量子力学を駆使する陰陽師
自作品『おふだの貼られた壺』の続きっぽいものをイメージしていますが、これだけで読めます。
1600字オーバーを何とか千文字に収めてみました。
量子力学……意味ワカラナイ……。
数週間前から倒れる人たちが続出した。そんな折、姿を現した「陰陽師」を名乗る胡散臭い人物。
近所の神社から奇妙な気配がする、道案内をして欲しいと言われ、なぜか俺がすることになった。
そして今、俺の目の前には巨大なキツネに似た何かがいた。
「妖狐だな」
「え?」
「狐の姿をした妖怪。化け狐だな」
威嚇してくるキツネに対して、その陰陽師は何てことない様子で解説してくれた。そしてなぜかスマホを取り出して、キツネに向けていた。
「あの、何を」
してるんですか、と聞こうとした言葉は途中で切れた。
「滅!」
陰陽師がそう一言唱えた途端、目の前のキツネは爆散した。
……あれ、終わり?
「道案内に感謝する。おかげで簡単な仕事だった」
どうやら本当に終わったらしい。
……変な言葉が聞こえたような気がしたけど、真面目な陰陽師の様子からして、多分気のせいだろう。
それよりも気になるのは、スマホである。
「スマホで何をしたんですか?」
「見るか?」
そう言って見せてくれたスマホ画面に映っているのは、さっきのキツネ。その上に変な線が書かれている。
「これは、妖狐の量子の動きを映し出している」
「……りょうし?」
りょうし。そう言われて浮かんだ漢字は「漁師」だった。が、おそらく違うだろうことくらいは分かる。
「そうだ。これは量子力学に基づいた計測技術を生命科学に応用した……まあ簡単に言うと、量子を見る事で相手の弱点が分かるのだ。そのために私は自身でアプリを立ち上げた」
「……はあ」
ポカンとした俺に気付いて言い直してくれたが、りょうしが何だか分からない自分には、ちっとも簡単じゃない。そもそも陰陽師のイメージと違う。
「陰陽師って、おふだ使うんじゃないんですか?」
「無論、必要であれば使う。だが、ふだは自分で手書きせねばならぬし、墨の用意も大変なのだ。百均に売っている墨汁を使うわけにはいかない」
「そうなんですかっ!?」
墨がどうこうという前に、手書きである事にビックリだ。
「現代科学と古来からの力は相反するものではない。使って楽になるのなら使えばいい、と私は思っている」
じゃあなと言って、陰陽師は立ち去っていった。
その背中を見ながら俺はつぶやいた。
「りょうし、りきがく」
何のことかさっぱりだ。ただ、大学受験を控えて将来の事を考えるようになった俺の心に、妙に残った。
「よーし」
勉強して夢中になった俺が、実は有名だった陰陽師と再会するのは、もう少し先の話である。