾り物としてのアクセサリー。そうじゃなくて、冒険者とか向けの高位アクセサリーは作れないの?」

「それは……作れないこともないのですが……。」

「私、お客さんの一人に言われたのよ。ロピちゃんは高位アクセサリーを作れるのに、どうして作らないんだって。高位アクセサリーだったらもっと、倍以上の値段で売れるのに、もったいないって。」

「確かに高位アクセサリーは、高値で売れますが、材料も特別な物を使う必要があるんです。材料費も嵩みますし、物によっては街では手に入らない物もあります。」

「でも、高位アクセサリーを作って売れば、今みたくあくせく毎日働かなくてもいいくらい、高値で売れるんでしょ?」

「高位アクセサリーは一点物ですからね。買い手がつけば、月に1個売れれば、今よりも収入は増えますね。」

「高位アクセサリーはそんなに高いんですか?」


僕が口を挟んだ。


「えぇ、高位アクセサリーはそれだけ特別なんです。」

「カケルが以前着けたマントみたいな物よ。つまり神界の物と同様の特性を備えている物が、この世界では広く使用されているの。」


神様が僕だけに聞こえるように耳打ちして教えてくれた。

確かに、あのマントみたいに特別な力を与えてくれる物だったら、高い値段でも欲しがる人がいるだろう。

っていうか、それなら何であのマントを返したんだ。

僕はこの点に関して神様に議論を仕掛けたい気持ちになったが、話がこじれるのでグッと抑えた。


「まぁそれで提案なんだけど、いわゆる量産型のアクセサリーじゃなくて、高位アクセサリーを作って、もう少しゆったりとした生活を手に入れない?ってこと。」

「私はアクセサリー作りが好きなので、今でも別に構わないのですが。でも、一つ問題があります。先ほども言いましたが、高位アクセサリーには特別な材料が必要です。私達はそんなに貯蓄もないですし……。」

「材料はお店で買うんじゃなくて、私達で手に入れるのよ。私達の材料調達係がね!」


神様はそう言って僕の方を見た。つられて、ロピも僕の方を見た。


「ちょっと待って下さい。特別な材料って……」


「カケルさん。」神様が優しい微笑みを浮かべながら僕の名を呼んだ。


「自分の価値は?」

「自分で見つける?」

「ということで、よろしくお願いしまーーす!」


僕は流れに逆らえない自分の性格を恨んだ。




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