実力
トランシーバーの連絡を受けた私は、携帯の地図アプリを確認しながら、目的地へと向かう。
大きいギターケースを背負いながらであるが、この程度では負担にはならない。
軍での土嚢を担がされての訓練よりも、圧倒的に楽だ。
私に出来る全力で走るが、あまり周りの注目は集めていない。
祭りに便乗したバンドマンとでも思われているのだろう、好都合だ。
そして、目的地である賀田日通りに着く。
「裏路地、裏路地」
辺りを見渡す。
すると、屋台と屋台の間にそれらしい細い道があった。
「あれか」
そして、そこに入ろうとする私。
「斑井さん」
しかし、突然横から声をかけられる。
振り向くと、それは法被を着た男性で、どうやら花火組合のメンバーの様だ。
「あ、貴方がトランシーバーで報告してきた人か?」
「ああ、そうだ」
男は、頷く。
そして、少し訝しげな表情を浮かべて話す。
「本当にアンタだけで大丈夫なのか?悪いことは言わないが、応援を待った方がいいと思うんだが」
そう思うのも当然だろう。
私は誰がどの様に見ても強そうには見えない。
実際にそうだから、私も文句はない。
でも、流石に・・・あの程度のチンピラには負けない。
この町に来た時に見たチンピラ達を思い出す。
あの場で、全員を鎮圧する事も出来た。
それをしなかったのは、その判断が正解か分からなかったからだ。
今ならば、頭の悪い私でも判断できる。
アイツらは、悪党だ。
許すわけにはいかない。
「だ、大丈夫だ。任せてくれ」
そう言って、ギターケースの中身を周りに見られない様に少しだけ開けて、ハンドガンタイプの銃と弾だけ取り出して懐に隠す。
「こ、これ、もっといてくれないか?」
余った残りのギターケースと狙撃銃を男に向けて渡す。
「別に良いが・・・その銃、本物か?」
「い、いや、本物に近いが、制圧用のゴム弾だから死ぬことは無いと思う・・・多分」
「多分って・・・まあ良い。人数も多いしそれくらい無いとダメだよな。俺はここで待ってるから、無理そうなら、すぐに逃げろよ」
花火組合の男は話し方こそ冷たいが、根は優しい人物の様だ。
態度の節々から、それが感じ取れる。
「ま、任せてくれ」
朝の女将の号令に引き続き、やる気が上がった私は勢いよく裏路地へと走り出す。
裏路地に入り角を一つ曲がると、奥に確かに11人の武器を持った男達が立っていた。
彼らの中には、この町に来た時に倉庫で見た顔もいた。
間違いない。アイツらだ。
男達は待ち構えていたかの様に私を見て、すぐにそれぞれ手に持った獲物を構える。
ナイフや鉄パイプ、そしてバッド。
飛び道具はどうやら彼らは持ち合わせていない様だ。
好都合。
私は一度立ち止まり、少し距離を置いて彼らに話しかける。
「な、なんでこんな事をするんだ?やられる側の気持ちに立ってみた事はないのか?」
その私の言葉に、男達は不快そうな表情を浮かべる。
「自分達が正義だと思ってる奴らは皆そう言うんだ!」
「死ねよ!」
そう言って男達は、距離のあるこちらへと走ってくる。
対話は不可能だ。
私は懐から拳銃を抜く。
それを見た男達は、少し怯んだ表情を見せるが、それでも彼らはこちらに向かってくるのをやめない。
そんな彼らに、私は容赦なく引き金を引く。
私のDEのゴム弾の装填数は九発。
それを即座に九発放つ。
反動の大きさすら、作った職人の腕で再現された私のDE。
そこまでこだわらなくてもと思ったが、既に事前の撃ち込みで感覚を慣らしている。
九発全て、別々の人物の頭部に着弾。
目と口は避けて打ったので、致命傷たり得ないだろう。
しかし、確実に意識は刈り取れた。
残弾ゼロ。
少し後ろに下がりながらリロードを行うが、リロードの終わったタイミングで、とうとう残りの二人の先頭が私との距離を詰め切り、ナイフを振る。
リロードの終えた私は、背中に隠した特殊警棒を左手で抜き取り、振られたナイフを受ける。
そしてナイフを振った男の真後ろ、銃の射線を遮る形で、こちらに金属バットを振りかぶる二番目の男。
私はバッドを持つ男に向かってではなく、右手の壁に向けてDEを発砲した。
そうすると、ゴム弾特有の素直な跳弾で、壁を跳ね返った弾がバッドを振るう男の頭部に命中。
「はぁ?!」
私の目の前でナイフを振った男が、後ろの男が前のめりに倒れてきた事によりドミノ倒しになってしまい、素っ頓狂な声を上げる。
私は一歩下がり、転倒に巻き込まれない様に避けつつ、警棒を捨てて有利からもらった爆弾解除君をナイフを持つ人物に押し当てスイッチを押す。
鋭い閃光の後、男は気絶した。
これで、鎮圧完了だ。
「ふぅ」
私でも、出来た。
元より自信はあったが、それでも不安だ。
彼らの中に、私より強い人物が一人でもいたとしたら。
そんな考えが常に脳裏によぎりながらの戦闘だ。怖くないはずがない。
倒した男達の懐を探る。
すると、何人かの男達が確かに爆弾を所持していた。
しかし・・・
「爆弾・・・?」
それは確かに爆弾であった。
しかし私の想像していた、美術島の爆弾レベルではないにしても、建物を一つ吹き飛ばせる様な爆弾ではなかった。
こんな爆弾じゃ出店一つ壊したり、建物を火事にすることが精一杯だろう。
本命が他にある・・・?
そうだ、そもそも人が持ち歩くものなのだ。
自爆覚悟でない限り、そんな高火力には設定しない。
つまり、本命は事前に設置した爆弾だ。
「斑井さん」
「ひゃぅ!!」
深く考え事をしている最中に後ろから声をかけられる。
それは、先程の花火組合のメンバーであった。
「いや、驚きすぎだろ。・・・にしても凄いな。後ろで見てたが、圧倒的だった。疑ってすまなかった」
「い、いや、相手が良かっただけだ」
これは謙遜でも何でもない。
実際そうなのだ。
相手が弱いから何とかなった、それだけだ。
そして二人で手分けして爆弾を男達から探し出し、全て解除した私達。
「さて、俺はここの後始末をする。アンタはまたトランシーバーを聞いて動き回ってくれ」
そうしてギターケースを返してくる組合員。
「わ、分かった。それじゃ、また」
「ああ」
『次は倉庫街だ。斑井、さっきの分はもう終わったかい?』
私はトランシーバーの音で、走り出りだす。
そして、トランシーバー越しに玉屋に言葉を返す。
「も、もちろんだ。次は倉庫街だな、分かった。」
『やるじゃないか。引き続き頼むよ』
その労いの言葉に、少し頬が緩む。
私でも役に立てるのだ。
格下相手であるが、ほんの少しだけ自信がついた私は、先程よりも足取りが軽くなった事を感じつつも、我ながらわかりやすい奴だと、苦笑してしまうのであった。




