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観察



「西本田街に突如現れた白い球体。近辺では連続した地震や津波などの災害が発生している為近寄らないよう十分にーーー」



「あ」



音声が止まると同時に画面も消え、周囲がたちまち暗闇に染まった。静けさと共にくるように、夜風が体を通り越していく。



「新情報もなしっ…」



残念そうに顔を背けながら、遠くの夜景を見渡す。

あたりは静まり返り、街灯が数えられるほどにともっていた。車の音や電子音もしない。聞こえるのは微かな鈴虫の音色ぐらいだった。



殆どの街灯が消え、真っ暗闇になった中でも、あの白く丸い球体は一風を放って存在していた。薄ぼんやりとだが、数百メートル離れたこの山からもちゃんと肉眼で見えることができる。災害を起こす、悪魔のようなもの。


そこにはワクワクとした好奇心などはなく、薄暗く憎しみに近い嫌悪の感情があった。



白い表面からは何かが地面に落ち続けているようだ。



一緒に避難していた人の一人から、双眼鏡を見せてもらった。



ぽとりぽとり。そんな音を立てていそうだ。等間隔で水滴のような物が滴り落ちている。津波の発生源はやはり…



「津波、まだ収まってないみたいって」



誰かの一声が、その場の不安さをよりいっそう駆り立てたように感じた。一時は波が収まったかのように思ったが、そうではなかったのだ。大量に溢れ出た波は、周辺の山にて到達すると衝突し、その反動でまたもと来た方向へと波返していったそうだ。



あれは何なのだ。一体なぜ。誰が何のために。いや、そもそも意味などあるのだろうか。ひとつ疑問が現れるともう一つ疑問が現れる。



ー人間の敵わない、敵うことのできない存在ーー



「地球外生命体」や「エイリアン襲来?」などと、今では全国番ニュースでひっきりなしだ。以前と新情報はでていないと放送はしているのものの、黒い防御服を来た人たちが数時間前から球体を捜査しているのがここからは見えている。その頭上付近で複数のヘリが飛び並ぶ。それらが事態の深刻さをよりいっそう引き立てている。



災害が発生してからもうすでに2日ほどが経過していた。


僕は電池の切れてしまった携帯をしまうと立ち上がり、足についた泥を取り払った。それからゆっくりと人が集まっている方に進むと、その最後尾に向かい立ち並んだ。前に並んでいる人の数を軽く数えると、それから横を向きまた僕が来た方向を見つめた。



「ゲイザー」



聞き覚えのあるカタカナの言葉が僕の頭をふとよぎる。災害を引き起こす巨大な目玉。そんな外見からか一部のネットで使われている呼び名だ。とはいえ一般にその名前が使われるということはなく、避難所や報道では「ひとつ目」と、そう総称されているそうだが、


どちらもモンスターや昔話に出てくるような妖怪を連想させるような言葉であって、それがまたちゃんと適しているというのが分かってしまう。



遠くのヘリ達がどこか一点に向かってライトを点灯し始める。



以前と状況は変わらないまま、時間だけが過ぎていく。


僕はそんな状況下でこれからの行動に頭を悩ませていた。


ここは防災の避難所に指定されているちゃんとした場所。折り畳みの机には人数分の食料が用意されているし、防水で丈夫な簡易用テントだってある。僕ら、避難した市民だけでなく、医療テントを貼り怪我の手当てをしてくれる医療人や定期的に食べ物を手配してくれる役所の人までここには揃っている。


避難した人達が集まり、お互いを励まし合っている者もいる。


先程まではあれほど汗水垂らし、死ぬ気で走っていたのに、今や地面に腰を下ろし、暖かい食べ物を口にできているのだ。とてもありがたいことだと思っている。


だがこれでいいのだろうか。


そんな中、僕の中にはポツリと一つの疑問が浮かぶ。


このままここ(山の山頂)に避難しているということは、状況がいい方向へと一変するのを願い、ただ待っているだけということ。食料が到達すれば配給の列に立ち並び、暗くなると同時にテントに入り込む。日中の大半を何もせずに過ごし、特に考えずに座り込んでいた。だけれどこれでいいのか。



僕は今自らの足で行動をしないということに、歯痒さを感じていたのだ。



とはいえ、僕は、ただの一市民。避難者でありながら、まだ高校生だ。僕にできることを考えるのと同時に、大人達を見ながらなのか、心なしか自身に対し自信のなさを感じているのかもしれない。


いずれにせよ僕が一歩踏み出せないことに僕自身恨事の情を抱いていまようだった。


ラップで包まれたおにぎりを受け取ると、僕はそのまま来た道へと戻った。簡易用のテントを開け、そのまま自分の寝床に座り込んだ。





「キィュッーー」



唐突な甲高い音。聞き馴染みのあるような鳴き声が聞こえた。



「っ?!」



「チュー」



灰色で素早く走り去るそれは、想像とは相反して可愛げのあるものだった。


なんだネズミか…。つい最近耳にした“あの音”に聞こえた僕は、ビクリと体が反応してしまう。



またあの大津波が来たらそれこそ本当に終わりな気がする。


もうあんなことは起きないでくれ、そう願い、また今日も眠りについたのだった。




ーーーーーーーーーー



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