1話 情報は”洗礼”の後で
先日投稿したばかりのを早速改定しました。
内容自体は対して変えてませんが自己満足です。
ちょくちょく直す気がするけれど、あらすじにその旨記載済みですから、うん。
皆さんおはようございます。
「カルアデイド」こと「カル君」と呼ばれ早数年っていうか今日で3歳になるらしい俺です。
本日、待ちに待った"洗礼"を受けるために予定よりもだいぶ早く目が覚めました。
ちなみに今は夜明け前っていうか絶賛夜中。
なぜこんな時間なのかと言えば、昨日突然、俺のお世話をしてくれている2人から「明日は夜明け前に教会で洗礼を行って貰うことが決まりました」と、「だから今日はいつもより早寝して、明日は早起きね」と告げられたからだ。
急だな、と思うより先に、ついにその日が来たかという喜びでいっぱいで、昨日はなかなか寝付けず心配になったが、あっさりと遠足前の子供の如く目が覚めてしまった。"洗礼"で何をするかは知らないが、以前、情報収集の為に探り探り尋ねた所「"洗礼"が済むまでは教えられない決まりがある」と言われていたので、あぁやっとかと。しかも"洗礼"についても「3歳まで待ってね」としか教えてもらえなかったので、テンションが上がって早起きするのは致し方ない。
――いやでもやっぱり急すぎる。
いつも俺が起きる頃には既に居る2人も、さすがに今日は居ない。と言うか確実に俺が早く起き過ぎたせいだから当然か。
とりあえずぱっちり目が覚めて、二度寝もできそうに無いししない方が良いだろうと、暇つぶしを兼ねて過去を振り返ろうと思う。
転生当初、突然赤ん坊になっている事の理由を考えようとしても、1日の大半は寝てばかりだった。
おまけに目覚める時は空腹で泣きながら。起きてもご飯を食べている間だけ。しかもその間は、どうしても食事に集中してしまい何も考えることはできなかった。
そんな食っちゃ寝を繰り返す自堕落な生活を続けていると、徐々に起きていられる時間が増えて来たので、やっと俺自身について思い返そうとした。
寝た。
目が覚めた瞬間に意味がわからずもう一度試した。
やはり寝た。
脳に負荷でもかかるのかは知らないが、色々と試行錯誤を繰り返してようやく理解した。
過去の自分についてだけは、思い出そうとしてはいけないと。
何故そうなのかは知らないが、一般常識は残っているようだし、赤ん坊になってからの記憶を探る分には問題無い。幸いなことに生理現象が起こった際の出来事は、当時全力で泣くことに集中したので、恥を感じるとしたら今現在で…いやだめだ忘れよう。
そんな感じで当時は、俺の中の一般常識と現在の環境、子供に対するあれそれとは別にして、どこがどう違うのかを探る方へシフトチェンジしようと決めた。
最初に見た、年老いた聖職者っぽい女性 ―現在俺を世話してくれるうちの1人であるドナさん― が、つきっきりでお世話をしてくれていたことをすっかり忘れて。
当然、何の前触れもなく寝る赤ん坊(俺)を心配して医者に診せられたが、病気でもなんでも無いため、「しばらくは様子を見よう」と言われた。
――まぁそうだろうな。
しかも話の流れから、俺が寝てる間に何度も医者の世話になっていたことを知った。おまけに、「身体の方はすっかり元気になっているのになぁ…」と言われたことで、俺は病気だか怪我だかをしていたことを知り、余計に心配をかけてしまっていた事に思い至り、当時深く反省した。
――いや本当に大変申し訳ない事をしてしまった…
そんな訳で、過去に思いを馳せることを止めると日中活動できる時間が増えてきた。
活動期間中に色々と尋ねる、というか喋れないので色んなものに指を指してみるが、当たり障りのない返事しかもらえない。話せないから仕方ないかと、もどかしさに若干むずがりながらも、ある程度喋れるまでは我慢しようと機を伺うことに。そしてついに医者からも問題無いだろうとお墨付きを頂き、ようやく安心できたのか、ドナさんが1人の若い女性を連れて来た。
当時は、まさか今更産みの親の登場か、と思ったが違ったようで、ドナさんに促された女性が自己紹介の為に口を開いた。
吐いた。
声が耳に届いた瞬間、「無理。気持ち悪っ」という嫌悪感とともに。
びっくりした。
そして吐くものが無くなると、この世の終わりと言わんばかりに泣き叫んだ。
もう意味がわからなかった。
当然2人も意味がわからず再び医者の世話になる。やはり病気でもなんでもないからみんな戸惑うばかり。
ただ俺だけは理解した。若い女性に対する半端ない嫌悪感を。
何とか落ち着けようと頑張ってみたが、どうあがいても身体の自由が効かないというかコントロールが出来なかった。嫌悪感を感じながらも、頭では対処しなければと焦り色々試したがやっぱりどうにもならず。
そんな、傍から見れば身をよじりながら泣き叫んでいる俺の様子に、今までとの違いからか、医者とドナさんが一旦若い女性を下がらせた。途端に嫌悪感が無くなって落ち着きを取り戻すことが出来た俺の様子に、2人が相談した結果、原因がわからないので、とりあえず他の人も同様なのかと確認することに決まってしまった。
申し訳無さそうに俺を宥めるドナさんに、話せないので説明もできず、ただ「あうあう」と声を出すだけしかできなかった。そして、当然のようにドナさん以外の女性が来るたびに吐いては泣き叫ぶを繰り返した。
そんな日がしばらく続き、ようやく、ドナさん以外の女性に対して何か嫌な記憶が刺激されるのだろう、と判断され、今度は男性が世話をしに現れた。
否。現れてしまった。
いやお世話してくれるのはありがたいことなんだが、なんというか、申し訳ないが成人男性による「でちゅまちゅ」調の言葉がキツかった。誰得だと。それが赤ん坊への接し方として普通なのか知らないが、揃いも揃って同じように話しかけて来た。おまけに顔が近い。とても近い。
怖気を感じて、つい叫んだ俺は悪くない、と思いたい。
俺の中の常識が悲鳴をあげたせいか、連動するように身体が号泣を選んだのも悪くない、と思いたい。
また医者の登場に、いい加減うんざりした。
――いや8割方俺が悪いんだけど。
医者による再びの様子見宣言に、なんで日替わりで色んな年齢の男性のデレっとした顔を間近に見させられなければならんのかと。どんな苦行なんだと。おまけに男性陣が揃いも揃って気合を入れてきやがった。
今まで以上のしんどさに、辛い日々を過ごしていたある日現れた1人の男性。後の、というか今現在ドナさんと一緒に俺のお世話をしてくれているウィルさんの登場だ。
彼は、唯一適度な距離感で、唯一赤ん坊である俺にも丁寧語を使ってくれた人だった。大変素晴らしかった。
これだ、これを求めてたんだと俺は歓喜した。
機嫌の良い俺の様子に、なぜか他の男性陣がちょくちょくやってきては俺を抱き上げようとするが、必死に抵抗した。またあんなのを見させられてはたまらないと、ウィルさんに必死にしがみついた。
正直、こんなくそ面倒くさい赤ん坊を見放す所か意欲的に世話を焼こうとする人たちばかりで意味が解らなかったが、どんな子供も大事にしようというのが教会の教えなのかもしれない。2人に決まるまで根気強く俺の世話を頑張ってくれた皆さんに感謝したいが、素直に感謝出来ない自分が居る。ごめんなさい。
まぁそんな訳で、俺の大変わかりやすい態度から、世話係はドナさんとウィルさんで決定となった。
やっと落ち着いて色々と確認できる、と思い改めて2人を観察してみた。
転生当初からずっとお世話になっているドナさんは、多分50歳位。穏やかで優しい女性で、いつも全身白い服を来ており、プラチナブロンドの髪と相まってとにかく白い。神聖な雰囲気を感じるが、子供想いなのが伝わってくるので親しみやすい、保母さん的な感じがする。
そしてウィルさんは30歳位の男性で、インテリっぽい感じだがいつも笑顔なので特に冷たい感じはしない。むしろさわやかな近所のお兄さん感がある。こちらは全身黒い服を着ていて、髪は暗めの茶色。
当初は2人揃うとオセロのようだと思っていたが、よく見れば聖職者っぽい服装に気付いた。
出会った人々が洋風な顔立ち、聖職者っぽい服装、一度だけだが、1人の赤ん坊と会ったうえに親の存在を感じない。というたった3つの情報だけで、俺はここが異国の教会で、孤児院を併設していると仮説を立てた。でなければ、あの鬱陶し…いや暑苦し…ちがう、ものすっごい献身的な態度がわからないからだ。
そして、中身を伏せて子供らしく、ここがどこでいつなのかと、知りたい情報をどうやって怪しまれないように聞こうかと考えて…
「あら、カル君?」
「あ…」
ドナさんの声に考えを止める。
部屋の入り口の方から仄かな灯りが差し込んだ。
いつの間にか起きる予定の時間になっていたようだ。
暗闇の中、蝋燭が点いた燭台を手に持ち、その灯りで照らされたドナさんは若干神々しく、後に居るウィルさんは顔だけが浮かんでいるように見えて若干怖い。思わずびくっとしたが、気づかれてないだろうか…
2人が部屋に入ると、サイドテーブルに燭台を置いた。先ほどより断然明るくなった部屋の中、ドナさんとウィルさんがベッドに座った俺の前に椅子を置いて座った。
「おはよう、1人で起きられたのね、凄いわ」
「っ…うん、おあよう、どなしゃん」
「おはようございます、カル君。早起き出来て凄いですね」
「ぅぐ…っおあよう、うぃぅしゃん」
既に起きていることが見つかったことに若干のばつの悪さを感じていると、既に起きていたことを、いつもの如く頭を撫でられながら褒められた。羞恥やらむずがゆさやらの色んな思いで居たたまれなくなり、顔を見ないよう視線を逸らしつつ、ドナさんとウィルさんになんとか挨拶を返した。
「うふふ、はい、お水。体調はどう?」
「…あいぎゃとう。だいぢょうぶ」
「ふふ、眠気の方はどうですか?」
「…えいち」
「そう?…そうね、無理はして無さそうね」
「…えぇ、確かに。では、着替えたら出かけましょうか」
「…うん…」
俺の内心を見透かすように笑いながら体調を尋ねる2人が、俺の返事の真偽を見透かすように会話を続けるので、非常に複雑な感情が掻き立てられる。ふと、判決を言い渡される容疑者ってこんな気持ちだろうかという思いが過ぎった。
とりあえず問題ないことは信じてもらえたので、分厚めのシャツとズボンを渡されたので受け取った。
一旦着替えをベッドに置いて、服を脱ごうとめくっている途中で気が付いた。
うっかり1人で着替えようとしたことに。
今まで着替えさせてもらっていて、バンザイから始まっていた訳だが、しれっと渡されたので普通に受け取ってしまった。おまけに教えられてもいないのに自然に着替えだそうとした。
このまま続行しようか悩み、視線を2人に向けたが完全に見守る体制になっていて、「着替えさせて」とか「1人じゃ無理」なんて言えるはずも無く、もう今更か、とそのまま続行を決めた。
着替えを始めると、見守るのか観察してるのかわからない目で見られ…いや、たぶん観察の方。
2人が専属で俺の世話係に決まってから俺が速攻でやらかしたのだ。
おまけにウィルさんもカマをかけてきたので言い逃れはできなかった。いや元々喋れなかったが。
忘れもしない。
2人が世話係に決まった日の夕食、子供がまだ1人でちゃんと食べられるとは知らず、普通に、というか頑張ってスプーンを使って食べていた。
近くで様子を見守っていた2人が、突っ込むことなく「上手に食べてすごい」とか「お利口ですね」とか大げさに褒め称えてきたので居たたまれずスルーしていた。ただ、こう必要以上にじっくり見られていた感じはあった。今思えば、あれは子供の粗相を心配する目じゃなかった。理解してるよね?的な目だった気がするが、当時の俺は、今後はやたらめったら吐くことも泣き叫ぶことも無くなる!と気分が良かったせいか、特に気にしていなかった。
というか腕の細かい動きを調整するのが大変でそれどころじゃなかった。
そして案の定、何回かスプーンを落とした。
2人がすぐに拾ってくれるのだが、居たたまれなさに、つい「ごめんなさい」と「ありがとう」が口から出た。実際には「おめんあわい」と「あいわおう」だったが。自身の滑舌に絶望するよりも早く、2人が「どういたしまして」とか「気にしなくて良いのよ」とか言ってくれたのでホッとしていたが、気にするところはそこじゃなかった。
当時は気付かなかったが。
多分それがきっかけだったのだろう。
突然ウィルさんが、「カル君、僕、昔盗賊の頭だったんですよ」と言い出した。
思わず「あ?」と声に出しウィルさんを凝視。その後「え?」と2度見した。
あれは明らかに幼児がして良い反応じゃなかった。
「は」が言えなかったせいでめっちゃ態度悪い感じだったし。いやそこはしょうがないけど。
ついぽろっと「は?盗賊?」的に出た後で「え、頭ってボスだよね?」という戸惑いが出た。というか突然そんな話をぶっこまれるとは思わないだろ、普通。
そして、愉快犯兼、確信犯のウィルさんはそんな俺の態度を気にした様子も無く、にっこり笑うと「あぁやっぱり。言葉をしっかり理解していますね。ずっと気になってたんですが、スッキリしました」と満足そうに。
ドナさんは「あらあら、どうりで随分お世話が楽だわ。いつも教えてくれてありがとう」と嬉しそうに。
2人の発言に固まる俺に、2人揃って「カル君はとっても頭が良い」とか「将来有望ですね」とか言っていのだが、それどころじゃない。というかようやく1人立ちして歩き出した赤ん坊に何を言い出すんだと。しかも「気になってた」とか「やっぱり」とか言われて、暗に普通の子供とは違うと思われていたことに更に焦った。
2人の言葉を頭の中でぐるぐると考えていたが、なんでわざわざそんなことを言い出したのか、どういう意味だったのか答えは出なかった。その後聞くタイミングも無かった為に、いまだに真偽は不明だ。突っ込むのが怖いのもあるが。
あれ、そう言えば今思い返しても冗談とか本当だったとか言われて無い…?
え?ドナさんも特に否定も肯定もしていなかったよな…?
それに実物は知らないが、ウィルさんは見ようによってはインテリ〇クザ感が…。いや、海外はマフ〇ア?
まぁヤの人かマの人のどちらに見えるかはどっちでもいいが、その後すぐに、俺くらいの時期に「もう1人でご飯が食べられるなんて偉い」だの「ちゃんと道具を使えて凄い」だのと改めて褒め称えられた。
再びの暗に普通の子供とは違う発言にまた固まった俺に、楽しそうに笑う2人。
どちらも愉快犯で確信犯だった。
そんな2人の前でやらかして以降、というか翌日から、着替えや食事中に俺の目の前で普通にミーティングというか今日の予定などの報告会が開催されるようになった。
チラチラ見られながら。
――絶対おかしい。
いや、俺も普通にうんうん聞いてたけど。
流石に気になり過ぎてぼかしながら尋ねた所で、冒頭の「"洗礼"が済むまでは教えられない決まりがある」だ。
決まりなら仕方ないとは思うが、ちょっとくらい外の話題を出しても良かったと思うんだが、どちらも情報規制をしっかりしていたので、何もわからないまま今日を迎えた。
お読みいただきありがとうございます。