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WPM:能力探偵七加瀬の事件簿  作者: 空場いるか
花の咲く街
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虚勢と嘘

「フゥ」


一つ、息を吐く。


足元には角と亮と呼ばれた二人が気絶している。


爆弾解除君、恐るべし。


そんな時、七加瀬の携帯電話が鳴り響く。


ポケットから取り出して液晶を見てみると、知らない番号からの電話の様だ。


・・・電話の相手は昨日行ったバーのマスターだろう。


恐らく、鍵矢朝陽が見つかったという報告だろうが、まだ昼過ぎだぞ?

飲んだくれが過ぎやしないか?


「さてと、」


俺は、あると気づきながらも放置していた発信機を胸ポケットから取り出し、破壊する。


実力的にもこの二人が彼らの一番強い駒だろうし、発信機がついたデコイの役目は十分に果たしたはずだ。



「これで心置きなく電話できるな」


俺は、マスターからの電話に出る。


「七加瀬だ」


『東条彩都です。朝陽さんが見つかりました」


やはり、マスターからの電話だ。

しかし、マスターって東条彩都なんて名前だったのか。

知らなかった。


「有難う。で、何処なんだ?」


『北側にある長福という居酒屋です。その場所も阿佐見なら分かりますので、案内してもらうと良いでしょう」


「有難う。また、全て済んだら店に寄らせてもらうよ」


『はい。心よりお待ちしております。では、失礼します』


俺は、マスターとの通話を切る。


「今からやるべきことは決まったな」




俺は電源を切っていたトランシーバーを取り出し、その電源を付け皆に話す。



「七加瀬だ。相手の強い駒は潰せた。盗聴器も壊したから、此処からは俺も普通の駒として参加できる。しかし、このあと直ぐにやる事が出来た。阿佐見、朝に伝えた場所まで俺を迎えにきて欲しい」


『へい、分かりやした。マッハで行くんで待っててくだせえ』


阿佐見の大きな声がトランシーバーより鳴り響く。そして、ついで玉屋から労いの言葉がかけられる。


『よくやったね、七加瀬。斑井と交月も上手くやってくれてるよ。この勢いだと、直ぐに動く方の爆弾は何とかなりそうだ』


「そうか、動かない設置された爆弾の方はどうだ?」


『そっちに関しては、まだ見つかってないね。数が少ないのか、あるいは・・・』


「存在しないのか、だな。まあ、楽観視するのはやめよう。いつだって、想定するのは最悪のケースであるべきだ」


『そうだね。それじゃあ、引き続きよろしく頼むよ』


「ああ、任せてくれ」


玉屋との連絡を終えると、俺はまたトランシーバーの電源を落とす。


今から朝陽に会いに行くのだ。


出来るだけ音を出さずに近づきたい。

それに阿佐見がトランシーバーを持っているから大丈夫だろう。


そんな事を考えていると、路地裏に、表通りよりバイクの音が響く。


どうやら、トランシーバーで呼んだ男が到着した様だ。


裏路地にそのままバイクが入ってきて、俺の目の前で止まる。


そして、バイクに乗った男はヘルメットを外す。


「・・・七加瀬さん。アンタ、一人でこの二人をやったんですかい?」


そう、その男は阿佐見だ。


阿佐見は車が渋滞していても、ある程度機動力が出せる中型バイクで、アチラコチラの後始末を行っていた。


そんな阿佐見が、俺の周りで倒れている角と亮を見て驚きの表情を浮かべる。


「ああ、そうだが?」


「そうだがって、アンタ。この二人は、この辺りで有名な、喧嘩が強くて手が付けられないって悪ガキ二人でさぁ。一体、どうやって倒したんですかい?」


「投げ飛ばしたのと、殴り飛ばした」


「そんな事、ありえるんですかい?」


阿佐見は、不可解そうに眉をハの字に曲げる。


「言っただろ?パンピーには負けないって。このレベルのチンピラは、まだまだ一般人レベルだ。世の中にはもっと頭がおかしいレベルで強い奴がゴロゴロしてる。この程度に負けてたら話にならん」


「そんなもんなんですかねえ、世界って恐ろしいや」


そう言いつつ阿佐見は手に持った手錠で、角と亮の手足を拘束する。


これで後処理は完了。


あとはそれなりの人数を連れてきて、こいつらを運ぶだけだ。


俺は俺で次の仕事に移ろう。


「阿佐見、朝陽が見つかった。長福って店だが、知ってるか?」


「へい。有名な居酒屋でさぁ。それにしてもこんな時間からなんて・・・昔は頼りになる、みんなの兄貴分だったのに・・・」


そう悲しそうに話す阿佐見。


そうとう朝陽の事を慕っていたのだろう。

だからこそ、今のとのギャップに苦しんでいるのだろうが。


「思い出に浸ってる時間はないぞ。朝陽がどっかに行ってしまう前に長福に向かう」


「へい!ガッテン承知でさぁ!」


俺は阿佐見のバイクの後ろに乗る。


そして、路地裏からバイクを走らせる阿佐見。


路地裏から出た俺達とすれ違いで、法被を着た数人が路地裏へと入っていく。

彼らは花火組合の後始末要因だ。


玉屋がしっかりと後始末を命令してくれたのだろう。

あの二人は放置しておくには怖すぎるので、良い判断だ。


表通りに出た俺と阿佐見は、少し渋滞している道路を車を避けながらバイクで駆ける。


南側から北側への通行禁止の橋を花火組合の特権で通り、直ぐに北側の長福という店に着いた俺と阿佐見。


店の外見はいかにも隠れ家の居酒屋という風態だ。


全面ガラス張りの東条のバーとは違い、店内はほぼ見えない。


そちらの方が、朝陽にバレずに阿佐見を外側で待機させられるから、有難い限りだ。



「んじゃあ、行ってくる。一応阿佐見は外で待機しておいてくれ」


「へい、分かりやした」


俺は扉を開けて店に入る。


店の中はカウンター席と、テーブル席で分かれていた。


既にカウンター席とテーブル席共に、数人座っている。


「いらっしゃいませ〜」


店主と店員の、少しやる気のない声掛けを無視して、辺りを軽く見渡す。


・・・いた。


朝陽は、テーブル席の一番奥、目立たない席に一人座っていた。


既に結構な量の酒を飲んでいる様だ。

机には多くの空きグラスと、飲み掛けのビールが並んでいた。


俺はカウンター席や他のテーブル席を無視して、そのテーブルに向かう。


「邪魔するぞ」


そして朝陽の対面の椅子を引き、そこに腰掛ける。


「なんだテメェ?・・・どっかで見たことある顔だな」


「昨日、阿佐見と一緒にバーに居た」


「そういえば、そうだったか?まあ良い。んじゃあ、俺は帰らせてもらうぜ」


朝陽は椅子を引き、席から立ちあがろうとする。


「本当に逃げて良いのか?」


そんな逃げ腰な朝陽を引き止める。


「あぁ?何が言いてぇんだ?」


「お前の息子の事で、話があるんだが」


「何年も会ってねぇ息子なんて知らねえよ」


明らかな嘘だ。

息子という言葉を出した途端に、朝陽の表情が一層険しくなった。


「んじゃあ、息子が帰らぬ人になっても良いわけだ」


その言葉を聴いた途端、朝陽は血相を変える。


「その前にテメェをぶっ殺してやるよ!!」


余程気に入らなかったのだろう。


大声を上げながら、朝陽は俺の顔面に向けて拳を放つ。


俺はそれを避けずに、額で受け止めた。


避けるそぶりすら見せなかった俺に、殴った朝陽は不審な表情を浮かべる。


「今の拳を避けなかったのは、発言の非礼を詫びる為だ。だが、俺の話を聞かないとその言葉も現実になるぞ」


「・・・変な奴だ」


朝陽は、立ち上がった席に再度腰掛ける。


やっと話を聞いてくれる様だ。


「まず、お前は自分の息子の顔を知っているか?」


「ガキの頃の顔なら知ってる」


「今の息子の顔は?」


「十年近く会ってねぇんだ。知らねえよ」


「じゃあ、見せてやる」


俺はそう言って、事前に玉屋から貰った太田焔の顔写真を見せる。

その写真を見ると、朝陽はハッとした表情を浮かべた。


「酒場のクソガキじゃねえか!」


「そうだ。だが、それは関係ない。大事なのは、コイツが行なっているテロ行為だ」


「テロ行為?」


朝陽は頭にハテナマークを浮かべる。


「そうだ。太田焔が、花火大会を中止させる為に行なっているテロ行為。既に、何人かの仲間を取り押さえて、持っていた爆弾も回収している」


朝陽は、その言葉を聞いて何か思い当たる節でもあったのだろう、苦虫を噛み潰したような顔をする。


「そして、俺はこういう者だ」


俺はジャケットの内ポケットにしまっていた、マーダーライセンスを取り出し、机の上におく。


「あぁ?何だコレ?」


そういう反応になるのも当然だ。

このカードは、WPM社の会社ロゴが入っている以外には、ただの黒いカードに、煌びやかに金色のデザインが施されているだけだ。


警察以外には、カードの存在すら公表されていない。

しかし、それで十分だ。


「俺はWPM社の諜報員だ。警察と連携して、テロリストを取り締まっている。テロリスト対策を世界の各社GMが行なっているってのは、前のGM会議でも取り上げられていただろう?」


「たしかに、ニュースでそんな事も言ってた気がするな。ちょうど1年半前くらいだったか」


そう、不定期で開かれるGMの社長達による会議。

そんな、各国首脳達が集まる会議よりも場合によっては注目される会議で、前回テロリスト対策については取り上げられているのだ。


ニュースでもその話は大々的に取り上げられていたので、カードにWPM社のロゴさえあれば、ある程度の信憑性は出せるというものだ。


WPM社のロゴを偽る様な怖いもの知らずは、日本には間違いなく居ないのだから。


「そうだ。それで先程の話に戻るんだが、これ以上、太田焔に暴れられたら、拘束せざるを得ない。太田焔はどうやらアンタを親として、そして一人の男として尊敬している様だ。アンタなら止められると思って声をかけた」


「・・・俺のせい・・・か」


「何か心当たりがあるのか?」


「簡単な話だ」


そう言って、朝陽は机にまだ残されていたビールを一気に喉に流し込む。

そして掌を額に当てて、目を強く閉じながら話し始めた。


「オマエも調べたなら知っているだろうが、俺は元は北側の花火組合の責任者の家系だ。だからこの町で唯一、俺の家系が・・・いや、違うな。“俺が”落ちぶれた理由を知っている。当時の嫁だった女にすら言ってないからな。だから、誰も知らないから、嘘を吐いちまった」


「嘘?」


「ああ、酒の飲み過ぎだ。気が大きくなって、若い奴に見栄を張りたくなっちまったんだ。だからあんな、玉屋に邪魔されて廃業したなんて嘘をついちまったんだ。その相手が自分の息子とも知らずにな」


「それじゃあ、やっぱり鍵矢が廃業した理由は別にあるんだな?」


「ああ、俺のせいだ。俺のせいで、鍵矢は廃業した。それだけじゃねえ。尊敬する俺の親父も、俺の尻拭いで町を出ていっちまった」


「そうか、それが聞けただけでも収穫だ。だが、それだけじゃ足りない。オマエの嘘を信じた太田焔を説得してもらう必要がある」


俺は店のアンケート用紙の裏に、サッとペンで文字を描く。


「明日の18時にここに来い。それが、オマエの使命だ」


俺は席を立つ。


そして、そのまま店を出る。


そんな俺の言葉に朝陽は言葉も返さず、反応も返さず、ただ額に手を当てて、辛い現実から逃げる様に目を閉じているのであった。

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