今回の依頼人は?
「さて、それじゃあ今回の依頼人は?」
事務所に帰った俺は、事務所の所長であるので当然の様に、威厳たっぷりに・・・床に土下座している。
「そ、その格好で言われると流石に無様すぎて殴る気力も無くなるな・・・」
幸子がゴミを見るかのような目で俺を見下している。
先の事件で爆上げした好感度は、既に地に落ちた様だ。
「確かに、七加瀬さんが寝てなければ依頼は来てなかった訳ですし、結果オーライという事で今回は許してあげます」
「ありがたやーーーー!」
そして土下座を続けたまま、俺は有利と幸子に尋ねる。
「で、事務所には誰もいないけど、一体誰が依頼人なんだ?」
「もう仕事があるので帰ってます。といっても、この事務所の真横なんですけどね」
「この事務所の横って・・・もしかして、工具屋の葉連爺さんか?」
「ええ、その葉連さんが依頼人です」
馬連とは横の工具屋の主だ。
通常の工具はもちろん、どう考えても違法な怪しげな電子機器の販売も行っているので、同じガジェットオタクの有利と仲が良い。
お陰で有利の趣味に火がついて、出費がかさんでいるわけなのだが。
「ば、葉連さんが、七加瀬が出て行った後に事務所に来て依頼したんだ。知り合いが困っているから助けてほしいって」
「成る程ね。で、あの爺さんは一体いくら払ってくれるんだ?意外と儲けてると踏んでるから相当な金を絞れると思うんだが」
「葉連さんはいつもお世話になってるんで、そんなですよ。ねぇ幸子ちゃん」
「そ、そ、そうだな!そんなだったな!」
「具体的な金額は?」
「100だったかなー、いや。300だったかなー。そんな感じです」
「た、確かそうだった!そうだったな、うん!」
明確な数字を伏せる有利と、見るからに慌てている幸子。
コレは、何かある。
例えば・・・そうだ。
「銃・・・?」
「ギクッ」
有利が露骨に目を逸らす。
「ゆ、有利ちゃん!流石にギクッて口に出すのは、どうなんだ!?」
幸子が有り得ないものを見たかのように、有利を見て目を見開く。
「有利と幸子は相変わらず正直者だなぁ」
「うるさいですよ!こんな時に探偵スキル発動させないで下さい!」
「ふはははは」
俺は高笑いをあげる。
「ど、土下座しながら笑ってる・・・!」
高笑いをあげても物理的に頭の位置は低いのであった。
「で、そのゴム弾の銃を葉連爺さんから買い取ったんだろう?でも、何で銃なんか?」
あんな銃は事務所で見たことがない。
恐らく直近で仕入れたのだろう。
しかし、わざわざ手に入れた理由が分からない。
有利と幸子は観念したかのように、事務所の棚の引き出しから銃を取り出す。
一つは大口径ハンドガン型。
細部は違うが、モデルはかの有名なDesert Eagleだろう。
Desert Eagle特有の銃本体の大きさも再現されている。
机に置かれた時の、ずっしりと響いた音からもその重さは想像できる。
そして、もう一つはライフル型。
こちらのベースはSCARか、SCAR-H PRか。
長距離用スコープが付いているので恐らく後者だろう。
こちらも細部が異なっており、どちらも正規品ではない事は明らかだ。
「これは二つとも、葉連さんに作って頂いたんです」
「作ったぁ?!」
有利の言葉に度肝を抜かれる。
確かに銃内部の機構さえ理解していれば、簡易なものは作れる。しかし、それは簡易な物止まりだ。
数回使えば壊れてしまうような代物である。
しかし、これはどう見ても正規品と変わらない物。いいや、作品というに相応しい。
あの爺さん、前からやばい物を取り扱ってると思っていたが、まさか銃を自作できるレベルの技術を持っているなんて。
一体何者だ?
「その・・・葉連さんを幸子ちゃんに紹介しに行った時に、銃の話題で盛り上がってしまいまして。それで、幸子ちゃんが銃は能力も併さって得意らしいんで、私が頼んで作って貰いました。いやー、でもまさかこんなにも凄いものが出来上がってくるとは思ってなかったんです」
有利が少し苦笑いを浮かべる。
確かに葉連爺さんとはいえ、有利もこんなに凄い物が出来上がるとは思わなかっただろう。
「で、その値段が高くて払えない訳だ」
「んー。そう言う訳じゃないんですけど・・・」
俺は土下座しながら有利に問い詰める。
そんな俺と有利の間に幸子が割り込む。
「わ、私が悪いんだ!」
「いや、どうせ有利と葉連爺さんの悪ノリだろ?」
「い、いいや、そうじゃなくて。銃の値段に関しては、実は弾代しか掛かっていないんだ。ただ、それじゃ悪いと思って、私にできる事なら何でもするって言ってしまったんだ」
「そうしたら、葉連さんが一つ依頼をただでやってくれる権利をくれって言いまして。おじいちゃんなので大した依頼はないだろうと思って頷いてしまったんです」
「そうしたら、予想以上にヘビィな依頼が来て困ったと言う訳だ」
「どんな依頼にするかじっくり考えるって言うから、少し嫌な予感はしたのですが、言った手前無しにする事も出来ずにって流れですね。でも交通費とか宿泊費は出してくれるらしいので、そこは安心出来ます」
「成る程ね」
俺はずっと続けていた土下座の構えを解除する。
「事情は理解した。じゃあ、依頼でもやりますか」
「い、良いのか?気が乗らないなら、私一人でも・・・」
幸子はそう言いつつも、自信なさげに俯く。
「前も言わなかったか?迷惑を掛ければいい。なんせ、仲間なんだから。それに、幸子の武器がタダで貰えたんだ。それくらいの恩は返さないとな」
「な、七加瀬・・・」
幸子は頭を上げて、感動したように軽く目を潤ませ俺を見る。
「行きますか。いざ、布連通町へ!」
「そうして、今朝の失敗を帳消しにしようとする探偵七加瀬なのであった」
「変なナレーションつけるな有利!!!!」
という事で、3章は七加瀬と有利と幸子の三人で依頼に挑みます。
剣華の出番はもう少し先、という事で。




