玉屋華
朝10時。
旅館の前に、再度集まる花火組合メンバー。
人数は前回より多い。
恐らく、前回は参加していなかったメンバーも今回は集まっているのだろう。
旅館の前の通りは、人でパンパンになっていた。
その人混みに俺達事務所のメンバーも加わる。
集まった花火組合のメンバーの間には、緊張感が満ちている。
祭りの前の緊張感といえば聞こえは良いが、今回に限っては、それだけではない。
花火大会の存続をかけた、大一番なのだ。
そんな張り詰めた空気の中で、とうとう旅館から玉屋が現れる。
集団の前に立った玉屋は、いつものように負けん気の強い表情で話そうとするが、それを止め、軽く頭を振り不安げな表情を浮かべながら話し始めた。
「今日は集まって頂きありがとうございます。・・・私は、良いリーダーじゃないかもしれません。この中には、偉大な先代の女将に惚れ込んで組合に入った方も多いでしょう。先代の女将と比べて、私は何も成し遂げていない。ただ、花火大会を運営することで手一杯です。だからでしょうか。今回の様な事件が起こってしまいました。ただ、そんな事件が起きてしまっても、幼い頃から見ていた綺麗で、大好きな花火を続けたい、今回も成し遂げたいというのは、完全に私の我儘です」
玉屋は、そこで一度言葉を止める。
そして顔を軽く伏せながら、自信なさげに再度話し出す。
「命の危険もあります。此処で抜けても、誰にも文句は言わせません。ただ、それでもと・・・それでもと言ってくれるのならば・・・お願いします。私に、力を貸してください」
玉屋は最後に頭を深く下げる。
玉屋の肩は震えており、普段の自信満々で度胸のある玉屋からは想像できない姿であった。
あの姿は、彼女なりに先代の女将に負けない様にと被った仮面なのだろう。
偉大な先代と比較され続けてきた彼女にとってそれは、なによりも必要なものであったのだ。
その女将の本来の姿と、切実な問いかけに、誰も口を開かない。
無限に感じる沈黙。
その沈黙を破ったのは、やはりあの男であった。
「別に、俺達は前の女将の義理で働いてる訳じゃねぇ!俺達が花火が好きで、この町が好きでやってるんでさぁ!女将と俺達の気持ちは一緒だ!それに、女将の頑張りは昔から見てきた俺達が一番知ってる。胸を張ってくれ、女将!俺達の女将はもう、先代の“玉屋香織”じゃなくて、“玉屋華”なんでさぁ!」
阿佐見が、よく響く大きな声で叫ぶ。
その声に負けじと、溢れるように組合員から次々と賛同の声が上がる。
「そうだ!女将は悪くねえ!頭を上げてくれ!」
「此処で逃げる奴なんて居ねえよ!俺達の祭りなんだ!負けらんねえよ!」
「命より大事な物が俺たちにはあるんだ!」
組合員の激励の言葉に、玉屋は顔を上げる。
その顔には、堪えきれずに大粒の涙が流れている。
気丈に振る舞う為に、涙をずっと我慢してきたのだろう。
その泣き顔には、温かな組合員への感謝の微笑みと、ほんの少しの解放感が表れていた。
「よし!じゃあ、やるよ!お前たち!」
鼻声でもよく通る声で、玉屋が号令を出す。
『うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!』
組合員達の、気合の入った声が辺りを満たす。
それぞれ手を挙げて、モチベーションはMAXといった状態だ。
「俺達も頑張りますか」
「あ、ああ。絶対に負けられないな」
「勿論です。必ず、大会を無事に終わらせます」
組合員に当てられて、我が事務所のメンバーもやる気満々だ。
「しかし・・・この状況でも、まだやろうってんのかねえ、爆弾魔さんは」
俺は、この集会にも出席しているであろう太田を思う。
そして、ジャケットに未だ取り付けられたままの盗聴器にしっかりと聴こえる様に、話す。
「さぁ勝負だ。爆弾魔」




