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WPM:能力探偵七加瀬の事件簿  作者: 空場いるか
花の咲く街
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マーダーライセンス

布連通町とは、K県北部に位置する町。


土地面積は約200㎢で、周りを山に囲まれた円形の盆地を比奈野川が真二つに分ける様に流れる特殊な地形をしている。


K県都市部から離れた土地ながらも、人口密度は比較的高い。


これは年に一度、3日にかけて行われる花火大会の影響が大きいだろう。


300年の歴史を誇るその花火大会は、布連通祭りと呼ばれ、県内外からの観光客と多種多様な出店にて大きく賑わう。




布連通祭りで花火が打ち上がるのは、三日とも20時と統一されているが、打ち上がる場所が異なる。


三日間の開催期間中、初日は比奈野川北部から、二日目は比奈野川南部から、そして三日目は北部南部共に花火が打ち上がる様な催しとなっている。


特に三日目の空を埋め尽くす程の花火は圧巻の一言で、布連通祭りの目玉となっており、初日・二日目と比べても、より多くの観光客が集まる。



「というのが、布連通町らしいぞ」


俺の逃走劇から約1週間。


俺と有利と幸子は布連通町へと向かう為に、電車に揺られていた。


事務所の最寄駅から乗り換えで約三時間。


時間はかかるが、葉連爺さんより預かった交通費を少しでも浮かせる為の判断である。


「そんなの知ってますよ。依頼が決まってから数日経っているのに、まだ調べてなかったんですか?」


「いや、忙しかったんだって」


「その割には夜遅くまで楽しそうにゲームしてましたけどね」


「ゲームは暇な時間にする事ではないのです。予定の一部なのです」


俺の夏休みの学生の様な言い訳に、有利はため息をつく。


「それは良いですが、仕事のリサーチを暇潰しついでで後回しにしないで下さい」


「楽しみは最後まで取っておかないと」


「また心にもない事を」


「いや、縄跳びよりは楽しいぞ?」


「比較対象がショボくないですか?」


「全国の縄跳びユーザーに謝れ!」


「全国の縄跳びユーザーさん、すいませんでした」


「許そう。縄跳びは全ての人類に寛容だ」


「自分の事を縄跳びユーザー代表と思っている一般人さんは、縄跳び得意なんですか?」


「想定では、五重跳びは出来る」


「想定では?」


「縄跳びなんてやった事ないからな」


「でしょうね。やってる姿を見た事ないですし」


「でも、愛は負けない」


「口では何とでも言えるんですよ、口ではね」


「目に入れても痛くない」


「今度入れてみますか?」


「尻に入れても痛くない」


「少しでもマシな痛みに変更するの、意思の弱さを感じますね」


「多分尻になら入る気がする」


「縄跳びユーザーは、尻に縄跳び突っ込んだりは確実にしないですけどね」


「・・・あ、あの、だな」


そんな取り止めもない会話を行っていると、隣に座る幸子がおずおずと話し出す。


「幸子ちゃん、どうしたんですか?」


有利が不思議そうな顔をして幸子に話しかける。


「の、乗り換えなくて良かったのか?」


その言葉を聞いた瞬間、電車のドアが閉まる音が聞こえる。


どうやら会話に夢中で、電車が停まったことにも気づかなかった様だ。


そして窓の外に見える駅名は、事前に調べた乗り換え駅であった。


「「「・・・」」」


三人は顔を見合わせ、時が止まる。


「オーマイガー」


「す、すまない!た、楽しそうに話してたから遮るのも悪いと思って、中々言い出せなかったんだ」


「いや、気付かなかった私達も悪いです・・・次の駅で止まって一旦逆向きの電車に乗りましょう。30分遅れ位で今なら引き返せるでしょう」


「ほ、本当にすまない・・・」


そう言い幸子は、足元に置いている四角い縦長の大きなギターケースの様な箱に顔を埋ずめる。


この箱には、先日葉連爺さんから貰った銃と専用のゴム弾が入っている。



やっぱり、銃を隠すとなったらギターケースだよな。


そう思い一人頷く。


そんな事をしていると、直ぐに次の駅に着いた。


今度こそはと下車し、次の反対方向への電車を待つ間、駅のベンチに三人で座る。


先程の乗り換えの失敗を反省して、俺と有利は会話を行わないが、幸子は罪悪感からか、少し周りの目を気にしながら話し出した。


「そ、それにしても本当にこんな物持ち歩いて良かったのか?」


それは至極当然な質問だ。


ギターケースに入った銃は、本物と比べれば殺傷力は低いが、警察にでも見つかれば間違いなく没収されるだろう。


しかし、その問題は既に解決済みだ。


「大丈夫大丈夫。その為に、花火大会の開催ギリギリまで待ったんだから」


「ま、待ってたのって、このカードだよな?」


そうすると幸子は、ポケットから黒と金が基調のカードを取り出す。


「ああ、そうだ。そのカードさえありゃ、妥当性のある犯罪は全て警察に捕まらずにすむ。別名マーダーライセンスだな」


「ま、マーダーライセンスって大袈裟な」


「実際そうなんだよ。日本において、そのライセンスを持っている即ち、WPM社の私兵・工作員と見做される。早い話、テロリストをぶっ殺しても罪に問われない」


「そ、そういえば、テロリストに私兵で対処してるって前に迫間が言ってたな」


「そうだ。だから警察と話をつけて、こういうカードを作ってるみたいだ。そんなポンポン作れないから作るまで時間は掛かるが、今回の事件の事も考えると必要と判断したから、蕗に頼んで作ってもらった」


「な、なんか責任重くて辛いな」


「まあ、そんな重く見なくて良い。しょうがない軽犯罪を見逃してくれるラッキーカードとでも思って、カード投げの練習にでも使ってくれ」


「か、カード投げには絶対に使わない」


幸子は、カードを両手でおっかなそうに持つ。


そして少し嫌そうな顔をしながらも、再度ポケットの奥深くにカードをしまった。



「す、少し喉が渇いたから、飲み物を買ってくる」


そして緊張で喉が乾いたのか、この銃入りのギターケースから少しでも離れたかったのか、足早に幸子は少し離れた自販機に走っていってしまった。


そんな後ろ姿を見ながら、少しため息をつく。


「もっと堂々と自信を持ってやったら、絶対に凄いと思うんだけどなぁ」


「ちょっと自信なさげな所も、幸子ちゃんの良いところですよ」


「教育方針が違いますな」


「短所を長所と捉えるかどうかですよ」


そんな、しょうもない事で二人で笑いあう。


「にしても、幸子ちゃんが来てから私、楽しいです」


「奇遇だな、俺もだ」


「七加瀬さんはゲーム仲間が増えたからでしょう?」


「そうとも言う。でも・・・」


「でも?」


「人の成長を見ていくなんて新鮮だから、楽しくて俺は仕方ないよ」


「・・・幸子ちゃんに惚れないで下さいね?」


「部下に手を出す様な外道ではない」


「私には手を出して下さいーーーー!」


「やだーーーー!」

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