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第4話 レメテック墓地の死に神:2 墓地の死に神

 「もう、ニールったら余計なことを言うんだから」ウィルはそう言いながら、ベンチに腰を下ろしました。

 ジョーカーズとシュレトは怒鳴る墓守から逃げて、レメテック墓地を抜け出し、ロース公園にいました。湖のそばの小さい売店で、肉詰めパンと飲み物を買うと、湖のほとりにあるベンチに腰を下ろし、お昼にすることにしました。

 「余計なことって、俺は本当におじさんの腰が痛そうだったから…」ニールが言い訳をするように、膨れて言いました。

 「だけど、何の罰も受けないで墓地から出てこられたなんて、信じられない。あー、お腹減った。いただきまーす」サムがすかさずパンをかじり始めました。

 「ニールのお陰で走らされたり、管理所に行ったり、面白かったですね。墓石が傾いた時は、本当にどうなることかと思いましたけど」ミミがベンチに座って、地面に届かない足をぶらぶらさせました。

 「顔から、さーっと血の気が引いて、パニックになったよ。もう二度と墓石を倒すなんてごめんだよ。今度こそ、お尻の骨が砕けちゃうよ」

 タエが言うと、皆可笑しくて大声で笑ってしまいました。しかし、ウィルとシュレトだけは笑ってはいませんでした。二人は真剣な表情で、顔を見合わせました。

 「残念ながら、僕達はもう一度、墓石を倒す危険を冒さなくてはならないかもしれないんだ」

 楽しそうに笑っていたサム達は、ぴたりと笑うのを止めてウィルを振り返りました。

 「ウィル、今、何て言ったの?」

 サムが恐る恐る聞き返すと、今度はシュレトが口を開きました。「俺達は、もう一度ドリー家の墓に戻って、墓石を動かさなけりゃあならない、と言ったんだ」

 皆はびっくりして、お昼ご飯のパンをかじるのを止めてしまいました。怪訝そうに、じっと自分を見つめるジョーカーズに、ウィルははっきりと言いました。

 「ルーナンのかけらがあった。あの石の玉の下だ。シュレトも見たから間違いない」

 ウィルの話では、タエが受け止めた石の玉を、墓守とシュレトと一緒に持ち上げて戻そうとした時に、台座の下の空洞の中に、キラキラと輝くルーナンのかけらを発見したのだそうです。全員が他のことに気を取られていて、(例えば、倒れたニールとか)石の玉が落ちた後の墓石なんて、見る暇がなかったので、誰も気が付かなかったのです。

 「ルーナンのかけらが、そんな所に?」ケイは独り言のようにつぶやきました。

 「どうしていつも、変な場所にあるんだろう?」ニールがいらいらして首を振りました。

 「そのかけらのために、もう一度お墓を動かさないといけないって訳なんですね?」

 ミミが言うと、ウィルは頷きました。「そういうことだね」

 「でも私達、たった今貴族の地区を立入禁止になったばかりよ。あそこには戻れないわ」

 「万一、墓守に見つかったら大変だ。今度こそ許してもらえない。草むしりに、墓掃除に、おまけに墓穴掘りもやらされる。貴族の墓に行きたければ、墓守に報告しなくちゃあならないんだろ?でも、一緒についてこられたら、墓石を動かすなんて出来っこないぜ」ニールは残っていたパンを一口で頬張り、飲み物を手に取りました。「またまた、厄介な事態って訳か。今度の難関はよりにもよって、怖い墓守のおっさんとはね」

 「大丈夫。作戦なら、もう考えてあるんだ」

 ウィルが微笑んで言うと、ジョーカーズは全員ぎくりとして振り返りました。

 「ああ、どうか今度こそ、安全な作戦でありますように」

 タエが両手を組んで祈るようにつぶやくのを見て、ウィルは明るく笑いました。

 「大げさだなあ。心配しないでよ。今回の作戦は、今までで一番簡単な作戦なんだから」ウィルは周りに誰もいないのを確かめてから、小声で言いました。「夜こっそり墓地に忍び込んで、鏡のかけらを取ってくる。それだけのことさ。何も難しいことはないだろう?」

 ニールが飲み物にむせて、激しく咳き込みました。「げほっ、ごほっ、な、何だって?」

 「夜こっそりと、墓地に忍び込む?なっ…!」

 大声を上げたサムの声に、通行人がこちらを向いたので、慌ててウィルが黙らせました。

 「しーっ!声が大きいよ。誰かに聞かれたらどうするんだ」

 「それ以外に、方法はないだろうな。墓守だって夜は家に帰るし、間違いなく墓地には誰もいないから、俺達には都合がいい」シュレトが諦めたように言いました。

 「嫌だよう。夜の墓地に行くなんて。死者達が出てきて引きずり込まれちゃうんだから」

 「おい、タエ。変なことを言うなよ」ニールが青い顔で言いました。

 「別に、全員そろって墓地に行くつもりはないよ。八人もぞろぞろと行ったら人目につきやすくなるし、忍び込むなら、なるべく少ない人数の方がいい。でも、重い石を持ち上げるとなると、一人や二人では無理だ。墓守とシュレトと僕の三人掛かりで、やっと持ち上げることが出来たんだからね。少なくとも四人は必要だろうな」

 「つまり、シュレトとウィル、そして俺は、必ず行くってことだな。年齢的に言って」ニールが恨めしそうな顔をしました。

 「そういうこと。大きなこぶが出来ている割には、頭の回転が速いじゃあないか」ウィルがニールをからかって笑いました。

 「これは、僕が頼んだことだ。僕も行くよ」ケイが手を挙げました。

 「シュレトと、僕と、ニールと、それにケイ、の四人で行くのがいいだろうね」ウィルが一人ずつ指差していきました。

 「どうして?ずるいよ、僕は置いてきぼりなんてさ」サムが不満そうに腕を組みました。

 「でも、待って。シュレトが一緒に行くのはまずいんじゃあない?シュレトはジョーカーズじゃあないのよ。夜遅くに部屋を抜け出せば、グループの皆から怪しまれるわよ」

 ノエラが言うと、シュレトは前髪を掻き上げて舌打ちしました。「ちっ、そうだった。さすがに夜中に部屋を抜け出すとなると、カードを理由にも出来ないな。どう言っても怪しまれる」

 「やったー。じゃあ、僕が代わりに行けるんだね?」サムが大きく手を叩いて喜びました。

 「うーん、シュレトが夜中に部屋を抜け出すのは、確かに難しいな。するとやっぱり、サムに来てもらうことになりそうかな」ウィルが頷きました。

 「お前が行こうが、シュレトが行こうが、俺が行かなきゃあならないことに変わりはないんだ」嬉しそうにはしゃいでいるサムを横目で見て、ニールはぶつぶつ言いました。

 結局、ウィル、ニール、ケイ、サムの四人が、墓地にかけらを取りに行くことで話がまとまりました。墓地に忍び込むメンバーが決まったら、すぐにでも作戦を実行した方が良いということになり、その日の夜に、四人はレメテック墓地に忍び込むことにしました。

 


 アローズ街に帰った後、ジョーカーズは落ち着かない夕食を取りました。ケイは不安そうに、暗くなった窓の外を眺めました。真っ暗になった夜空に、風が吹き抜ける音が不気味に響いて、窓ガラスをガタガタと震わせています。日中は穏やかだった天気は次第に怪しくなっていき、日が沈んで暗くなるにつれて、風が強く吹き始めたのです。窓ガラスが風に揺れる音を聞いている内に、ケイは何だが心細くなってきて、首にかかっている銀のクローバーを指でいじりだしました。彼は自分を臆病者だとは思いたくありませんでしたが、夜中に墓地へ行くことを考えると、背中に虫が這うようにぞわっと寒気が走りました。実は、お化けや幽霊の話は苦手で、心霊写真を見た後などは、一人でトイレに行くのも怖いくらいだったのです。

 やがて時計の針が十二の所にそろって並ぶ頃になり、四人が墓地に行く時間が迫ってきました。

 「じゃあ、行ってくるからね」ウィルが玄関で振り返って、留守番組のノエラ達に言いました。

 「気をつけて行ってきてね。無事に帰ってきてよ」タエが青い顔で四人に手を振りました。

 ニールが音を立てないようにドアを開けて、そっと外の様子をうかがいました。人の気配がしないのを確認してから、四人はドアの隙間から体を滑らせるようにして外に出て、最後にジュニアが走り出ました。四人とジュニアは泥棒のように身を隠しながら、夜の通りへと出て行きました。

 真夜中の通りには人の姿が全くなく、墓場のように静まり返っていました。強い風が吹いて、木々がガサガサと不気味な音を立てて大きく揺れています。青白く光る月が夜空にぼんやりと浮かんでいましたが、大きな雲に今にも隠れてしまいそうでした。

 彼らは誰にも会わずに、ロース公園までやってきました。ケイは足早にウィル達の後をついていきながら、夜のロース公園を横目で眺めました。彼がフィエーロサーカスの追っ手から逃れるために、鏡に飛び込んで、そして出てきた場所が夜のロース公園でした。月夜に青白く照らし出されていた、幻想的な遊園地の光景が頭の中によみがえってきました。もうずっと昔の出来事のように感じます。家族は、今どうしているのだろう。ケイは首に掛かっている銀の四葉のクローバーを、ぎゅっと握り締めました。絶対にアークを見つけ出して、家族のいる世界に戻るんだと、ケイは再び心に誓い、自分達が向かっているレメテック墓地に意識を集中させました。

 四人はこれから行く墓地のことで頭が一杯で、自分達の後ろからついてくる怪しい人影に気付きませんでした。その人影は、ロース公園を通り過ぎた辺りから、ずっと四人の少年達の後を追って来ていたのですが、向かい風が吹いているので、ジュニアでさえ気付いていないようでした。四人は何も知らないまま、レメテック墓地にたどり着きました。辺りを見回して誰もいないのを確認すると、ウィルを先頭に、通り沿いの垣根を飛び越えて、彼らは墓地の中へ忍び込んで行きました。

 ざわざわと風が吹いて、墓地の木々が音を立てて揺れていました。ぼんやりと光っていた月は、今や完全に雲に隠れてしまったので、明るさは期待出来ませんでした。墓地には、街灯のように辺りを照らしてくれるものは何もありません。四人はつまずかないように注意しながら、手探りで暗闇を進むしかありませんでした。風が吹いて木々が大きく揺れるたびに、ニールはびくびくしながら辺りを見回して、ウィルにしがみ付いていきました。

 「なんて気味の悪い所なんだ。ひっ!今の音は何だ?変な音がしたぞ」ウィルにほとんど抱きつくようにして、ニールが後ろを振り返りました。

 「風だろ?おい、そんなにくっつくな。歩きにくいだろう」

 「暗くて、ほとんど何も見えないよ。ウィル、君のライトをつけて足元を照らしてよ」ケイが小声で囁きます。

 「駄目だよ。誰かに見られたら怪しまれるよ。暗い方が、僕達には好都合だよ」

 「好都合?こんな不気味な所にいて、都合も何もあるかよ。誰かに見られるって言ったって、俺達以外にこんな時間に墓場に来る物好きが、他にいる訳ないじゃあないか。そんなの、死に神か、墓泥棒くらいなもんだ」

 「やめてよ、ニール。口に出すと、そのものが現れるって言うじゃあないか。どっちにも絶対に会いたくないよ。うわっ!」サムが何かに足を引っ掛けて、大きくよろめきました。

 「大丈夫?ねえ、ジュニア、ちょっと待って。先に行かないでよ」ケイが先を歩いていたジュニアを呼び止めて、サムを助け起こします。

 その時、木の枝が折れる、ぽきっという音が聞こえて、四人ははっと動きを止めました。

 「…何だ、今の?」ニールが体を固まらせ、目だけを動かして、辺りを見回します。

 「…風じゃあない?きっと風だよ」

 「風?今のは、何か折れたような音だったぜ」

 「か、風で枝が折れたって、別に不思議じゃあないだろう?」

 四人は不安そうに辺りを見回しました。ざわざわとざわめく木立の中にいると、風に揺れる木々が、どんどん周りに迫ってくるように思えてきます。ケイは目に見えない恐ろしいものに周りを囲まれている気がしてきて、背筋がぞーっと寒くなり、思わず近くにいたニールの上着を掴みました。

 「ね、ねえ、早くドリー家の墓に行って、さっさとここから出ようよ。何か出てきそうだよ」

 「や、やめろよ、変なこと言うの。お、俺だってこんな所から、とっとと抜け出したいよ」

 四人は震える足で、貴族の地区へ進んで行きました。何処からか、夜ガラスの鳴き声が響いてきました。まるで不吉なことが起こる前兆のように、鳴き声は何度も暗闇の中をこだましました。四人はその不気味な鳴き声にますます震え上がりながらも、ようやくお目当てのドリー家の墓にたどり着きました。

 「この石の玉の下だ。ルーナンのかけらは、この下にある」ウィルはタエの上に転がり落ちた石の玉を指差して、三人に手招きしました。「僕達三人が石の玉を持ち上げている間に、ケイは下からかけらを取るんだ、いいね?」

 ウィルは小さな懐中電灯をケイに渡しました。ケイが頷くと、他の三人は墓の上にのっている石の玉に手を掛けました。

 「一、二、三で持ち上げるよ。ケイ、準備はいい?一、二の三、それっ!」

 三人は石の玉を持ち上げようと、思いっ切り腕に力を入れました。しかし、石は思っていた以上に重く、少し台座から離れただけで、手を入れる程のわずかな隙間が開いただけでした。ケイはすかさずライトをかざして、石の玉と台座の間に出来た隙間を覗き込みました。

 「もうちょっと、もうちょっと上げて」

 ケイの声に、三人は更に力を入れて石を持ち上げました。台座の中に、ライトの光にキラッと何かが反射したのを見ると、ケイは素早く隙間に手を差し入れて、光った物に手を伸ばしました。密閉されていた冷たい空気が手を包み、腕にぞわーっと鳥肌が立ちます。

 「も、もう駄目、腕が…」サムが惨めに囁きました。

 何かがケイの指先に触れました。彼は急いでそれを掴むと、隙間から手を抜き取りました。それと同時に、石の重みに力尽きた三人が、ドスンと石の玉を下ろしました。ケイは痛そうに、手を胸元で握り締めて、その場に座り込んでしまいました。三人はケイの手を隙間に挟んでしまったと思い、慌てて彼のもとに駆け寄りました。

 「ケイ、大丈夫?手を挟まなかった?」ウィルがケイのそばにしゃがみました。

 ケイは更にぎゅっとこぶしを握り締めて、肩で大きく息をし始めました。サムがごくりと唾を飲み込み、ケイのこぶしを心配そうに見下ろしました。

 「い、痛むのか?どうしよう、まさか指がちぎれちゃったんじゃあないだろうな?」

 ニールは死人のように真っ青になり、慌てて墓石の周りを、指が落ちていないか探し始めました。ジュニアもそわそわとケイの周りを回ります。

 ケイがゆっくりと顔を上げて、握り締めたこぶしを差し出しました。ニールは指を探すのを止めて戻ってきました。ケイが開いた手の中には、キラキラと光る、紛れもないルーナンのかけらがありました。一瞬、三人は凍りついたようにかけらを見つめ、それからへたへたと地面に座り込んでしまいました。

 「な、何だよ。脅かすなよ。指が本当にちぎれちゃったのかと思ったじゃあないかよ」魂の抜けたような声で、ニールが言いました。

 やがて、四人は誰ともなく笑い始めました。それまで不安と恐怖で緊張していた分、一度始まった笑いは、なかなか止めることが出来ませんでした。かけらを手に入れた喜びと、ケイの指が無事だった安心感で、笑いが溢れ出してきて、どうしようもなかったのでした。

 サムがぜいぜい息をしながら、ケイの手からかけらを取って、目の前にかざしてみました。ルーナンのかけらは、暗闇の中でも美しく光っていました。

 「凄い、本当にかけらがお墓から出てきた。これでまた一歩、僕達はアークに近づいたんだ。また一つ冒険を成し遂げたんだね」

 「これで、ケイの夢も全部解決したな。シュレトと、レメテック墓から、それぞれかけらが一つずつ出てきたんだ。しかし、もうちょっと簡単に手に入れられる所にあってくれたらなあ」

 四人は満足そうに互いに顔を見合わせて、やがて立ち上がりました。

 「さあ、家に帰ろう。皆にも早くかけらを見せてあげよう」

 無事にかけらを手に入れたことで、来た時よりも数倍も気持ちが大きくなった四人は、もう暗闇なんか恐れずに堂々と帰ろうと、ドリー家の墓に背を向けて歩き出そうとしました。すると、ジュニアが突然、暗闇に向かって唸り始めたのです。

 「どうしたの、ジュニア?」

 ケイが不思議そうにジュニアを振り返った、その時です。

 「おいおい、何処へ行くつもりだ。お嬢さん達」

 墓石の影から一人の男が現れて、四人の前に立ち塞がりました。身長が高くてがっちりした、人相の悪い男で、みすぼらしい髪とひげが肩まで伸びています。穴の開いた汚い上着の袖からは、毛深い腕が見えました。四人はびっくりして、男の嫌らしい顔を見上げました。ニールは反射的に、サムの手からルーナンのかけらを取って、自分のポケットにしまいました。男はちらりとそれに目をやって片手を上げました。すると、男がもう一人後ろから現れました。こちらは小柄で太っていて、凶暴な顔つきをしていました。やはり穴の開いた汚い服を着ていて、手には太い棍棒を持っていました。

 「このまま黙って帰す訳にはいかねえよなあ。俺達を差し置いて、宝を横取りしようなんて」大柄の男がにやりと舌なめずりをしました。

 「俺達の宝を、横取りなんて」小男も棍棒を撫でながら、ねっとりとした声で答えました。

 四人はいつの間にか、ジュニアの後ろに小さく一つに固まっていました。

 「何者だ、あんた達は」ウィルが強張った声で言いました。

 「名乗る程の者じゃあねえよ。ただのこそ泥、墓泥棒さ。お前らが真夜中にこそこそと歩いているのを偶然見掛けて、何かあるんじゃあねえかと考えて、後をつけてきた。そうしたら、ずうずうしくも、俺達の縄張りである墓地に入っていくじゃあねえか。怪しいと睨んでいたら、案の定、貴族の墓の中からお宝を盗み出した。恐れ入ったよ、がきの墓泥棒とはねえ。俺達の縄張りを勝手に荒らして、いいと思っているのか?そうは問屋がおろさないぜ」

 四人は恐怖のあまり、じりじりと後ずさりしてしまいました。

 「おっと、逃げられると思うなよ。大人しくお宝をこっちに渡すんだ」

 男の足がふらついて酒臭い匂いがしました。どうやら二人共酔っ払っているようです。

 「隠したって無駄だぜ。キラキラ光る物を墓から取り出すのを、ちゃんと見ていたんだ」

 大柄の男が合図をすると、小男は一歩前に出ました。ジュニアが大きく唸って飛び掛かっていきましたが、小男は棍棒を振り上げ、反撃に出ました。

 「ほら、犬こう、俺が相手になるぜ!」

 男はジュニアを怖がるどころか、器用に棍棒を振り回してジュニアの攻撃をかわします。ジュニアの注意が小男に向けられると、大柄の男が四人に近づいてきました。手には鋭いナイフが握られていました。四人は墓石を背に、追い詰められる格好になりました。

 「さっさと、ポケットの中に入っている物を渡すんだ!」

 男はナイフをニールの首筋に近づけ、脅しを掛けました。ウィルは弟をかばおうとしましたが、ナイフが向けられているので、手の出しようがありません。男は素早い手つきで、ニールのポケットからルーナンのかけらを掴み取りました。

 「そうそう、こいつだ。こんなに綺麗に光っているお宝は、お前らなんかにはもったいないぜ」

 男は、今度はケイを横目で見て、片手を伸ばしてきました。恐怖で目をつぶったケイの首筋に、男の手が勢い良くぶつかって、ぶつっと何かがちぎれる音がしました。

 「こいつも、ついでに頂いておくぜ」

 ケイが目を開けると、男の手には光る物がぶら下がっていました。首に手をやると、そこにあったはずの首飾りがなくなっていました。信に買ってもらって以来、ずっと大切に身に着けていた銀のクローバーを、鎖ごと引きちぎられてしまったのです。

 「それ、返してよ!」ケイは怖さも忘れて叫びました。

 「黙れ、このがき。喉を掻き切られたいか!」

 何ということでしょう。せっかく無事に、ドリー家の墓からルーナンのかけらを見つけ出し、また一歩アークに近づいたと思ったのに、酔っ払いの墓泥棒に奪われてしまうなんて。四人は悔しさと恐怖で、泣き出してしまいたい気持ちでした。すると小男が、震えている四人の少年を、更に恐怖のどん底に突き落とすようなことを口にしたのです。

 「ついでに、がき共を全員始末しちまえよ。顔を見られているんじゃあ、何かと不都合だぜ」小男はぺろりと舌なめずりをして、ギラギラした目で四人を見回しました。

 「それもそうだな。警察にでも行かれたら面倒だしな。幸い、辺りに誰もいないから、ここでこいつらが死人になっても、誰がやったか分かりゃあしねえ」

 「それにな、墓荒らしをすれば死に神がきて、命を吸い取られるんだぜ。おぉ、怖い、怖い」小男が、小さくなって震える四人の少年に、馬鹿にするように言って笑い出しました。

 「そうだ、そうだ。死に神がやってくるんだぞ。そうなる前に、俺達が楽にしてやろうじゃあないか」

 二人の男達は自分達の冗談に、大きく口を開けてひとしきり笑ってから、ナイフと棍棒を身構えました。武器もなく、弱々しげに身を寄せ合う四人の少年の前に、再びジュニアが立ちはだかって鋭い牙をむきました。しかし、また小男が棍棒で相手を始めました。その隙に、大柄の男がサムの胸ぐらをぐいっと掴むと、ナイフを振り上げました。

 「まずは、お前からだ」

 「サム!」ナイフが握られた男の腕に、ウィルが掴み掛かりました。

 「な、何だ、お前は!」

 突然小男が大声を出したので、大柄の男はナイフを振り上げたまま、後ろを振り返りました。ケイ達も何事かと目をやると、そこには小男の他に、もう一人別の人物が立っていました。全身、頭から足の先まで覆い尽くすように、フード付きの黒いマントを着た人物でした。

 「だ、誰だ、てめえは!」

 大柄の男はサムを突き放すと、警戒するように、新たに現れた人物にナイフを向けました。突如として現れた謎の人物に、その場が凍りついたようになりました。その人物は背が高く、顔をすっぽりと覆う黒いマントを風になびかせ、見ただけで人を黙らせる威圧感がありました。しかし、酔っ払いの男達が怯えたのは、その人物の不気味な姿だけではありませんでした。謎の人物の手には、ケイ達の背丈程もある巨大な大鎌が握られていたのです。

 大柄の男は、マントの人物が持っている大鎌に、用心深くちらちらと目をやりながら、小男を自分のそばに呼び寄せました。

 「何処のどいつだか知らねえが、ナイフに喉を掻っ切られない内に消えちまえ!」

 男は一度ナイフをしっかり握り直すと、脅しを掛けるように身を低くしました。小男も棍棒を振り上げて身構えました。するとマントの人物も大鎌を持ち上げると、しっかりと握り直し、男達に対抗するように構えました。その人物の着ているマントは、袖も長く、手さえもすっぽりと覆っているため、まるでマントそのものが大鎌を構えているように見えます。ケイ達も自分達が襲われていたことも忘れて、大鎌に注意を奪われていました。大鎌は使い古されているらしく、柄の部分はどす黒く汚れており、刃はさびと、何やら黒いもので汚れていました。

 あんな大鎌でやられたらひとたまりもないと、ケイが他人事のように思った時です。ごうっと突風が吹いて、マントが夜の闇に大きく不気味にはためきました。その姿に思わず二人の酔っ払いが、一、二歩後ろに下がりました。マントが風にあおられた拍子に、その人物の顔を覆っていたフードがめくれ上がり、同時にマントの前がはだけて、全身があらわになったのです。

 一瞬、自分が見ているものは、幻覚に違いないとケイは思いました。とんでもないものをマントの下に見て、彼の思考回路が完全に止まってしまったのです。二人の酔っ払いが恐ろしい悲鳴を上げて、尻もちをつきました。ケイ達はもはや悲鳴さえも上げることが出来ませんでした。喉がからからに渇いて、声が全く出なかったのです。

 「で、出たーっ!」大柄の男が、声にならない悲鳴を上げました。

 マントの下から現れたものは、ケイ達の想像をはるかに超えていました。大鎌を持った人物の正体は、全身を真っ白に光らせた、白骨の骸骨だったのです。

 「し、死に神だーっ!」小男は恐ろしさのあまり、歯をカチカチ鳴らしました。

 真夜中の暗い墓地で、大鎌を身構えて、今にも襲い掛かろうとしている白骨の死に神。ケイは今まで、これ程恐ろしい光景を見たことはありませんでした。これは夢だ、これは夢だと、ケイの横でサムが放心状態でつぶやいていました。

 「死に神が出たー!ち、違う、墓を荒らしたのは俺達じゃあねえ。この、この後ろにいるがき共だ。俺は何もしちゃあいない!」

 小男が死にそうな声を出しながら、這って逃げようと足を動かしますが、力が入らなくてどうすることも出来ません。

 「俺達は何もしていない。命を吸い取るのならこのがき共だ。こいつらが墓を荒らしやがったんだ。俺達じゃあない、う、うわー、助けてくれ!」

 死に神は大鎌を更に高く持ち上げたかと思うと、大柄の男に向かって振り下ろしました。どさーっ、と何かが草の上に落ちる音が、目をつぶったケイの耳に聞こえました。恐る恐る目を開けると、地面にうつ伏せに倒れている男の姿がありました。

 「ひーっ、殺される!助けてくれー!」

 小男はそう叫ぶと、死に神がまだ何もしていないのに、勝手にその場にばたりと倒れて、動かなくなってしまいました。死に神はちらりと小男に顔を向けてから、構えていた大鎌を下ろして、足元に倒れている大柄の男を見下ろしました。そして身をかがめると、男のそばに落ちていたルーナンのかけらと、ケイの首飾りを地面から拾い上げました。

 四人の少年は一つに抱き合って、墓石の近くにしゃがみ込んで、ガタガタと震えていました。これから一体、自分達はどうなるのでしょう。酔っ払いの男二人と同じように、死に神に大鎌を振り下ろされて、魂を奪われて死んでしまうのでしょうか。

 死に神は顔を上げて、少年達を真正面からじっと見つめてきました。怖くて目をそらせたいのに、誰も死に神から目を離すことが出来ませんでした。頭蓋骨にある二つの丸い目の穴が底なしの地獄のようで、今にも引き込まれてしまいそうです。

 もう、これまでです。ケイは目をつぶり、覚悟を決めるしかありませんでした。何というひどい運命なのでしょう。サーカスの綱渡り師から無理難題を頼まれて、鏡の世界に迷い込み、このまま家族には二度と会えずに、墓地で死に神に殺されてしまうなんて。自分の人生がこんなにも早く、こんなにも残酷な最期を迎えるなんて、想像もしていませんでした。ケイの目から涙がこぼれ落ちました。信、絵美里、母親、父親の顔が浮かび、緑ヶ丘市の風景、楽しかった小学校、パン屋の二階にある自分の部屋などが次々と頭に浮かんで、そして消えていきました。

 四人の少年が半ば死を覚悟した時、突如ジュニアが彼らの前に走り込んで、唸り始めました。ジュニアはケイ達を死に神から守るために、間に立ちはだかったのです。ああ、今にも死に神は大鎌を振り下ろして、ジュニアの命を刈り取ってしまうでしょう。

 次の瞬間、ケイ達の予想もしなかったことが起きました。ジュニアが唸り声を上げて牙をむいた途端、死に神がびくっと体を震わせて、後ろに下がり始めたではありませんか。ジュニアが威嚇するたびに、死に神は一歩、また一歩と後ずさっていきます。しまいには、大鎌をバットのように身構えて、怯えるように白骨の膝が内股になっていきました。そしてジュニアがワンと一度大きく吠えると、何ということでしょう。死に神は情けない叫び声を上げると、一目散に逃げ出していったのです。

 死に神を追い掛けて、段々遠退いていくジュニアの鳴き声を、ケイ達は呆然と聞いていました。ジュニアの鳴き声は、風にざわめく木立の音に混じって、やがて聞こえなくなりました。四人はしばらく、ただただお互いにしっかりと抱き合って、その場から動くことが出来ませんでした。まるで全速力で走った後のように、はあはあと荒く息をしながら、死に神とジュニアが走り去った方角を見つめていました。涙に濡れる頬に夜風が吹き付けるひんやりとした感触で、ケイはまだ自分が生きていることを実感しました。

 しばらくしてからウィルが口を開けて、皆を見回しました。「ぼ、僕達、生きている…?」

 三人は放心した表情で頷いて、そばに転がっている酔っ払い二人に目をやりました。

 「こいつら、死んだのか?」

 地面に転がっている男達の体は、ぴくりとも動きませんでした。

 「死に神が本当にいたなんて。僕達が墓を荒らしたから、それで…?」

 何かが走ってくる音がして、四人はびくっとして振り返りました。ジュニアでした。

 「ジュニア、お前も無事か!」

 ジュニアは口に何かをくわえて戻ってきて、ケイの足元に落としました。ニールが震える手で拾い上げると、それは小さくて細長い白い物と、黒い布の切れ端でした。

 「そ、それ、骨だ!何かの骨だよ!」

 サムが叫ぶとニールはびっくり仰天、慌てて骨を放り出して後ろにひっくり返りました。

 「何で骨なんか!何なんだよ、一体!」ニールは骨を触った手の平を、サムの上着に擦り付けて泣きそうな顔をしました。

 サムは何かの骨と言いましたが、今の状況を考えて、思い当たるものは一つしかありませんでした。死に神の骨です。途端に恐怖が戻ってきて、四人は更にガタガタと震え始めました。

 死人のような真っ白な顔で骨を見下ろし、四人は無言のまま震える足で立ち上がりました。そして一歩、二歩と、辺りを見回しながらその場を離れていき、やがて誰ともなく走り出すと、全員一目散に駆け出していきました。ジュニアが彼らの後から、影のように追い掛けていきました。

 


 朝になり、朝食を終えたシュレトが作戦の結果を聞きにやってきました。

 「何?ルーナンのかけらを死に神に奪われた、だって?」シュレトはミミが入れてくれたお茶を、危うく噴き出してしまうところでした。

 「何度も聞き返したんだけど、それがウィル達の言った言葉なんですもの」ノエラはそう言って、自分でも信じられないと肩をすくめて見せました。

 「大変だったんだよ、昨日の夜は。僕とノエラはミミを先に寝かせてから、ウィル達が帰ってくるのをずっと起きて待っていたんだけど、皆真っ青な顔で、転がり込むように玄関に入ってきたんだ。ずっと墓地から走ってきたみたいで、息を切らして、汗びっしょりで。震えるばかりで、しばらくは誰も何も喋らなかったんだ」

 「ぶるぶる震えて、どうにかなっちゃったのかと思ったわ。しばらくしてやっと落ち着いたのか、ウィルが何が起きたのか話してくれたの。それが…」

 「今言った、死に神の話だったのか?」シュレトが呆れたように、ため息をつきました。「いくら何でも、あまりにも突拍子もない話じゃあないか?死に神ってのは」

 「勿論、私達だってそう思ったけど、誰もそれ以上詳しく話してくれずに、逃げるようにベッドに潜り込んじゃったんだもの」

 「今もまだベッドの中ですよ。朝御飯も食べたくないって、怖がって起きてこようとしないんですよ」ミミはとても心配そうです。

 「でも一つだけ確かなことがあるよ。ウィル達がルーナンのかけらを持って帰ってこられなかったってこと」タエが頬杖をついて言いました。

 「どうせ、恐怖で枯れ木を化け物と見間違えたとか、そんなことなんじゃあないのか?」

 「いや、あれは枯れ木なんかじゃあなかった」

 シュレト達が顔を上げると、丁度ウィル達が居間に入ってくるところでした。全員毛布に包まったまま、顔は疲れて血の気がなく、目の下には黒いくまが出来ていました。

 「死に神が現れたんだ。嘘じゃあないよ」

 「別に、嘘だなんて思っていないさ。でもきっと見間違いだと…」

 「見間違いでもないし、枯れ木でもなかった。あれは正真正銘の骸骨だった。白骨の死に神だったんだ。全身を覆うような、黒い大きなマントを着ていて」

 「でっかい大鎌を持っていた。恐ろしい二つの目の穴が、不気味に僕達を睨んできて」

 せきを切ったように一斉に話し始めたウィル達を、シュレトが黙らせました。

 「分かったから、少し黙れ。お前達がすごく怖い目にあったのは良く分かった。だから誰か一人順を追って、昨夜墓地で何があったのか、正確に話してくれないか?」

 結局、ウィルがレメテック墓地での恐ろしい体験を、詳しく話して聞かせました。

 「死に神はジュニアに悲鳴を上げて、逃げていったって言うのか?」

 ウィルが話し終わると、シュレトはまだ信じられないという顔で頭を掻きました。

 「よかった、四人共無事に帰って来てくれて」タエは半泣きで震えていました。

 「嘘でも寝惚けていた訳でもないよ。骸骨の死に神をこの目で見たんだから!」この目で、とニールは自分の充血した両目を指差して見せました。

 「ちゃんと証拠もあるんだ」

 ウィルはポケットに手を入れてそれを取り出すと、テーブルに置きました。

 「うわっ!何でそんな物を持って帰ってきたんだ!」

 ニール達が驚いて後ずさりするのと反対に、シュレト達は身を乗り出して、テーブルの上に置かれた物を覗き込みました。

 「この黒い布の切れ端と、白い石は何だ?」

 「話しただろう?ジュニアが死に神を追い掛けて行った後、これをくわえて戻ってきたんだ。この白い物は死に神の骨の一部だよ。布は恐らくマントの一部だろう」

 タエがはじかれたように後ろに飛び退き、ミミとノエラはジュニアの後ろに隠れました。シュレトは嫌なものを見るように、骨を横目で見て顔をしかめます。

 「骨まで見せられちゃあ、信じない訳には行かないか。分かった、信じるよ」シュレトは不安げに首を掻きました。「しかし、しかしだぜ。死に神にルーナンのかけらを持っていかれたとすると、そいつはちょっと厄介だな。どうやってかけらを取り戻すのかって話になるだろ。死に神に直接会いに行って、返してくれって頼むか?何処に行けば死に神に会えるのか知らないけど」

 「嫌だ、俺はもう絶対に、死んでも死に神になんか会いたくない!」ニールは包まっていた毛布を頭から被って、震え始めました。

 「墓から出てきたかけらは、諦めないとならないのかなあ」ケイがつぶやきました。

 「いや、可能性が全くない訳ではないと思う」ウィルが皆を励ますように言いました。「僕がわざわざ骨を持ち帰ってきたのは、死に神が現れたのが嘘ではないと、証明したかったからだけじゃあない。この骨が僕達の手にあることによって、僕達と死に神の間につながりが生まれたことになる。僕達がかけらを取り戻したいと思っているように、死に神も骨を取り戻したいって思っているに違いないんだ。だからまだかけらを取り戻すチャンスは残っている」

 「つまり、死に神と取引をするつもりなのか?」シュレトが眉を吊り上げました。

 皆、あんぐりと口を開けてウィルを見つめました。

 「何て恐ろしいことを考えるのさ。止めてよ。死に神相手に取引なんて、無茶だよ」

 「取引をするといっても、今のところ、死に神の方から僕達の前に現れてくれないと、どうしようもないんだけどね。僕は死に神の家が何処にあるのか知らないし」ウィルが肩をすくめて、サムを振り返りました。

 「ぼ、僕だって知らないよ。たとえ僕の兄貴でも、死に神の家が何処にあるかなんて、知らないと思うよ」サムが慌てて首を振りました。

 うう…、とジュニアが死に神の骨とマントの切れ端に向かって、唸り始めました。

 「おい、ジュニア。これは死に神と取引をするための大切な品だ。これ以上噛んで傷をつけるなよ」

 ジュニアが飛び掛かる前に、シュレトがテーブルの上から骨と布を持ち上げました。そして顔をしかめました。彼は手にした骨と布を顔に近づけて、鼻をくんくんさせました。

 「俺も詳しくは知らないが、普通死に神っていうのは、埃だらけの古いぼろ布をまとって、かび臭いものじゃあないのか?時には死臭を漂わせたりして。少なくとも、俺のイメージする死に神はそういうもんだけど、お前達が昨日出会った死に神の着ていたマントは、死臭やかび臭さにしては、いやに甘ったるい匂いがするんだけど?」

 ウィルがシュレトから骨と布を受け取って、恐る恐る匂いを嗅いで見ました。

 「本当だ。良い香りがする。花の香りみたいだ。香水だよ、これ」

 「香水?」皆、目を丸くして骨と布に目を向けました。

 「犬に怯えて逃げ出す、香水つきのマントをまとった死に神?随分迫力に欠ける死に神だなあ。おまけに今は、骨の一部が欠けているらしい。お気の毒に」シュレトは少し呆れた顔で、死に神に出会った四人を振り返りました。

 「ほ、本当だよ。本当に死に神はいたんだ。嘘じゃあないよ」

 「分かった。分かっているって。確かに死に神は出た。信じるよ」シュレトは四人をなだめました。「それに死に神に迫力があろうとなかろうと、ルーナンのかけらを取られたことに変わりはないんだ。何とかしなけりゃあなあ」

 「何とかするって、どうするのですか?」ミミが尋ねます。

 「警察は事件があった時、最初にどうするか知っているか?」

 シュレトが言うと、サムが手を挙げて言いました。「分かった。事件のあった場所に戻って、手掛かりがあるかどうか調べるんだね。レメテック墓地にまた行ってみるんだ」

 「そういうこと」シュレトがにやりと笑いました。


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