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WPM:能力探偵七加瀬の事件簿  作者: 空場いるか
花の咲く街
61/97

コスプレ

そういえばPVがいつの間にか2000を超えてました。


いつも読んでくれている方、ありがとうございます。

File✳︎continue



「ふぅ」


なんとか30分遅れで布連通駅に着いた俺は、駅構内の大きな柱に背中を預けながら待っていた。


依頼人の迎えを待っているわけではない。


依頼人はどうやら、既に葉連爺さんが予約を取っている旅館に待機しているとのことだからだ。


では、何を待っているかというと・・・。


「ちょっと!有利ちゃん!こ、これはダメだって!!」


「えー可愛いと思うんだけど」


駅に着いて直ぐに、多目的トイレに二人で入って行った、有利と幸子を待っているのだった。


「た、助けてー!」


トイレの横開きのドアでは、遮断しきれない叫び声が聞こえてくる。


・・・二人で入って行ったは、正しい表現では無かった。


有利が幸子を拉致してトイレに入って行ったが、正しい表現だろう。


「え!ちょ、ちょっと有利ちゃん!絶対にそれだけはダメだからね!」


「では、ご開帳〜!」


「やめてーーー!」


そうして言葉通りに開いたトイレの扉から、有利に背中を押された幸子が飛び出してくる。


その姿は・・・


「浴衣?」


いいや、違う。

確かに、殆ど浴衣だ。


黒の基調色に、鮮やかなピンクと薄紫の花が咲く浴衣。


だがしかし、明らかに違う部分がある。


その部分とは、本来の浴衣ならば出るはずのない健康的な太腿が、際どいラインまで出てしまっている事だ。


「ミニスカ浴衣だ・・・!」


「イェェス。幸子ちゃんが最高に似合ってて私も興奮してます」


トイレから出てきて、そう言う有利も色違いの全く同じ衣装を着て、やたらと鼻息を荒くしていた。


俺の思わず出た言葉と有利達の大きな声に、祭り前日で駅構内の比較的多い人々がコチラを観ていた様だ。


誰が見ても可愛いと言うだろう幸子と有利のコスプレに駅構内では、歓声が上がる。


そして、恥ずかしさで放心している幸子と腕を組んで自信満々の有利の太腿に、誰しも(男)の視線が釘付けだ。


「ひぅ」


放心していた幸子は、突然我に返ったかの様に顔を赤らめると、変な鳴き声をあげてトイレに帰って行ってしまった。


「ありゃ、帰っちゃいました」


「流石に耐えきれなかった様だな」


「激エロかったんですけどねえ」


有利は不思議そうに首を捻る。


「だからだろうな」


珍しく電車ではコスプレをしていなかったと思えば、まさかこんな事を考えていたとは。


「私はどうですか?!エロいですか?!」


そう言って目を輝かす有利、しかし先程の幸子程の衝撃は無い。

理由は明白だ。


「有利には恥じらいがないから、そんなにです」


実際、先程まで上がっていた歓声は既に止んでおり、視線も明らかに減っている。


「いゃ〜ん」


わざとらしく恥じらう有利。


「あまりにもわざとらし過ぎてピクリともしません」


「どうすればいいんですか!!!」


有利は激昂する。


「やっぱり普段からコスプレしてるとダメなんやなって思いますねぇ。緩急が必要なんですよ、緩急が」


「緩急ですか・・・今度考えておきます」


ガシャン!


そんな時、多目的トイレの入り口が勢いよく開く。


その入り口から私服に戻った幸子が、コチラに肩を怒らせながら歩いてくる。


その顔は、先程の羞恥からか、未だに赤く染まったままだ。


そしてその勢いのままに有利の肩を両手で掴み、幸子にしては珍しく声を荒げ、話した。


「有利ちゃん!!」


「は、はい!」


「・・・二度と私にはコスプレさせないで」


「わ、わかりました!」


「本当に分かった?!」


「い、イエッサーー!」


幸子と有利の立場がいつもと逆で、少し微笑ましい。


「よし。それじゃあ」


「それじゃあ?」


「は、早くここから逃げよう」


そう言い、目立っている駅構内から全力ダッシュで走って逃げていく幸子。


「ちょっと待って幸子ちゃん!」


そう言い追いかけようとする有利を、俺は引き止める。


「有利は着替えなくて良いのか?」


「え?布連通町では、このコスプレで行くつもりですけど?」


「・・・幸子の苦労は、まだまだ続きそうだな」


この依頼中、ずっと目立った状態が続く事が確定した瞬間であった。

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