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5話 異世界の育児事情

ざっくばらんにではあるが、ひとまずここで生きていく上で重要そうな教育と政治について確認できた。はず。


やはり俺の常識とは異なるようで、学校も義務教育も存在しないが、教会では無料で簡単な読み書き計算を、ギルドでは有料で専門的な知識を教えてくれるらしい。どれも親や子供が望めば、という選択が与えられている。ただし最低6歳から。

ちなみにギルドは商人・職人・冒険者の3つ。冒険者については9歳から。


あとは民主主義ではなく君主制。王様が力を持ち貴族が領地を治める。ただ教会とギルドもそれなりに力を持つため現在は割とバランスが取れている、らしい。地域によってはアレな所もあると。アレってなんだ。嫌なイメージしか思い浮かばない。

とりあえず教会は民衆寄り、ギルドは腕や金次第。貴族は人によってかなり違う。

そのため庶民は何かあれば教会へ。

交番かな?


交番と言えばと、この世界における犯罪には何があるのかと尋ねてみた。確か海外でも道に落書きしただけでしょっ引かれるとか聞いたことがある。それに類する何かが子供だからと見逃されるかはわからない。そんな軽い気持ちだったが、ドナさんがショックを受けた様な顔で俺を見た。


え。


驚いているとウィルさんから気遣わし気に尋ねられた。


「カル君、もしかしてあの女性の言っていた事を気にしているのですか?」

「あ…」


そう言えば犯罪者がどうのと…いかん、これ以上アレについて思い出すのは不味そうだ。止めよう。


色々あってすっかり忘れてたが、水晶の話が全然進んでなかった。と考えをがらりと変える。

いやその前に本来の年齢が云々と…やはり俺が外見とは違う年齢だと気づいてた…?その割にやたらと子供扱い…いや、俺が子供の振りをしたからか?


また思考が飛んだ。知らないことが多すぎるのもあるが、落ち着く前に新たな衝撃が来るせいか、自分の思考がすぐに散る。反省しなければ。あと本気でメモが欲しい。


悶々と考えに没頭していると、頭を撫でる手と背中を摩る手が。


「え?」

「すみません、思い出させてしまいましたか?」「気持ち悪くなっちゃた?」

「え、や、だいぢょうぶ、まもってもあったち、あ、うぃうしゃんのおうぎゃ…」


――すいません、タイミングが悪かったです。


慌てて大丈夫な旨を伝え、むしろウィルさんの方が嫌な記憶では、と言おうとしたが、強メンタルでばっさり切り捨ててたことを思い出して言葉が途切れた。


「心配してくれてありがとうございます。僕は本当に大丈夫ですよ。独り言の大きな方は一定数いらっしゃいますから、あぁいったことを聞き流すのは慣れたものです。ただカル君は突然だったので、すぐには慣れませんよね、すみません…」

「え、だいぢょうぶでしゅ」


反省してる風に言われたけどそうじゃない。

というかそれ、慣れていいの…?


「そうね、カル君にはまだ難しいわよね。聞き流すのが難しい場合は、相手の言葉をどう受け止めるかを考えてみてね。言葉をどう受け取るかは自分次第だもの。どんな言葉だって、誰かとやり取りして初めて意味を持つものよ。カル君が悪い風に受け止めてしまったらそれは悪いモノとして残ってしまうから、"今のは違う"って思えば良いの。良い風に受け止められたなら、それは自分にとっての違う考えを持つ人なんだ、って糧にもなるし受け流せるようになるわ。それに、誰にも受け止められない言葉は『お願い』になるから、いつか神様がその人のために叶えて下さるわ。うふふ」

「おぅ…」


お茶目風に言ったってごまかされないぞ。


途中までなんか勉強になるな、とか思ってたのに。

褒め言葉風だけど内容が黒い。上手に言いまわしてるけど黒い。

周りを気にせずはきはきと心情を吐露出来るのは凄いですよねとか。


…いやうん、まぁ、確かに。真似したくはないけど。

でも一番は…


やちゅや(やつら)みきゃちゃを(味方を)ちゅきゅゆのぎゃ(作るのが)うまい…」

「「カル君…?」」

「え…?」


二人が会話を止めてこちらを見た。

意味が分からず見返すが、タイミング的に心の声が口から出ていたのかも知れない。

意図せず心の声が漏れ出る事があったので多分そう。

無意識なためか俺の滑舌が酷くなるので、言葉を聞かれるというよりは、ニュアンスで感じ取られていたのだが…


「カル君、確かにそれもありますが、もしかしてそういった内容の夢だったんですか?」

「そうね、着眼点は良いけれどさっきと同じようなお顔してるわよ?」

「ぁ…」


――聞き取れてたようです。ちょっと理解力が高すぎる。

あとそんなとこまで褒めなくていいです。


おまけにというか案の定、顔にがっつり出てたらしく、二人の探るような視線からそっと目を逸らしてみる。

ぐさぐさと視線が突き刺さる。

いやそもそも夢の内容とは違う。聞き取りづらかったがとにかく不快な音で…

今ぽろっと出てきたのは、なんとなく徒党を組んで人を追い詰めるイメージが出て来ただけで、夢には出てこなかった、はず?

いかん、よく分からなくなってきた。


「話したくない?」

「ううん」――話したくない訳ではない。


「話すのは辛いことですか?」

「ううん」――辛い訳でもなく。


「上手にお話できない?」

「あ~~…」


なんて言ったら良いんだろう。そのまま伝えればいいのか?理由を聞かれてもそれ以上は答えられないが…

腕を組みどうしようかと考える。

すると堪えたような笑い声が。


「なんで…?」

「うふふ、ごめんね。カル君が可愛くって…」

「ふふ、すみません。大人の真似をしているみたいで微笑ましかったので…」

「おぇおとなでちゅよ!」


あんまりな言われように、思わず二人に視線を向けながら憤慨したが、どう考えても背伸びした子供感満載だった。力が入ったせいでより残念な滑舌になった言葉に肩を落とした。


何故かとても驚いた声が届く。


「カル君、大人って…?」

「え?」


――いやさっき…あれ、成人済みとははっきり話してない…?

そもそも俺も具体的に何歳とかは覚えて無…


「あたち!!」


突然のひらめきについ声高に叫ぶ。


「あたち?」「まさか女の子だったの…?」

「ちぎゃう!にぢゅう!にぢゅうでおとな!」


滑舌のせいで性別まで疑われた。やめてください。


「20歳で成人ですか?」

「しょう!」

「20歳…」


1つ謎が解けてすっきりしたが、さすがに中身二十歳と伝えたのはまずかったかもしれない。

ドナさんが信じられないものを見るような目でこちらを見ている。


もしかしたら今度こそ追い出されるんだろうか。

夢の話をした時に6歳としか伝えてないから、中身もそう思われたのかもしれない。だからこそ話し終わった後も変わらずというか酷い位に子供扱いされた訳だし。


いやそんな分析してる場合じゃ無い。


「カル君、覚えてるのは20歳までなの?もっと上の歳だったりしない?」

「え…ううん、にぢゅう…」


思考を断ち切ると何故か必死さを滲ませたドナさんに問いただされる。その剣幕に押されるように改めて答えると、今度は痛まし気な表情を浮かべる。

え。

水晶の話をした時と似た表情…?


「カル君、どうして20歳だとわかったんでしょうか?」

「え、いまとちゅじぇん…?あ、でもおとななのわしゃいしょに…」

「最初って…?」

「どなしゃんにはじめてあったとき?に、ゆめで…っ?!」


ドナさんが突然抱きしめてきたことに驚く。事態が飲み込めないながらもそっと離そうと服を掴むも意味が無い。救いを求めるようにウィルさんに視線を向けると、何やら気遣わし気な表情。


「カル君、辛いようなら良いのですが…最初に見た夢は覚えていますか?」

「え、うん」


辛さは全くないけどドナさんへの対応はノータッチですか。無理という判断ですかね?


あれは完全に"夢"というか映画のワンシーン的な感じで、いまだに実感が無い…逆再生風だったからか?


確か水から上がって、というか浮いた感じで、その後ナイフを男が抜いた感じで…

まぁ要は、


「しゃちゃえてちん…いや、おぼえて?おきたやどなしゃんぎゃいた」

「「!?」」


伝わりにくそうなのでジェスチャー付きにしようかと思ったが、ドナさんが抱き着いて居たので無理だった。まぁ胸をグサッとやろうとしたところで、実際には水にどぱんと行ってたっぽいので、死因が溺れたのか出血多量なのかよくわからない。

どちらにせよ痛みも苦しみも無かったし。


首を傾げながらとりあえずその情報を伝えるとウィルさんは痛ましげに、ドナさんは起き上がったかと思えば、え、待って。泣きそうですよ?


「カル君…!」


ドナさんは再び俺を抱きしめると慰めの言葉を呟いては背中を撫で出した。

え、待って、泣きそうなのドナさんの方!


前世とはいえ、世話している子供の死因にショックを受けたと思われるが、どうしたらいいんだこれ。

さっきから咄嗟に抱き着かれてるが苦しく感じないのは何故なのか。慣れてるの?と若干の現実逃避。


「カル君は、平気なんですか?」

「ぢっちゃんないので」


どうも他人事感がある。身体が違うからだろうか…?

思い至った所でショックも喪失感も特には感じない。むしろ水から引っ張り上げられる前はホッとしていた気がする。

さすがにこれは言う気は無いが。


「そうですか…」


ドナさんの行動に突っ込むでもなく静観を決め込んだウィルさんが何故か頭をわさわさと無で出す。

どんな流れだ。


「…なんであたまを?」

「なんとなくです」

「いや、おぇにぢゅ…しぇいぢんちてうんで…」――動けないので言葉での抵抗を試みる。


意味がなかった。

ドナさんの腕は返って力強くなり、ウィルさんの頭を撫でる手付きは優しくなった。

どういうことだ。


「あの…おんとに、だいぢょうぶ、なので…」

「だめよ」「だめです」

「えぇ…」


未だかつて無い力強い二人の否定に困惑が隠しきれない。

そもそも「だめ」って何。返事がおかしい。


俺を心配してくれているのかと思えば、何やら厳しい表情で見られる。どんな感情なのかさっぱりわからない。俺の精神?年齢に対して何かあるのか?いや、それならこの完全な子供扱いが腑に落ちない。

…大変腑に落ちない。


今までの二人の事を思えば、心配に付随するものだとは思うが、だから何だというか…神様助けて。


「良いわね?カル君」

「え?」


待って、何の話?

困った時の神頼み、と神様に祈っている間に何か話がされていたらしい。

え、この距離で耳に入らないことってある?


困惑していると、ウィルさんからそっと耳打ちが。


「カル君の将来の為のお勉強のお話ですよ」

「!」


色々と違うのは理解したので勉強なら必要だろうと「うん、良いよ」と返事をした俺を殴りたい。

なぜこのタイミングでそんな話しを出したのかをもっと考えていれば…いや、絶対わからない。


「うふふ、良かった。じゃあ今日から始めましょうね」

「きょう?」


――良かった?

ドナさんが急に上機嫌です。

え、なんで。


「えぇ。ちなみにカル君は額と頬のどちらが良いですか?」

「あ?」


ちょっと待ってくれやウィルさん。

何その不穏な単語。

何にちなんだの。ちなむ前の情報が無いんですが。


「ふふ、ここでの基本の挨拶ですよ?」

「えぇ、今まではカル君との触れ合いが全っ然足りなかったもの。もう遠慮しないわ…!」

「え、まって、なに、どういうちょと??」


不穏な単語から不穏な単語が増えた。

上機嫌さを含ませたままやる気を出したドナさんに非常に嫌な予感が湧き上がる。

遠慮って何。

基本の挨拶って何。

触れ合いが足りないだと?


「おはようとおやすみの口付けです」

「あ?」

「おでこは祝福でほっぺたは親愛なのよね…やっぱりほっぺたかしら?」

「おい「両方でも良いと思いますよ?」

「まて「まぁ、その手が「いたいで!!いたいぎゃいいでちゅ!!!」」

「…そう?」「…そうですか?」


その手があってたまるか!

あぶねえな!


俺の頭が回っていないまま進む会話に、思わぬ態度の悪さとかうっかり素が出たとか気にしてる場合じゃない。

ウキウキしたドナさんといつも通りのウィルさんの突然過ぎる暴挙に、思わず2択から答えてしまったがもう遅い。頬よりハードルは低いはずだから大丈夫。多分。きっと。おそらく。そうであってくれ。


いやいやいややっぱりおかしい。

中身20歳と伝えた直後にこれは絶対おかしい。


おいやめろ、残念そうな顔するな。

こちとら生粋の日本人なんだよ。突然海外のスキンシップが常識です。とか言われてすぐ実行できるわけがないだろ。

そもそもハグすっ飛ばして額に…あれ、されるの?…まさかするの?

やっと落ち着いた頭が回り出して、恐るべき考えに直面する。


え、待って、本当に?

嘘だろおい。


どうやって回避、いやせめてハグにしてもらおうと考えたが、既に二人の中では決まったらしい。


「では、額にし合いましょうか」

「ちあい?!」――待って、お互いにすんの?!

「そうね、まずはおでこからね。慣れたら頬にもすれば良いんだし」

「まぢゅ?!」


うふふじゃない。

最終的にどっちもやる気満々じゃねぇか。

歳を考えてくれ。


俺の抗議の声は「照れてる」だの「可愛い」だのの言葉で片付けられた。またか。

グレるぞ。いやグレない。大人がグレたらただの痛い人になりそうでなんか嫌だ。

いや、待って。本当に中身成人済みだから。

さっき伝えたばっかりだから。


再度自分が大人である旨を伝えるべく決意を込める。


「カル君、そんなに難しいかしら…?」

「え」

「眉間の皺が凄いですよ?」

「え」


ドナさんの悲しげな声に意識を戻すと、眉間の皺への指摘が。手を伸ばして眉間を伸ばす。寄ってた。

決意というより決死の覚悟みたいになってた。


「カル君、もし、この挨拶で吐き気を催すとか、僕たちを蛇蝎の如く拒絶したくなるとか二度と顔も見たく「ちょとまでぢゃないんで!」

「恥ずかしいからだけですか?」

「……」


無言で頷く。

いや恥ずかしいというかいたたまれないというか、そもそもなんで不快に思って無いのか自分でもわからないんだが。噓を吐いたところですぐばれるので抗議の意味を視線に込めつつ無言で頷いたが微笑まれるだけ。

そもそもウィルさんの言葉選びが酷い。わざとだと分かってるけど酷い。


「うふふ、それなら良かった。子供には愛情がたっっっっぷり必要だもの…!」

「ぃゃ…」――タメの多さに不安しか感じないです。

「他の子はみんなしてますよ?」

「え゛」


どうも幼いうちに家族から与えられる愛情は当たり前で、同じように愛情を育むことが当然である、という認識を持たせるのが普通だ、と孤児院(ここ)では教えているそうな。――さらっとここが孤児院と伝えられたが、内容が衝撃過ぎて突っ込めなかった。


そのため、父母役の大人と一緒に生活し、おはようとおやすみの挨拶に額や頬にキスがデフォルトらしい。ハグも日常茶飯事だとか。

俺の場合は赤ん坊時代は吐いては泣き叫ぶし、どうにもそれは嫌がっていた様子だったから寝ている間にしていたとか。いやしてるじゃねぇか。

最近は俺の喋り方も上達したことから意思の疎通も図りやすいので、少しずつスキンシップ回数を増やして、いつ再開しようかと目論んでいたとのこと。目論むな。やたらと撫でてたのそのせいか。


知らなかった事実に衝撃を受けた。






お読みいただきありがとうございます。

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