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第五話 掲示板

ナダはその日一日の授業が終わると、学園の掲示板を目指した。

 イリスの言っていたアギヤのパーティー募集が書かれた紙を見ようと思ったのだ。

 学園の様々な情報が張り出される掲示板は、玄関から校舎に入ってすぐの広いラウンジの中にある。ナダの背よりも高く、広い掲示板に冒険に役立つ情報から食堂のメニュー変更まで、様々な情報が張り出されるのだ。

 ラウンジにはソファーや机、また玄関に近い場所には白と赤の花が生けられた壷が置かれてある。ゆったりとしたソファーに座って休んでいる生徒もいるが、多くは掲示板の真ん中に群がっている。

 ナダは掲示板の端から見ていく。

 まず目についたのは、講師の変更が書かれた紙だった。どうやら剣術科の先生が新しくなるようだ。前の先生は六十を超えた老人だとナダは記憶している。最も元冒険者だけあって、百八十を超える身長とナダよりも分厚い体躯。

まだまだ成長盛りであるナダは身長が百七十ほどしかなく、体も薄かった。それでも同年代と比べると体は著しいが。


それからナダは様々な情報を見ていく。

珍しいモンスターの情報。何人もの学生を殺した人型のモンスターの情報。迷宮にたまに出ると言われるどんな病気も治す角を持つモンスターの目撃情報。はたまた今現在メンバー募集がかかれていたり、新しく追加される食堂のメニュー、新しい回復薬の発売、など様々な事が、大小さまざまな紙に様々な情報が書かれてあった。


そんな中で最も冒険者が多く集まっていたのは、掲示板の中央に貼られた一枚の紙であった。

文字が書かれた紙は小さく、本来ならだれもが見逃すと思う。

だが、この場にいる全ての冒険者が一枚の紙に注目していた。

ナダも人の間を抜けてその紙を見る。

題名には大きく「パーティーメンバー募集」と書かれてあった。本来ならここまで大きくメンバーを募集するパーティーは少ない。無名なパーティーであればそこまで人は集まらない。

前年度のトップに躍り出たアギヤだから、現在学園に所属する女性の冒険者の中で最強と呼ばれるイリスがリーダーを務めて初めてパーティーメンバーを募集から多くの人が集まるのだろう。

ただ、集まっている人の比率を見れば女生徒が多かった。

男にも負けないイリスの魅力が多くの後輩を魅了しているのだろう。なんでもイリスには女性だけのファンクラブがあるという噂があるが、詳しいことをナダは知らない。知るつもりもない。


「ねえねえ、やばくない!」


「やばいよね、あのイリス先輩のパーティーに入れるとか」


「うち、絶対入るしー」


 周りから様々な声がナダの耳に入る。

 今から未来を期待している者も多い。

 ナダはアギヤに入るつもりはそれほどないのだが、イリスに言われたら断るわけにはいかない。彼女には大きな借りがあるのだ。

 ナダはイリスが書いただろう紙を見つめた。

 彼女は生まれが貴族な事もあり、達筆な字だった。

 そこに書いてある内容を要約すると、希望者があまりにも多いため試験をするとのこと。希望者の書類選考はなく、年齢制限や七日後に学園にあるグラウンドにいつも迷宮に潜っている装備で集まるようにとの指示が書かれてあった。


「筆記がないのか――」


 ナダは小さくガッツポーズをした。

 確かにナダは新しいパーティーに困っている。

 昨日の夜に一日考えた結果であるが、せっかく旧知の先輩が誘ってくれているのだ。アビリティも、ギフトもないが、アギヤに入るのを本気で狙うのもいいかも知れないと考えていた。

 どうせ他のパーティーに入れるようなあてもないのだ。

 なお、筆記試験がないのを非常に助かったとナダは心の底から思っている。

 幼い頃は山で遊ぶしか娯楽のなかった田舎出身であるナダは、お世辞にも頭がいいとは言えない。

 ナダは学園で近頃落ちこぼれと言われることが多いが、学力に関しては本当に低かった。信頼のできる友人につきっきりで教えてもらって何とか落第を回避しているのだ。


「で、試験の内容は?」


 ナダは目に穴が開くまでアギヤの募集要項を見つめたが、先ほどに得た以上の情報は書かれていなかった。

 一つだけ気になることがあるとすれば、迷宮と同じ装備で来るようにとの指定があったこと。

武器だけではなく、防具も必要らしい。現在持っている防具は上等なものではなく、ククリナイフも使い慣れた武器というわけではない。初めて使う武器だ。

だからナダは七日後の選抜試験委受かる可能性を少しでもあげようと、グラウンドを目指そうとした時、後ろから声がかかった。


「あれ、ナダ?」


 その声はまだ幼かった。

 声だけではかわいらしい少女のようにも聞こえる。

ナダは聞きなれた声を聴くと、すぐに振り返った。

 だが、ナダと同じところに視線はなく、いつもと同じように視線を下へと向けた。

声の持ち主は、背が小さい。ナダと比べると小人のように見える。顔もナダと同い年なのに、まだ学園に入ったばかりの一年生と思えるほど幼かった。

八重歯が特徴的なあどけない顔が、ちょこんと体の上に乗ってある。

目は大きくまるで猫の様であり、肩ほどまで伸ばした髪は烏の濡れ羽色だった。

全身を包む白いローブを着ており、体の凹凸も少なく、まだ二次性徴が来ていないようだ。

 一目では少年か、少女か分からないほど中性的であるが、ナダは彼のことを知っている。


「ダン、か?」


「うん! 僕だよ!」


ダンはナダの友人であり、昔からお世話になっている同級生だ。ナダにとっては最も親しい友人と言えるだろう。

こんな小さな体をしていても三年生になるまで冒険者を続けている一人であり、モンスターも数多く殺している。

またギフトにも目覚めており、彼のギフトは癒しの神と呼ばれる数多くあるギフトの中で唯一火を出したり、モンスターを氷漬けにしたりと攻撃することはできないが、その代わりに仲間の傷を治したり、体力を回復するといった奇跡を起こすことが出来る。

優れた癒しの神のギフト使いなら、失われた腕や足でさえも再生できると言われている。

 ダンはまだ失った体の部位まで再生することはできないが、小さな怪我なら瞬時に治すことができ、薬を補助に使って毒や麻痺などの状態異常もすぐに治すことができる優秀なギフト使いだ。

 ナダとは違い、優秀なのでダンは様々なパーティーから引っ張りだこと聞いている。


「どうしてここにいるんだ?」


「掲示板を見に来たんだよ。迷宮の情報はしっかりと仕入れていないと不安だからね」


 確かにダンの言う通りだ。

 冒険者ならば、迷宮の情報は逐一仕入れなければならない。

 特にモンスターの攻撃の種類を気にするダンにとって、情報は大切なのだろう。毒の種類によっては、薬を変えなければならず、判断のミスがパーティーメンバーの死亡に関わるのだから。


「そうか。俺も掲示板を見に来たんだよ」


「そうなんだ。ナダも迷宮の情報を見に?」


「いいや。俺はあれを見に来たんだ」


 ナダは先ほどまで見ていた人が集まっている掲示板を指さした。


「ああ、あれって、アギヤの募集要項でしょ? 今、学園中で話題だもんね」


 どうやらダンもアギヤがパーティーメンバーを募集していることは知っているようだ。

 ナダと違い友達が多いダンは、その中の一人から聞いたのだろう。

 彼にはそんな事を教えてくれる人が先輩であるイリスしかいなかったが。前のパーティーメンバーであるスカサリともそんな世間話をしていなかったことを考えると、抜けたのはそう悪い判断ではなかったとも思える。

 所詮はその程度の関係だったのだ。


「だからあんなにも人が集まっているのか」


「イリスさんの人気も相まってだね。ナダももしかして受けるの?」


「ああ。最近ちょうどパーティーを抜けたんだ」


 ナダはさっぱりとした顔でいった。

 まるで憑き物が取れたかのようにいい表情をしている。


「でも、あれだけ人が集まっていると受かるのも大変だよね。頑張ってね!」


 ダンは満面の笑みで言う。


「ああ。ダンは受けないのか?」


「うーん、僕は今のパーティーで満足しているからね。確かにイリスさんのパーティーはとても興味深いけど、僕はまだまだの実力だからね。きっと足手まといになっちゃうよ」


 ダンは苦笑いをしていた。

 優秀なのに少し自己評価が低いところが欠点だとナダは思っている。と言っても、自分が優秀だと威張り散らすダンなど見たくもないが。


「そうか」


「でもね、ナダは優秀でしょ?」


「そうか?」


「うん! だって、一年生の時に、まだモンスターを倒すことに慣れていない時に、ナダは普通の剣で刺し殺したんだ。それも同時に三体も! 僕はあの時の光景を今でも忘れていないよ!」


 興奮したように言うダン。


「けど、俺はアビリティも、ギフトも持っていないんだぜ?」


「うん。知っているよ。でもね――」


 ダンはナダの耳元に口を近づけた。


「――ナダは強いって、僕は信じているから。絶対にそう思うから! だって、モンスターを殺すことにかけて、ナダに勝てる人なんてきっといないからね。アビリティやギフトがなくても、ううん、僕は攻撃の術を持っていないからいろいろな人の戦い方を見てきたけど、ナダよりも凄い冒険者は見たことがないよ」


「そうか?」


 ナダは正面から褒められることなどめったにないので、恥ずかしそうにほほをかく。

 ダンはそんなナダを温かく見守っていると、遠くから別の男がダンを呼んでいた。彼の事はナダも見たことあるが、ダンとパーティーを組んでいる男だった。


「うん。それじゃあ、ナダ、頑張ってよ。ボクは応援しているからね!」


 そういって、ダンは手を大きく振りながらダンは去って行く。

 ナダはその様子を見ながら、ダンの期待に応えないといけないな、と強く思い、気合を入れてから今度こそグラウンドに向かった。使ったことがないククリナイフの訓練のために。


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