町案内
光玉館の入り口から出た俺達は、その足で祭りの出店に向かおうとするが、後ろから声をかけられる。
「待ってくだせえ!」
そちらを向くと、先程広間にいた阿佐見という大男がコチラに向かってきていた。
「おお、どうしたんだ。たしか・・・阿佐見だったよな?」
「ええ、そうでさぁ。予想より館から出て行くのが早くて追いかける形になっちまった」
確かに阿佐見は軽く息を切らしている。
「それはスマンかったな。で、何の用事だ?」
「いやいや、女将から聞いてやせんか?俺は女将から、アンタ達の町の案内頼まれてんでさぁ」
「知らんなぁ。帰って良いぞ、阿佐見」
「何でそんな上から目線なんですかい!?」
「いや、阿佐見って何かそういう扱いなのかと思って・・・」
「確かにいじられキャラとは言われますがねぇ・・・流石に傷つくんで辞めて欲しいでさぁ」
「仕方ないな。じゃあ帰って良いぞ、阿佐見」
「ループ再生にでも入ったんですかい!?」
そんな遊び相手を見つけた俺と、その被害者の阿佐見を、見かねた有利が止めに入る。
「まあまあ!玉屋さんが言うならきっと考えがあるんですよ!それに、私達に土地勘が無いのは確かなのですから」
「そうでさぁ。それにアッシは屋台組合の組合長で顔も効くから、少し位なら屋台の料金をまけて貰う事も出来るでさぁ」
「それじゃあ阿佐見さん!今日は是非この町の案内を頼む!」
俺は満面の笑みを浮かべ阿佐見に話しかける。
「へ、ヘイ・・・それじゃ行きましょう」
何だ何だ。
今日はとても運が良い日じゃないか。
「ほ、本当に分かりやすい奴だ」
幸子がゲンナリとした表情を俺に向ける。
俺達事務所メンバーと阿佐見は、その足で町を回る。
軽く南部を見回った後、俺達は祭り初日に花火が上がる川を挟んだ北部へと向かう。
「それにしても凄いな。こんなに出店が出てるなんて」
というのも、南部を軽く歩いてみたが、出店が無い場所が見当たらない程の賑わいであったからだ。
似た種類の出店も勿論あったが、それでも祭りが始まる前日にも関わらず全ての出店が繁盛しているのを見るに、出店の需要は推して知るべしだ。
「出店に関しちゃ、県外から商いに来る商売人もいるくらいでさぁ。あまりにも数が多くて、管理がどんどん大変になってきちまったが、この祭りを盛り上げる為ならって、俺達出店組合も頑張ってる次第でさぁ」
「阿佐見さんは花火組合にも出店組合にも入っているのですよね?」
「そうでさぁ。親が出店組合のリーダーだったんですが、ガキの頃に花火に魅かれちまって、そっちにどうしても入りたくて、先代の女将に頼み込んで入れてもらったんでさぁ。親には反対されたんですが、出店ってのがどうしても地味に感じちまってよ。子供だったからって言い訳するつもりはねぇですが、あの頃は若かったんでさぁ。結局激務で親父が腰を壊してから出店組合の大事さに気づいたなんて、アッシもアッシで、ダメな奴なんでさぁ」
「成る程。そういうことがあったんですね」
「だから、両親を亡くして跡を継いだ女将にはシンパシーを感じてるんでさぁ。先代女将への恩もあるし、なんとかして力になってやりてえ。まあ、うちの両親は結局腰も良くなって、ピンピンしてるんですがね」
「と、という事は、阿佐見さんは先代の女将とも何度も話していたって事でいいのか?」
「ええ、勿論。ガキの頃から可愛がって貰いやした」
「じゃ、じゃあ、何で鍵矢が花火を辞めたか知っておるのか?」
幸子が確信的な事を聞く。
その質問に、阿佐見は軽く周りを見渡してから答える。
「それについては、アッシも知らないんでさぁ。それを聞くって事は・・・女将から太田の事も聞いたんですかい?」
「ああ。勿論」
「なら、話は早いでさぁ。アッシからもお願いしやす。花火の爆破阻止だけじゃなく、太田も救ってやって欲しいんでさぁ」
「阿佐見も太田について、何か知ってるのか?」
「あんまり人の家庭の話をするのはアレかと思うんですが、鍵矢が廃業してからあの一家はもうハチャメチャになっちまったんでさぁ。太田の祖父は町から出て行方知れず。太田の父親は酒浸りで離婚。太田って名前も、母方の旧姓でさぁ。俺も出店組合のリーダーの家の者として鍵矢と玉屋の宴に参加してたから、そこら辺の事情は知ってるんですが、ガキの頃の憧れもあって、花火以外であの二つの家が争う姿なんて見たくねぇんでさぁ」
阿佐見は軽く拳を握り、目を伏せる。
そんな阿佐見を元気付ける為に、俺は軽く肩を手で叩く。
「心配すんな。俺が何とかしてやる」
そんな俺の言葉に、阿佐見は不安そうな顔をやめて笑顔を浮かべた。
「なんでしょう。短い付き合いですが、アンタがそういうなら、本当に何とかなっちまう様な気がしてくるでさぁ。アンタは不思議な人だ」
「ふははは!これも人徳が成せる技だなぁ!」
阿佐見の褒め言葉を受けて、俺も笑みが溢れる。
「ちょ、調子に乗らなければ完璧なんだけどな」
幸子はそういい、ため息をつき肩を下げる。
「それも七加瀬さんの良いところですよ!」
一方の有利は満面の笑みだ。
「そ、それは私も勿論わかっているんだが、七加瀬の良さが、周りに伝わりにくいと思ってだな」
幸子は頬を軽く赤らめ、唇を尖らせる。
とうとう幸子も、偉大な所長の良さが分かってきた様だ。
「ふふふ、幸子ちゃん。・・・後で路地裏に行きまょうか」
そんな幸子を見て有利は、瞳孔を開かせ、口元に感情の伴っていない笑みを浮かべる。
有利が幸子に時々見せる表情なのだが、未だにその感情がよく分からない。
一体どんな感情になれば、あの様な表情が浮かぶのだろうか?
「え、ええ!何でだ!?」
「何でも何もありません。私の脳味噌が破壊されない為です」
「さ、更によく分からないぞ!?」
そういいつつ戯れ合う二人を見ていると、此方も楽しくなってくる。
やはり、幸子を事務所に迎えてよかった。
「アンタも憎い男ですねぇ」
そんな俺を見て、阿佐見が羨ましそうな声を上げる。
「そうだろうそうだろう。最高のメンバーが揃ってるからな」
「いや・・・そういうわけじゃねえんですが・・・まぁいいでさぁ」
「?」
「それより、そろそろ近づいて来たでさぁ」
そうして進行方向を見ると、大きな橋が見えて来た。
その橋の中腹辺りには、遠くからも見えていて気にはなっていた、黒い大きな塔の様な物もある。
「アレが、この町の北と南を繋ぐ大橋でさぁ」
橋を指差して阿佐見が話す。
その橋は、車が四台は並んで走れる様になっているのに加えて、人間が歩く歩道も左右に整備されていた。
そして黒い塔は近づくと分かったが、橋に密接して建てられており、橋から出入りできる様だ。
見た感じ、灯台の様な建造物に似ているが、その役割は不明だ。
しかし、それ以上に気になる事がある。
「あの橋、あまりにも誰も人が通っていないのですが、それは何故なのですか?」
そう、今周りに溢れかえっている人が何故かあの橋には一人もいない。
そんな疑問に阿佐見は何だ、そんな事かと言った様に答える。
「あの橋だけじゃねえです。この町にある三つの大橋は、祭りで賑わう期間中は、車も人も通れない様にしてるんでさぁ。他にも小さな橋は幾つもあるから、そこを使って南北移動する様に町ぐるみで声かけしてるのと、単純に大橋は通るなって張り紙してるからでさぁ」
「何でそんな事を?」
「何年も前の話ですがねぇ、南部で祭りの熱気に当てられて大喧嘩が起きちまったんでさぁ。その時に、北部に大きな警察署が有るんですが、その警察署からパトカーを回すも全ての橋が大渋滞を起こしていて、全く現場に辿り着け無かったんでさぁ。結果として、怪我人が多数出ちまって。それ以降、三つある大橋はパトカーと救急車しか通れない様にしてるんでさぁ」
「それが理由なら、別に人は通ってもいいんじゃないか?」
「そう思って始めは車限定で通行止めにしてたんですが、そうしたら、だだっ広い車の通らない道だ。次は人で埋め尽くされちまいまして」
「ああ、そうなるのか」
「ええ。だから人も完全通行止めで、花火組合の者しか通れない仕来りになってるんでさぁ」
「成る程ね。あと、もう一つ聞いていいか?」
「勿論、その為に案内してるんでさぁ」
「助かる。で、あの黒い塔は何だ?遠くからもずっと見えていて、気になっていたんだが」
「ああ、あの塔は灯台でさぁ」
「意外と見たまんまなんだな。でも何で灯台のがあんな所に?」
「海にある灯台とは、また違うんでさぁ。そんなに強い光も出せねえですし。ただあの塔は、花火を上げる時に南北で連携を取る為に、テッペンの電気の色が変わる様になってるんでさぁ。あの黒い塔は、三つの大橋全部に付いていて、特に三日目は塔のテッペンの色を見て花火を打ち上げるから、とてつもなく重要なんでさぁ」
目の前にある橋から東西に目をやると、確かにそれほど離れていない距離に、同じ黒い塔が見える。
「花火が見やすい様に、建物の高さに制限を設けてあるこの町で、一番高い建物でさぁ。塔の内部に何個かスペースがあるのと、屋上もあるんで、祭り以外の日には時々イベントも開かれる様な場所でもあるんでさぁ」
「花火の町らしい建造物だな。それにしても、建物の高さの制限をしてるのか。通りで空の見通しが良い訳だ」
「これに関しちゃ、町ぐるみの努力の証って奴でさぁ。さあさあ。アッシは花火組合なんで、とっとと、この橋を渡っちまいましょう」
そう言って、立ち入り禁止の看板を無視して俺達は、川の南側から北側へと移動するのであった。
PVが気づけば3000にいってました。
普段から読んでくださってる方のお陰です。
この調子で目指せ1万!
でもPV数を指標にするのって、もしかして・・・志低いのでは?




