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WPM:能力探偵七加瀬の事件簿  作者: 空場いるか
花の咲く街
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祈り・依頼

ほぼ21時丁度に、大会初日は幕を下ろした。


とても多くの彩とりどりの花火が一時間もかけて多数打ち上がり、贔屓目に見なくともその激しさと美しさは大成功と言っても遜色ない仕上がりであった。


とはいえ最後の大型花火が開始時間前に上がってしまった事に関しては、やはり多少ながらも花火運営の周囲に軋轢を産む結果となってしまったが、大会の中止や、スポンサーの離脱とまではいかなかった所を鑑みると、そこまで悪い結果ではないとも言えるだろう。


そして初日の爆弾問題を片付けた俺達事務所メンバー3人は、まるで英雄と祀り上げられるかの様に組合員の花火成功祝いの会に参加させられていた。


場所はもちろん光玉館。


昨日の昼間よりも多い人数での会食は室内に入りきらず、光玉館の大きな裏庭で立食形式で賑やかに行われている。


美味い物を食べ放題の中、チラリとしか顔を見ていない相手にすら泣いて感謝されるのは、正直に言って気分が良い。

そんな大感謝会もようやく一息つき、感謝の人混みから解放された俺は、その賑やかな会を一人離れて見守る女将、玉屋華の元へと歩み寄る。


「それにしても、初日の大一番が緑色花火とはな」


「・・・私が中学生の頃だったかね。鍵矢の衰退と共に初日の大一番の色が変わって、それっきり緑色だね。両親が亡くなってからも、一応理由があるかもしれないと思って受け継いじゃあいるが、アンタ達の希望で色を変えても良いかもしれないね。それ位の働きをしたよ、アンタらは」


少しの笑みを漏らす玉屋。

それには初日を乗り切った安堵と、まだ解決していない問題についての不安も少し滲んでいた。


「・・・太田は、見当たらないな」


「そうだね。偽のトランシーバーを渡したんだ。自分が犯人とコチラにバレているなんて、簡単に見透かせるだろうさ」


「それもそうか」


「ああ・・・」


「・・・」


二人に流れる一瞬の沈黙の後、決して他の者には聴こえないほどの大きさで、玉屋の不安げな声が聞こえてくる。


「・・・太田はきっとこの後も何かしてくるよ。それこそ、命を賭けて花火を止めてくる。なんとか、なる・・・かい?」


「昨日も言った通り、初日の山を超えた。あとは余裕だ。明日は俺の指示通りに動けば、勝手に事件は解決する」


「・・・それは、太田の命に危険はないのかい?」


玉屋がコチラに目を合わせずにポツリと呟いた言葉に、俺は驚く。

初日の爆弾騒動を経ても尚、犯人の身を案ずるとは。


「その心配をするとは思わなかった」


「そうかい?・・・いいや、そうかもね。・・・・・・私の両親が事故で死んだ事は、確か話したよね?」


「確かに聞いた記憶があるな」


「アンタだけに言うが、アレほどの衝撃は無かったよ。両親の大きな背中ばかりを追いかけてきた私にとって、彼らの消失は決して耐えられるものじゃなかった」


「耐えられてるじゃないか」


「そう見えるかい?ならソレは、家族のおかげだね」


「家族?」


「そう。花火組合の、あの馬鹿達。それだけじゃない。出店組合の奴ら。バーのマスター。花火を楽しみにしてる町内会の人達。・・・勿論、彼らは偉大な両親に吸い寄せられて来た人間だ。でも、彼らはそんな旗印が居なくなってしまったのに、私に対して損得なしに優しく、転げた身体が起き上がる為に手を差し伸べてくれた。そうだよ・・・この街の、全てが私の家族さ。・・・でも太田には、その家族が敵に見えちまってるんだ。本当はそんな事はないのに、彼等こそが空虚を埋めてくれる存在なのに。色々な要因で与えられた偏見によって、全てが歪んで見えちまってる。私は、気づいて欲しいんだ。いや、気づいてくれる筈さ。だって、小学生の頃に握った彼の小さな掌には、確かに暖かい血が流れていたのだから」


「そうか。・・・でも無粋な事を言うが、人間なんてもんは視点が変われば考えも変わる。そして、一度こびり付いた考えは、そう易々と変わらない。もしかしたら、その固まり過ぎた考えを正す事で、逆に太田の心が折れてしまうかもしれない。ソレでも、太田の事をなんとかしたいのか?」


「勿論さ。立ち直って欲しいんだ。旅館で彼と会うたびに浮かべる歪な笑顔を見て、そう決めた。正直言って、太田からの犯行声明を受け取った時、この事件はチャンスだと思った。だから、手伝ってくれるかい?」


「うちの事務所は安心安全・周囲環境改善・アフターケアもしっかりやることを信条としてるってな。任せろ。たった一人だけ泥を被ってもらうことになるだろうが、概ね事件解決の筋道は通っている」


「その言葉に安堵してしまうのは、私が馬鹿なのか、ソレともアンタに説得力があるのか。一体どっちなんだろうね?」


「どっちもだ」


「誰が馬鹿だい!!」


「はははっ!冗談だよ!」


怒る玉屋から走って逃げた俺は、シリアスな話でペコペコになった胃袋に食べ放題の良い肉を流し込むべく、会食の輪の中に飛び込むのであった。

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