復讐の行先
「はぁ?! 絶対にあの人形、中に重し入ってるだろ?!」
俺は射的屋のアコギな商売に激怒していた。
こうなったら幸子の能力で、あのクマちゃん人形をブチ抜いて貰うしかない。
「おぅい、幸えもーん・・・ってあれ?」
辺りを見渡しても知り合いは、輪投げに必死なテンションがオカシイ奴しか居らず、射的要員の幸子は見当たらない。
「あいつ、まーた迷子かよ」
俺は何か伝言でも残されていないか、あまり話しかけたく無いテンションの有利に話しかける。
「有利さんや。幸子さんは何処にいってしまったかのぅ?」
「おじいちゃん、此処には私達二人で来たでしょう?」
「そうだったかのぅ?」
条件反射で適当に言葉を返してた有利は輪投げを終えると、やっと正気に戻って周りを見渡す。
「あれ?有利ちゃんは?」
「だから居ないかって聞いてるんだ。その感じだと、トイレとかも聞いてなさそうだな」
「やだ、ノンデリカシー」
「おトイレに行かれた訳では無いようですわね」
「話し方を変えてもノンデリカシーですわ。でも有利ちゃん、本当に迷子なのですかね?・・・まさか!?」
「何か心当たりがあるのか、有利!」
「まさか、幸子ちゃん・・・昨晩の私との会話を受けて、七加瀬さんと二人きりに!?」
「会話は知らんが、ソレは無いと思うぞ?」
「有難う、幸子ちゃん。わたし、頑張るよ!」
「なんかわからんが、がんば!」
「という事で七加瀬さん、ホテルに行きましょう」
「そうはならないよね?」
「そう、なったんです」
「やだやだやだやだ」
「もう、ワガママですね。なら普通に、今日一日は私と二人だけで遊ぶと言う事で勘弁してあげます」
「やったぜ」
「ちょろいですねぇ。やっぱり交渉のコツは、1番高いハードルを掲げて、ソレから少しずつ条件を下げていく事ですね」
「やっぱりヤダヤダヤダヤダ」
「ワガママ言うなーー!」
「条件下がらんかった・・・」
「厳しさも大事です」
「まあ、しゃあない。取り敢えず二人で出店回るか。流石に作戦前には集合地点に帰ってくるだろ」
「そうですね。なんやかんや町に到着した日にも遅れてですけど、旅館に来てくれましたし」
「しかも、あの時は謎の運で情報も持ち帰っていたからな。今回もソレに期待しよう」
「あはは。そんな奇跡、何度も起こりませんよ」
「ソレもそうか」
「さて、んじゃ行きますか!ホテルに!」
「勢いには騙されませーん」
「ケチ」
俺と有利は、祭りの人混みに軽く流れつつも歩き始める。
「やっぱり、人が多いな」
「多分、明日はもっと多いでしょうね」
「手、繋ぐか?」
俺は少し立ち止まり、有利の方へと手を差し出す。
「・・・良いんですか?」
「ああ、良い。有利にも迷子になられたら困る」
「・・・じゃあ、失礼して」
差し出した手に、意外にソッと手を乗せる有利。
普段の言動の割に、いざこういった場面になると弱くなるのは、彼女がまだ乙女である証といったところか。
手に伝わる温かさから確かに伝わる愛情に気づきつつも、俺はあえて鈍感を演じ、歩き始める。
そんな事を全て分かりつつも、満更ではなさそうな有利の表情を見ていると、このままの関係でも良いと思ってしまうのだが、ソレも結局は彼女に甘えきってしまっているから成り立つ関係なのだろう。
「全てやるべき事が終わったら・・・か」
俺は過去に有利に答えた、彼女の愛情に応えるための条件を思い出す。
その条件とは心地よいものでは無く、ただの復讐。
今回の太田焔と似た感情だ。
依頼なんて物が無ければ、俺には彼を非難する権利はない。
しかし俺は彼の前に立ちはだかるつもりだ。
そして、確実に彼を止める。
いつか、俺も彼と同じ立場になるだろう。
その時に立ちはだかるのは、一体誰なのか。
俺を止めてしまうのだろうか?
そうなったら、俺は立ち直れるのだろうか?
「はぁ、しんど」
「え!?私、そんな重い女ですか?!」
「ある意味では」
「もしかして・・・体重の事を言ってます?」
「祭りで食べすぎだからな。帰ったら測ってみたらどうだ?」
「む、ムキーーーー!乙女に対して年齢と体重の話は御法度なのにぃ!!」
俺と繋がった手を離さずに、ぐるぐる振り回す有利。
「ははは!」
暴れる有利に、沈んだ感情が少しずつ浮上してくる。
「・・・で。嫌なことでも、思い出したんですか?」
そんな事までお見通しとは。
長い付き合いとは感情が通じる分、面倒くさい時も多いが、同時に有難い時もある。
「まあ、そんな所だ」
「そう、ですか」
有利は、それ以上俺に何かを問い掛けない。
未だに昔の事件を引きずっているのだろう。
彼女は、何も悪くはないのに。
「・・・何処か行きたい所でもあるか?」
今度は自分の番だ。
少しくらいは、彼女の気分も上げてあげなくては。
「それじゃあ・・・ホテルに」
「やっぱり帰ろうか」
「嘘です嘘です!行きたい所は他にあります!」
「はいはい」
そうして連れてこられたのは・・・
「・・・プリクラ?」
ソコには、祭りの出店としては異様なプリクラ機の集団があった。
「やっぱり浴衣を着たら記念撮影ですよ! 七加瀬さんも一緒にやりましょう!それに、幸子ちゃんには悪いですけど、二人きりの時間も減っちゃってますし」
「確かにな。でも依頼が終わったら、まあ二人の時間を作ってやらんでもないさ」
「約束ですよ!」
「ハイハイ、約束約束」
「やったーー!」
飛び跳ねる有利に引き摺られながら、プリクラ機に連れ込まれる俺。
そして、その中で満開な笑顔を咲かせる彼女。
俺のやるべき事が全て終わった時も、彼女のこの笑顔だけは守りたいと、そう思った。




