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第三十七話 ミラⅡ



「第一試合はベゾウロ対コトヴィアよ。さて、お互いに自己紹介をしましょうか」


 最初にイリスが指名したのは二人の冒険者だった。

 ベゾウロとは、痩せている冒険者であり全身を白いコートで隠している。フードも被っているので顔はよく見えないが、無精ひげがみえる顎から見るにどうやら男らしい。

ベゾウロはとても細い木刀を持っている。きっとレイピアを模しているのだろう。柄の部分には手首を守るように湾曲した金属板が付けられており、半身になりながら顔の前で構える。

 彼は自分のアビリティを端的に言った。


「私のアビリティは『郷愁ノスタゥジア』。能力は簡単に言えば、斬撃の再現だ」


 ベゾウロは誰かが使った試し切り用の太い木の棒を持っている木製のレイピアで一突きすると、木が窪んだ。。それから彼が『郷愁ノスタゥジア』と唱えるたびに、木の棒のくぼみがどんどん深くなる。どう彼の異能は、その名と通り斬撃の再現。振らなくてもレイピアで突き刺すことが出来るらしい。


「僕のアビリティは『花火シャマ・フロル』。物を爆発させることが出来るんだ―。まあ、ベゾウロさん、お手柔らかにお願いします」


 コトヴィアは標準的な直剣の形をした木剣を持った平凡な男だった。

 身長は平均。高くも低くもない。少しだけ体が細そうに見えるのは、まだ彼が成長期だからだろう。まだ肉をつけるための栄養が足りていないのだ。少しばかり凛々しい顔をしているが、顎や頬には火傷跡が見られる。全身を分厚い革の鎧で隠しているが、もしかすると彼の体も似たような状態なのかもしれない。

 コトヴィアもデモンストレーションとばかりに、直剣で近くにある試し切り用の太い木の棒を殴った。耳をつんざくような破裂音。それと共に爆風が木剣の周りで起こる。

 結果的に言えば木の棒は斬れなかった。だが、木剣と共に当たった場所は共に黒く焦げている。どれやらこれが彼の能力のようだ。


「二人ともいい能力ね。さあ、やりあいましょうか。準備はいい? 正々堂々と戦うのよ。それにとどめは刺さない。また鎧の上とはいえ、急所に木刀が当たったらその時点で負けとするわ。いいわね?」


 イリスの問いかけに二人は頷いた。


「それでははじめっ!!」


 ベゾウロはレイピアを。コトヴィアは直剣を構える。お互いに先に動く様子はなかった。目で相手の動向を探りながら円を描くようにゆっくりと足を運ぶ。

 まるで嵐の前の静けさのようだった。

 そんな二人の周りを囲うように冒険者たちは円を描きながら座って二人を見守っている。天然の闘技場だ。勿論、その中にはナダ達もいた。


「ねえ、ナダとガルカ、どっちが勝つと思う?」

 

 戦いを見守っている冒険者の一人であるアメイシャは足を崩しながら、戦いの様子を真剣に見つめているナダとガルカへと聞いた。

 二人はアメイシャを挟むように座っていた。


「……俺はあのレイピアの男が勝つと思う」


 そういったのはナダだった。


「じゃあオレはあの爆発するアビリティを持っている男にするよ」


 そう答えたのはガルカだった。


「どうしてそう思うの?」


「オレは単純にあの爆発するアビリティが強力だと思うからだよ。あの爆発するアビリティはモンスター相手でも十分な火力を誇る。人なら簡単に壊せると思うよ」


 ガルカは単純に火力で冒険者の技量を見ていた。

 それは別に間違った判断ではない。

 ナダもあの男のアビリティは優秀だと思った。かつてナダの所属していたパーティーにもいなかった高火力のアビリティの持ち主だ。

 だが、ナダが選んだのは別の冒険者だ。


「俺が選んだ理由は違うな。確かにどっちの冒険者も優秀な冒険者だと思うけど、あのレイピアの使いの方が剣技が優れていると思った。まあ、深い意味はねえし、どちらが勝ってもおかしくはねえよ」


「そうなの――」


 三人がそんな話をしているうちに、遂に戦いが動いた。

 先に攻撃を仕掛けたのはベゾウロだった。

 持っていたレイピアによって相手を突く。三連撃だった。レイピアのしなりを使った素早い攻撃は只の剣では受けづらい。コトヴィアは後ろに下がって避けた。だが、それでもベゾウロは更にもう一歩踏み込んでレイピアを突いた。だが、それすらも避けて、コトヴィアは避けて直剣を振るおうとした。


「うっ――」


 しかし、コトヴィアの攻撃は当たらなかった。何かが体を突いたからだ。後ろに大きく飛ばされて地面へと転がった。

 胸を突いたその正体がすぐに分かる。光の刃が薄く見えたからだ。きっとベゾウロのアビリティだろう。それが当たったのだ。ダメージはない。当たる瞬間に後ろに引いたからだ。きっと倒れたのも予想しえない処から刃が飛んできたからだ。

 コトヴィアはすぐに立ち上がって直剣を構える。

 そして彼は嗤いながら地面を勢いよく叩いた。爆発。砂ぼこりが舞い上がった。それはコトヴィアを中心に舞い上がり、彼の姿が隠れた。それから連続して爆発音が競技場の中から立ち上がる。砂埃も何度も広がった。きっとこういう動きに慣れているのだろう。慣れたようにコトヴィアは何度も地面を叩き、爆発音がグラウンドに響き渡る。


「糞っ!」


 ベゾウロが叫んだ。

 コトヴィアの姿が見えないからだろう。必死に頭を左右に動かして探すが、誰にも彼の姿は見えない。

 また何度も爆発が起こった。煙によって姿は隠れ、爆発のみが彼がそこに存在することが分かる。そして爆発はどんどんベゾウロに近づき、一番大きな爆発音がグラウンドに響き渡った。

 そして砂煙がゆっくりと晴れていく。

冒険者達が見守る中で立っていたのは――ベゾウロだった。


「勝者、ベゾウロ!」


 その試合を見守っていたイリスが声高らかに彼の勝利を宣言した。

 勝ったのはレイピア使いのベゾウロだった。

 地面に倒れているコトヴィアの元へ急いで熟練の冒険者たちが近づいて、その容態を確かめる。また近くには担架も用意しており、白衣を着た冒険者もいた。おそらく医者だろう。

 彼らは手慣れた様子でコトヴィアを担架に乗せてどこかに連れていく。

 その様子に見慣れない多くの冒険者に向けて、イリスは安心させるように言った。


「彼らはここにいる救護班のスタッフよ。気の失った冒険者を助ける為にいるわ。彼は意識が戻らないようだからすぐに救護施設へ送ったわ。だから皆も安心して戦ってね」


 どうやらコトヴィアの意識はまだ戻っていないらしい。


「おいおい、マジかよ――」


 ナダはイリスが課した試練に向けて少しだけ引いたように言った。

 ラルヴァ学園で普段行う模擬試合であっても、さすがに気を失うまで戦う事はない。そもそもアビリティを使った模擬試合など行うことがないので、ここまで派手で危険なものだとは思ってなかった。


「何が起こったの?」


 ナダの隣にいるアメイシャは今の戦いが理解できなかったようだ。

 何が起こったのか分からないまま、目を点にしながら狩ったベゾウロを見つめている。

 その様子を見かねたガルカが助けを出す。


「ああ、なるほどね。今の戦いは簡単だよ。あの煙の中でレイピア使いはきっと自分の周りにアビリティを“置いた”んだよ。それにコトヴィアは引っかかった。だから負けたんだよ」


 ガルカの説明は簡単だった。

 ベゾウロの持つアビリティ。それは斬撃を再現するといったもの。という事はそれを自分の周りに配置しておけば、近づいてくる敵に自動的に当たるのである。


「それにコトヴィアはわざわざ煙を上げたんだ。他の相手なら目つぶしに効いたかもしれないけど、あれは自分の目を隠す。きっと薄く見えるベゾウロのアビリティが見えなかったんだろうね」


「……なるほど、そういうことね」


「ああ、でも、アビリティ同士の戦いだとこういう戦いになるとは思わなかった。自分のアビリティを使って、相手のアビリティを理解し、罠に嵌める。どうやら一筋縄では勝てないようだね」


 ガルカの言う通り、アビリティ同士の戦いは奥が深いとナダは理解した。

 どちらも優れた冒険者で、持っているアビリティも強力な物だった柄。モンスター相手でも十分な成果を誇るだろう。

 ベゾウロのアビリティはモンスターに動揺を与え、通常なら与えられない時でもダメージを与える事ができる。またコトヴィアのアビリティも爆発と言う性質上非常に攻撃力が高く、またいざという時にはモンスターの目をくらまして攻撃を当てたり、逃げることだってできるのだ。

 どちらもいいアビリティだ。

 ナダは思わずぎゅっと手を握りしめた。

 どちらも自分より、いい冒険者だ。

 まともにやったら勝てない。

 何故なら――ナダにそんな便利なものはないからだ。

 もしもあの時に立っていたのなら、自分だったらどうやって戦うか必死にナダは頭の中でシミュレートする。それに意識が割かれていたので、イリスの言葉に気付かなかった。


「さ、では次の戦いに移りましょうか。次に戦う冒険者は、ナダ! ニック! この二人よ!」


 学生の中から一人の男が立ち上がる。

 それはここにいる冒険者で一番大きな体をしていた。屈強な男だった。上背が大きい。まるで山のようだ。腕、胴体、頭、足、全てが太かった。それに加えて分厚い鎧を着ている。黒い全身の鎧だ。その上には白いサーコートを着ている。

 ニックだった。

 手には自分の体をも隠すほどの大きな盾。腰には幅広の直剣を持っている。持ち手が短いのでおそらくはグラディウスと呼ばれる剣だろう。それをニックは隣にいる男に預けて、イリスが用意した木剣を手に取った。手に持ったのは、グラディウスと同じような形をしている幅広の直剣だ


「ナダ、あんたの番が来たわよ」


 一向に立ち上がろうとしないナダを見かねたアメイシャが、腹を肘で叩きながらイリスが睨んでいることを伝える。

 ナダもそれでようやく気付いたのか、自分の番がやって来たことを悟った。

 ナダはそれからアメイシャに持っていたククリナイフと大太刀を預けて、ニックと同じように木剣を探しに行く。

 ナダが選んだのは――大太刀のように長い長い木刀だった。


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