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プレゼント

 集合と論理の説明は分かりやすかった。留美子でも、よく理解できた。

 数男は、レクチャー用の大学ノートに、留美子の受け答えをセリフとして記入している。それがシナリオの原型になるということ。

 突如、ドアにノックの音が響いた。


「あ、お母さんが妨害しにきたのか!」


 留美子はいつも、美恵から数男のことで冷やかされる。だからあり得る。

 走っていってドアを開けた留美子が、ぶっきらぼうに言う。


「なんの用?」

「スマホ刑事さんがいらしたの」

「えっ、ホント!?」

「あなたにプレゼントがあるそうよ」

「ええっ、私に??」


 留美子は急いで一階、リビングへ向かう。美恵と数男も後に続いた。

 スマホ刑事は、大小二つの紙袋を手に持ち、立っている。

 まず挨拶を交わし、美恵以外の三人でソファーに座る。数男とスマホ刑事が、改めてお互いの自己紹介をした。美恵が、ブドウジュースを用意して戻ってきた。

 スマホ刑事から留美子に、小さい方の紙袋が渡される。

 中身を取り出す。出てきたビニール袋の中に入っているのは、真っ白ピカピカなウェディングドレスだった。


「わっ、綺麗!」

「高そうね」


 留美子と美恵が異なる感想を述べた。数男は無言で見ている。

 すかさずスマホ刑事が答える。


「かなり安いっす。通販商品なんすよ」


 留美子と美恵がお互いの顔を見合わせる。数男は黙ったまま、ずっとウェディングドレスを見つめている。

 このドレスについて、スマホ刑事が説明する。


「実はそれ、動画撮影で留美子さんが着ることになる衣装っす」

「ええっ、もしかしてK氏という人が送ってきたんですか?」

「いえ、相手もなかなか巧妙で、通販のギフト券を送りつけて、これを買えと指定してきたっす」

「へえ、そうなんですか」

「そうなんすけど、そのギフト券は事件の物的証拠として警察内で保管しないといけないっすから、それでマゴリ先輩が自腹切ったんすよ」

「えっ、いいんですか?」

「全然いいっすよ。先日から、捜査に協力して貰ってるお礼ということで。一応、それは自分からの個人的なプレゼントっす。そういうことにしろと、マゴリ先輩が言ったっす。それでなんすけど、留美子さん、早速着て貰えるっすか? サイズが合うのか、確かめたいっすから」

「はい、分かりました」


 留美子はドレスを持って、別室へ着替えに走った。

 シンデレラの靴ではないけれど、ピタリと合えば、K氏は留美子の体型を知っているのだと考えられる。

 少しして、花嫁っぽい姿になった留美子が戻ってくる。頭に思い描いていたウェディングドレスとは違って、前裾がかなり短い。膝上五センチといったところ。

 真っ先に、美恵が歓声を上げる。


「まあ似合ってるわね!」

「サイズはどうっすか?」

「ちょっと大きめですけど、まあまあ合ってます」


 K氏が、少しだけ余裕を持たせて、サイズを選んだのかもしれない。

 先ほどから数男が黙ったままなので、留美子が問い掛ける。


「カズくん、どう?」

「うん、とても綺麗だよ」

「ありがと。ふふ」


 ここに美恵が割り込んでくる。


「数男ちゃんは、どんな衣装で撮影するの?」

「俺、それは考えてませんでした」

「もう一つプレゼントがあるっす」


 スマホ刑事が二つ目の大きい紙袋を、数男に差し出す。


「えっ、俺に?」

「そうっす。星野さんにもお手数を掛けて貰ってるようっすから」

「いえ別に、どうということはありません」


 そう言いながら数男は紙袋を受け取り、中身を出した。

 それは、白くてモコモコした衣装と、ビニール製「イチゴ」だった。


「観音寺フルーツ販売促進協会が通販で売ってるっす。それは留美子さんのドレスより、さらに安いっすから、遠慮なく受け取って欲しいっす」

「そうですか。ありがとうございます。俺これ着て動画に出ます」

「よかったっす」


 そう言ってから、スマホ刑事は留美子に言う。


「それと、玄ちゃんが曲作ってくれるっすよ」

「わあ、ホントですか!?」


 留美子は大喜びした。

 美恵と数男には「玄ちゃん」が誰なのか分からない。少しして、その人が超人気アーティスト、麦斗玄米のことだと知り、二人はとても驚くのだった。

 さらに、スマホ刑事は朗報を、あと二つ伝えてくれた。

 一つ目は、留美子の動画を紹介するテレビ番組が決まりそうだと、マゴリ警部が言っているという報告。もう一つは、最近人気が出始めた「チョキちゃんねらー」を紹介するということ。その人が動画製作のアドバイスと、撮影の手伝いをしてくれるそうだ。

 留美子がスマホ刑事に質問する。


「どういう人なんですか?」

「気さくな人っすよ。二十二歳で、まだネット上では、それほど有名にはなってないんすけど、《馬のバリカン》という変なユーザー名で、一部の人たちからは注目され始めてるっす。手伝って貰うっすか?」

「そうですね、お願いしたいと思います」

「了解っす。打ち合わせが必要になるっすね。明日はどうっすか?」

「明日なら、いつでもいいです」


 スマホ刑事がこの場で電話を掛けた。通話はすぐに終わる。


「アポ取れたっす。明日の午後一時半に、ここへきてくれるっす」

「分かりました。ありがとうございます」

「いいっすよ。動画製作、頑張って下さいね。そのことには関係なく、爆破予告犯人Kは、自分らが逮捕するっすから、ご心配なく」

「はい」


 もう少し茶話を続けてからスマホ刑事は帰った。

 留美子と数男は二階に戻り、シナリオ作りを再開する。少なくとも動画製作に関しては、色々なことが順調に進んでいる。

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