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WPM:能力探偵七加瀬の事件簿  作者: 空場いるか
花の咲く街
71/97

方針

旅館へと帰った俺達をフロントで玉屋が迎える。

ずっとフロントで俺達を待っていたのだろうか?


「どうだった?」


玉屋は入り口から入ってきた俺達に近づき語りかける。



「それがだな、」



俺達は、阿佐見が居たので朝陽が逃げてしまった事、そして朝陽がまた酒場に出没したらマスターから連絡が来る事を玉屋に話す。



「あのバカには、これからは重要なことは任せない様にするよ」


案の定、玉屋は呆れた表情を浮かべ、頭を抱えた。


「ところで、玉屋さんは朝陽さんがあのバーに現れる事を何故知っていたんですか?」


「母親が生きてる時に良く言っていたのさ。あの男は祭りになると、あのバーで酒を飲み始めるってね」


「そうですか、お母様が・・・」


「何故か母親は、あの男のファンだったからね。それより、明日の事を少し話そうか。来な」


そう言ってフロントの奥へと消えていく玉屋。


それについて行く俺達。

フロントの奥は事務所になっている様だ。


その事務所の一室へと玉屋に手招きされるがまま入る。


そこは玉屋専用の部屋なのだろう。


歴代の女将の写真が飾られている事からそれが分かるが、その部屋は決して豪華な部屋ではなかった。


しかし、そも旅館の女将という仕事を行なっている時点で、豊かさを受容する様な人柄ではないことは明らかなので、役職に見合った部屋とも言えるだろう。


促されるままに備え付けの椅子に座る俺達。


「さて。明日の事なのだけど、トランシーバーを組合員全員に持たせる予定さ。アンタらにも先に渡しておくよ」


そう言って玉屋はトランシーバーを懐から三台取り出す。


「そして、太田の仲間の家には朝から信用できるメンバーを張らせておく。これで動く爆弾は潰せる筈さ」


「トランシーバーは太田さんには渡さないんですか?」


「太田には回線が別のトランシーバーを渡す。それで問題ない筈だ。ああ、あと爆弾を持って動く奴らを倒す役については、アンタ達に任せるよ。腕利きなんだろ?」


「勿論。そこいらの奴に負けやしないさ」


俺は胸を張る。


ただの町のチンピラに負けたりすれば、探偵業は廃業しなければならないだろう。


余裕余裕。


「それじゃ、明日の10時から作戦開始だ。それまではゆっくりしときな」


「ああ。そうさせてもらおう」


話は終わっただろうと、俺は椅子から立ち上がる。

そして部屋から出ようとする俺達に、玉屋は声をかける。


「この事件・・・解決出来そうかい?」


その声には、後ろを振り向いて表情を伺わずとも分かる程に、不安が乗せられていた。


だからこそ、俺は振り向かずに答える。


「明日が山だ。それさえ越えれば、あとは余裕だな」


「そうかい。それじゃあ任せるよ、探偵」


「任せとけ」


部屋から出る俺達。

そしてフロントを抜けて部屋へと戻る道中。


「が、頑張らないとな」


幸子がより決意を固めた様に拳を握る。


気丈に振るまう玉屋の脆い一面が垣間見えたので、より気合が入ったのだろう。


さらに幸子の場合は、依頼人として事務所に来た昔の自分を重ねているというのもあるかもしれない。



直ぐに部屋に戻った俺たちは、先程入り直した気合のままに、武装の確認を行う。


俺はナイフと伸縮式特殊警棒。


有利は謎の機械多数と、背中に隠せるコンパクトな脇差。


幸子は、ギターケースの銃二丁と、俺と同じ伸縮式の警棒を持つ。


「あっ。そういえばコレも、もう渡しときますね」


そして有利から渡されたのは、昼頃にお披露目された爆弾解除君だ。


「この爆弾解除君ですが、何と筒の先っぽから高圧電力を流せますので、スタンガンとしても使える優れものでして。明日は相手が一般人という事もあるので、役立ててくれればと思います」


「そうは言うが、スタンガンって本当に人間が気絶したりするのか?」


「試してみますか?」


思った疑問をそのまま口にする俺に、爆弾解除君の先から電気をバチバチ鳴らしながら近づいてくる有利。


その姿は、いい被検体を見つけたマッドなサイエンティストの様であった。


「え、遠慮しておこう」


生命の危険を感じたので、すぐさま有利と距離を取る。

・・・本当に一般人に使っていいか心配になってきた。俺は出来るだけ使わない様に心がけよう。


「さて、明日の準備もバッチリだな」


「と、所で七加瀬。さっき玉屋に言ってた話なんだが、本当に明日を乗り越えれば余裕になるのか?」


幸子は不思議そうに首を捻りながら訪ねてくる。


その姿は小動物を連想させるが、黙っておこう。

口に出せば、多方面から矢が飛んでくるに違いない。


「珍しく思った事を我慢できたぞ。俺、偉い」


「ぜ、絶対に私の事を心の中で馬鹿にしただろう!」


「七加瀬さん、サイテーです」


結局、矢は飛んで来てしまうのであった。


「明日を乗り越えれば、後は簡単だ。今回の事件は結局の所、廃業の理由を聞き出せば、ほぼ解決なんだ。その結果によって行動は分岐するだろうが、概ねやる事は変わらない」


「話を逸らしましたねー」


「さ、サイテーだな」


「話を聞きなさい!!」


少年漫画の様に、頭から煙を吹き出しながら怒る。

勿論、煙など出ていない。

俺が煙が出ている様な気分なだけだ。


「そんな少年漫画みたいな怒り方をしている七加瀬さんの、やる事とは一体なんなのでしょうか?」


有利には伝わってる様だ。

嬉しい。


幸子は頭にハテナが浮かんでいるので、まだまだ相互理解が足りていない証拠だ。

俺のセンスについてくる為には、もっとコミュニケーションとスキンシップを重ねなければダメだな。


「簡単な事だ。太田焔と鍵矢朝陽を巡り合わせる。それも、太田が今回の事件の犯人ではないと、言い訳できない様な状態でな」


「成る程。それで、朝陽さんに太田さんを説得してもらおうと言う事ですね」


「ああ、そうだ」


「で、でも、そんな犯人ではないと言い訳できない状態なんて、うまく行くだろうか?」


「大丈夫、考えがあるんだ。二日目の夜には決着がついているだろうさ。三日目は遊び三昧だぞ」


「そ、そうなんだな。き、期待しておくよ」


話も一段落した所で軽く伸びをする。


時計を見ると、時間も深夜に差し掛かろうと言う時間であった。


「さて、俺は大浴場に行ってくる。旅館の楽しみといったら、大浴場だからな。いっとかないと損だ」


「そうですね。幸子ちゃん、私達もいきましょうか」


「あ、ああ。そうしよう。特にやる事もないしな」


そんな、甘い事をいう幸子。


旅館に来てやる事がないだと?

お泊まり会なのに何を言っているんだ、こいつは。


「折角旅館に来たんだ、やる事ならあるだろう?」


「七加瀬さん。もしかしてトランプとか人生ゲームとか持ってきたのですか?」


有利が、少し目を輝かせる。


そんな有利に笑顔を向けて、俺はカバンからある物を取り出した。


「スマブラ」


俺が取り出したのは、据え置き型ゲーム機だ。


「家とやってる事が変わらないじゃないですか!」


声を張り上げて激しいツッコミを入れる有利。

余程予想外だったのだろう。


「も、勿論やるとも」


もっとも、それを聞いた幸子は期待に目を輝かせていた。


「幸子ちゃんも乗り気なのが恨めしいです!」


「そういうなよ。三人でも出来るから」


「そーいう問題じゃなーいーでーすー」


「ハハハ!冗談冗談。ボードゲームも持ってきてるから、それでも遊ぼう」


「でも、スマブラはやるんですね・・・」


「当たり前だろ。俺は地元だと最強だったんだから。幸子にもっと勝ち越してやらないと気が済まん」


「さ、最近は私の勝率も上がってきて、ほとんど五分五分になって来ているんだが?」


俺と幸子の間で火花が散る。


どうやら、本気で分からせないといけない様だ。


「はいはい、分かりましたから。取り敢えず大浴場に行きますよー」


「「はーい」」


そして俺達は、この後に繰り広げられるであろう死闘に胸を熱くしながら、大浴場に向かうのであった。

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