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捜査の進展

 こちらは刑事部捜査第一課、厄介事捜査室。

 この一風変わった名称の捜査室は、今からおよそ十年前、警視庁にすら先駆け、天下の神奈川県警本部が、いち早く設置を決めた特別な部署である。

 厄介事捜査の基本理念は、「一見して些細に思える事件でも、そこにさらなる厄介なヤマが潜んでいる可能性があるならば、一大事となる前に、それを崩しに掛からなければならない」というもの。

 本日午前十時に発生した「K県K市爆破予告事件」もその一つ。厄介事捜査室では、事件解決を目指して動き出している。


 K氏はどうして最初に公衆電話を使って接触してきたのか。マゴリ警部と余計な会話までして、通話時間を延ばしたのは、意図的なことだったのか。

 なぜ神奈川県から遠く離れた香川県にいたのか。なぜ最初から電子メールですんなり用件を伝えてこないのか。

 どのようにして緑葉留美子の個人情報を知ったのか。知人か。親類か。情報流出があって、赤の他人が知ったのか。

 なにが目的か。なんの利益があるのか。なにが嬉しいのか。犯罪者の心理は、いつだって謎ばかり。

 実は単なる愉快犯で、警察を相手に、イタズラをしただけなのか。それとも、これから、大々的にゲームをするつもりなのか。本当に爆弾のようなものを用意しているのか。

 今のところ全てが謎に包まれている。K氏を逮捕して自白させるのが先か、午後三時に連絡があり、次のステージに進むのが先か。午後三時に連絡がなく、次のステージに進まないのか。

 ハッキリしているのは一つ。警察が捜査に全力を注ぐということ。


 ここにマゴリ警部とスマホ刑事が戻ってきた。既に香川県警からの一報が入っている。

 K氏が使った公衆電話は、冷房の効いた屋内イベント会場のもので、防犯カメラに映っていたのは、フルーツ着ぐるみ「イチゴ」の人だった。白くてモコモコした衣装が全身を包んでいる。指紋採取はムダだろう。ヘルメットのようにスッポリと頭部を覆っているイチゴは、ビニール製の空気で膨らませるタイプ。受話器を持つ手で口元を隠し、反対の手で目を隠している。イベント会場内に設置されている別の防犯カメラには、同じ姿で、色々なフルーツを頭に被った人が大勢映っていた。誰が誰かなど、全く区別がつかない。分かるのは背の高さくらい。なんだこれはと思うような光景だけれど、実はそこで「第十回フルーツ着ぐるみ大会」が行われていたのだ。そのため、今のところK氏の足取りは全くつかめていないらしい。もちろん、近辺の聞き込み捜査もやっているそうだ。


 また、K氏の使った携帯電話の契約者情報も判明している。

 内山洋太、岡山県倉敷市内のアパートに住む二十歳、学生。この携帯に掛けても電波が届かない状態が続いている。保護者の連絡先、つまり実家は兵庫県神戸市。洋太とK氏が同一人物なのかは不明。どちらにしても、携帯は電源が切られているのだと推測される。

 スマホ刑事がマゴリ警部に問い掛ける。


「そもそも、なんの理由で公衆電話を使ったんすかね?」

「フルーツ着ぐるみ大会をやってるからだ」

「木を隠すには森の中すね。でも、なんで香川県なんすかね?」

「この暑い最中、香川県警のやつらを働かせたいんだろ」

「最初からメールで接触してこなかったのは?」

「スマホ、テメエで考えてみろ。どう読み解くんだ」

「自分ら神奈川県警を働かせたいんすよ」

「バカ野郎、俺の答え真似してんじゃねえぞ! 違う読みを出せ!」

「そうっすね。自分らの気を引きたいんす、きっと」

「そんなこた俺だって分かってらあ。その先を読め、バカスマホ!」

「は、了解っす」


 この後も、マゴリ警部による厳しい教育的指導が続いた。

 少し時間が経って、岡山の情報が入ってくる。

 それによると、神戸市にある洋太の実家へ連絡し、彼の母親から話を聞いたそうだ。洋太とは一週間ほど前に電話で話したのが最後で、昨夜掛けた時は繋がらなかったということ。

 今日警察から連絡があって、いっそう心配になってしまった母親は、急いで洋太のアパートへ向かったらしい。また、岡山県警も動き、洋太に直接会って事情聴取することになったそうだ。


「ちと複雑になってきたじゃねえか。厄介だぜこりゃ」

「そうっすね」

「俺らも行くぞ!」

「了解っす」


 厄介事捜査室の迷コンビは、今から鎌倉市内にある緑葉家へと向かう。

 時刻は、午前十一時を迎えるところである。

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