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第1部 謎の綱渡り師:7 アローズ街

 「しかしすごかったな、お前。この野犬は最近この辺りに現れては、皆を震え上がらせていたんだぜ。でも、こいつのお陰で、お前はアローズ街の一員になれたんだ。アレスタに認められれば大丈夫。奴がお前をここに置くことを許してくれるとは、正直思っていなかったけど」ニールがまだ信じられないという表情で言いました。

 「アレスタが門の所で待ち伏せしていた時は、どうなることかと思ったよ」

 明るく笑うウィルとニールを見て、啓はずっと尋ねたいと思っていた疑問を口にしました。

 「ねえ、どうして君達は、見ず知らずの僕を助けてくれたの?昨日、遊園地の人達に嘘までついて、仲間でもない僕を連れ帰ってくれたのは、なぜなの?」

 ウィルとニールは途端に真面目な表情になりました。そして、しばらく黙って啓の顔を見つめていましたが、やがてどちらともなく笑って、顔を見合わせました。

 「だって、君が僕達の同類だって分かっちゃったんだもの。放ってなんておけないだろう?」ウィルが優しい声で答えました。

 「同類って、どういう意味?」啓は意味が分からないと首を傾げます。

 「お前も向こう側からやって来た奴だってことさ。お前も鏡を通ってこちら側に来たんだろう?冷たい水の中を通り抜けるようにしてさ」ニールが啓の顔を見上げて笑いました。

 啓はびっくりして、あやうく持っていたカップを落としてしまいそうになりました。それを見て、ニールは可笑しそうに笑いました。

 「安心しろよ。俺達以外、誰も知らないさ。お前が別の世界から来た奴だなんて、思いつきもしないだろうよ」

 確かニールは今、お前も、と言わなかったでしょうか。お前も、とはどういうことなのでしょう。啓が恐る恐るそのことを聞いてみると、ニールはまた笑って言いました。

 「だから、俺達の同類だって言っただろう。お前を見た時すぐにピンときた。俺達と同じ、こっちの奴じゃあないって」

 啓は今度こそ本当に驚いてしまって、カップを落としてしまいました。こぼれた熱いお茶が自分の服を濡らすのも気付かずに、彼は大きく目を開けて二人を交互に見つめました。

 「君達もまさか、僕と同じように鏡の向こうから?」

 「昨日の朝、洗面台の所で初めてお前を見た時、まさかって目を疑ったんだぜ。一人で鏡に向かって、叩いたりわめいたりしているものだから、すぐに仲間だって分かった」

 「僕達も、君と同じように鏡の向こうから来たんだよ。だからかなあ、ニールから話を聞いて、君を見た瞬間に直感で分かった。でも、他の誰も僕達が鏡の向こうから来たなんて思っていないさ。鏡の向こうに別の世界があるなんてこと、普通は知らずにいるんだから」

 啓は呆然としてしまいました。そんな彼の表情に、二人はくすくす笑いました。

 「俺だって驚いたんだぜ。今まで同類になんて会ったことがなかったから、最初は自分の目が信じられなかった。でもウィルにも確かめてもらったら、やっぱりこいつも、お前が俺達の仲間だって確信したんだ。お前はいつこっちに来たんだ?最初に見た時は、鏡と格闘していたし、姿をファンフェアーで見るようになったのも、その日からだから、つい最近ってところだろうけど?」ニールが尋ねました。

 「君に会った、前の日の夜に来たばかりだよ」啓は答えました。

 ウィルが新しくお茶を注いでくれたので、啓は気持ちを落ち着かせようと飲みました。

 「だからだよ、君を助けたのは。シンザとゴンザに問い詰められているのを偶然見かけて、放ってはおけなかったんだ。どんな理由でこっちに来たのかは知らないけど」

 「二人はどうしてこっちに来たの?じゃあ、向こうに帰る方法も知っているんでしょう?教えてよ、どうやったら向こうに帰れるの?僕は帰れなくて困っていたんだ」

 啓は落ち着きを失って尋ねましたが、二人は気の毒そうに首を振りました。

 「僕達は連れてこられたんだ。だから、残念ながら、自分達だけで鏡を通り抜ける方法を知らないんだよ」

 「連れてこられた?誰に?一体何があったの?」

 興奮して質問してくる啓を静かにさせて、ウィルは言いました。「それはまた今度、ゆっくり時間がある時に話してあげるよ。それに僕達も、なぜ君がこちらに来たのかも、今は聞かないことにする。色々と起きて頭の中がぐちゃぐちゃになっているだろうから、整理がついて君が話したくなった時に聞くよ。僕達も初めてこっちに来た時は、混乱してしまって慣れるまで少し時間がかかったから、君の気持ちは良く分かるよ。とにかく、焦らないで落ち着くことだ。少なくとも、今すぐには帰れないんだしね」

 「帰れない?そんなの困るよ。家族が心配しているだろうし、今すぐ向こうに帰りたいんだ!」啓は声を荒げます。「向こうには友達もいるし、学校だって行かなくちゃあならない。やらなきゃあならない宿題だってあるし、こっちに長居は出来ないよ」

 「でも、帰る方法が分かるまで、どうしようもないよ。焦りは禁物だ」

 静かなウィルの声に、啓は少し落ち着いてきましたが、それでもまだ自分の身に起きた出来事に、納得がいかない気持ちでした。

 「とにかく、君も無事に僕達の仲間入りを果たしたんだ。改めて自己紹介をするとしよう。僕はこの部屋のグループのリーダー、ウィリアムだ。ウィルでいいよ」そう言って彼は啓の手を握って握手しました。優しくて暖かい手でした。

 「ああそうだ、忘れていた。僕はこの部屋のグループのリーダーだけど、実際にはリーダーの一人なんだ。こっちがもう一人のリーダーのニールで、僕の双子の弟だよ」ウィルはいたずらっぽく笑って、顎でニールを示しました。

 ニールはふざけた様子で姿勢を正し、行儀良く啓に手を差し出し、低い声で言いました。

 「リーダーの一人、ニールだ。年は十六才」

 その様子が可笑しくて、啓は思わず吹き出してしまいました。

 「こいつはいつもふざけているジョーカーなんだ。いい年して、まだ子供なんだよ。僕の双子だからって、お情けでリーダーと呼ばれているけど、大概騒ぎを起こす張本人なんだよ」ウィルは笑いながら、弟の頭をくしゃくしゃと掻き回しました。

 「ちょっ、ちょっと止めろよ」ニールも負けじと兄に突っ掛かっていきます。「まだ子供って言うけど、ウィルだって俺と同い年だろう。双子なんだからさ」

 「双子だって僕が兄貴だ。お前は弟、僕より子供さ」涼しい顔でウィルは微笑み、あっという間に弟を押さえつけてしまいました。

 「こいつは双子のくせに、僕に全然似ていなくて、目つきも態度も悪いだろう。でも本当は人見知りする恥ずかしがりやで、意外に泣き虫なんだよ」

 「何を言うんだ、黙れ。離せよ。そんなの出鱈目だ」ニールは笑っているウィルを押し退けようと、必死で体を動かします。

 「まあ、頼りない弟だけどよろしく頼むよ。面倒掛けると思うけど」

 「ウィルにニール?外国の名前?」啓が尋ねました。

 「外国って?小さい頃にこっちに来たから、何処の国で生まれたのか忘れちゃったんだ。君は何処から来たの?」

 「日本の東京だよ。緑ヶ丘市って言う所。名前は天宮啓」

 「ニホン?トウキョウ?知らないなあ。アマミヤケイって変わった名前だね。ケイでいいんだろう?」

 啓は二人を見て笑っている内に、緊張がすっかりほぐれていました。ウィルはニールを離してやり、きちんと座り直しました。

 「ニールがこんな調子だから、うちのグループはジョーカーズって呼ばれているんだ。明日、他の仲間も紹介するね。すぐに皆と仲良くなるよ」

 ウィルが言うと、ニールは大きく頷いて立ち上がりました。「ジョーカーズの一員にようこそ。いつかお前が鏡の向こうに戻れるその日まで、これから楽しくやろうぜ、ケイ。さあ、明日も仕事が早いから、今夜はもう寝ようぜ」

 ウィルと啓が立ち上がると、それまで横になっていた野犬も起き上がりました。

 「そいつ、ケイのそばから離れようとしないな。お前になついたのかもしれないぜ。見ろよ、すっかり大人しくなっちゃってるよ」ニールは野犬を面白そうに眺めました。

 「何だかこの犬、ケイを守っているように見えるね」

 ウィルが言って笑うと、ニールは何かを思いついたようにポンと手を叩きました。

 「そうだ、こいつをジョーカーズの犬としてうちに置こうぜ。番犬にもなるし、いいじゃん。かっこいいぜ」

 すると野犬はニールの言葉が分かるのか、尻尾を振り始めました。

 「それはいい考えだな。だけどアレスタが許してくれるかな。こいつは彼の妹のベニを襲ったんだぞ」ウィルは怖がりもせず、犬の頭を撫でました。

 「さっきはこいつ、気が立っていただけなんだよ。明日アレスタに聞いてみりゃあいいさ。それよりこいつに名前を付けてやらないとな」

 ニールが嬉しそうに言うのを見て、ウィルは呆れたように、

 「まだこの犬を飼えるかどうかも分からないって、話している先から」

 でも、ニールはそんなことはちっとも構わない様子で、啓を振り返りました。

 「お前、どう思う?何て名前がいい?」

 啓は何も思いつかないと肩をすくめました。するとニールが手を叩きました。

 「そうだ、ジョーカーっていうのはどうだ?ジョーカーズの犬のジョーカーだ」

 「ジョーカーはお前だろう、ニール。ジョーカーがグループに二人もいたんじゃあ、堪らないよ」ウィルはくすくす笑いました。

 ニールはむっとしてウィルを睨み付けましたが、犬がまた尻尾を振り出したのを見て、

 「ほら見ろ、こいつもジョーカーがいいって言っているぞ」

 「本当だ、こいつ喜んでいるみたい。どう思う、ケイ」

 啓もその名前が犬に合っているように思ったので、賛成して頷きました。

 「よーし、こいつはジョーカーズのジョーカーに決まりだ」

 ニールが大声を出すと、ウィルが指を口に当ててなだめます。

 「しーっ、静かにしろよ。皆もう寝ているんだから」

 ニールは、慌てて手で口を押さえました。「今が真夜中だってことをすっかり忘れていた。俺達も早く寝ないと、明日寝坊しちまうぜ」

 三人と一匹は足音を立てないように、忍び足でベッドに向かいました。

 

 次の日、朝早く起きたジョーカーズは、新しくグループに加わった啓と、犬のジョーカーを囲んで、外で騒いでいました。啓がすでにアレスタからアローズ街に住むことを許してもらったと知ると、グループの皆は彼を温かく迎え入れてくれました。そして昨晩の、啓がベニを野犬から救った事件を見逃したと知ると、ひどく悔しがりました。

 「僕はサム、よろしく」

 短い黒髪と、ニールのようにいたずらっぽく動く瞳を持つ一五才の男の子が、陽気に笑い掛けました。まつ毛が濃く、立派な眉毛をしています。

 サムを先頭に、全員が自己紹介を始めました。啓と同い年のノエラという十三才の女の子は、綺麗な赤茶色の髪を肩より少し伸ばした、きりっとした表情の気の強そうな子で、賢そうな笑顔で挨拶しました。彼女は自分の後ろに恥ずかしそうに隠れていた、赤毛をお下げ髪にした小さな女の子を、啓の前に押し出して言いました。

 「こっちはミミよ。よろしくね」

 八才のミミは頬を少し赤くして、ぺこんとお辞儀をしました。

 「僕はタエ。昨日の夜、君が野犬を静めるところを見たかったな」

 タエはノエラとは対照的に、気の弱そうな表情をした色白の十才の男の子でした。全体的に色が薄くて、女の子のように細い体をしています。細い首に小さな片目用の望遠鏡を大切そうに提げていました。啓は一人一人の名前を覚えるために、何回か全員の名前を頭の中で繰り返しました。

 「こいつはジョーカーさ。今日からこいつもグループの一員だ。ジョーカーズのジョーカー、いい名前だろう?」

 ニールが得意そうに犬を紹介すると、サムがぷっと吹き出しました。

 「ジョーカー?それって自分のことじゃあないか、ニール」

 「ジョーカーって名前がもう一つ増えるなんて、ややっこしいわよ」ノエラもウィルと同じようなことを言いました。

 「ジョーカーはニールのことだから、お前はじゃあ、ジョーカー・ジュニアだね」

 タエが言うと、犬は嬉しそうに尻尾を振って、彼に頭を擦り付けました。

 「ジョーカー・ジュニアか。よろしく、ジュニア」

 「おい、ジュニアじゃあなくって、ジョーカーだってば」

 ニールが言っても、もう後の祭りでした。皆はジュニアの名で犬を呼んで、遊び始めてしまいました。

 「いいじゃあないか。ジュニアだって、本名はジョーカーだってことなんだからさ」ウィルは弟の頭を優しくポンポンと叩きました。

 啓は妙にしょげているニールと、彼を優しく慰めるウィルが微笑ましくて笑ってしまいました。その時、仕事に行く他のグループも外にやってきました。その中にアレスタの姿も見えます。彼らはジュニアを見て、驚いたようにジョーカーズの所にやってきました。

 「あ、アレスタ。おはよう」

 明るく挨拶したウィルに答えるのも忘れて、アレスタは犬を見ています。

 「何でまだその野犬が、ここにいるんだ?」アレスタが厳しい声で言いました。

 「新しくうちのグループに加わった仲間だよ」ウィルが答えました。

 「加わった?」アレスタは怒ったように言いました。「その犬をここに置こうっていうのか?気でも違ったのか、お前ら」

 「違ってなんかいないさ。ウィルの言ったことは本当だ」今度はニールが答えます。

 見ると、ジョーカーズの皆は、ジュニアを守るように囲んで立っていました。

 「そうだよ、これは僕達の犬だ」

 タエがジュニアの頭を撫でるのを見て、アレスタは驚いたように彼を見ます。

 「お前、油断していると、手を食いちぎられるかもしれないぜ」

 「とっても大人しい子よ、噛み付いたりはしないわ」ノエラも何事もないように、ジュニアに触れています。

 アレスタの後ろにいた子供達が騒ぎ始めました。その中に、アレスタの妹のベニが怖いものから逃れるように、他の子の後ろに隠れてジュニアを見ているのに啓は気付きました。ベニの怖がっている姿を見て、決してアレスタがジュニアをここに置くことを許してくれないことが、啓には分かりました。しかしウィルとニールはあくまでも強気です。

 「こいつ、もう人を襲うようなことはしないよ。ケイにとても馴れているんだ」

 ニールの言葉に、アレスタは啓をじろりと睨みました。

 「昨日、ベニを助けてくれたことには礼を言う。そして俺は、お前がここに住むことを許した。しかし、この犬まで置いてやると言った覚えはないぞ」

 「ケイが置こうとしたんじゃあないよ。犬の方がケイのそばにいると決めたんだ」

 「おい、屁理屈を言うんじゃあない」アレスタはウィルを黙らせました。「この犬は人を襲ったんだ。こんな危険な奴をここに置くのを、責任者として許す訳にはいかない。野犬はきちんと役所に報告して、連れて行ってもらう」

 「だめ!」突然ミミが叫んで、ジュニアの前に飛び出しました。「だめ、ジュニアはこんなに大人しい子なんです。全然怖くなんてないです。一人ぼっちで友達が欲しかっただけなんですよ。連れて行くなんて可哀想です!」

 ミミがジュニアにしがみついてべそを掻き始めたので、アレスタは次に言う言葉を失ってしまいました。するとそれまで後ろの方にいたベニが、恐る恐る前に出てきました。

 「兄さん、その犬を連れて行かせないで」

 「ベニ?」アレスタが驚いて妹を振り返りました。

 「お願い、兄さん。その犬が私を襲ったのは、私達がその犬を…」

 「ごめんなさい、僕がいけないんだ」

 今度はキノコのような髪型をした男の子が、青い顔で前に出てきました。

 「何だ、お前達?」アレスタはベニと男の子を交互に見て、眉をしかめました。

 「僕が裏の工場跡をうろついていたその犬を標的代わりにして、ふざけてパチンコの練習をしたんだ」

 「そうなの。そうしたら玉が偶然その犬に当たっちゃって。それで怒って私達に向かってきたの。ごめんなさい」それからベニはうつむいて黙ってしまいました。

 「ごめんなさい。新しいパチンコの威力を試したくて。本当に当たるなんて思ってもいなかったんだ。まさか、こんなことになるなんて」男の子は今にも泣き出しそうです。

 アレスタは思いがけない二人の告白に、何も言えなくなってしまいました。周りの皆も唖然として二人を見ていました。

 「何だってそんなことをしたんだ。野犬めがけてパチンコの練習をするなんて、危険だって分からなかったのか」アレスタは目を吊り上げて怒り出しました。

 「本当にごめんなさい。だから私が危ない目にあったのは、犬のせいではないの。犬を連れて行かせないで、お願い。兄さん」

 アレスタは困ってしまいました。啓も思いがけない展開に信じられず、驚いてベニを見ていました。その時、彼女が顔を上げてちらりと啓を見ました。彼はベニと視線が合ってしまい、気まずそうに慌てて違う方を向きました。

 「言ったでしょう、ジュニアは危険じゃあないって。ここに置いてもいいでしょう?」ミミが泣きべそ顔でアレスタを見上げて言いました。

 「お願い、兄さん」

 ベニからも頼まれ、アレスタはすっかり困ってしまいました。すると、眼鏡を掛けた青年がジュニアに近づいてきました。彼はアレスタと同い年くらいで、ひょろりとした長身に色のあせた黄色いレインコートを着ていました。青年は怖がる様子もなく、ジュニアの頭に手を置きました。

 「こいつの名前、ジュニアって言うのかい?」

 啓はそれが自分に向けられた質問なのだと気付いて、慌てて頷きました。

 「うん。本当はジョーカーって言うんだけど」

 それを聞いて、何人かが笑い出しました。

 「ジョーカーズのジョーカー?それってお前のことなんじゃあないのか、ニール」眼鏡の青年がくすりと笑いました。

 「黙れよ、クレイ」ニールの顔が赤くなりました。

 「ジョーカーが二匹だったら、どっちがどっちだか、分からなくなるじゃあないか」

 「だから、こいつはジョーカー・ジュニアなんだ」タエがもっともらしく言いました。

 ジュニアは嬉しそうに尻尾を振り始めました。その仕草がおかしくて、つられてアレスタもベニも笑い出してしまいました。

 「ジョーカーはお前一人で十分なんだけどなあ、ニール」そう言って、アレスタは頭を掻きました。「せいぜいお前に似ないように、しっかりしつけをするんだぞ」

 啓とウィルは思わず顔を見合わせてしまいました。信じられません。なんとアレスタからジュニアを飼ってもいいと許しが出たのです。ミミとノエラがはしゃいでジュニアに抱きつき、サムとニールは手を取り合って、その場で喜びのあまり踊り始めました。

 「さあ、仕事に行くぞ!こいつのせいですっかり時間を食っちまった。急がないと朝食にありつけなくなるぞ。ファンフェアーに仕事に行くグループはここに集まれ。それ以外のグループもさっさと仕事場に急げよ。ベニ、お前はファンフェアーの仕事じゃあないだろう。いつまでもぐずぐずしてないで、早くシュレトの所に戻れ。その前に」

 アレスタは手を叩いて大声で言った後、ベニと青い顔の男の子を呼びました。

 「ネル、お前のパチンコはしばらく没収する。今後生き物を標的にしたら、厳重に処罰するからな。それから二人共、罰として一週間、仕事から帰ったら庭の掃除をしろ。お前達のリーダーのシュレトにきちんと報告してもらうから、さぼろうなんて考えるなよ」

 ベニとネルの二人を行かせた後、アレスタはファンフェアーに行くグループを見回してから、ジュニアを指して言いました。

 「おい、そいつもファンフェアーに連れて行くつもりかよ?」

 「やっぱり、そいつはちょっとまずいかなあ」ニールが心配そうに首を傾げます。

 「どっちみち、今から首輪をつけて縛っている時間もないし、しょうがない。とりあえず連れて行こう。ファンフェアーには動物も沢山いるし、どうにかなるだろう」

 アレスタはそう言うと、先頭を切って歩き始めました。その後ろを四つのグループがぞろぞろとついて、ファンフェアーに向かっていきました。

 

 その日から、啓のアローズ街での新しい生活が始まりました。元の世界に帰る方法が分からないのなら、どうあがいても無駄です。帰る方法が見つかるまでは、状況に合わせてこちらの世界で頑張るしかなさそうでした。

 空は朝日の光で美しく輝いています。今日もきっと良い天気になるでしょう。

 啓が新しく仲間に加わったジョーカーズは、ウィル、ニール、サム、タエの四人の少年と、ノエラ、ミミの少女二人を合わせた六人グループでした。いつも騒ぎの中心になるニールとサム、その二人がふざけすぎるのをたしなめる、しっかり者のノエラ。その場の雰囲気を穏やかにさせようとするのに、なぜか反対に騒ぎを大きくしてしまうタエ。そんな皆をいつも優しく笑って見守るウィルと、おしとやかに振舞いながらも、実はしたたかに皆を観察して、時々鋭いことを言う最年少のミミ。いつも何かと笑いや騒ぎの絶えないジョーカーズは、ともすれば沈みがちになる啓の心も明るくしてくれるのでした。

 アローズ街には、四角い二階建ての建物が横に三つ並んでいます。向かって左から一号館、二号館、三号館となり、それぞれの入口の階段を上がると左右にドアがあり、一階のA室とB室になっています。ジョーカーズの暮らしている部屋は、三号館の二階にある三〇二Bです。玄関のドアを入ってすぐ台所になっていて、台所の左側の部屋は居間と、そして小さいながらもトイレと浴室があります。右側の部屋が、男子用と女子用に分かれた二つの寝室になっています。

 寝室には鉄製の二段ベッドがあり、元々はそれぞれの寝室に二つずつ置いてあったのですが、女の子がノエラとミミの二人しかいないので、使われずにいた女子用のベッドを荷物置場にするために、サム達が男子用の寝室に運んできていたので、啓とジュニアはそのベッドを、都合良く自分達の寝床として手に入れることが出来ました。

 啓は鏡の世界に来る時、何の荷物も持ってきてはいませんでした。唯一持ってきた物といえば、銀の四葉のクローバーの首飾りと、ストライザから預かった革袋だけでしたので、当分はウィルとニールが必要な物を貸してくれることになりました。

 ウィルの言った通り、啓はグループの皆ともすぐにうちとけて、ラギーニオとの整備の仕事が終わった後は、皆と一緒にファンフェアーの清掃の仕事につくことになりました。ウィルとニールは時間さえあれば、彼にアローズ街やこちらの世界について、色々と教えてくれました。どうしてアローズ街には、二十三才になるアレスタよりも年下の子供ばかり住んでいるのかも、彼らが教えてくれました。

 啓が来たのは、鏡のこちらの世界(ウィル達は鏡の世界と呼んでいます)にある、海岸沿いのフィドラクという大きな町でした。啓の世界と比べて少し変わった所があるものの、日常暮らす分には、大した違いがある訳ではないようでした。ただ文明的には、啓が来た世界よりは、かなり遅れているように感じられました。町の建物も、道を走る車も、時代が古く感じられましたし、なにせアローズ街には、電話もテレビもゲームもないし、携帯電話を持っている人も誰もいないのですから。特にアローズ街は時代が遅れている上に、とても貧しい生活環境でした。

 彼らが暮らすアローズ街は、昔は大きな工場と、その職員の住む寮があった場所だったようです。しかし、七年前に工場が大爆発を起こして、工場も寮も一夜の内に灰になってしまいました。寮に暮らしていた家族や、働いて工場内にいた人々は、事故に巻き込まれて、大勢の人が命を落としました。特に貧しい労働者は避難が遅れ、多くが犠牲になったといいます。寮に住んでいたのは、工場に共働きで働いていた貧乏な労働者家族だったので、事故のせいで両親を一度に亡くした沢山の孤児を生んでしまったのです。国は孤児達をどうにかしようと、工場跡の空き地に孤児のための家を建て、一時的に彼らを住まわせることにしたのでした。そこに住んでいた孤児達が自分達で団結して、一つの立派な組織を作り上げて生きていくことを決めた時から、今のアローズ街が生まれたのだということでした。彼らは工場を所有していた会社から支払われる賠償金と、自分達が生きていくために仕事をしてお金を稼ぎ、たくましく生きているのだそうです。

 一番年上のアレスタがアローズ街の責任者でした。沢山の孤児達は六、七人でグループを作り、一つの部屋で一緒に暮らしています。どのグループも一番年上がリーダーとして皆をまとめています。生活も一緒なら、仕事も一緒に行います。グループは言ってみれば一つの家族でした。元々貧しかった彼らは、辛くて苦しい環境にも耐え抜き、生き残る力強さがありました。どんなに辛くて大変な仕事でも、生きるために一生懸命働いてきたのです。

 全員が稼いだお金は一度一つに集められ、そこから皆に平等に生活費とお小遣いとして分配されます。お金の管理は、黄色いレインコートと眼鏡が印象的な青年、クレイが任されています。子供達は町の銀行に一人一人口座を持っていて、毎月稼いだお金から生活費とお小遣いを引いた残りが平等に分配されて、自動的に振り込まれる仕組みになっていました。そして独立出来る年令になると、銀行の口座を資金に、アローズ街から出て行くのでした。

 アローズ街に回ってくる仕事は、まずアレスタが受けてから、それぞれのグループに分配されます。仕事によって違いがありますが、大体三週間くらいの短期ばかりで、次の仕事が始まるまでの間に短い休暇がもらえました。いつもは一つのグループが一つの仕事を受け持つのが普通で、今のように、ジョーカーズを含めた四つのグループが一緒に仕事をするのは、珍しいことだとウィルは言います。

 「ファンフェアーの仕事は特別なんだ。規模が大きいから、人数もそれだけ必要なんだよ。毎年、五月から六月にかけて公園に来る、移動式の遊園地なんだ。ファンフェアーは一ヵ月ちょっとあるから仕事は長いけど、その分、後の休暇も少し長いんだ」

 アローズ街では毎月集会が開かれ、各グループのリーダーが一室に集まり、お金のことや仕事の話をアレスタから伝えられるのだそうです。次の集会は二日後にあり、啓もウィル達と一緒に行くことを告げられ、驚いてしまいました。

 「どうして僕が?リーダーだけだって、今言ったばかりじゃあないか」

 「君はアローズ街の新米だろ。集会に出て、リーダー全員に挨拶をしなくちゃあ。アレスタがそう言ってきたんだよ。君を皆に紹介するから一緒に連れて来いって」ウィルは青い顔をした啓を元気付けるように、肩を叩きました。

 アローズ街のリーダー達に一遍に挨拶をするということは、啓が正式にアローズ街の住人としてここで暮らすことを意味していました。本当はこんな所で、毎日仕事をしている暇なんてないのです。一刻も早く鏡を通り抜ける方法を見つけて、家族の所に帰らなくてはならないのですから。でも、鏡を通り抜ける方法を見つけるまで、どのくらいこちらにいなくてはならないのか見当もつきませんでした。だからこそウィル達は啓を助けて、アローズ街に住めるようにしてくれたのではないですか。でなければ、今頃知らない世界で路頭に迷っていたことでしょう。それにアローズ街はテレビもパソコンもない貧しい環境だといっても、元々細かいことを気にしない啓には、居心地が悪い場所ではありませんでした。グループの仲間ともすっかり仲良くなったし、仕事もそれなりに楽しいし、それになにより、自分と同類のウィルとニールがそばにいてくれるのは心強くもありました。ですから、啓は二人を信頼することにして、次の集会に出ることを約束したのでした。

 

 集会に行く前、啓は緊張のあまり体を固くしていました。もしリーダー全員がアレスタみたいに怖そうな人達ばかりだったらどうしようと、心配していたのです。

 「大丈夫だって。誰もお前を取って食おうなんてしないから」ニールが、強張った表情で台所のテーブルに座っている啓に笑い掛けました。

 「集会に出るなんて、やっぱり緊張すると思うわ。アローズ街のリーダーが全員集まるんだもの」ノエラが啓をかばうように言いました。

 「ミミも一緒についていってあげましょうか?」ミミも啓の隣に座り、心配そうです。

 「心配すんなよ。俺達がついているんだからさ」

 ニールが胸を張って言うのを、サムが横目で見ながら首を振りました。

 「それが、余計に心配なんだよなあ」

 「それ、どういう意味なんだよ、サム」ニールがサムに突っ掛かるように聞きます。

 「だって、いつも何かやらかすのは、決まってニールだもの。ケイが心配しているのも、実はニールのことだったりして」

 「お前、最近ますます生意気になっていくなあ」ニールがサムの頭を小突きます。

 「ただニールが何も言わずに黙ってさえいれば、無事に終わるよ」タエが真面目な表情で言いました。

 「ジュニアも集会に連れて行くの?」ノエラが突然思い出したように尋ねました。

 啓は思わずウィルとニールを見上げました。二人も互いに顔を見合わせます。

 「ジュニアか。アレスタに言われなかったけど、こいつも新米だしなあ」ニールが頭を掻きます。

 「そうよ、連れて行かなきゃあ。ジュニアも皆に挨拶しておかないとね」ノエラは啓の足元に横になっているジュニアを撫でてあげました。

 「僕達が家を出る時に、ジュニアも来れば連れて行くし、来なければ置いていくよ」

 啓が言うと、ウィルも賛成しました。

 「そうだな、ジュニア自身に決めさせよう」

 時間が迫ってきたので、三人は集会に出掛けるために玄関に向かいました。三人が外に出ようとした時、風のように何かが駆け寄って来ました。

 「うわっ、ジュニアか」ニールが驚いて横に避けました。

 ジュニアはそのまま開いたドアの隙間から外に出て、三人を振り返りました。

 「あはは、ジュニアはやっぱりケイと行くんですね。いってらっしゃい、ジュニア」ミミが可笑しそうに笑って手を振りました。

 「しっかりな、ジュニア。ニールより頼りにしているぞ」サムもひらひらと手を振りました。

 五月の中旬だと言うのに、(季節や月日は鏡のこちら側もあちら側も、共通しているようでした)夜風は冷たく首筋を吹き抜けていきます。三人は身を縮ませながら、集会が開かれる部屋に足早に向かいました。集会の開かれる部屋は一○二Αです。そこには今は誰も住んでいないので、集会用に使われているのでした。

 一号館の階段を上り、二階の左側にあるドアを開けると、ウィルは手で啓に中に入るようにうながしました。中は明るく、暖かい空気と一緒にお茶の匂いがしてきました。啓が少しの間奥に進むのをためらっていると、中から女の人が出てきました。

 「来たわね、ジョーカーズ」

 彼女はにっこりと笑うと、玄関のドアを閉めたウィルとニールに目配せをしてから、キャッと悲鳴を上げました。

 「あ、ジュニア、駄目だよ」

 啓が急いで、先に行こうとしていたジュニアを呼び戻しました。

 「ごめんなさい、ジュニアも付いてきちゃったから。入っても大丈夫ですか?」

 啓が言うと、彼女は部屋を振り返りました。

 「アレスタ、犬も来ているんだけど」

 「何、犬?ああ、まあいい、入れてやってくれ」

 部屋の中からアレスタの声が響いてきて、啓は意味もなくドキッとしました。ウィルが啓の背中を軽く押して部屋に入っていきました。そこには十人程の人達が輪を作るようにして座っていました。啓が部屋に入っていくと、皆珍しそうに一斉に彼を見上げてきました。そして、驚きの声を上げながら腰を浮かせてしまいました。

 「ジュニア、待ってってば」啓は慌てて、先に部屋に入ったジュニアを止めました。

 「大丈夫だよ、皆逃げ出さなくても。ジュニアは大人しい犬だから」ウィルが部屋に入るなり言いました。

 「よお、ジョーカーズ。ようやく来たな」

 アレスタは部屋の空いている所に座るように、三人に言いました。ジュニアが大人しく啓の後ろに座るのを見て、リーダー達は安心したように座り直しました。

 啓は部屋の中を見回してみました。何の家具も置いていない殺風景な部屋の隅に、紙の束を縛ったものが、いくつも積まれているのが見えました。さっき玄関に出てきた女の人がやって来て、お茶のカップを差し出してくれました。

 「ありがとう、チェシル」部屋が暖かいのでニールは上着を脱ぎながら、女の人にお礼を言いました。

 啓は部屋にいる全員に注目されているのに気がついて、気まずそうにうつむきました。少しして、ようやくアレスタは話を始めました。

 「全員そろったようだし、集会を始めるとするか。今夜は、皆もすでに知っていると思うが、まずは新入りの紹介から始める。その後、今月の小遣いの配給と、仕事について伝える」そしてアレスタは、部屋の全員を見回しました。「ここにいるのがケイだ。それから、後ろにいる犬が相棒のジュニア。もう知っているだろうが、この犬もジョーカーズの一員となった。ところでケイ、お前幾つだ?」

 「えっと、十三才です」

 「分かったな。名前はケイ、年は十三才だ。あと、犬のジュニアは怖そうな見た目とは反対に大人しいそうだから、訳もなく怖がらないように。くれぐれも石を投げたりするなと、ちび共に良く言っておいてくれよ」アレスタは苦い顔でリーダー達に言いました。

 全員が珍しそうにジュニアを見ています。ジュニアは床に寝そべって、鋭い牙を見せて大きくあくびをしました。

 アレスタは次に、啓を振り返りました。「今から、簡単にアローズ街についての説明と、リーダーを紹介していく。恐らく、お前のリーダーから色々教えられていると思うが、俺が責任者のアレスタだ。アローズ街には現在七十四人住んでいて、全員が六人から八人のグループを作って生活や仕事を共にしている。グループは全部で十ある。それぞれのグループにはリーダーが一人いる。中には例外もあって、リーダーが二人いる所もあるが」そう言ってアレスタはウィル達を見ました。「それが今、ここに集まっている十人と、ジョーカー一人さ」

 「ちょっと、何だよ、それ!」途端にニールが叫びました。

 アレスタを含め、全員が笑いました。

 「冗談だよ、ニール。リーダーは全員で十一人てことになる。リーダーはグループの責任を持つ。毎月集会を開いて、俺がリーダーに必要なことを伝える。後は規律を乱さないように生活する。ここでは自分の行動は自分で責任を持つ。規律を乱した者はその償いをさせられる。グループの全員も同罪になるからな。それは肝に銘じておけよ」

 七十四人もの人達がここに暮らしていたなんて、啓はちょっと驚いてしまいました。

 「とにかく、分からないことがあったら、お前のリーダーに聞きゃあいい。そんなに大きな揉め事でもない限り、各グループ内でほとんどの問題は解決するようにしている。それから、アローズ街の裏庭にはフェンスがあって、向こう側は工場跡の敷地で立入禁止区域だ。フェンス越しに見れば分かると思うが、工場跡は崩れ掛けた建物なんかが、そのままの状態になっていて危ない場所だ。くれぐれも遊び場にはするなよ。もし見つけたら厳重に処罰する」

 アレスタは説明が終わったように一息つくと、自分の右隣に座っている長い黒髪の青年に視線を移しました。

 「ではリーダーの紹介に移るとするか。シュレト、お前から順に始めてくれ」

 青年はアレスタに頷くと、啓を見て微かに笑いました。「俺はシュレト」

 彼は短くそう言うと、次に彼の右隣の人が同じように名前を言って、次々と紹介は進んでいきました。一度にそんなに大勢の名前を覚えられるはずもありませんでしたが、啓は必死で一人一人の名前と顔を頭に叩き込んでいきました。リーダーは男女半々で、皆年令もまちまちのようでした。最後にアレスタの左隣に座っていたクレイが挨拶をして、ようやく紹介が終わると、アレスタが話題を切り替えました。

 啓はリーダーの中で一際目に付いた人物を見ていました。それは、アレスタの隣に座っているシュレトという青年でした。色あせた青色の長い薄手のコートを羽織り、背中の中程まで届く、長く伸ばした黒髪を一つに結んで、首には沢山の鎖や紐に付けられた飾りがぶら下がり、手首には腕輪、耳にはピアスがいくつも光っていました。油断のない鋭い瞳を持ち、隣のリーダーと話をする時、何かを企んでいるような笑い顔を見せたりもしましたが、何処となく影があり、孤独な印象がありました。

 啓の注意がシュレトに向けられている間に、いつの間にか、アレスタからの報告も終わっていて集会は終了しました。

 「次の集会も、いつも通り月末だからな。日時は後日連絡する。それでは解散だ」

 アレスタの解散の声に、皆一斉に立ち上がりました。啓は皆の邪魔にならないように脇に避けて、部屋から出ていく人達を見送りました。リーダー達は彼のそばを通り過ぎる時、一声掛けたり、笑い掛けたりしてくれました。クレイとその後に続いたシュレトは、ジュニアの頭を軽く撫でてくれました。

 ウィル達もアレスタに挨拶すると、出て行こうとしました。しかし、啓はアレスタに呼び止められてしまいました。

 「実は今日、ムリロからジュニアを仕事場に連れてきてもいいと、許可をもらってきた」そしてジュニアを見て、「と言うか、彼から頼まれたんだ。何でも、こいつはやけに客受けがいいし、番犬になるって言うんで、ファンフェアーの仕事人達に気に入られたらしいんだ。そういうことだから、明日からもちゃんと仕事に連れて行けよ」

 ウィル達は驚いて、尻尾を振っているジュニアを見下ろしました。

 「不思議な犬だぜ」アレスタはそう言うと、ジュニアの頭を撫でて笑い始めました。

 「ジュニアの奴、いつの間にムリロに取り入ったんだろう。抜け目のない奴だなあ」

 三人は得意げに尻尾を振るジュニア見て、すっかり感心してしまいました。


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