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WPM:能力探偵七加瀬の事件簿  作者: 空場いるか
花の咲く街
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最終日

祭り三日目。


私達事務所メンバー三人は、今度こそ三人で祭りを歩き回っていた。


昨晩も花火組合の宴会に巻き込まれて夜遅くまで寝れなかった私達は、午前中に七加瀬が起きる気配が全くなかった事も合わさり昼を大きく過ぎた時間から外を出歩く事になったのだが・・・。


「あ〜〜〜〜れ〜〜〜〜」


「有利が流されて行った!!」


肝心の外は人が二日目よりも更に多く、私達は道に流れる人の波に流されない様にするのが精一杯な状態であった。


「た、助けに行ってくる!」


遠くに流されていく有利の姿がどんどん小さくなる。

見失う前に助けに行かなければ。


「お前が行くと二次被害が出かねんぞ!大丈夫!あれは演技だから!」


「は?え、演技?」


「ありゃ。バレましたか」


先程まで流されて遠くにいたはずの有利が、すぐ目の前に現れる。


「どぇえ!?ど、どうやったんだ!?」 


「忍術の前では人混みなど、ゴミ同然でござる」


「ゆ、有利ちゃんって、忍者だったの!?だ、だから部屋に手裏剣とか置いてたんだ!!」


「アレはコスプレの小道具です」


「がっかりだよ!!」


私の驚きに対して朗らかにに有利が笑う。

そんな私達のやりとりを見て軽く嘆息した後に、七加瀬は改めて周りを見渡す。


「にしても本当にすごいな、この人混みは。昨晩の花火も組合の計らいで凄いものが観れたが、コレは更に期待できそうだ」


そう。

実は私達は特別に、一般客では立ち入りが出来ない打ち揚げ場から昨日の花火を見せてもらう事が出来た。

真下から見上げる花火は、打ち上がる過程も含め乙な物であった。

しかし、人の量や既に場所取りを始めている観衆を見るに、どうやら本日の花火はソレすらも超える出来なのだろう。

今から楽しみだ。


「おっとっと」


そんな事を考えていると人に流されそうになる私。

その私の手を有利が掴み、笑顔で私と七加瀬に話しかけてくる。


「手を繋ぎましょう」


「て、手を繋ぐ!?」


そんな、子供じゃあるまいし・・・。

ソレに、こういったのは七加瀬が拒絶する筈だ。

まあ、私も?たまにはそういうのも良いと思うのだが・・・



「そうするか」


モジモジする私の、有利に握られていない方の手を突然に引く七加瀬。


えぇ!いいの!?


私が嬉しそうにしていると、すぐに私の手を有利が放し、七加瀬の手と繋ぎ直す。


なるほど、コレが狙いか・・・



「七加瀬さんが真ん中ですよ」


七加瀬と手を繋げて嬉しそうにする有利。

嬉しすぎるからか、有利は七加瀬と握りあった手をオーバーに振り回す。


そんなハイテンションな有利に、七加瀬は呆れた様に天を仰ぐ。


「こうしてると学校の先生になった気分だ」


「バブー」


「バブられても抱っこはしませんよー」


「オギャア」


「オギャられてもオンブもしませんよー」


相変わらず有利と七加瀬は二人で意味の分からない会話を行なっている。

この会話をしている時の二人は心底楽しそうで、横から見てる私も楽しくなってくる。

にしても・・・


「ゆ、有利ちゃん、良かったの?」


師匠たる有利が自分の為とはいえ、私と七加瀬が手を繋ぐ事を許すとは。

一体どういった考えなのだろうか?


「正妻の余裕です」


「いつから俺とお前は結婚した?」


「既に花火組合数名の脳内では、結婚した事になってますけど?」


「怖っ!」


「あと、一億二千人です。ソレで、我が計画が成し遂げられる・・・」


「に、日本人全員にフェイクニュースを流す努力をするなら、勝手に婚姻届を出した方が早くないか?」


「悪魔的発想!でもソレじゃ外堀が埋まらないんだなぁコレが!」


「手の掛かる子供とは結婚しませんよ〜」


「アダァ〜」


「ば、バブぅ」


「赤ちゃんなら手が掛かっても仕方ないね〜、ってならないね〜」


「ゆ、有利ちゃん。こ、コイツは将来、子育てなんて絶対に手伝わない悪い父親になるぞ」


「そんなワイルドな所も好き〜」


「だ、ダメだコイツ!」


はっ!

七加瀬と有利の変なノリに、いつの間にか混ざってしまった!



コレを、やっと事務所に馴染んできた良い事と捉えるか、頭がおかしくなってしまった自分を恥じるべきなのか、難しい所だ。


私がウンウン唸ってるなか、頭のおかしい一人である七加瀬が、私に向けて口を開く。



「そういえば幸子、お前よく銅一郎を連れて来たな。正直言って、今回の事件のMVPだぞ」


「あ、アレはたまたま出会った少年と、町から逃げ出したら出会えたんだ」


そう。

銅一郎と出会えたのは少年のおかげだ。

あの並外れた幸運は忘れられない。

そもそも銅一郎と出会えた事も、彼の幸運の作用なのではないだろうか?

もっともそんな彼は、銅一郎と町に戻る最中に何処かに行ってしまったのだが。


「少年?警察に捕まらない様にだけ気を付けろよ?」


「そういうのじゃないから!」


本当にコイツは・・・


「でもお前の性癖のおかげで、玉屋華の両親の願いが叶ったし、事態も丸く収まった。あのまま朝陽が暴走したままだと、アイツをしょっ引かんといけなかったからな」


「だ、だから性癖じゃない!って・・・玉屋華の両親の願い?」


「ああ、分からんかったか。有利は分かったか?」


「死者の願いなんて、分かる筈ないでしょう?適当言わないでください。でも、可能性の話をするなら・・・初日に北側で揚がった花火の色・・・でしょうか?」


「ああ。そうだ」


「?どういう事だ?」


花火の色と、両親の願いなんて、一体どういった繋がりが・・・?


「おいおい。もう忘れたのかよ。爆弾を解除する為に上げてもらった、緑色の花火を」


「いや、ソレなら勿論覚えているが・・・」


「そういや幸子って、義務教育を受けたか?」


「ぜ、全然受けてない」


この問題、義務教育のレベルなの?

もしかして、私って相当馬鹿なのか?!


「ならまあ分からんか。緑色の花火が揚がり出したのが鍵矢衰退と同時期らしい。そして花火の色の作り方は、金属との炎色反応を利用している。緑色の炎色反応を司る金属は、銅だ」


「ど、銅ってことは・・・銅一郎の頭文字か。つ、つまり玉屋の両親は、居なくなった銅一郎に帰ってきてほしくて、北側の花火を緑色に染めた?でも、銅一郎は毎年花火を見に来ていたんだぞ?ソレを見たなら、未練のある彼なら町に戻って来てもおかしくないんじゃ・・・」


「花火を観れたならな」


「は?み、観れたらって・・・どう言う意味だ?」


「銅一郎は倉庫内で声に反応してから、その方向へ顔を向けていた。恐らく彼は、眼がもう見れない筈だ」


確かにそうだった。

彼はいつも反応がワンテンポ遅れていた。

あれは失明して目が見えなかったからだったのか。


「そう。誰も責任なんて取る必要がなかったんだ。花火の炎色反応なんて当然の様に知っているこの町で、許可を得て緑色の花火が打ち上がっている時点で、彼はもう許されていたんだよ」


「そ、そうだったのか・・・。なんだか、運に関して私が言うのも何だが・・・持っていないな、鍵矢の人達は」


「本当に、呆れるほどにな。でも、お前の頑張りのお陰で、また一丸となれたんだ。誇っていいぞ」


「そ、そう言われると、むず痒いな・・・」


「まあ、そもそもの依頼を受ける理由が幸子にあるんだから、頑張るのは当然だけどな!」


「本当に一言多いな!お前は!!」

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