表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/34

街に来た翌日に

「さて、今日はどうしよっか?」

「まずは、あの塔まで行ってみませんか?」


宿屋を出て、まさに無一文の僕と神様だったが、まずは怪物が向かっていた塔まで歩いてみることにした。

今晩の宿代をなんとかして手に入れることも必要だったが、かと言ってお金を稼げるあてもない。

どうせ街を探索しなければならないのだったら、探索がてら塔まで歩いてみるのも悪くない。


「えぇ、いいわよ。」

「しかし、神様のその格好は目立ちますね。それに、手についた鎖、事情を知らない人から見たら、僕が強制しているみたいに思われて、何だか視線が痛いです。。」

「そうねぇ。私は別にさほど不便ではないんだけど、この鎖も、もうちょっと目立たないようになんとかしたいわね。」

「手に布を巻いていても、それはそれで怪しいし……。」

「両手が離せないと、不便じゃないですか?」

「慣れたらそうでもないわよ。今朝だって、器用に朝食食べてたでしょ?」

「まぁそうですけど。それに、両手がくっついていたら、服も着替えられないですよね?まだ2日目だからいいけど、今後はどうするんですか?」

「それはちょっと不潔で嫌だわね。いざとなったら、カケルに乱暴にビリビリと破いてもらおうかしら。」


神様はわざと上目遣いで僕の反応を見た。

僕はその光景を想像して、まんまと神様の思惑通りの反応をしてしまった。


「とにかく、早くなんとかしないといけませんね。今は神様じゃなくて普通の人間と同じなんだから、汗も普通にかくんでしょ?いつまでもその服だけ着ているわけにもいかないです。」

「これはカケルの大好きな服だから、いつまでもこの服を着てあげててもいいのよ?」


僕は神様の思惑通り、更に顔が赤くなるのを抑えられなかった。


「冗談はこのくらいにして、鎖を外すことが先決です。」

「分かっているわよ。この鎖を外すことが、カケルの目的、私たちの目的に繋がるってこともね。さっきのは冗談なんかじゃないけどね。」


なんとか話をしているうちに、塔の下までたどり着いた。


塔は真下から見ると、尚更高く見えた。

ビル30階建くらいの高さはあるだろうか?

おそらく、この街で一番高い建物のようだ。


「一体この建物は何なんでしょうね?」

「ちょっと聞いてみましょうよ。」

「……いいですけど、その間にまたどこかに行かないでくださいよ。」

「分かっているわよ。俺の側から離れるなよ、って言いたいのね。」

「はいはい。」


僕は近くの通りすがりの人に声をかけた。


「すみません。ちょっと訊いてもいいですか?」

「なんだい?」

「この建物は何なんですか?」

「はぁ?」


なんだか、昨日と同じセリフを聞いているようだ。


「すみません、教えて下さい。実は昨日この街に着いたばかりで……。」

「カイロス教本部だよ。」

「カイロス教?」

「あぁ、君らはカイロス教信者じゃないのかい?外から来る人は、大抵カイロス教本部を訪ねてこの街に来るんだがね。」


カイロス教本部。

そう言えば、昨日の男の人もカイロス教って言っていた。

カイロスというのも、ひょっとして神の一人なのだろうか?


「ねぇ、クロノス様……。」


神様に助けを求めようと横を向いたが、そこには誰もいなかった。


あれ?

さっきまでここにいたのに。

ていうか、これはデジャヴ?


「あの、すみません。」


僕は喋り続ける男の話を遮った。


「さっき僕と一緒にいた女性なんですけど……」

「あぁ、その子なら……。」


良かった。神様の姿は見えていたようだ。


「さっき、ものすごい速度で走り出してどっかに行ったよ。」


全然良くなかった。

あの神、口ではあれこれ言っているけど、やはり本当は僕を騙しているんじゃないだろうか?


「どこに行きました?」

「あっちの方だよ。」


男が指差した方角から、神様の叫び声が聞こえた。

僕は男にお礼を言うと、その方向に走った。


「神様、一体どうしたんですか?」

「この子なのよ!昨日!私を!!この子なの!」

「一旦落ち着いて下さい。」


神様が胸ぐらをつかんでいるのは、小さな女の子だった。

突然見知らぬ大人に捕まえられたためだろう、ひどく怯えて涙目になっている。

まぁ無理もないか。


「神様、この女の子が一体どうしたんですか?」

「この子なのよ。昨日、私に鎖を付けたのは!」

「ひぇぇ。なんだかよく分からないけど、ごめんなさい。」女の子は泣きそうな声で言った。

「まさか、この女の子が?」


話を整理すると、こう言うことだった。


この女の子はお店を開いていて、神様はこの子のお店で鎖を見つけた。

女の子は、興味津々な目で鎖を見つめる神様に、「もしよかったら手に取って見てみてください」と言ったのだった。

てっきり、昨日神様を誘拐しようとした者の方だと思ったから、僕はがっかりした。


「ようは神様の言いがかりですよね。結局、鎖を手に取ったのは神様自身なんだから。」

「違うわよ。この子が言葉巧みに私を誘導して騙したのよ。まぁ、その点はもうどうでもいいわ。」


自分の罪をなすりつけられなさそうと悟るといなや、この変わり様。

流石神様である。


「あなた、どうしてこの鎖を売っていたの?この点はきっちり説明してもらうわよ。」

「……そう言われれば確かに。」

「さぁさぁ、白状しなさい!」

「分かりました。なんでも話しますから、怒らないで下さい。でも、ここで話をするのも目立ちますから、もし良かったら、私の工房で話をしませんか?この近くなんです。」


僕らは、ついていっても害はないだろうと判断して、ひとまず女の子の言う通りにすることにした。


「改めまして、私の名前はロピといいます。」

「カケルです。」


神様の方をチラリと見たが、どうやら自分から名乗るつもりはなさそうだ。

足を組んで椅子に座り、黙り込んでいる。


「ここは私の工房で、普段はここで主にアクセサリーを作っています。大体は他のお店に卸しているのですが、たまにお店を開いて、自分でもアクセサリーを売っているのです。昨日も、自分でお店を開いているときに、こちらの女性に来ていただいたのです。」

「で、この鎖は?どうやって手に入れたの?」

「はい、すみません。実は、その鎖は、私が作ったものではないんです。」

「まぁそうでしょうね。それで?」

「実は、ほかのお客様からもらったのです。私のアクセサリーを買ってくれたお客様が、もしよかったら、この鎖をここで売ってくれないかと頼まれたのです。売れてもお金はいらない、ただ、試しにこの鎖を作ってみたから、売れるかどうか試したいと。」

「それでロピさんのお店で売った、と?」

「そうです。最初は私も断ったんです。だって、私が作ったものではないですし、それを私のお店で売るのも、そして売れてもお金はいらないというのも、なんだか申し訳ない気がしたので……。」

「どんなやつだったの?この鎖を持ってきたのは?」

「……女性でした。でも、ローブを深く被っていたので、顔は見えませんでした。」

「他に何か特徴や、気づいた点はありませんでしたか?」

「すみません。特に何も……。」

「役に立たないわね。」

「神様、そんな言い方はないですよ。」

「だって……。」

「いいんです。でも、なんというか……。」

「なんでもいいから、気がついたことがあれば言ってください。」

「鎖は、なんというか、素敵な作りでした。私もアクセサリーを作成する者として、その物の作りがどれだけ凝っているか、素材はどんなものを使っているのか、見たら大体の検討はつきます。でもそれは、今まで全く見たことがない物でした。ただの鎖なんですけど、ただの鎖には見えなかったというか……。」

「ほぅ。」


神様が小さくうなった。

神様の瞳が密かに、そして怪しく輝くのを僕は見逃さなかった。


「ねぇねぇ、ちょっと相談なんだけど。」

「はい、何でしょう?」

「アクセサリー作りや販売で、何か困っていることはないかしら?」

「そうですねぇ。特に困っていることはないですが……。」

「何でもいいから言いなさいよ。」

「えっと、私は物を売るのが苦手で……。ご覧の通りでも小さくて子供っぽいので、強く値切られたりすると、うまく断れないんです。」

「確かに、まるで子供が店番してるみたいに思われそうね。」

「……私、こう見えてももう成人です!」


流石に神様の無礼な言動に、カッときたのか、少し強い口調で言った。


「ちょっと、神様。」

「何よ、まぁいいわ。それじゃあ、私たちが販売の手伝いをするわよ。私だったら、うまく高値で売ってあげられるし、私の美貌でお客も引き寄せてみせるわ。その代わり、しばらくここに泊めてもらえないかしら?」

「ここでですか?」

「そうそう。」

「ここは工房なので、お客さん用のベッドとかもないですけど……。」

「いいのよ。とりあえず屋根があって、横になれればいいわ。私たち、今日の宿代もないの。だから、ここで住み込みで働かせてもらえない?ってこと。」

「はぁ、……。」

「とりあえず給料とかいらないから、ね?」

「私は別にいいですけど。」

「じゃあ決まりね!よろしく、ロピ。ってことになったけどいいわよね?」

「まぁいいですよ。」僕は成り行きに任せて頷いた。


そんなわけで、僕らはロピの工房でお世話になることとなった。


しかし、この工房で起こる恐怖の一晩の後、僕はこの日、成り行きに任せてしまったことを後悔するのだった。



もしも面白いと感じていただけたら、ブックマークと評価もらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ