混沌
二日目の作戦とは、鍵矢焔を現行犯で捕まえる事。
そして言い逃れできない彼に、鍵矢廃業の真実を鍵矢朝陽によって直接伝える事。
この作戦が成功すれば、焔の玉屋に対する悪いイメージは払拭される。
嘘をついた鍵矢朝陽には泥を被って貰うことになるが、正直言って自業自得だ。
ソコは親子で解決してもらうしか無い。
「おい・・・。なんでお前が・・・朝陽が、ソコに居るんだよ・・・」
倉庫に響く焔の疑問の声。
その言葉に、なお沈黙を貫く朝陽。
そんな一言も話さない彼の表情と仕草から、焔は己の状況について察したのか、表情が苦悶に歪む。
「おい、嘘だよな・・・。鍵矢の家は、玉屋に邪魔されて廃業したんだよな?・・・答えろぉ!!!鍵矢朝陽ぃぃ!!!」
彼の問いかけに目線すら合わせない朝陽。
「そんな。だとしたら、俺は何の為に・・・?」
「ようやく分かったか?自分が今まで何をしていたか?」
静まり返る倉庫に俺の声が響きわたり、焔はこれまで己が行った数々の悪行の空虚さに挫け、膝を折り地面に蹲る。
(決まったな)
状況によって、これからの行先が既に定まりきってしまった何とも言えない空気感が倉庫に漂う中、その火蓋を切ったのは、ある人物の、誰もが想像していなかった言葉だ。
「そうだよ・・・。鍵矢の家は、玉屋に邪魔されて廃業した」
言葉の主は、鍵矢朝陽。
「はぁ!?」
その言葉に、もう後は仕上げだけだと余裕をかましていた俺は驚き叫ぶ。
「お前!酒場で言ってた事と違うだろ!!」
「ウルセェ!!!鍵矢の家は、玉屋に邪魔されて廃業した!!!ソレが真実だ!!だからクソガキ!膝を折る必要はねぇ!立ち上がれ!お前は、正しい事をした!!自分を誇れ!」
「・・・お前、その嘘がどういう結果になるか、分かってるのか?」
「男にはな、曲げられねえもんが有るんだよ。俺が言える真実はただ一つ。鍵矢の家は、玉屋に邪魔されて廃業した。そして付け加えるならば、ソレを話してわざと今回の事件を焚き付けたのは俺だ。爆弾も俺が用意した。だから、悪いのは俺だけだ」
「そうなると、お前を罰しないとダメになるぞ?」
「好きにしろ」
俺と朝陽は違いを睨み合う。
事前に組み立てた作戦と全く異なった展開になってしまい、混沌と化す倉庫内。
そんな殺伐とした空気感の中、作戦の時間になっても結局現れなかった人物の声が響き渡る。
「お、遅くなって済まない!!」
入り口から倉庫内へ入り込んできたのは、斑井幸子。
状況にそぐわない闖入者に誰もが釘付けになるも、彼女の背後から現れた新しい人物とその言葉により、更に状況は動き出す。
「・・・もう良いんじゃ、朝陽。儂が全て悪かった」




