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真っ白ピカピカのセダン

 一足先に留美子が進み、玄関のドアを開けた。

 美恵はその場で留まって、靴を履く最中の数男に声を掛ける。


「そしたら、また今度ゆっくりね」

「はい。お邪魔しました」


 こうして留美子と数男が並んで庭へ出る。

 数メートル隔てた先に、緑葉家の敷地と公道の境界線として、植木の柵が連なっている。玄関から見た正面には門がある。

 丁度この時、門のすぐ外側に、セダンタイプの車が停止するのが見えた。運転席から降りる人は、黒いスーツを着た女性だ。年の頃は二十代後半といったところで、スラリと背が高い。

 突如やってきた、その車が「真っ白ピカピカ」だったので、留美子はビックリしてしまう。


「ウソ、あれが特等賞品なの!?」

「えっ、あの車が当たったのか!?」


 思わず二人で見つめ合ってしまう。そして、すぐ門へ向かって走る。

 黒いスーツ姿の長身女性が近づいてきて、留美子の顔を見て微笑み、綺麗な声で話し掛ける。


「緑葉留美子さんは、おられますか?」

「はは、はいっ! 私がそうです!」

「そうですか。実は自分、神奈川県警の者であります」


 女性はチラリとだけ、警察手帳を掲げた。


「え!?」


 そんなものを見せられたのは人生初のことだし、車が特等賞品だと一瞬思ったのは勘違いなのだと分かったし、つまりダブルでショックを受けたのだ。それに加えて、白いセダンのすぐ後ろに、パトカーが一台停まっているのも見えたので、ショックはトリプルになった。

 だから、留美子の頭の中身は「真っ白ピカピカ」になってしまう。

 白いセダンの助手席から、ガッチリ体型のオジさんが降りてきた。青い半袖のワイシャツを着てノーネクタイ、霜降りグレーのスラックス。片方の腕に、上着を掛けて持っている。黒いスーツの女性が警察官なのだから、その男性も同類のはずだと、さすがに今の留美子でも、連想することはできた。

 ただ、なぜ警察の人が訪ねてきたのか、そこのところが全くの謎であり、本日二度目の大衝撃である。実際、なにも身に覚えがないのだから。

 一方、数男も同様に困惑している。この場で「じゃ俺帰る、またな」と軽く言ってすんなり立ち去っていいものかどうか、それを判断しかねているのだろう。

 目の前にいる女性は、若い二人の動揺を察したのか、柔らかい表情で言う。


「驚かれるのも無理ないですね。実は少し、留美子さんにお尋ねしたいことがありまして。えっと、もしかして、これから二人でお出掛けですか?」

「は、いえあの、この人が帰るので、見送るだけです……」

「ああ、そうですか」


 女性が数男の顔を見る。近づいてきたオジさんも数男の顔を見る。

 自分より少し背の高い美人女性と、恰幅のよい強面の男、そういう知らない二人から見つめられた数男は戸惑い、仕方なく留美子の顔を見る。


「どういう事情か分からないけど、俺ここにいようか?」

「え、あ、どうしよ……」


 確かに数男がいてくれたら心強い。しかし留美子にも意地がある。元カレには、あまり頼りたくないし、煩わせたくもない。

 ここにタイミングよく、美恵が現れる。


「どうかしたの留美子。あら、あれが特等賞品なの!? 素敵ね!」

「違うって、警察の車」

「えっ警察!? 事件??」

「分かんない。あゴメン、カズくん。お母さんいるから帰ってくれていいよ」

「うん。じゃ俺帰る、またな」

「バイバイ」


 やっと別れの挨拶ができた数男は、門から出てスタスタ歩いていった。

 留美子の元カレよりも背の高い女性が聞いてくる。


「あの、そちらへ行ってもよろしいですか?」

「は、はい」


 留美子が答えると、女性とオジさんが門を潜り、家の敷地内へ立ち入った。

 今度はオジさんの方が、警察手帳を美恵に見せた。


「俺はこれだ!」

「あらまあ、刑事さんなのですか!?」

「おうよ。刑事一課、課長補佐のマゴリ警部だ。俺らは厄介事捜査をやる」

「そうですか。私はこの家の主婦、緑葉美恵です」

「おう。で、こいつは捜査二係主任のスマホ巡査部長だ」

「あらまあ、そちらの方、なんて凛々しくて美しいのかしら! まるでミュージカルのトップスターだわ。ねえ、留美子もそう思うでしょう?」

「うん、凄く綺麗な人」

「おいスマホ、いきなり褒め言葉を貰えたな。がはは!」

「いやあ、照れるっす」


 この後、留美子が事情聴取を受けることになる。

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