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WPM:能力探偵七加瀬の事件簿  作者: 空場いるか
花の咲く街
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花火組合

光玉館の女将である玉屋に連れられて、俺と有利は光玉館の広間へと案内される。


そこは、数十人が宴会出来る大広間であった。


しかし、そんな広大なスペースの有る大広間は、祭りの法被と鉢巻を巻いた大量の人物で埋め尽くされていた。




玉屋と俺達が部屋に入るや否や、部屋にいた人々は皆、コチラへと目をむける。


そしてその人混みの中から、角刈りの大男が声を上げた。


「お嬢!そいつらが前に言っていた探偵ってやつですか!!」


どうやら、彼らは事情を知っている様だ。


恐らく、彼らが先程玉屋が言っていた花火組合のメンバーなのだろう。

彼らの表情をよくよく見てみると、余裕が無さそうにしていたり、憤りを露わにしている者もいた。


それ程に、花火大会への爆破予告が彼らに効いているのだろう。


阿佐見(あさみ)!此処では女将と言いな!何度言えばわかるんだい!」


玉屋は、その阿佐見と呼ばれた男を怒鳴る。


「す、すいやせん、女将」


怒鳴られた阿佐見は、明らかに玉屋よりも年上で体も大きいが、肩身が狭そうに頭を下げる。



それ程に、玉屋は怖い。


いや、怖さとは少し違う。

どちらかと言うと、人を恐れさせる様な圧が有ると言うべきか。


美しい薔薇には棘があるとは、まさにこの事だろう。


「あっ!」


そんな玉屋の一喝で場は収まったかと思いきや、また声を上げる人物がいた。


声の方へ俺は目線を向けると、そこには先程光玉館の入り口で出会った、優しそうな男性従業員がいた。


その従業員は、目を輝かせながらこちらに話しかけて来た。


「先程の小悪魔美人浴衣少女さんと、その部下さんじゃないですか!貴方たちが、女将の言っていた探偵さんだったのですね!」


そのあまりにも頼りない二人の肩書きに、再度広間はザワつき始める。


自業自得なのだが、本当にやめてほしい。



俺は苦笑いを浮かべながら、元凶にもなった有利の方を見ると、何故か無表情だ。


普段からコスプレをしていると、この程度の羞恥は大したものではないのだろうと納得しかけたが、何かおかしい。


よくよく有利を見てみると、瞬きすらしていない。


こ、コレは・・・魂が抜けてる!!??



「も、戻ってこい有利〜!」


俺は有利の肩を揺らす。


「・・・はっ!綺麗な川が見えました!」


「きっとそれは三途の川だ・・・危なかったな。帰ってこれなくなる所だった・・・」


「対岸に亡き父が居ました」


「やっぱり三途の川だ・・・」


「ふんどし姿で・・・」


「三途の川じゃなくて地獄だった・・・。地獄絵図だ・・・」


「七加瀬さん・・・私、帰りたいです」


「俺もだ・・・」


二人は肩を取り合う。


「あんたら、依頼を達成せずに帰るつもりかい?」


そんな俺達をジロリと睨みつける玉屋。


「「勿論そんなつもりは無いです!はい!」」


俺と有利は背筋を伸ばして玉屋の質問に答えた。


玉屋姉さん・・・怖すぎる。


「太田。アンタもアンタもだ。無駄口叩くんじゃないよ」


「すいませんでした」


太田と呼ばれた男性はペコリと頭を下げる


「・・・さて、やっと静かになったね。改めて紹介させてもらうよ。私が玉屋華、花火組合の責任者をやってるよ。そして目の前にいるこいつらが、花火組合のメンバーだ。って言っても全員じゃなくて一割位の人数だけどね」


玉屋の言葉に、部屋にいた組合員の全員が頭を下げる。


「さぁ、私達の紹介は済んだね。次はアンタらの番だ。もちろん、小悪魔美人浴衣少女と、その部下なんて、情けない自己紹介はしないだろうね?」


「ああ、当たり前だ。俺の名前は七加瀬だ。今回の事件で依頼を受けた、探偵だ。七加瀬特別事件相談事務所の所長でもある」


「そして、私が交月有利と申します。同じく七加瀬特別事件相談事務所所属です。よろしくお願いします」


俺は胸を張り、有利は頭を軽く下げる。


「なんだい。やれば出来るじゃないか。それなのにどうして巫山戯るんだか、よく分からない奴らだね」


「性分なんだ。すまない」


「まあ良いよ。それより、依頼についての事を話そうじゃないか」


「依頼は確か、爆破の阻止だったか?」


「ああ、そうだよ。大体一ヶ月前くらいからかね、爆破予告が組合宛に何度も届いてね。丁寧に脅迫文まで付けてきて、とんだ暇人もいたもんさ」


「警察には相談したのか?」


「してないよ。する気も無い」


「それは何でか聞いても良いか?」


「爆破予告なんて警察に知れりゃ、大会が中止になっちまうだろうが。本末転倒ってやつだね」


「成る程な。それで葉連爺さんに話した所、俺らに依頼が回って来た訳だ」


「葉連爺とは、先代の女将だった母さんの時代からの付き合いでね。争い事や困った事があれば頼れって言われていたのさ」


「言われていたって事は・・・」


「ああ、もう何年か前に事故で父親と一緒に、おっちんじまったよ。別に大した事じゃ無い、よく有る話さ」


そんな玉屋の言葉に、組合員は目を伏せる。


先代の女将であった玉屋の母も、玉屋と同じく組合の責任者だったのだろう。

数年の月日が流れても、組合員は未だ先代を失った傷が癒えていない様だ。


「だから、先代の為にも花火大会は中止にしないで続行したいって事だな?」


俺の言葉に、組合員達は頭を縦に振る。


しかし、玉屋は違った。


「何言ってんだい。別に先代からはそんな事、頼まれちゃいないよ」


『えーーーーーー!?』


組合員達は驚きの声を上げる。


『俺は、そうとばかり・・・』


『私も亡き母の為にって、泣ける話だと思ってたのに』


「何回言わせるんだい?静かにしな!」


その言葉に組合員達はまた静かになる。


「あんた達、花火上げるのに毎年いくら金が掛かってるのか分かってんのかい?街からの援助はあるが、こんな高額の催しは一回コケたら最後、次に花火を上げられるのは何年先になるか分からないよ!だから中止するわけにはいかないのさ。だから警察にも言っていない、私達だけで解決する。お前らわかったかい!!」


『おうっ!』


組合員達は気合いを入れた声を上げる。


揃った声からは、彼らの連携力が見えた。

何年も同じメンバーで花火大会を行なっているのだから、当然の事だ。


「で?その脅迫文は何て書いていたんだ?」


「ああ、コレだよ」


玉屋は浴衣の懐から紙を取り出し、それを俺に手渡してくる。


三つ折りにされた紙を開くと、そこには新聞の切り抜きを使用した文字で、文章が造られていた。



“今年の花火大会を中止しろ。中止しなければ、街は爆弾の火に包まれるだろう”




「恨まれる心当たりはあるのか?」


「さあね。しかし、町ぐるみの花火大会なんてやってる時点で、心当たりは無くとも爆破したくなる様な理由は作られやすいだろうね」


「成る程な・・・。動機から犯人に直接結びつけるのは難しいか」


「予告状に爆弾を仕掛けた場所のヒントも有りませんし、どうしましょうか?」


「よくあるミステリーみたいに、ヒントを辿ってなんて上手くはいかないか」


「それに関しちゃ、ウチのメンバーを使ってくれて構わないよ。人数だけは多いからね。足を使って爆弾を見つけてくれるだろうさ。代わりにあんた達には爆弾の始末と犯人を任せたい」


俺は、広間にいる組合員達を見渡す。


確かにこれだけの人数の十倍程度の人員が居れば、人海戦術も可能だろう。


「でも、犯人が爆弾を持ち歩いていたらどうするんだ?」


「それに関しては対策済みさ」


「対策って・・・?」


そんな不可能では無いかと思われる話を聞いた時、大広間の入り口が勢いよく開く。


そして組合員の一員であろう男が部屋に入ってきて、その勢いのままに大声で叫ぶ。


「女将!!怪しい奴が、光玉館の周りをうろちょろしてやがった!!!しかも凶器まで持ってやがった!!!」


その部屋に入ってきた男の声と共に、廊下では数人の男の声と、弁明の声が聞こえてくる。


「コラ!暴れるんじゃねぇ!!銃なんて持ってやがって!この犯罪者が!!」


「あ、あれは違うんだ!そ、それに、弾もゴム弾だから!凶器じゃないから!犯罪者じゃないから!」


「犯罪者は皆んなそう言うんだよ!」



・・・その怪しい奴の声は、あまりにも聞き慣れた声であった。


「・・・七加瀬さん?怪しい奴って・・・」


「迫間のカードも、一般人には何の変哲もないカードだからな・・・」



そして廊下の男達が無理やり連れてきたのは案の定、幸子であった。


「あっ!!な、七加瀬!ゆ、有利ちゃん!この人達に何とか言ってくれ!!」


幸子は、俺達の方へ助けを求める視線を飛ばしてくる。


「えっ!って事は、あんた達も犯罪者か!?」


幸子を連れてきた組合員は、俺達の自己紹介の場面には居なかったので、未だに状況が理解できていない様だ。


「・・・アレも、アンタ達のお仲間かい?」


「ああ、そうだ」


その言葉に、玉屋はため息をついて頭を抱える。


「とことん人を不安にさせるのが上手い奴らだね・・・」


「「すいません」」


「おい!離してやりな!!ソイツも前に言った、依頼した探偵の仲間だよ!」



「ええっ!この犯罪者が!?」


「だ、だから犯罪者じゃ無いって言ってるだろぉ!!」


その言葉に幸子を両脇で拘束していた男達が慌てて幸子を離す。


「あっ、す、すいやせんでした、勘違いしちまったみてえで・・・」


「あ、い、いや、良いんだ。わ、分かってくれたらそれで」


幸子を捕まえていた男達と幸子は、互いにペコペコ頭を下げ合う。


そんな姿を見て、またもや玉屋がため息をつく。


「ハァ・・話が進まないから、後は私と探偵達で話す事にするよ。アンタ達は出ていきな」


その玉屋の言葉に、そろって広間から出て行く組合員達。


「女将!何かありましたらすぐ呼んでくだせえ!」


阿佐見が拳を握りながら、熱い視線を玉屋に飛ばして部屋から出て行く。


「七加瀬さんと交月さん!また、お話ししましょう!」


太田も柔和な笑みを浮かべて、俺と有利に手を振りながら部屋から出て行く。



そして、大広間には俺と幸子と有利、そして玉屋が残された。


先程までは人で溢れていたこの部屋も、こうなってしまっては少し寂しさを感じてしまう。


「さて、じゃあ話の続きといこうかね」


そう、玉屋が話を始めようとするも、それを遮るかの様に、控えめに手を上げる人物がいた。


それは、幸子であった。


「あ、あのー、ちょっといいだろうか?」


「ん?何だい?・・・ああ、そういえば、自己紹介がまだだったね。ここの女将と花火大会の組合の責任者をやってる玉屋華だ。よろしくね」


「こ、これはご丁寧に。わ、私は斑井幸子だ。よろしく・・・ってそうじゃ無いんだ。自己紹介は確かにまだだったけど、それじゃなくて・・・」


「ハッキリしないね。何か言いたいことがあるのかい?」


「あ、ああ。一つ聞きたいんだが、さっきまで部屋にいっぱい居たのは花火大会の組合員達で間違いないだろうか?」


「ああ、そうだよ。全員、花火大会の組合員だ」


その言葉を聞くと、幸子は少し目を泳がせた後に、困った様な顔を浮かべて話し出した。


「さ、さっき道に迷った時に、川の近くの倉庫で、祭りを破壊してやるって集団を見つけたんだ」


「お手柄じゃないですか!幸子ちゃん!」


「やるな!コレですぐに事件解決出来るぞ!」


俺と有利は手を叩いて喜ぶ。

しかし、幸子は未だ困った表情のままだ。


「そ、そうだな。そうなんだが・・・ただ、その時に見た集団のリーダーが、居たんだ」


「居たって、何処にだ?」


俺は首を捻る。


そして幸子は、一言も話さない玉屋にチラリと視線を向けてから、話し出した。


「・・・く、組合員の中に・・・だ」


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