祭囃子✳︎conviction4
もはや大会を終わらせるには、これしか無い。
俺は鞄に入った最後の爆弾を握りしめる。
時間は17時。
俺は自身の隠れている物陰から、本日打ち上がる花火が保管されている玉屋の倉庫に視線をやる。
その倉庫はこまめな手入れが為されているのか、溜まり場としている鍵矢所有の倉庫と違いとても綺麗だ。
その倉庫の入り口には二人の見張り。
彼らを倒せば倉庫に入れる・・・という簡単な話では無い。
彼らは倉庫の鍵を持たない。
なら、倉庫の鍵が現れるのは何時か?
それは、簡単なことだ。
倉庫に一人の男が現れる。
その男は阿佐見と言われる男で、舐められやすい性格だが花火組合のNo.2と言っても良い人物。
そう、鍵は彼だ。
彼は花火の運び出しの準備の為に、倉庫の鍵を持ってこの場に現れた。
狙うならば、もうこのタイミングしか無い。
彼は鍵を開けると入り口のとても大きな扉を開き、悠々と倉庫の中へと入って行く。
そのタイミングで、俺は勢いよく物陰から飛び出した。
二人の見張りを強引に振り払い、阿佐見が入っていった倉庫に飛び込む。
暗い倉庫に差し込む入り口からの光に照らされる阿佐見。騒ぎに振り向いた彼は、俺の顔を見て驚いた表情を浮かべる。
そんな彼に良く見えるように、俺はカバンに入れていた爆弾を高く掲げる。
「今から此処を爆破する。阿佐見、命が惜しければ今すぐに倉庫から離れろ」
「焔!もう辞めるんでさぁ!こんなことしても、意味ねえ!」
「お前には分からんさ。俺の気持ちはな。さぁ、早く消えろ」
俺の言葉に、阿佐見はジリジリと俺の周りを一周する様にして入り口に戻る。
しかし、中々入り口から出ていかない。
「早く行け!!」
最後の念押しをする俺。
そんな俺に向けて阿佐見が再度、大きな声をかける。
「もう一度!考え直すでさぁ!こんな事、朝陽さんも望んでねえ!!」
「クドイ!!ソレに、朝陽が望まないなんて、そんなの嘘っぱちだ!」
つい彼に釣られてヒートアップする俺。
ソレが、不味かった。
「済まないね」
花火しか無い筈の背後の暗がりから、突然聞こえた声。
その声に反応して振り返るまでに、掲げた爆弾にスパークが走る。
「クソっ!」
俺は急いで手元の爆弾のスイッチを押すも、手にした爆弾が起動する事はなかった。
「やってくれたな・・・玉屋華!!」
後ろを振り返ると、ソコには憎き女が立っていた。
「花火を守る。両親にかけて、この役割だけは譲れないのさ。たとえ、あんたみたいな悲しい勘違いの末に産まれちまった相手でもね」
「勘違いの末だと? 加害者のお前がいうのか?! 元を辿れば加害者の玉屋家が、俺の・・・そして朝陽の人生を潰しておいて、今更世代が変わったからって被害者ぶるな!!!」
暗い倉庫に響く慟哭。
こうなれば仕方ない。
力ずくで花火を暴発させて・・・
そう考える俺に、倉庫の外から忌まわしい声が掛かる。
「本当に、加害者であれば、お前の主張も正しいだろうな。だが、本当にそうなのか? その真実を知ってる奴は、たった一人しか居ない。だから、ソイツに過去に何があったか、洗いざらい話してもらおうじゃ無いか」
そうして入り口に現れた探偵は、倉庫の電気のスイッチを付け、倉庫の奥を睨んだ。
「・・・なぁ、鍵矢朝陽」
突然の眩しさに目が眩むも、向けた視線の先には確かに鍵矢朝陽が・・・血を分けた実の父親が、なんとも居たたまれない表情で立ち尽くしていた。




