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WPM:能力探偵七加瀬の事件簿  作者: 空場いるか
花の咲く街
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交月有利の場合

『豊肥通り裏路地に爆弾を持った男二人が入っていきました』


トランシーバーより声が聞こえてくる。


花火組合のメンバーによる追跡作戦は、功を奏している。


既に何組かを制圧し、少なくない数の爆弾を解除していた。


『そこに近いのは、たしか交月だね。迎えるかい?』


「ええ、勿論です」


トランシーバーに向かって話す。


玉屋の言葉を予見して、既に走ってその裏路地へ向かっていた私は、出店で人が多い通りをひた走る。


コスプレも相まって、とても目立つ行動ではあるが、誰もこちらに目を向けない。

何故ならば、気配を限界まで消しているからだ。


(・・・忍術、習っておいて良かったです。)


多くの視線の死角で動く。

音を出さない。


幾つもの気配を消す動作を重ねて動く。


これだけの目があれば見つかりそうな物ではあるが、どの目も七加瀬とは違い、素人の一般人。


見つかる道理はない。


騒ぎを起こさずにすぐさま現場に駆けつける。


裏路地にある、袋小路の一本道。


そこには、先程言っていた二人組がいた。


「なんだ。突然報告もなく連絡が途絶える奴らが多いって言うから、どんな奴が敵かと思えば。こんな可愛らしい姉ちゃんなんてなぁ」


どうやら、誘い出された様だ。

二人の後ろには、拘束された花火組合のメンバーがいる。


流石に入り口が一つの袋小路では、気配を消して近づく事は無理だ。

男達の言っていた様に、今まで行っていたコッソリと近づいて気絶させる作戦は使え無さそうだ。


二人組はナイフを構えて、こちらへと臨戦体制をとる。


「すまねえが、コッチにも都合があるんだ。ここで沈んでもらうぜ、姉ちゃんよぉ」


彼は何を言っているんだ?

あまりにも、不快。

都合だと?


「人の不幸を、都合なんていう自己中心的な物で帳消しにはできませんよ」


「コッチは、もう不幸にされてんだよ」


・・・復讐。


また、それだ。

誰も彼も復讐、復讐。

嫌になる。


私は、出せる最速で男達に向かう。


突然の動きに男達は、一瞬固まる。


しかし私は特に何もせずに、彼らを通り過ぎる。


何かをされると身構えていた男達は、通り過ぎた私を追って後ろを振り向くが、そのときには既に私は花火組合のメンバーを、背中から引き抜いた脇差で解放していた。


「すいません、有難う御座います」


花火組合のメンバーは、申し訳なさそうに頭を下げる。


「いえいえ、お安い御用です。しばらく、ここから動かないでくださいね」


「は、はい」


私は、男二人に振り向く。


「私、怒ってます」


男達は、私の取り出した脇差を見て、少し怯えた表情を覗かせるが、すぐに自分もナイフを持っている事を思い出して、それを構える。


「そんなの顔見りゃ分かる」


「誰がブサイクですって!!」


「「それは言ってない」」


男達は、理不尽な言葉にナイフを左右に振り、可哀想な人を見る様な顔をする。


「もぉ我慢なりません!」


私は肩から下げたナップサックから、丸い手触りの機械を取り出す。


そう、これこれ。


私はその取り出した丸い機械のスイッチを押して、全力で片方の男に向かって投げた。


男は、それが何か分からずに、手にとってしまう。


その瞬間。


「あぎゃぎゃぎゃぎゃが」


その玉から強い電撃が放たれる。


その衝撃によって、片方の男は気絶する。


「お、おい!大丈夫か!」


気絶した男に気を取られたもう一人の男に、私は気配を消して近づき、首への脇差の峰打ちで気絶させる。


「ふぅ。もう動いて大丈夫ですよ」


私は倒れ伏した男達の鞄に入っていた爆弾を解除しつつ、花火組合のメンバーである男性へと振り向き話しかける。


そんな私に、男性は率直な疑問をぶつけた。


「貴方は、一体何者なのですか?」


その言葉に、私は誇らしげに胸を張って答える。


「七加瀬特別事件相談事務所の探偵です」


「それは知ってます」


それ以外?

それ以外だと・・・。


「七加瀬さんの嫁です」


「結婚されていたんですか?苗字が違う様な・・・?」


「事実婚です」


「成る程、そうだったんですね」


「はい。しかし、七加瀬さんは恥ずかしがるので、この事はご内密に」


「は、はい・・・?分かりました?というより、私は何故そんなに強いのかを聞きたかったのですが・・・」


「ああ、そういう事ですか。一応、有名なボディガードの血筋なのと、単純に色んな武術を習っているからですね」


私の戦闘法は、108まであるのだ。


「そうだったんですね。納得しました」


「いえいえ。それでは、もう尾行は大丈夫なので、そのまま街中での爆弾探しに移ってください」


「はい。有難う御座います、探偵さん」


そうして、男性は路地裏から走り出していく。


「こうして、外堀から埋めていくのが大事なのかもしれませんね」


そう、彼の中では七加瀬と私は夫婦になったのだ。

これを、あと数億回繰り返せば、日本では実質結婚したことになる。

簡単ではないか。


その場の後始末をしながら、そんなしょうもない事を考えていると、トランシーバーからまた声が聞こえてくる。


『次は賀田日通りの裏路地だ。やばいぞ、十人くらい集まってる』


『そこに近いのは、斑井だね。・・・いけるかい?難しいなら交月の援護を待っても良いが』


『い、いいや。やってみるよ』


『そうかい、やばいと思ったら、すぐに助けを呼びなよ』


『わ、分かった』


トランシーバーからの声が途絶える。


私も、一応そこに向かおうかと考えて、後始末を中断しようとするが、この町に来る時の七加瀬の言葉を思い出す。


『もっと堂々と自信を持ってやったら、絶対に凄いと思うんだけどなぁ』


その時は、教育方針が違うと言って否定したが、確かに私は過保護すぎたかもしれない。


仕事の成功体験は、人を強くすると言うし。


頑張ってね、幸子ちゃん。


いつもの自信なさげな言葉を出さなかった、トランシーバーからの幸子の言葉を思い出して、心の中でエールを送る。


そして、中断していた後始末を再開するのであった。

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