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マゴリ警部とK氏のガチ通話

 マゴリ警部が咳払いを一つして、スマホ刑事の手から受話器を奪い取り、しっかり強く握る。渋面は崩されない。まるで、犯人の足首をつかんだ今「決して取り逃すものか」とでも言わんばかり。

 電話機本体のスピーカーから相手の声が出るように、スマホ刑事が切り替え操作をした。そして保留が解除される。


「あー、今刑事一課にいる中でナンバーワン、そんな俺でどうだ?」

「あのう、肩書きはなんでしょうか」

「課長補佐だ」

「補佐ですか、そうですか。では課長さんはいますか」

「だから不在なんだよ。しばらく戻らねえ!」


 課長の席がある専用スペースは、ここから見えない。いるかどうかに関係なく、こんなことで捜査一課長を煩わすことなどあり得ない。どちらにしても、この場にいないのは真実だ。


「分かりました。補佐さんで我慢します。そうですか、補佐ですか」

「あ、なんか文句あんのか?」

「いいえ別に。あのう、もしかして補佐である自身にコンプレックスを抱いていますか。すぐにでも課長への昇任を果たしたいと切実に願っていますか。そんなにも補佐とはつらい立場なのですか、補佐さん」

「うるせえ、補佐、補佐って連呼すんな! それより早く用件を言え!」


 いきなり下で鈍い音が鳴る。マゴリ警部がデスクの足を蹴ったから。


「分かりました。あのう、ところで今、そちらで変な音がしましたね。補佐さん、大丈夫ですか」

「チッ、こっちはなんの問題もねえよ。だからそっちの用件を言え!」

「分かりました。あのう、ある方の情報を電子メールで送ります。今日の午後三時にまた連絡しますから、それまでにその人を呼んでおいて下さい。直々に伝えたい事案があるのです」

「はあ? この野郎、警察をなんだと思ってやがる!」

「日本の警察は市民を守ります。ですから、必ずその人を呼んで下さい」

「そうか。だがなあ、そいつがこなかったらどうする気だ?」

「呼べていない場合には、そうですねえ、K市をどうかしてあげましょうか」

「あ、なんだって? ケーシ??」


 相手の声が小さく、ボソボソと話しているので聞き取りにくいのだ。


「K県K市ですよ。そこのどこかを爆破してあげましょうか」

「ふざけんな! 今の爆破予告だけで懲役ものだぞ。分かってんのか!」


 再びマゴリ警部の靴先が空を斬る。

 ところが、寸止めされて音は鳴らない。


「分かっています。僕は勉強家ですから。特に理科系が得意です」

「そうか、やる気なのか。K県K市をなあ」

「はいそうですね」

「で、そのK県ってえのは、俺が今いる神奈川県のことなんだろ?」

「さあどうでしょうか。兎に角、午後三時を過ぎたら、軽く最初の爆破をしてあげましょうか。その先は、毎日午後三時に別のどこか。日が経つごとに爆破の規模を大きくして。ですから、なるべく早く呼ぶのがよいと思いますよ。それでは、よろしくお願いします」

「おい待ちやがれコラッ! こんチクショーめがっ!!」


 再び下で鈍い音が鳴る。今度のは、とてつもなく大きく響き渡った。だから厄介事捜査室の中では、猫も杓子も驚いた。


「足痛くないっすか、補佐さん」

「やかましいわ!! 窓から港までぶん投げるぞテメエ!」

「ゴメンなさいっす」


 もしもマゴリ警部のマウンテンゴリラ並みの力で、横浜港に向けて投げ飛ばされでもしたら、ヒトは生きていられる訳がない。だからスマホ刑事は、深々と頭をデスクすれすれになるまで下げる。

 それから少しして、その顔を上げた。


「K市って川崎市なんすかねえ。それとも鎌倉市すか?」

「鹿児島市の線もあるぞ」

「そうっすね」


 マゴリ警部は、鹿児島県鹿児島市で生まれ育った。柔道のスポーツ推薦で、横浜の私立高校へ入り、高校総体で三連覇を成し遂げた。


「おーい、今の電話どこだあ!」


 別方向へ、マゴリ警部が大声で叫んだ。

 すると、少し離れた場所から直ちに応答がある。


「観音寺市内でした。既に現場へ向かわせたそうです」

「おう。クソ野郎め、防カメに映ってんだ、徹底的に追ってやる。日本の警察ナメてんじゃねえぞ、ボケがっ! つーか、観音寺市ってえのは、どこにある?」


 これにはスマホ刑事が即答する。


「四国の香川県すよ」

「そうか、それもK県K市だな。おう、そういやスマホは讃岐だったか?」

「はい、自分は坂出市の出身っす。あ、それとですね、観音寺市は、その隣りの隣りの隣りっす。え、あれえ、そのもう一つ隣りだったっすかねえ?」

「俺が知るかよ、バカスマホ!」

「あ、やっぱしもう一つ隣りだったっす」


 スマホ刑事はスマホ力が高い。一瞬にしてバッチリ調べ切っている。


「相変わらず早ぇじゃねえか、スマホよお」

「なにかにつけて便利すよね、これ」

「いや違うな、そいつを使いこなせてるスマホ、テメエこそが便利なんだ」


 どんなに役立つ機械でも使えなければ意味がない。人材も同じこと。それをマゴリ警部がさりげなく教えているのだ。いわゆる「深い話」のつもりである。

 スマホ刑事はすぐに悟った。


「それもそうっすね」

「おう。つーか、うー、なんか腹減ってきたぞ、ボケがっ!」

「暴れたり怒鳴ったりするからっす。あでも、お昼まで我慢して下さいよ。早速メールきてるっすから。件名は《K氏より、刑事一課の補佐さんへ》ですって。マゴリ先輩、気に入られたみたいっすね。ふふっ」

「チッ、クソが! で、どこの誰の情報を送ってきやがった」

「鎌倉市内の人すよ。これは《みどりばるみこ》って読むんすかねえ。それと自宅の電話番号も書いてあるっす」

「それで終わりか?」

「そうっすね」

「うー、こりゃ厄介だな」


 K氏からの電子メールは大手通信事業者のキャリアメールを使って送られたものだった。それで、その契約者を割り出すことになる。もちろん、その者がK氏本人とは限らない。

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