動かない爆弾2
時は遡る事、19:10。
トランシーバーにより爆弾が見つかった西側とは真反対、東側の灯台に私は到着した。
元から近い位置にいたのが幸いしたのか、殆ど人混みによるタイムロスがなかった私は、灯台の前に既に何人も居た花火組合の面々と話す。
「爆弾、ありましたか?」
「いえ。まだ捜索もしているのですが、見つかってません」
そう声を返したのは、私が午前中に助けた組合員だ。
知っている顔が一つでもあると、話が通りやすくて助かる。
「どのくらい爆弾の捜索は終わっていますか?」
「殆どと言ってもいいほどです。灯台を優先的に捜索したので、後はこの橋の周りの捜索がメインになるかと思います」
「そうですか・・・」
七加瀬さんと幸子ちゃんは西側の灯台に向かった。
ならば既に殆ど捜索が終わった東側より、真ん中の灯台の捜索を優先した方が良いかもしれない。
でも、もしかしたら今からの捜索でまたこっちでも爆弾が見つかるかも?
どうしよう。
うーん・・・あっ、そうだ。
そもそも、爆弾解除の要員を事務所メンバー3人に限定するから駄目なのだ。
爆弾解除君はまだまだ在庫もある。
敵の勢力と戦闘になる事も無いし、解除を他の組合員に任せても問題はないだろう。
「すいません。コレ、任せて良いですか?」
私はナップザックから取り出した爆弾解除君を、話していた組合員に渡す。
「え、ええ!!こ、コレって話に聞いてた爆弾解除君ですよね!?」
話に聞いていた?
もしや、華さんが既に組合員に話してくれていたのだろうか?
「1%の確率で爆弾を爆発させる機械!」
「99%の確率で爆弾を解除する機械ですぅ!!」
どうやら、間違った伝わり方をしているようだ。
困った困った。
「一緒じゃないですか!!」
「ちょっとだけ違いますぅ!!」
「要りません!返しますから!」
「いやいや、まだまだ在庫があるんで任せます!爆弾があったらスイッチを押して、爆弾に先端を押し当ててください!それでは、私は真ん中の灯台に向かいますので!!」
神風のように走り出す私を止めるものはいない。
爆弾解除君を押し付けられた組合員から、他の組合員がドンドンと距離を取っていく姿は見なかったことにしよう。
爆弾解除君は爆発しないのにね。
不思議だね。
そうして東の灯台を後にした私は、真ん中の灯台に向けてまた人混みを掻き分け進む。
そうして真ん中の灯台にたどり着いた時には19:30を過ぎた時間であった。
習った忍術を駆使しても、灯台から最寄りの灯台まで20分以上もかかってしまった。
コレでは真ん中の灯台を調べ終わった後、20:00までに西の灯台に行く事も、東の灯台に戻る事も困難だ。
「爆弾解除君、やっぱり渡しておいて正解でした」
東の灯台はもう問題無いだろう。
あとは、この真ん中の灯台だ。
橋を走り灯台にたどり着くと、先程と違い灯台の入り口に組合員は少ない。
どうやら東とは違い、こちら側はあまり捜索が進んでいないようだ。
「すいません。爆弾、見つかってませんか?」
私は入り口の組合員に話しかける。
最初は訝しげな表情を浮かべていた組合員だが、私が雇われた探偵だと思い至った様で、すぐに状況を報告してくれる。
「町の真ん中は東西どちらの花火もしっかり観る事が出来るので人口密度が高く、なかなか人数が辿り着けなくて捜索が遅れてます。今の所、半分程度しか捜索は進んでません」
「分かりました。私も協力します」
「助かります。それでは中の組合員に取り次ぎます」
そうして入り口の組合員と共に灯台に入った私は、一階の雑多に物が積まれたホールを捜索している組合員に話しかける。
「すいません、手伝いに来たのですが」
「助かる。組合員は、一階から順番に調べてる。今どこまで行ってるか分からないから、屋上から調べてくれ」
「分かりました。では、コレを」
私は念の為、一階にいた組合員に爆弾解除君を手渡そうとする。
「や、やめてくれ。まだ死にたく無い」
・・・コイツらは、一体私を何だと思ってるんだろうか?
「まあ、そう言わずに!」
私は無理やり組合員に爆弾解除君を手渡し、そのままエレベーターに飛び乗る。
「い、いらないって!!」
そんな声を置き去りにしてエレベーターの扉を閉めて34階のボタンを押す。
グングンと上がっていくエレベーター。
そして到着したのは屋上ではなく、その一つ下の階だ。
どうやらエレベーターでは直接屋上には辿り着けず、最後は階段で上がるしか無いらしい。
階段を丁度一階分上がると扉があり、少し重たいそれを開けると、開放的な屋上が広がっていた。
辺りを見渡すも、特に変わったものは置かれていない。
念の為屋上のフチまで行って確認するも、特に何も見当たらない。
「何も無い・・・か。にしても・・・」
私は屋上のフチの柵に手を当てて周りを覗く。
本当にいい眺めだ。
目下に広がる祭りの色とりどりの光、そして空に広がる黒い空と輝く星。
建物の高さ制限によって視界を遮られる事も無く町を見渡せるこの屋上は、恐らく人の立ち入り禁止さえなければ、この町一番の観光スポットになっていただろう。
「事件が終わったら、ココで七加瀬さんと花火を見ることにしましょう」
この特等席からの花火鑑賞。
それくらいのワガママは、祭りを救ったのだから許されて然るべきだ。
そんな少し先のことを考え空を見上げると、屋上の真ん中の太い柱から伸びる上空の投光器が目に入る。
「アレは、少し邪魔ですね・・・んん?」
そんな邪魔者を見上げた私の視線の更に先。
投光器が設置された場所よりソラに近い柱部分に、チカチカと赤く光るものが見える。
遠さと暗さが合わさり上手く見えないソレを、私はナップザックから取り出した光量を改造した懐中電灯で照らす。
朧げに見える、タイマーの様なもの。
私は嫌な予感がしたソレを、続いてナップザックから取り出した双眼鏡で、確認した。
「・・・爆弾だ」




