幸運
ベンチから立った私は、自販機の元へと向かう。
向かいつつも私の左手は、常にポケットの上からカードの感触を確かめている。
「こんな責任のあるカード、怖くて身につけたくないな・・・」
そんな弱音を一人吐きながら、自販機へと向かう私。
そして少し歩いて自販機に辿り着くと、10台後半の、高校生くらいだろうか?
それくらいの、見た目が大人しめの男の子が自販機の前で困っている様子だ。
近づいて様子を見てみると、ボタンを押していないのに自販機から色々な種類の飲み物が何回も吐き出されている。
「お願い止まってよ〜」
そんな独り言を、その男の子は呟く。
そんな呟きの後にすぐに自販機は止まるが、その時には既に両手で抱えられないほどの多種多様な飲み物が自販機から溢れていた。
「あ〜どうしよう・・・」
そんな悲壮な独り言の後に、後ろで見ていた私にその男の子は気付くと、申し訳なさそうに片手で頭を抱えながら話しかけてくる。
「すいません、お姉さん。良ければ、好きな飲み物持って行って貰えませんか?」
「い、良いのか?」
「ええ、人を助けると思って」
「で、では頂こう」
私は男の子が自販機の前に並べた飲み物から、お茶のペットボトルを一つ持っていく。
「あ、有難う」
「いえいえ。お姉さんと会えて本当によかったです」
「そ、そこまで言ってくれると嬉しいな」
そこまで困っていたのなら、助けてよかった。
感謝されて飲み物も無料。
良い事づくしだ。
「じゃ、じゃあ元気で」
私は軽く手を振って、踵を返して七加瀬達のベンチに戻ろうとする。
「ええ、元気で。“またお会いしましょう”」
「え?」
その不思議な言葉に振り返るが、そこには既に男の子は居らず、男の子の存在の証明を行っているかの様に、飲み物だけが自販機の前に並んでいたのであった。




